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Tokyo as a New Silicon Valley(全3記事)

2016.06.30

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東京を“シリコンバレー”にするために必要なことは? 今はまだ、圧倒的に起業家が足りない

提供:新経済連盟

日本をシリコンバレーのような、イノベーティブな都市にするためにはどうすればいいのか? 「新経済サミット2016」にて、サイバーエージェント藤田晋氏、グリーの田中良和氏、ラクスル松本恭攝氏、Creww伊地知天氏が参加したセッション「Tokyo as a New Silicon Valley」。自身の体験談や国内外の事例を挙げながら、日本に起業文化を根付かせるために必要なことを語り合いました。資金調達の環境など、整ってきた部分がある一方で、法規制など革新的なイノベーションを妨げている本質的な問題点について指摘されました。

資金調達の環境は整った、でもなぜ起業が増えない

大西康之氏(以下、大西):なるほどね。松本さん、さっきちょっとおっしゃってましたけど、藤田さんもおっしゃってましたけど、お金はあるんですよね。スタートアップする時に。

松本恭攝氏(以下、松本):お金はあると思いますね。調達環境は、ものすごくいい環境にあると思います。

大西:でも、なかなか出てこない。

松本:そうですね。1つ前のセッションで、インドでの起業の数が、去年なのか累計なのかわからないですけど、18,000という話が出てて。インドでVCやってる人の話を聞いていた時には、VCの数がだいたい100以上あるって言ってて。

おそらく日本にもVCの数100ぐらいあるんじゃないのかな、と。でも、起業家の数って毎年1,000もあるのかな。たぶんそこまで、いわゆる「資金調達をして……」という起業家っていないんじゃないのかな。

実はインドに比べると、10倍ぐらい簡単にお金を集められる状況なのかなと思います。僕自身、今「ハコベル」という「Uber for Truck」のような、トラックをネットワークして、コマースで配送、キャパシティを供給するというサービスをやってるんですけど。

インドでは去年と一昨年で、その手のサービスが51社立ち上がったそうです。日本だと今、我々しかやっていないんですけど。51社立ち上がったうちシリーズAにいったのが7社で。結局そのうちの2社ぐらいがセコイア(・キャピタル)から3桁億円の資金を調達して、一気にインドのインフラを作っていったみたいな。

東京の場合、僕自身は、藤田さんとか田中さんとかみたいに大きな会社ではなくて、いわゆるスタートアップで小さな会社で未上場でやってるんですけど、その立ち位置からすると、やはり競争環境がすごい海外に比べるとヌルいんだろうなというのと、お金にすごく簡単にアクセスできる環境で。それはすごくいい面もある一方で、ちょっと「環境的にヌルいのかな」ということも感じていますね。

一方で、三木谷さん、藤田さん、田中さんが作っていただいたエコシステムには乗っていて。「どうやって組織を作ればいいか」とか。「どうやって事業を伸ばせばいいか」とか。そういうノウハウは口頭ベースで伝達されて、それは非常にありがたく活用させていただいています。

ただその一方で、もっともっと厳しい経営環境でやっていくということもあってもいいのかなとも思いますね。

起業家の質も変わっていかなければいけない

大西:なるほどね。藤田さんとか田中さんのポジションになると、次を育てるというか、投資家だったりメンターだったりという役割も実際になさってると思いますけれども、スタートアップをきちんと育てていくうえで、どういう育て方をされていますか? どういうスタートアップはちゃんと育っていって、どういうのはダメ?

藤田晋氏(以下、藤田):僕が見てきたこの20年弱でも環境がだいぶ変わっていて。例えばインターネットバブル前に僕が起業した頃は、あまりにも大きな変化が急に来たので、大企業はまったく対応できていなかった。

Web2.0の時も、ソーシャルメディアを作ろうにも何から始めたらいいかわからないし。スマホが出てきてアプリを作るとなった時は、本当に若い人がぜんぜん知識も経験もなく始められて、そういう人たちに先入観なくまずやってもらって、それを育てればよかったんですけど。

今日のこの新経連サミットでも、最先端がIoTとかシェアリングエコノミーとかAIとかそういった分野に起業分野が変わってきていて。例えばシェアリングエコノミーとかIoTにしても、それなりに経験とか知識とか人を動かす力がないと立ち上げきれないんですよ。

