高橋浩一氏×荒木博行氏が語る「人を動かす伝え方」

司会者:本日のゲストは高橋浩一さん、ファシリテーターはフライヤーアドバイザーの荒木さんです。お二人とも、どうぞよろしくお願いいたします。

荒木博行氏(以下、荒木):みなさん、どうぞよろしくお願いします。

高橋浩一氏(以下、高橋):よろしくお願いいたします。

荒木:浩一さん、どうぞよろしくお願いします。

高橋:こんにちは。よろしくお願いします。

荒木:ということで、ここからは私は引き出し役というかたちで、浩一さんにお話をうかがっていきます。私はフライヤーでアドバイザーとして関わっていて、自分でもいろんなことをやっております。そんな、雑な自己紹介からなんですけれども。

浩一さんとは2〜3年くらいご縁をいただいて、そこから浩一さんの執筆活動であったりと、すごいですよね。

高橋:いえいえ(笑)。もう、荒木さんのペースには。がんばっていきたいなと思いますが(笑)。

荒木:あらためて、浩一さんの自己紹介をお願いできますでしょうか。

高橋:みなさん、こんにちは。お忙しいところご参加いただいて、ありがとうございます。TORiX株式会社の高橋浩一と申します。営業の人たちを中心に、研修やコンサルティングをやっております。

本を何冊か書かせていただいて、反響をいただいているのは、私の背景に映っている一番左側の青い表紙の『無敗営業』というもので、これは営業の体系的なやり方を解説しています。赤い表紙の『無敗営業 チーム戦略』は、フライヤーさんで要約していただいて、荒木さんと対談させていただきました。

最近はコミュニケーションとか、どうやって人に動いてもらえるのかを中心にお伝えすることも多くて。背景に『気持ちよく人を動かす』という本が映っているんですが、これは去年の8月に出させていただきました。

コミュニケーションの“初めの3歩”が今回のテーマ

高橋:営業に限らず、人にどうやって気持ちよく動いてもらえるのか。その時には無理に押すんじゃなくて、「相手と一緒に作っていく」というコミュニケーションができないかなということで、体系立てて本にさせていただいてます。

今回のbook campはまさにそれの実践版ということで、本を出して、おかげさまでいろんなところで反響をいただいて、日常や仕事の中で使いこなせるんじゃないかというエッセンスをbook campでもお伝えしていければと思っております。

荒木:ありがとうございます。営業からスタートしながら、今日はより広い「コミュニケーション」というテーマでお話ししますが、今日参加のみなさんも浩一さんに「こんなことを聞いてみたいな」「こんなことで悩んでいる」ということをチャットでお聞かせいただければ、対話の中で拾っていくかもしれません。

ということで、ぜひ「こんなことを聞いてみたい」「こんな課題感を持っています」ということを、チャットに入れていただければと思います。

冒頭で浩一さんから「書籍の実践編」という話がありましたが、どんなことをみなさんにお伝えになりたいのかとか、どんなことを考えたのか、冒頭で簡単に紹介していただこうと思います。よろしくお願いします。

高橋:ありがとうございます。よろしくお願いいたします。今回のbook campのテーマは「人間関係をこわさずOKをもらえる『あの人が動く伝え方』」です。『気持ちよく人を動かす』では、コミュニケーションのキャッチボールや往復の話をいろいろと書いたんですが、もう少し手前にある「初めの3歩」と言うんですかね。

実際に「もっと日常の中でたくさん使う場面があることについて書いてください」という声がけっこう多かったので、今回はそこを取り扱いたいなと思っています。

飲みに行きたいけど誘いづらい、家事をやってほしいのに言い出せない…

高橋:例えば「尊敬している人と飲みに行きたいけど誘いづらい」。今は会食をやっている人たちもけっこういますが、だいぶお誘いしづらくなったりしているところもあるじゃないですか。

プライベートでも「パートナーの人に家事をやってほしいと思っているけど、強く言えない」とか、あるいは「上司や先輩に行動を改善してほしいんだけど、なかなか言い出せない」「お客さんとの関係を壊さないように価格交渉をするのが難しい」とか。

特に今は物価が上がっているので、「値段が上がります」ということをお客さんに言わなくちゃいけない人も多かったりすると思うんですよね。「そんなの直球勝負だろ!」と言う人もいるんですが、そういうキャラじゃない人も多くいるんじゃないかと思っています。

