2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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経営者、事業責任者、マーケターからPRパーソン、デザイナーまで、業界業種を問わず、企画職の誰もが頭を悩ます「ブランディング」をテーマに、じっくり向き合う音声番組『本音茶会じっくりブランディング学』。今回のゲストは、スタジオジブリ作品『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』などのプロデューサーを務めた、アニメーション映画プロデューサーの石井朋彦氏。第二部の後半となる本記事では、宮崎駿監督や鈴木敏夫プロデューサーから学んだ「仕事のコツ」を明かします。 ■音声コンテンツはこちら
工藤拓真氏(以下、工藤):(石井氏のブランド作りに影響を与えた本の)最後の1冊が『乳の海』。
石井朋彦氏(以下、石井):藤原新也さんの『乳の海』ですね。
工藤:こちらは?
石井:もともと藤原新也さんは『印度放浪』という(本にあるように)、行動経済成長期、まさに日本がバブルで浮かれているさなかに1人インドに行って。インドという当時の日本と真逆な国から、「ちょっと日本人、おかしくねえか? 大事なことを忘れているんじゃねえか?」ということを問いかけた作家なんです。
順番はちょっと忘れちゃいましたが、藤原さんがあえて東京の芝浦の無機質なマンションに暮らしながら、東京という街を写真と言葉で切り取った『東京漂流』というものがあるんです。
『乳の海』はどちらかというと、息子と母親とか、娘と母親、息子と父親みたいに、人間ってどうしても自分の親からは逃れられない存在じゃないですか。「親は選べない」とか「生まれる場所は選べない」というのは、本当にそのとおりです。
ある環境に置かれてしまった以上、そういう人間に育ってしまうことは残念ながらあるんですよね。逆にそこから反発して、そうではないところに向かっていくポジティブなエネルギーもあるんですが。
でも『乳の海』は、過保護に育てられ、何の不自由もなく、いい学校を出て、いい大学を出て、一流企業に勤める。今でも本当に理想的な人生を送ってきた人が突然親を殺してしまって、突然壊れてしまう。
僕が一番好きなのは、ある青年が藤原新也さんの家を訪ねてきて「あなたの本はおもしろかった。でも、自分の中には何もない」というエピソードがあるんです。これも2024年の今こそ再び読まれるべき本なんじゃないかなと思って、今日たまたま思い出した感じですね。
工藤:藤原さんって、文章でも写真でも「今ってどういうことなんだろう?」というのを克明に描き出すところがあると思うんですが、深度が深いから、今おっしゃったみたいに「昔の本だね。昔ってこうだったね」という感じの読後感じゃないですよね。
石井:今のことを言っていますよね。
工藤:だから、「人間ってこういうことなんだよね」というのを指しているところはあるのかなと思いましたね。
石井:そうですね。
石井:『乳の海』の「乳」は、たぶん子どもが母から初めて摂取する食べ物である乳だと思うんですよ。ある意味乳に溺れてしまうと、人間の人生は大きく狂ってしまうし、その復讐が育てた親に向かったり、社会に向かったりするじゃないですか。
今の世の中で、少なくとも貧困や差別、格差がだんだん顕在化していますが、なくなっている現代におけるほとんどの問題は親子のこと、もしくは人間関係のことじゃないですか。
だけどなんとなくそこを見ないふりをして、「いい教育、いい大学、いいビジネスパーソンになり成功しよう」というところの背後に、『乳の海』で描かれた以上の破滅が待っているんじゃないかなと個人的には思うんですよね。だからそういう意味では、やはり『乳の海』は今読んでもすげぇなっていう感じがしますね。
工藤:なるほど。石井さんって本当に、いろんなアプローチでのアニメーション映画やCMだったり、いろんな文脈でものを作ることに携わっていらっしゃいます。
社会や世の中で起こっていることとか、今の時代の雰囲気とか、先ほど宮崎さんの「ジブリの中で起こっていること(はジブリの外でも起こっている)」というお話もありましたが、石井さんご自身は「世の中はこうだな」というものって、作品にどういう影響していると思いますか?