だけど、日本の、東京のスタートアップ界隈というか、環境は相変わらずスマホアプリを学生が作ってたみたいなレベルの起業家が多いというか、年齢の起業家が多くて。本当に実力のある人が会社を飛び出して起業するということはあまりない。

そういう意味では、なにをテーマにどの市場でやるのかに合わせて起業家の質も変わってなければいけないんですけど、なにか東京は追いついてない感じがしますよね。

大西:なるほどね。だから、「起業したかったらおれのところ来い」みたいな感じなんですかね。

藤田:自分もいまだに新規事業をベンチャー起業家のようにやっているので。誰かを育てようとかに、あまりまだ関心は(笑)。

どのベンチャーが成功するかはわからない

大西:まだもうちょっとですかね。田中さんも相談されることとか、「投資してくれ」とか、いろいろ来ると思いますけれども、どういう基準で選んで、どうやって育てるんですか?

田中良和氏(以下、田中):うちの会社にも投資部門があって投資していますが、この5年、10年やってるなかで自分なりに感じたことは、「本当にどのベンチャーが成功するかさっぱりわからないな」と。

「この会社、絶対ダメだろう」と、名前を出すのははばかれる会社が最近IPOをして、うちの会社としてはリターンがあったんですが、「何回も潰れそうになってるし、社長もいい加減っぽいし、大丈夫なのかな?」と、自分としてはすごく思ってたんですけれども本当に成功させていて。

「こうやって変わっていくことがあるから、予測することは難しいな」って非常に思って。当然、考えはするんですけれども、やはり「わからないものはあるんだな」ってすごい感じているんです。

自分より若い起業家という意味でお話しすると、僕が最近やってるのは、話していておもしろい、自分と気が合う人というのを探していて。そういう人とは交流したいなと思って、交流してますね。

年齢が違ったり環境が違うと、いろいろ刺激を受けることが非常に大きいので、僕からすると会社の規模とかには関わらず、すごく学びがあるなと。

あと、最先端の彼らが言っている新しいトレンドというものに、「こういうトレンドあるかも」とか感じることがあるので、それはすごい勉強になるなと思っています。

彼らに対しては、より大きな会社を経営するとか、もしくは10年、20年会社を経営していくのはどういうことなのかとか、自分として教えられることがあると思うので、お互いに教え合っていけたらと思いますね。

大西:大事ですよね。そういう経験をシェアしていくというか。やはり経験が足りないから、才能はあるけど失敗しちゃうとかね。

藤田さんや田中さんの目から見たら、「いや、そっち行ったら絶対ダメだよ」というのはわかると思うんですよね。わからずに玉砕しちゃってる人たちもけっこういると思うんですけれども。

「数が質を生む」ロールモデルをもっと増やす必要性

アメリカ、海外でスタートアップを経験されてきた伊地知さんは、例えば、アメリカのスタートアップのエコシステムはよくできてると言われますけど、例えば日本と比べてなにが一番優れてますか?

伊地知天氏(以下、伊地知):エコシステムかどうかはわからないんですけれど、先ほど田中さんもおっしゃられていたように、アントレプレナーがリスペクトされるという環境はやはりあるなと思っていて。

日本で起業家が増えないというのは、僕は一番はそこだと感じていて。いわゆるロールモデルの絶対数が足りてないというところかなと思ってます。

僕はこんなこと今まで4回、もう11、12年やってるんですけど。

大西:会社、4社目ですね。

伊地知:親戚とかからは「いつ就職するのか?」っていまだに聞かれますし(笑)。そういう意味で、まだまだ起業家たるものがそんなに善しとされてないとは思います。

「それはなぜか?」と考えてみると、藤田さんや田中さんや三木谷さんとか、いろんな方々がいらっしゃいますけど、ただそれはテレビのなかの話だったり、いわゆる身近に思える人たちじゃない。

なので、近所に1人ぐらい起業して成功したという、小さくてもいいんですけど、成功体験を得る起業家というのがもっと身近に出てこなきゃいけないんだと思っていて。そのためには、アメリカみたいにM&Aがたくさん起きることが極めて重要だといつも思っています。

大西:M&Aというのは、要するにスタートアップのイグジットとしてM&Aが起きないと?