いろんな本で書いていますが、実際に私自身もどちらかというと、コミュニケーションに関してはかなり「怖い怖い」と思いながら、ずっと生きてきたタイプでした。

いろんな本があるんですが、「言いかえ」「話し方」「雑談」「コピー」「交渉術」でもなく、仕事でも家庭でも幅を広げて、人に動いてもらう機会はいっぱいあると思うんですが、そこに共通する原則があるんじゃないかと考えているんですね。

僕の周りでもけっこう多いんですが、仕事がすっごくバリバリできる人なのに、実は家族とのコミュニケーションができない人とか、逆にめちゃくちゃ友だちからは愛されているんだけど営業成績が上がらないとか、意外とそういう人たちは多いんじゃないかなと思っています。

僕自身は、「すごくコミュニケーションが苦手」というところからスタートして、今はコンサルタントとして人に伝える立場になったので、「営業」という世界である程度の成果を出すやり方を、ある種マニアックに研究してみようと思いました。

相手の脳みそに逆らうと「断る理由」を正当化されてしまう

高橋:ダニエル・ピンクさんも、「人に動いてもらうために、4割の時間を使っている」と言っているんですが、よく起こりがちなことをストレートに言うと、ちょっとこじれるとか、あれこれ追加してしまう。追加してしまうと「考えておきます」と、相手が頭を整理しなきゃいけなくなるんです。

あるいは、ありったけの想いをぶつけると感情的な反発を生んでしまったり、オブラートに包むと伝わらない。僕はこのあたりに、ある1つの根本原則があるんじゃないかなと考えました。それは何かと言うと、相手の脳みそとケンカしてしまうとうまく伝わらない、ということですね。

実はこれは『無敗営業』の時からよく本の中で書いているんですが、『気持ちよく人を動かす』の中で「認知的不協和」というキーワードを出していて。だいたい人の脳みそはモヤモヤに耐えきれないですから、「ダイエットは明日から」というふうに、いざとなったら自分を正当化するように保留してしまう。

例えば、オンライン会議にいつも微妙に遅れてくる先輩はいませんか? リモートワークで、当然のごとく遅れてくるのがけっこう上の人だったりして、早く来てほしいんだけどなんか言えないとか。

上の人は「いつも遅刻しているのは悪いと思っているんだけど、どうしようか」「忙しいからしょうがないじゃないか」と、だいたい人は自分を正当化する方向に脳みそが働くんです。

正当化する方向に脳みそが働くということは、相手の脳みそに逆らってしまうと、自分が「こういうふうに動いてほしい」と思っても、断るほうを正当化されてしまうことがあるんじゃないかなと思います。

相手の脳と“ケンカ”せず、上手に伝える方法

高橋:例を挙げますと、「飲みに行きませんか?」と言われて、「そこまで仲がいいわけじゃないし、今はちょっと忙しい」という場合はどういうふうに正当化するかというと、「行きたいんだけど、ちょっと忙しいからまた落ち着いた時に」「断るわけじゃないんだよ」という正当化で断られたりします。

あるいは「なんで家事をやってくれないの!」と言うと、「確かにやってないんだけど、今まで家事をやれと言われたことがなかったし」「ごめん、最近すごく忙しくて」「時間ができたらやるよ」とか。

あるいは会議に遅刻する上司や先輩に(遅刻への注意を)言ったとしても、「遅れたのは数分だし、こっちのほうが忙しいんだよ」と言われてしまったり。価格交渉で「高くても買ってほしい」と思っていても、お客さまに体よく断られてしまうことがあったりします。

じゃあどうやって動いてもらうかというと、相手の脳みそに逆らわないようにしましょう。

『気持ちよく人の心を動かす』の中でも「認知的不協和」というキーワードを出したんですが、実は人に動いてもらう時に認知的不協和のメカニズムをかなりのレベルで体得すると、人に動いてもらうコミュニケーションがスムーズになるんじゃないかなと思っているんです。

例えば飲みにお誘いするのにも、相手に対して肯定的なメッセージから始めれば、「そんなに思ってくれているんだったら。逆に『迷惑かな』と思わせちゃってごめんね」と、そんなに相手の脳とケンカせずによろこんでくれる。要は、OKする理由を頭の中に作ってあげるんです。

会話の「切り出し」で、コミュニケーションに躓くことは多い

高橋:家事についても、「忙しいあなたに家事をやってほしいと言い出せなくて」と言われたら、相手も「いや、ごめん。そんなことを思わせちゃったんだね」という感じで、気持ちよくOKをしてくれる。落としどころをどう作っていくか、ということだと思うんですね。

会議に来てほしい時も、「会議の参加者みなさんからコメントが来ているので、遅れそうな場合はご連絡いただけませんか?」と言えば、「それはまあしょうがないな」となったりします。

