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経営者的子育てとの向き合い方(全4記事)

「子どもが生まれた時に誰が面倒を見るの?」 仕事を辞めることすら考えた、経営者たちの子育て事情

「次世代の、起爆剤に。」をミッションに掲げるIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)。2021年は、オンラインとオフラインのハイブリッドで開催されました。本セッションでは、「経営者的子育てとの向き合い方」をテーマに、ANRI佐俣アンリ氏、グッドパッチ土屋尚史氏、SHE福田恵里氏、モデレーターにYOUTRUST岩崎由夏氏が登壇。起業や経営を行いながら育児を両立させることの不安や、ぶつかった課題についてそれぞれが語りました。

起業家・経営者ではなく「親」視点で語るセッション

岩崎由夏氏(以下、岩崎):(テーマが)『経営者的子育てとの向き合い方』ということで、私たちは今日、起業家や経営者ではなく親として呼ばれているので(笑)。そういうスタンスでお話しできたらなと思っています。

さっそく、私から自己紹介からさせていただければと思います。YOUTRUSTという会社の代表の岩崎と申します。大阪大学を出た後にDeNAに入ったんですが、2017年に株式会社YOUTRUSTを設立しました。

(スライドに)「ユーザー数3万人」と書いているんですが、今はもっともっとたくさんの方に使っていただいています((※2021年4月時点ユーザー数5万人超))。プライベートのお話をすると、夫と1歳になる息子と暮らしています。

1日のスケジュールがあったほうがわかりやすいかなと思って。私、けっこう寝てるんですけど、朝8時ぐらいに夫が起きて、息子を(保育園に)預けてもらって。そこから私も起き出して、18時半ぐらいまで仕事をしています。うちの息子はすごくいい子で、21時ぐらいには寝てくれるので、21時から24時までまた仕事や読書をして寝る日々を送っております。

岩崎:では続きましてアンリさん、自己紹介をお願いします。

佐俣アンリ氏(以下、佐俣):佐俣アンリです。よろしくお願いします。僕はずっとIVSにスタッフで出させてもらって、最近登壇にも呼んでいただけるようになってうれしいんですけど、VC(ベンチャーキャピタル)としては呼ばれないという。

VCとしての登壇依頼がゼロ回、育児については1回なんで、今後は「パパ」という枠で出ていこうかなと思います。

岩崎:(笑)。

「家庭より優先できるものはない」というスタンス

佐俣ANRIというファンドを、2012年の27歳の時にスタートしました。今では4号ファンドを250億で運営しているので、トータルで300億ちょっとの規模のファンドをやっており、ベンチャーキャピタル協会という業界団体の理事もやってます。

プライベートでは、6歳・1歳・0歳の3人の子どもの父でございます。これは、珍しく夫婦で写真に写っています。僕らは「夫婦で出るのNG」というルール……。

岩崎:え、そうなんですか? 

佐俣:夫婦登壇・夫婦取材NG。NGというか、奥さんがだめと言ってる(笑)。

岩崎:(笑)。奥さん強いですからね。

佐俣:ですけど、珍しく夫婦の写真です。子どもは3人で、奥さんはheyという会社の代表取締役をやっています。僕個人も会社で「家庭第一が大事だよね」「家庭より優先できるものはない」ということでやっています。スケジュールを見ると、仕事(の時間)が短い(笑)。

岩崎:(笑)。

佐俣:「仕事をしろ」と思うんですけど、がんばって育児をしているとこうなります。それで、起床が早い。ちなみに今日はすばらしいことに、夜中の2時半に息子が起きました。

岩崎:おぉう。ギンギンじゃないですか(笑)。

佐俣:今日僕は、みなさんと違う時間軸で生きているんですけど。

岩崎:(笑)。

佐俣:子どもがわりと起きるのが早くて。次男が起きて、長男が次に起きて、長女が起きるといった順番で、バタバタと子どもを送って。在宅だからこそのスケジュールって感じですかね。ミーティングが終わったら、すぐに育児ができるので。

現実的には、3人の育児をしながらの仕事時間の限界はだいたい17時ぐらいまでです。そうすると子どもたちが保育園から帰ってきて、風呂・飯・寝かしつけが終わると21時になっている感じですかね。

グラフには「仕事」と書いているんですけど、(子どもが夜中の)2時に起きていたりするので、21時には寝ないと体が持たないです。いかに共働きの3人育児が破綻しているかがよくわかる図なのかなと思っています。今日はよろしくお願いします。

子育てと起業を同時に行う経営者の「先駆け」だった

岩崎:よろしくお願いします。では続きまして土屋さん、自己紹介をお願いします。

土屋尚史氏(以下、土屋):こんにちは。株式会社グッドパッチという会社をやっております、土屋と申します。今日はリモートで群馬におりまして、リアルで参加できなくて残念なんですけれども。いわゆるUI・UX領域のデザイン会社を経営しております。

