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「人とパーパス」を本気で大切にするリーダーシップ(ユベール・ジョリー&平井一夫&矢野陽一朗)──『THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)』出版記念オンラインセミナー(全5記事)

ソニー・平井前社長が、「従業員との対話の場」で重視したこと CEOの説法にせず、「1人の人間」を感じてもらうための工夫

THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)──「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ』の出版記念オンラインセミナーに、著者でベスト・バイ元会長兼CEOのユベール・ジョリー氏と日本語版序文を執筆したソニー元CEOの平井一夫氏が登壇。日本語版の解説を務めたグラムコ社・矢野陽一朗氏のモデレートのもと、リーダーが「弱み」を見せる必要性や、ユベール氏の「内省」の仕方などが語られました。

リーダーが「弱み」を見せる必要性

矢野陽一朗氏(以下、矢野):ここからは、Q&Aのセッションに入っていきたいと思います。私のほうで少しピックアップして、質問していきます。まずユベールさんに質問です。「エグゼクティブのメンバーとライフストーリーを共有しようとした際、嫌がった方はいませんでしたか?」。

ユベール・ジョリー氏(以下、ユベール):いいえ、みなさんは自分のストーリーをお話しするのは大丈夫だったと思います。ただ、レベルの差はあったかもしれません。というのも、私はフランスで育っているんですが、時々自分の個人的な人生について共有するのに躊躇することがあります。それに慣れる必要があると思いますね。

あまり共有したがらない人が1人か2人いましたが、リーダーとしてはやはり居心地よく共有できるような環境を作るべきだと思います。みなさんのチームでそういったセッションをするのであれば、まずみなさんから口火を切ってほしいと思います。

自分たちの失敗や痛みも共有してください。そうすればつながりができますから、ほかの人も自分のことについて話しやすくなると思います。私たち人間は強いところでつながるのではなくて、弱いところでつながっていくところがあると思います。なので、リーダーとしては弱みをもっと見せていくことが必要だと思います。

会社のパーパスと個人のパーパスがつながる感覚とは?

矢野:次の質問にいきたいと思います。ユベールさんと平井さんに質問です。「会社のパーパスと個人のパーパスがつながる感覚がまだわかりません。それはどんな状態か、エピソードを教えていただけますでしょうか?」ということです。まず、平井さんからお願いします。

平井一夫氏(以下、平井):個人のパーパスは、みなさんがそれぞれの人生で何をしたいか。目標はまったく違うと思いますので、それこそ「社会貢献をしたい」というパーパスもあるでしょうし、違法なことはしないけど「若い時にお金をいっぱい儲けたいんだ」というパーパスや、「その2つをバランスしたい」というパーパスを持つ方、「家族と時間を過ごすために仕事をする」というパーパスを持つ方とか、いろいろいらっしゃると思います。

ソニーで言いますと「感動を提供する会社」をずっとパーパスとして持ってきたわけですから、「感動を提供する」という会社に籍を置く中で「自分は社会貢献をしたい」というパーパスを持っているとしたら、ソニーの社員として自分の立ち振る舞い……もっと言ってしまうと、必ずしも自分の希望するポストにいけるわけではないですが、会社の中ではどういうポジションが自分の目標と会社の目標をマッチングできるだろうかということです。

例えば「CSR活動をやってみたい」「いろんな慈善活動をしている部署で仕事をしてみたい」ということもあるかもしれません。そういった中で、自分の目標と会社の目標をうまくマッチングしていくことを考えなければいけないんじゃないかと思っています。

これは1人ずつ違いますが、一番重要なのはまず会社のパーパスが腹落ちしていることです。それに対して先ほど申し上げたように、自分はどういうところでどういう活躍をして、どういう貢献をすればいいかを考えていくことだと思っています。

チームメンバーの「夢」を聞く

矢野:会社のパーパスと個人のパーパスについて、ユベールさんはいかがでしょうか?