伊地知:そうです。それが大なり小なり、成功体験を得た人が次の挑戦をするとか、サポート側に回るとかでもいいんですけども。なんにしても、成功体験を得た起業家を量産することで、もう少し起業というものが怖くなくなるとか、身近なものに感じられるというのはあるんじゃないかと思っています。

松本さんもおっしゃっていたインドの話もそうですけど、「数が質を生む」というのは間違いなくあるかなと思っています。

その数を生むにはどうしたらいいかというと、やはりM&Aというのは1つ非常に重要な点かなと思っていまして。そこを誘発するようなことを4年頑張ってやっているというのが今です。

アンディが即決したロボット、日本では理解されなかった

大西:なるほど。ぜひ頑張っていただきたいと思います。前の前のセッションで、アンディ・ルービンが出てきて、すごくエキサイティングな話をしてくれました。

僕は日経にいた時に記事に書いてるんですけど、さっきルービンと一緒に出てきた中西(雄飛)さん、「SCHAFT」という二足歩行のロボットを東大でやっていたんですね、研究者として。震災の後に「絶対こういうロボットが必要だ」ということで、とにかく命がけで作ったと。

「これをビジネスにしたいからお金を集めたい」ということで、さっき歩いていたロボットの元のモデル、もっと大きくあんなにカッコよくなかったんだけども、それを持ってあらゆる金融機関、政府全部回ったんだけど、全部断られた。

「3億円くれたらビジネスが立ち上がるから」と言ったけど、その3億円が調達できなかった、と。

彼ら、SCHAFTの人たちはすごく日本が好きで、日本で起業したいと希望してたんだけれども、誰もお金を出してくれない。仕方がないので、アメリカに行った。行ってみたら、さっきのアンディ・ルービンがすぐ食いついてきて。

テレフォンカンファレンスで「おもしろい。今から見に行く」と言って、Googleから飛んできて、お台場で作っていたあのロボットを見て、「いくらだ? 言い値で買うぞ」と。で、即決と。というので、今Googleに入ってるという。

だからやはり、そこの温度差というんですかね。見極めてリスクを取って、そういうシーズをマーケットに出していく力の差を、SCHAFTの話を取材した時にものすごく痛感したんです。

ただ、お金はあるんですよね。背中を押すのはなんでしょうね? 東京をシリコンバレーにしていく、東京からどんどん新しいスタートアップを作っていくと。イノベーションを起こすためには、藤田さん、なにが必要でしょう?

「買収されたら負け」という空気感を変えていくこと

藤田:今の話の流れで言うと、伊地知さんが言ってた、要はイグジットにおける売却。誰かが買収してくれるというのが、日本では買収・売却に対して本当に抵抗があるというか。「買収されたら負け」であったり。会計制度上でも上場企業を買収するのは非常に障壁がある。のれん代がかかったり。

売却がないとすると、ベンチャー投資のお金がせっかくあっても、本当に雲の糸のような、上場してイグジットするしか、それ一本しかないんですね。

大西:出口がこんなに細くなっちゃう。

藤田:そうなると、当然慎重に慎重を重ねて上場できそうなビジネスであり、経営者に集まる。ラクスルみたいなところにバ~っと金が集まっていって。「余裕ですよ」みたいなことをおっしゃっていましたけど(笑)。

大西:なるほど(笑)。

藤田:逆に言うと、ただおもしろそうなことをやっているクレイジーな人には「この人とてもじゃないけど上場企業の社長になれなさそうだから」ということで、お金が集まらないんですよね。

だから、イグジットが売却というのが当たり前になっていかないといけないし、「なんとか高くこの会社を売りたい」と思っているような経営者がたくさんいなきゃいけないと思うんです。

そう思っても、日本社会でやればやるほど、売ったら負けだみたいな空気になってくるので。そこの空気が変わるといいなと思います。

柔軟な法運用を可能にしないとイノベーションは起こらない

大西:昔、堀江さんが、それこそライブドアが全盛の時に「買収されたらありがとう」と言いなさいって言って、「バカ野郎」ってみんなに怒られていたんですけど。あれ、資本主義でいうと正しいんですよね。

藤田:正しいですけど、やはり目の前で働いてる社員の手前言えないとか。日本の社会というか企業風土は簡単には変わらないですよね。

大西:なるほどね。田中さん、そういうなかなか変わらない風土をどうやって変えていきましょう?