2011年に28歳で起業したんですが、僕は結婚が非常に早くて、23歳で結婚をしています。子どもがちょうど生まれたばかりぐらいの27歳の時に、前の会社でサラリーマンを辞めて、8ヶ月の娘と奥さんを連れてサンフランシスコに行くという。わりと鬼畜で、普通に考えたらけっこう許されないというか。しかも当時無職ですからね。

無職になって、サンフランシスコに8ヶ月の娘を連れて行った後に(日本に)帰ってきて、娘が1歳の時に起業しました。

今は起業から丸9年経っていますけれども、昨年マザーズに上場を果たしました。一応僕らの同世代だと、それなりに家族がいて、子育てをしながら経営をする人もだんだん増えてきています。子育てへの理解度もかなり上がってるかなと思うんですが、僕が起業した27歳の時は、ほぼそういう人はいなかったので。

若い時に子どもが生まれて、同時期に起業をしてスタートアップを経営していくことに関しては、かなり“走り”かなと思っております。当時サンフランシスコに連れていった娘が今は10歳で、もうすぐ小学校5年生になります。2015年に息子が生まれていまして、もうすぐ小学校に入ります。

スタートアップの大変な時期に、2人の子育てが重なりました。特に下の息子が生まれてからは大変です。やっぱり最初は女の子だったから……。楽とは言いませんけれども、女の子はそれなりにおとなしかったのでよかったんですが。

(息子が)夜に寝なかったりかなり活発だったのと、同時期にグッドパッチが組織崩壊を起こしました。組織崩壊と子育ての大変な時期が集中して重なることになって、息子が生まれてからはけっこう大変な時期を過ごしました。

奥さんは息子が生まれた当時は働いていたんですけれども、途中から会社を辞めて専業主婦になりました。家に入って子育てをしてくれてるので、一応僕はだいぶ仕事に集中する時間が増えています。

緊急事態宣言下での出産

岩崎:ありがとうございます。最後に福田さん、お願いします。

福田恵里氏(以下、福田):みなさんよろしくお願いします。SHE株式会社代表取締役の福田恵里と申します。実は今回のIVSで登壇が初めてなんですけど、初めてがまさかの「子育て」(というテーマ)という(笑)。

岩崎:(笑)。

福田:「あれ、仕事じゃないんだ」ということに戸惑っておりますけれども……。1990年生まれで、今ちょうど30歳です。イワヤンちゃん(岩崎氏)と同じ大阪大学出身で、イワヤンちゃんとはママ友なので、今日登壇しています。

学生時代に、初心者の女性向けのWebスクールを立ち上げて、その後リクルートに新卒で入社しました。リクルートを2年ぐらいで卒業して、26歳の時にミレニアル女性向けのキャリア支援を行うSHE株式会社を設立しました。

現在、主要事業である「SHElikes」という女性向けのキャリアスクールは、累計受講者が今3万名以上を突破しまして、2020年に代表CEOに就任しております。

今日はテーマが子育てということですが、プライベートでは1児の母です。今10ヶ月の息子がいるんですが、去年の2020年の4月の緊急事態宣言中に子どもを産むことになりまして。イワヤンちゃんとちょうど同じぐらい。

岩崎:ね、そう。私は2月なので。

福田:あ、そっか。2月か。

岩崎:Zoomで出産中継してたよね。

福田:そっか。じゃあぎりぎり立ち会いとかもできた?

岩崎:私はぎりぎり立ち会えた。

福田:なるほど。私は滋賀県出身なんですが、旦那さんも東京から滋賀県にわざわざ来たのに、緊急事態宣言になって立ち会いができず、ただうちの実家でおいしいものを食べて終わってました。そんな息子がもう10ヶ月になりまして。

私の1日のスケジュールとしては、だいたい7時ぐらいに息子に顔をバンバン叩き起こされて起床します。ばたばたしながら保育園に送り、今はけっこうリモートで働くことが多いので、19時ぐらいまでは家で働きます。息子の保育園のお迎えに行って、ご飯・お風呂・寝かしつけをして、だいたい私も22時から23時ぐらいからまた仕事を再開するスケジュールになっています。

旦那さんもmento(メント)というコーチングの会社を経営しているので、起業家夫婦で子育てがんばっております。よろしくお願いします。

岩崎・佐俣:お願いします。

子育てのために仕事を辞めようとしていた

岩崎:じゃあさっそく、今日は(話題が)迷子にならないように、私が勝手に「こんなディスカッションをしましょう」というのを持ってきたんですよ。今日聞いておられる方々には、起業や経営者をやりながら子育てしている人も増えてきたと思うんですけど、とはいえやっぱりまだマイノリティなのかなとも思っていて。

みなさん実際に、「ぶっちゃけ不安だったか」「どうやってやりきってんのか」とか。正直、簡単ではないじゃないですか。さっきアンリさんも「やばすぎる」みたいな話をしてましたけれども。

福田:アンリさんはやばいですよ。(お子さんが)3人ですからね。

佐俣:無理だよ? 