ユベール:3つのストーリーを共有したいと思います。私はジョンソン・エンド・ジョンソンのボードメンバーでもあります。もちろんヘルスケアの会社ですから、多くの人たちは命を救いたいという希望を持っていたり、ワクチンを開発したり、神経血管を助けるような機器を作りたいという人もいます。

ベスト・バイのような小売店でも「機器を売りたい」というのはパーパスではないと思います。でも、個人のパーパスが「ほかの人たちを助けたい」ということであれば、店舗にお客さまが来たら適切な商品を選んで差し上げたいという気持ちになると思います。

もう1つのストーリーは、ボストンにある店舗の若い店長がその店舗のアソシエイト全員に「あなたの夢は何ですか?」と聞きました。ベスト・バイの中でも会社外でもいいんですが、夢は何かと聞いて、「あなたがそれを叶えていけるよう一緒に力をあわせて働きましょう。私の仕事はあなたの夢の達成を助けることです」と言いました。

1人は「家族のためにアパートを買いたい」と言っていました。そうした会話の中で、「一般の従業員ではそれはできないよね」と。でも、ベスト・バイでは組織でもっと昇進していく方法があります。スーパーバイザー、アシスタントマネージャー、店舗の副店長と、そこまで上がっていけばアパートを買うことができるようになります。

この若い店長は、その夢をサポートするために、その人のスキルをどんどん高めることを支援したわけです。みなさんはチームメンバーに「あなたの夢は何ですか?」と聞いてみたらいいと思います。そして、その人と一緒にどうすればその夢が叶うのか、仕事を通してそれができるのかを考えてみたらどうかと思います。もっとたくさんのストーリーが本の中にありますので、読んでいただければと思います。

ユベール氏の「内省」の仕方

矢野:次の質問をお願いします。「お話ありがとうございます。ユベールさんご自身が内省される時は、どのように内省されますか? 独自のやり方がありましたら教えてください」ということです。

ユベール:いろんなやり方があるんですが、まずは瞑想ですね。1日の始まりか、私はどちらかというと1日の終わりにやるんですが、1日を振り返ります。自分の1日はどうだっただろうか。「ほかの人間に親切にする。インスピレーションを与える」というのが私の1つの目標ですが、それはどうだっただろうと振り返って、うまくいかなかったら「次の日またがんばろう」ということですね。

1日を振り返り、次の日のことも考える。「明日はどんなチャンスがあるだろう。自分が最高のバージョンになるチャンスはどうだろうか」と。あるいは、散歩をしながらやる時もあります。ミネアポリスに湖があるんですが、その周りを妻と深い会話をしながら散歩するんです。

また、妻とよくやるのは、6ヶ月に1回必ず時間をとって長い週末を共に過ごすことです。過去6ヶ月の中で何がうまくいったか、幸せだった時はいつか、うまくいかなかったことは何かを振り返って、次の6ヶ月はどうしようかと考えるわけです。私たちの夫婦としての夢を追求する中で、何をするかを考えます。

毎日自己の反省をして、それから散歩したり、友だちやパートナーと話す。日記をつけるのもいいと思いますし、いろいろなやり方があると思います。私は別にパーフェクトじゃないので時々忘れることがありますが、これをやるとより良い人間になっていきます。

平井氏が「従業員との対話の場」で重視したこと

矢野:最後の質問になります。平井さんにご質問です。「タウンホールミーティングはどのくらいの規模・人数で行われましたか? CEO自ら従業員との対話の場に出向くと対話にならず、一方的な説法のようなものになってしまい、従業員がただ聞くだけとなってしまいます」ということです。効果的なやり方があれば教えてほしいということだと思いますが、いかがでしょうか?

平井:タウンホールミーティングの規模は全社員の場合もありますし、人数がかなり多い時はミドルマネジメント以上とか、場所と国と事業の大きさによってかなり変わってきます。

ご質問のようなポイントにならないように、パート1とパート2に分けています。パート1は先ほど申し上げたように、ソニーのミッションは何だろうか、今どういう状況になっているか、このビジネスで何を期待しているかなどを私から話します。

それは早々に切り上げて、私が重視していたのは、今もやっている「Q&A」なんですね。そこでのルールは、「ルールがない」ことなんです。アホな質問はまったくないから何を聞いても構わない。

よくありがちな、社長が来る前に「質問がある方は書いてください」と人事が集めて、当たり障りのない質問だけをQ&Aで聞くというセッションをするくらいだったら、やらないほうがいいです。