石井:クリエイターやものを作る人は何をしている人なのかというと、その作品に触れた前後で、読んだ人、見た人、関わった人の価値観や考え方をごそっと変えてしまう人のことが、本当に優れたクリエイターだと思うんですよね。
それって、求められるものをそのまま提示するとか、流行を追っかけて二番煎じをするものの中からは生まれないんだろうなという気はするんです。僕もそんなことは到底及ばないですが、その本を読んだ前後で自分の人生が変わるみたいな瞬間があるじゃないですか。
工藤:ありますよね。
石井:写真もそうで、僕は毎年11月にパリ・フォトっていう世界最大の写真の祭典に行くんですが、パリ・フォトで写真を何枚か見た前後で人生が変わるんですよ。だから、そんなことにちょっとでも肉薄していたい。
石井:ゆえに「今、世の中で起きていることは、実は違うんじゃないの?」という視点から物事を見ていかないとダメなんじゃないかって。いい話をしている感じですが。
工藤:(笑)。
石井:ただ、実は簡単です。僕はある時、鈴木(敏夫)さんと宮崎さんがあまりにもすごすぎて、20代の頃にちょっと悩んじゃった時期があって。痛い若者だったので。
工藤:痛い若者(笑)。
石井:「こんなすごい人にはなれない」って思うじゃないですか。
工藤:絶対に思いますよね。
石井:バカなので、「もう僕、無理です」と言ったんですよ。
工藤:(笑)。急に。「どうした、どうした」ってなりますね。
石井:「どうやったら宮崎さんや鈴木さんみたいになれるのかすらわからないです」と言ったら、鈴木さんが「お前、しょうがねえな」みたいな顔でニヤニヤしながら、「答えを教えてあげようか? 宮さんも高畑(勲)さんも俺も、その時に流行っていることの逆をいっているだけなんだ」と。
「みんなが同じことをやっている時に、同じことをやっても目立たないけど、みんながやっていることと逆をやると目立つだろう? それだけだよ」と言って。
(一同笑)
石井:すごくおもしろかったのが、その後におもしろいものを見せてもらって。『風の谷のナウシカ』って、原(徹)さんという現場プロデューサーもいらっしゃいましたが、プロデューサーは高畑勲監督なんですね。高畑さんが、宮崎さんが横でナウシカを作っている時に描いた、『風の谷のナウシカ』の特徴素描というものがあって。
工藤:特徴素描?
石井:素描ですね。要はそのものの本質を書くというか、手描きの原稿を見せてくれたんですよ。それがすごくおもしろくて。まずは「今、どういうアニメが流行っているか」。
工藤:そこから始まるんですね。
石井:始まるんですよ。「あ、高畑さんもこんなことするんだ」みたいな。当時はやはり(人気があるのは)ロボットアニメですよね。
工藤:そうかそうか。
石井:メカであり、ガンダムはちょっと時期的には僕はわからない……本当にアニメは詳しくないのであれですが。基本的には勧善懲悪型のヒーローものであり、いわゆる最新鋭のメカに乗って、主人公が戦う話だと。
それに対して『風の谷のナウシカ』の特徴は何かというと、まず、主人公は好戦的ではない。トルメキアの船が不時着してしまい、そこで巻き込まれ、あくまでもナウシカは風の谷の民を守るために仕方なく戦っている。
工藤:確かに。
石井:これが、今流行っているアニメとは違うナウシカの特徴であると。登場するメカも、いわゆるメカメカしいものではなく、どちらかというと有機的。
工藤:丸みを帯びていて。
石井:そうそう。さらに、エコを扱っている。
工藤:エコ?
石井:環境。
工藤:なるほど。
石井:今はエコって当たり前ですが、当時は別にそんなに言われてなかったんですよ。
工藤:そうですよね。むしろ「ガッシャン、ガッシャン」って壊している描写。
石井:そうそう。『風の谷のナウシカ』のブランディング、マーケティングとして、このポイントが売りポイントだということが書いてあるんですよ。
工藤:(笑)。高畑さんがそれを書いているっていうのがすごいですね。
石井:そうそう。僕はそれを読んで、「高畑さんもそういうふうに思考しているんだな」と。
石井:だから、ブランディングとかマーケティングをしたわけではないけど、明らかに宮崎さんはその時代に流行っていたものとは真逆のものを作っており、プロデューサーである高畑さんはその本質を見抜いていた。
世界が崩壊に向かおうとする、しかもその崩壊に導いたのは人間たちのほうで、まさにあの時代の向かおうとしている未来であると。それを救おうとした女の子の話ということで、新時代のヒロインとして、当時の徳間書店の社員であった鈴木さんや関係者が世に送り出したわけですね。
よくあるじゃないですか。ヒットした後に「あれ、俺がやったんだ」という人が急増する。「『あれ、俺』詐欺師パターン」があるじゃないですか。
工藤:ありますね。