(一同笑)

岩崎:アンリさんって、起業してからお子さんが生まれたんでしたっけ?

佐俣:そうですね。僕は結婚して(夫婦)2人が同時ぐらいに起業して、会社(設立から)2〜3年ぐらいで子どもが生まれました。

岩崎:ぶっちゃけ不安とかなかったんですか? 

佐俣:不安は……。「無理だよね」というか。

岩崎:(笑)。

佐俣:けっこうこれもソーシャルで言ってるんですけど、はじめは仕事を半分辞めようとしてたんですよ。

岩崎:え? 

佐俣:無理だから。

岩崎:子育てのために? 

佐俣:そう、そう。だって誰も(子どもの面倒を)見る人がいないし、「子どもが生まれた時に誰が見るの?」みたいな。実家は僕が埼玉で奥さんが広島だったので、「まぁ俺だよな」ということで、実質的に仕事をフェードアウトも考えていることを当時のソーシャルに投稿したものが、まだ残ってるんです。それくらい不安だった。「もう無理だろ」みたいな。

仕事と子育てを両立している人が見つからなかった

岩崎:実際は不安で、「もうやばい、辞めなきゃ」と思いながら(子どもが)生まれて、なにか変わったんですか? 

佐俣:僕は運がよくて、当時のグノシーの会長の木村(新司)さんから、いいシッターさんをご紹介いただいて。

岩崎:なるほど。

佐俣:それで、「あぁ、シッターさんって人がいてくれれば、どうやら働いても大丈夫らしい」となって。それぐらい、(仕事と子育ての)両立は不可能だというイメージがすごく強くて。先輩にもうまく両立している人ってあんまりいなかったから。

岩崎:そうですよね。

佐俣:いないというか、両立をイメージするためのメンターが見つからなかった。だから、「なんかもうあかんわ」と思ってた。

岩崎:そうですよね。アンリさんや土屋さんの世代は、その当時(仕事と子育てを両立している人が)あまりいなかったって……。

佐俣:土屋さんの頃もいないですよね? 

土屋:そうですね。周りに子どもがいる人はまったくいなかったので。もちろん結婚している人も少ない状態でしたから、だいぶ不安でしたね。

岩崎:その時はやっぱり「どうしよう」みたいな気持ちになるんですか? 

土屋:僕は子どもが生まれた時は、まだサラリーマンだったんですね。なのでその段階ではまだ起業することは決めてはいなかった状態だったので、「子育てをがんばろう」という感じでいたんですけれども。その後、おばあちゃんの遺産で500万円が見つかって……。

岩崎:(笑)。

佐俣:なんかおもしろいイベントが(笑)。

土屋:そうなんですよ。500万円が空から降ってくるイベントがありまして。それが降ってきた時に、「これはもう、会社を辞めて起業しよう」と決めたんですよね。なので会社を起業すると決めてから、子育てとの両立とかいろんなことが頭を巡ったんですけれども、残念ながら僕は自分のやりたいことを優先してしまったというですね……(笑)。

岩崎:(笑)。いいですね。

土屋:そんな感じでしたね。

「取締役 妊娠報告」と検索しても何も出てこない

佐俣:不安もたぶん、男性側に来るものと、女性側はさらにプレッシャーがあるというか。僕も奥さんとよく話したのが……ちょうど奥さんは13億円を調達して、着金したすぐぐらいに妊娠がわかって。たぶん土屋はさんわかると思うんですけど、当時の13億円ってけっこう今で言う……。

土屋:やばいですね。

岩崎:いや、今でもですよ(笑)。

土屋:30~40億ぐらいの感じですよね。

佐俣:「取締役 妊娠報告」とググったら、なにも見つからなかった。

岩崎:ググったりするのかわいいですね。

福田:けんすうさん、nanapiの記事でなんか言ってませんでした? 