最初の切り出しで相手が躓いてしまうケースが多いんじゃないかなと思っているので、最初の切り出しで相手がうまく受け入れてくれる一言から入って、相手が動いてくれるツボでリクエストする。これは、すごくいろんな範囲で応用を効かせられるやり方があるんじゃないかと思っています。さわりを申し上げるとそんな感じです。

荒木:なるほど、ありがとうございます。相手の認知的不協和に着目して、それを踏まえた上でのコミュニケーションを行うということですね。

高橋:そうですね。

荒木:セッションそのものはどんな感じになるんですかね? このステップがありますが、いろんなシチュエーションでそれを実践してみるという感じですか?

高橋:そうです。例えばワンクッション入れると言っても、入れ方はいろいろあると思うんです。

この画面にもスライドを出していますが、相手に対して肯定的な物の言い方から入ることもあるし、「ちゃんと相手のことをわかっていますよ」というのもあります。

1万人調査でわかった、コミュニケーションの「3タイプ」

高橋:これは僕が仕事のコミュニケーションでよく使う言い回しなんですが、相手にお願いする時に「一つご相談なのですが」「伝達じゃないけど相談なんですよ」というふうに言ったほうが、相手が受け入れてくれやすかったりします。

まずは、こういうやり方をそれぞれに対していくつかツールのようなかたちにして、実際の仕事の場や生活の場で使うためのやり方を、いろんな応用の仕方を学んでいきましょうという感じです。

荒木:なるほどね。頭で理解しているのと、それを実際に口に出して体験を伴った知見に変えていくのは、またちょっと違いますよね。

高橋:そうですね。あと、僕が営業の方々を支援するお仕事をしている時にけっこう出るのが、「どうやって相手に動いてもらうのか」という話があって。例えば、相手が判断する時に、意見や主張が強い・強くない。強い中でも理屈が大事なのか、あるいは感情で決めるのか、あるいは人の意見に流されるのかで、タイプがあるなと思って。

少し外れた話なんですけど、この間お客さま1万人に対して調査をやったんですが、この3つのタイプによってぜんぜん傾向が違う場面がいっぱいあったんですね。

例を挙げると、例えば「政治タイプ」の人は、人の話を最後まで聞いてから判断するから、なかなか自分ではしゃべらない。「感情タイプ」の人は、自分の気持ちを言葉にすることにストレスを感じるから、感覚的に判断するとか、そういうのをいろんなシーンに当てはめて使っていくという感じですね。

「エレベータートーク」だけでは上司は動かせない

荒木:そうすると、一番最初のフェーズは他者理解というか、相手側がどういうタイプであり、さらに言えばどういう認知的不協和を抱えているのかを理解することが必要になると思うんですが、これはどうやって理解したらいいんですかね。

高橋:まず、あまり小難しく考えるとけっこう大変だと思いますし、日常の中でもそんなに細かく相手を分析しないじゃないですか。だから、例えば僕が荒木さんと話をするのであれば、荒木さんとの過去の会話の傾向から「こうじゃないかな」というふうに予測を立てる。

荒木さんは自分の意見や主張を伝える側にいらっしゃるし、しっかり言葉にして伝えられるタイプなので、荒木さんとコミュニケーションする時は「ちゃんと論理を大事に伝えよう」とか、相手との関係の中からわかることがいっぱいあると思います。

荒木:なるほど。ある程度のパターンを分けた上で、その上でのメッセージの変換をしていく。このbook campの主眼は、どっちかというと相手の分析そのものというよりは、それを踏まえた上での言い方という感じですかね。

高橋:そうですね。これに完全に応用が効く状態を作るということです。「応用が効く」というのは、みんなも人に動いてもらう時のコミュニケーションはいろいろと気を付けていると思うんですよ。

僕が仕事の場面でずっと昔から思っていて、最近まで「どういうことなんだろう?」と思っていたことの1つが、「上司に対して報告があります。結論から言うとこうです。ポイントが3つあります」みたいな、いわゆる「エレベータートーク」や「エレベーターピッチ」って、わりと若手の頃に教わるじゃないですか。

あれは1つのビジネスリテラシーとしてすごく大切なことだと思うんですが、上司を動かす時にいつもエレベータートークやエレベーターピッチで動かすかというと、そうじゃないと思うんです。

日常会話で「結論から言うと」とか、あまり言わないじゃないですか。だとすると、相手にちゃんと心地よく動いてもらえる伝え方のお作法やパターン・やり方は、もうちょっとあるんじゃないかな? というのが出発点ですね。