石井:僕はだいたい「○○の成功の秘訣」「○○の成功の陰に」という番組は、むちゃくちゃその人の表情を見ながら見る。
工藤:嫌な見方をしますね(笑)。
石井:そうそう。よくあるのが、番組名は言わないですけど、成功したビジネスパーソンが持ち上げられる番組にその人が出た時には、その人は落ち目。番組に出た瞬間に、突然その人がだんだん……っていうパターンがあるじゃないですか。たぶん、そういうことだと思うんですよね。
本当にやっている人が他にいる場合もあれば、その人はもうそれができなくなっている場合もあるんです。問題は、「当たるも八卦当たらぬも八卦」と言うと良くないですが、いかに考え抜いた人たちの作品が世の中に評価され、でも、知られざるその人たちの制作の過程がとてもすばらしいんじゃないかなと、僕は思っていて。
それが何でうまくいったのかっていうのを、少なくとも宮崎さんが自分の作品がうまくいった理由を語ったことは一度もないですよね。
工藤:なるほどね。確かに、シンプルに「逆を行くぞ」というのも含めて、当たり前ですが、誰よりもきちんとものを作るためにめちゃくちゃ考えるということを、普通に流されずにやっているってことですね。
石井:そうです。
石井:僕は20代の頃は無我夢中で、おっさんになってから聞きたいことが山ほどあったので、この3年半の間に宮崎さんにいろいろ写真を撮りながら聞いていたんですね。「仕事のコツって何ですか?」とか、昔だったら「くだらない!」とか言われましたが。
工藤:距離感的に。
石井:距離感的に。そうしたら「とりあえずやってみる」と。
工藤:すごくいい話ですね。
石井:「できなかったら忘れる。できたらうれしい。またやってみる。その繰り返しです」って言うんです。
工藤:すごいな。
石井:多くの人は、できなかったらやめちゃうんですって。でも、できたらうれしいんです。だからできなかったことだけを忘れれば、すべてが「うれしい。またやろう」に続く。これは抽象的ではなくて、アニメーションって1枚1枚描いて、うまくできたら次のコマに行くんですが、ダメだったら捨てるんです。
工藤:なるほど。
石井:うまく描けたら次に進むんです。だからアニメーターって、「とりあえずやってみる。できなかったら忘れる。できたらうれしい。またやってみる」を、1秒24コマ分ずーっとやっている人たちなので、たぶんすごいものを作れるんでしょうね。
工藤:作業工程として1個1個きちんと分解されているから、その繰り返しが磨かれるということが織り込み済みなんですね。
石井:そうですね。宮崎さんのメンタリティの中にアニメーション的なものが組み込まれているから、「何がうまくいったのか」とか「何が成功の秘訣なのか」という、低レベルな成功の秘訣じゃない。「うまくいかなかったことはいっぱいあるけど、それは忘れた。うまくいったことをやり続けてきたら、気づいたらここまで来たんだ」とすら言わない。
工藤:たどり着いたら、またずっとそれを繰り返しているから、本人からしたら「ずっと繰り返している」ということが続けられたってことですね。
石井:そうですね。
石井:よく天才って、1つのことしかできない人って言うじゃないですか。
工藤:そんなイメージがありますね。
石井:そうそう。だからこそ他に目が向かないから、同じ人が同じことをやる以上のエネルギーと時間をかける。結果、2乗、3乗と、まさに複利の法則ですよね。だから天才というのは、昨今流行りの投資的な言い方をすると「自分の持っている能力の複利をいかに活かした人かだ」という気がしていますね。
工藤:ご本人が意識的か無意識かはさておき、ずっとぐるぐるやっていたら、気づいたらとんでもないところを上っているという。
石井:そう。新NISAを始めて、すぐ「下がった」といって売っちゃう人は努力が足りない人です(笑)。
工藤:「うまくいったことだけ、ちゃんと見ていればいいんだ」と。
石井:そうそう。「株は下がったけど、とりあえず俺はこの投資信託に張り続けるんだ」といった人が、10年後、20年後に(成果を得る)。知らないですよ、あんまり詳しくないので。
工藤:(笑)。
石井:巨大な「才能」という資産を持ち続ける気がしますけどね。
工藤:そうですね。才能が資産でできているというのは、確かにそうですよね。そういうところはあるな。
石井:すごい人ってだいたいそうですよね。
工藤:確かに。才能が積み上がっていくんですね。ありがとうございます。あと2時間ぐらい……。
石井:ぜんぜん。
(一同笑)
工藤:と言いながら、お時間が来てしまいました。
石井:これは第2回ですね。
工藤:はい、第2回です。
石井:わかりました。
工藤:本日のゲストは、石井さんにお越しいただきました。石井さん、ありがとうございました。
石井:こちらこそ。
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