佐俣:そう、そう。当時は報告した事例もないから、普通にめちゃめちゃ怒られるんじゃないかとけっこう不安でした。

岩崎:なるほど。でも私も妊娠が初めてわかった時、アンリさんの奥さんの(佐俣)奈緒子さんに慌ててメッセージして。私の知りうるかぎりで、起業家で子どもを出産・育児している人って奈緒子さんしかいなかったんですよ。

奈緒子さんに聞いたら、実はもうちょっといるらしいんですけど、私からアクセスできる範囲には奈緒子さんしかいなくて。身重の奈緒子さんと妊娠発覚した私で、蕎麦を食べに行った記憶がめっちゃあります。

(一同笑)

岩崎:わからなさすぎて、メンバーや株主とかより先に奈緒子さんに相談させてもらいましたね。

代表就任直後に待っていた、産休・育休というビックイベント

岩崎:起業しながら出産・子育てって、イメージ湧かなくなかった? 

福田:たぶん私は楽観的すぎたのかもしれないけど、「いやぁ、まぁなんとかなるだろう」と思ってて(笑)。なんなら「私、今妊活してるんだよね」と社員に言ってましたね。

岩崎:あ、すごい。

福田:「今月もだめだった」みたいな感じで。

岩崎:(笑)。

福田:すごく開けっぴろげに社員に言ってました。うちは女性向けのキャリア支援のサービスをやっていることもあって、ママ層の顧客も増えてきた中で、ママがどんな生活を送っていて、キャリアでどんなことを悩んでいるかが自分の肌感でわからないと、顧客に寄り添えないなと思った事件があったんですよ。

事件というか、ママさんから「SHElikesのイベントの時間帯って、ママのことちゃんと考えてるんですか?」と言われたことがあって。

岩崎:おぉー、なんかわかるな。

福田:「これは自分も経験しなきゃ、ちょっと事業が伸びないな」と思って、子どもを産もうと思いました。

(一同笑)

岩崎:事業のための!? 

佐俣:ポジティブだなぁ(笑)。

福田:そうですね。「産もう」となって……。なので、けっこう計画的に妊娠して産んだ感じでした。

岩崎:でも、妊娠中にすごくブログ書いてたよね?「借金を背負いつつ、産休に入ります」みたいな。

福田:そうだね。いろんなことが重なりすぎて、noteでちょっとバズった記事があったんです。代表就任と共に個人的に多くの借金を背負わなきゃいけない事例があって、それプラス、代表に就任してすぐに産休・育休に入るという、3段構えのビックイベントがありました。

けっこうその時は「精神的にちょっとしんどいな」という感じだったんですけど、なんとか乗り切って、今やってます。

岩崎:まぁ、なんとかなる。

福田:そうですね。

佐俣:なんとかするしかないんですよね。

起業と出産・子育てに対する、男性と女性の大きな「身体的ギャップ」

岩崎:私の前職時代の同期たちって、そもそも起業家志望の人が入りやすい会社だったこともあって、「起業したいけど、子どもが生まれるからちょっと踏みとどまってる」という人たちがけっこういたんですよ。

福田:いる、いる。女性だと特にそうですよね。

岩崎:超多くって。子育てや出産をキャリアのブレーキをかける理由にせずに「起業したい時に、したらいいよ」と思います。

佐俣:男性には直感的に理解しづらいのですけど、女性って起業と出産・育児に対して明確なタイムラインをちゃんと引かないといけないというか。特に日本の男性は反省も込めて、「とりあえず突撃すれば誰かがサポートしてくれる」というのはあって。

仕事をプライオリティ・ワンに置けば、他の人生のファクターって、「誰かがなんとかしてくれる」みたいなところがあるわけですよね。だから、女性はそこが根本的に違うんです。僕が良かったのは、VCとしてこういうのを自分で体感すると、「あ、このリズムあるよね」とか。現実的に、(子育てをすると)人間として半年から1年のパフォーマンスが「無」になるという。

(一同笑)

福田:男性側が子育てを手伝ってくれるくれないに関わらず、女性は物理的に妊娠して体のパフォーマンスが下がるじゃないですか。ホルモンバランスも崩れるし、つわりでめちゃくちゃしんどいし。そういう身体的なギャップは感じたよね。

岩崎:もう、ぜーぜー言いながらオフィス行ってたもんね(笑)。

佐俣:だから難しいんですよね。僕らはスタートアップで、僕も含めて基本的に人のお金を預かっていることが多いから、すごくがんばって「パフォーマンスを上げよう」という気持ちと、物理的に上がらない現実のすり合わせが……。

ともすれば、真面目な人ほど「応援してくれている人に誠意を尽くせてないんじゃないか」と思うので。この辺はけっこう、VCとしても「これはしゃーない」というか。「パフォーマンスが出ない時は、むしろ意思決定をしないほうがいい」という話があって。これは夫婦でもけっこう話したんですけど、正直そういう時って身体がポンコツだから、意思決定しないほうがいいんですよね。

岩崎:確かに。

佐俣:準備をするしかないというか。

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