田中:自分として、日本発のイノベーションを起こすための問題点って、まさに新経連そのもののテーマと同じなんですが、規制緩和というのがすごくあるなと思ってます。

端的に言って、例えば最近アメリカで一番イケてるベンチャーといえば、いろいろありますが、AirbnbとかUberとかあるじゃないですか? どれも日本で創業してこのベンチャーを始めようとしても、そもそも始められませんから。

だから、今の日本の法体系というか、イノベーションに対応する柔軟な法運用という概念だと思いますけど、そういうのがないので、そういった事業をすることが不可能ということがある。

日本、東京が目指したいイノベーションの姿というのが、今シリコンバレーで起きているようなことを起こしたいんだというのであれば、民泊がどうとかタクシーがどうとかって、大きくなってからやるんじゃなくて、なにも誰もニーズがあるかわからないところで、あれをやる人たちを許容するような法体系にしなければ、生まれるわけがない。そういった意味では、実は目指したいものとやってることの乖離幅が相当ある。真逆かな。

「今、問題点があることを規制緩和する」ではなくて、たぶん似て非なるような。現在日本の法律だと普通に違法なことが、イノベーティブに今アメリカで始まっているという現実をどう捉えるのか、ということがけっこうポイントになると思いますね。

新経済連盟が果たす役割は大きい

大西:なにをやったらいいか選ぶんじゃなくて、やってからダメなものを止めればいいんだと。

そこは、日本はダメですよね。「まずリスクをなくしてからやりましょう」みたいな。そこを180度変えないと、変わっていかないんでしょうね。

田中:観念論じゃなくて、実際に法的な運用とかが実質的にはすごく絡むので。そうしていくのであれば、まず本当に細かい日本の国の仕組みというか、いろんなことを1つひとつある方向に変えていかないとならないな、と。すごく難しいテーマで、本当に簡単にはできないテーマだと思いますね。

大西:新経連の役割は大きいですね。

田中:期待しています。

大西:伊地知さん、東京をどう変えましょう?

伊地知:さっき言ったような、成功体験を得る起業家をどんどん増やすというところだと思うので。大手企業とスタートアップ、いきなり大手さんがスタートアップを買収しまくるみたいな文化がくるかというとたぶん来ないので、最初は出資とかですね。

いきなり出資もしないかもしれないので、最初は事業提携から。提携もいきなりしないと思うので、最初は本当になんでもいいので、小さいお互いに実利があるかたちでテストができるというスキームを一緒に作ってあげるというところかなと思っております。

大西:なるほど。頑張ってください。松本さん。

東京発の世界で初めてのイノベーションを

松本:日本が抱える課題に真剣に取り組んでいくこと。どうしてもスタートアップ始めようとすると、グローバルな事例を探して、コピーキャットを作りたくなってくるんですけど、日本では、世界で一番高齢化が進んでいるとか、労働力が不足している。一方で、生産供給自体はものすごく多いが需要が少ない。需求ギャップが非常に開いている。

ラクスルはこれをやっているんですけど。日本が抱えるユニークな課題、これってたぶん中国でも今後起きていくし、ヨーロッパもきっと起きていくんじゃないのかなと。日本が抱えている一番最先端の課題に対して、オペレーションじゃなくてテクノロジーでその問題を解決していくということですね。

あえて海外を見ずに、「日本の抱える構造的な課題、インパクトの大きな課題って何か?」というところにフォーカスして、これまでの大企業のようなオペレーションによる解決ではなくて、テクノロジーによってその問題を解決していくということに本気で取り組んでいくと、世界初、東京発のイノベーションって起きていくんじゃないのかなと思います。

大西:わかりました。非常に刺激的な話をありがとうございました。おそらく東京発のイノベーションとか、東京をシリコンバレーにする一番手っ取り早い方法は、みなさんがレジェンドになることだと思うんですね。

「ああなりたい」とみんなが思うような存在になってくれれば、後が続いてくると。後から後からフォロワーが出てくると思いますので、ぜひ頑張って、東京だけじゃなくて日本を変えていってください。

今日は本当にありがとうございました。大きな拍手をお願いします。

(会場拍手)

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