ライブで「聞きたいことを聞いてくれ」と言います。私は、答えたくない、もしくは答えられない・わからないものは「わかりません」「答えたくありません」と正直に言うから、別に何を聞いてくれても構わないよというオープンな雰囲気を作ります。

人間としての「弱いところ」を見せる絶好の機会

平井:これも6年間で70回やりましたが、最初はまじめな質問しか出てこないんですよね。それでも何回かやっているうちに、勇気ある社員がぜんぜん違う質問をするんです。例えば、「平井さんはゴミ出しはするんですか?」とかですね。そうなってくれたら、うまく回りだすんですよ。

何を聞いてくれても構わない。会社のことでもないパーソナルなことも聞いてもらって、ライブで裸の対話をすることで「平井はCEOだけど、それ以上に1人の人間だ」と、いかに伝えるかが大事です。

CEOと従業員ではなくて、人間と人間が対話するというタウンホールミーティングにどんどん持っていくことで、より一体感といいますか、「平井、もしくは平井のチームのためにみなさんで仕事をするんだ」という雰囲気にいかに持っていくかはすごく大事です。

予定調和的に大名行列で行って現場を見て、さっきのような事前に出た質問に広報が回答案を作ったものを読んで帰るタウンホールミーティングだったら、やらないほうがいいです。

やるんだったら、噛んでも構わないですし、先ほど言ったように答えられないものは「答えられません」と言えばいいわけですから。さっきのユベールさんの話じゃないですが、「人間として弱いところがある」ことを見せるのに、こんないい機会はないんですよね。だから、かっこよくやるんじゃなくて、いかに裸で対話するかを重視するのが大事だと思います。

「リーダーは生まれ持った素質ではない」

矢野:まだまだたくさんのご質問がきていますが、このへんで終了とさせていただきます。では、最後にお二人から参加者のみなさまに一言ずつメッセージをお願いします。まずユベールさん、お願いします。

ユベール:今は非常に困難な時期だと思うんですね。リーダーとしての役割はかつてないほど非常に難しいですから、身体的にも精神的にも感情的にも、自分のケアをすることが大事です。しかし、ビジネスという力を使って善いことができる時代でもあります。我々はビジネスリーダーとして、今はまだ存在しない未来、今よりも良い未来を創り出すことができます。みなさんの幸運を祈っております。すばらしい旅路でありますように。

やはり、次の世代のリーダーシップの質が大事です。質がしっかりと上がれば難しい問題も解決できると思いますので、みなさんの幸運を祈っております。

矢野:ありがとうございます。平井さん、お願いします。

平井:リーダーといっても、先ほど申し上げたようにグループリーダーからグループCEOまでいろんなレベルのリーダーがいると思うんです。重要なのはEQの高さという話もしましたが、それ以外にも求められるリーダーシップの要素は、各レベルで変わってきます。

はしごを1つずつ登っていくように、会社の中でより大きなポジションに就く時に、どういうことが求められていて、どういう貢献ができて、逆にどういうことはできないから人に頼まなければいけないか、客観的に自分の持っているアセットを見る。

そして、先ほどから申し上げているように、できないことは人にお願いする。わからないものは「教えてください」と言う勇気は、上にいけばいくほど重要になってきます。各ポジションが上がっていく時に「何が要求されているか」を客観的に見て、より大きな仕事に就いていただいて、会社やもっと大事になってくる社会に貢献していただくことが大事かと思います。

私は、リーダーは生まれ持った素質ではないと思っています。自分で自分のことを磨いていき、いかに勉強するか、いかに考えるかが大事になります。会社と社会はそういうリーダーを求めていますので、ぜひみなさんには強力なリーダーシップを発揮していただければと思います。

最後に申し上げますが、ユベールさんの本はとても参考になります。ぜひみなさんも読んでいただくと、本当にすばらしい知識とまったく違う視点が得られると思います。おすすめの本でございます。

矢野:本日は貴重なお時間を頂戴しまして、本当にありがとうございます。大変勉強になりましたし、私も非常に刺激をいただいて勇気が出ました。どうもありがとうございました。

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