“残業沼”に陥る原因は、仕事中の「作業興奮」

久保彩氏(以下、久保):仕事ってすごく良い興奮をもたらしますよね。作業興奮だったり、承認欲求が満たされたり。

越川慎司氏(以下、越川):そうです。残業沼の大きな原因になるのが、ずばり作業興奮です。実は、モチベーションが高まってから仕事をするんではなくて、仕事をしてたらモチベーションが上がってくる。これが作業興奮というものです。

久保:わかる。

越川:作業興奮で、アドレナリンという脳内ホルモンがどんどん出ると、何のために仕事をしてるかがわからなくなってきちゃうんです。例えば、派手なExcelを作ることで満足しちゃったり、きれいなPowerPoint作ったら充実感を得てしまうとか、それが一番危ないんですね。僕が完全に作業興奮に見舞われていたのが、この時ですね。

この時の失敗を元に、こう考えたんです。20代の頃は、成果を残すためにひたすら努力してがんばろうと。もしくは、ワークライフバランスっていう言葉はネガティブであまり好きじゃないんですけど、効率だけを目指す。

これをルー語で言うと、より多くの時間でより多くの効果を残すのは「More with More」です。これが、残業沼に近い感じですね。かといって、ワークライフバランスで「仕事が終わってないのに帰ろう」というのは、少ない時間で少ない成果(Less with Less)という、ちょっと妥協に近いところかなと思います。

短い時間で大きな成果を残すための、仕事の仕方

越川:おそらく今日視聴していただいてる方は、どちらかを目指してるんではないと思うんですよ。お忙しい中、みなさんがわざわざ時間を取っていただいたのは、これを目指してるんじゃないかなと思います。効果と効率アップの両立、つまり「More with More」でも「Less with Less」でもなくて、「More with Less」ですね。

「flier book camp」で、みなさんに実践して習得してもらうのは、「More with Less」の考え方です。第1回のキャンプをやった時に、みなさんは「労働時間が少なくなった」「作業時間が少なくなった」と言ってくれていましたが、成果は落としちゃダメで、むしろ上げていかないと。

久保:そりゃそうですね。

越川:なので(トップ)5パーセント社員のやり方で、特に再現性の高いものをみんなで実験しようというのが目的ですね。じゃあ、「More with Less」をどうやって実現していくか? ということで、藪からスティックなクイズを出したいと思います。

久保:藪からスティックは「藪から棒」ですからね。ルー語です(笑)。

越川:翻訳していただいて、ありがとうございます。さて、より短い時間でより大きな成果を残すためには、どういう仕事の仕方がいいでしょうか。トップ5パーセント社員がやっていた仕事の哲学1から4のうち、どの哲学で仕事を進めると「More with Less」が実現するでしょうか。チャットに記入をお願いします。ああ、いいですね! すごい勢いで数字が来ていますね。

久保:最初のほうは1が多めだったけど、だんだん3になってきたかな?

越川:3が多いですね。あっ、4も出てきましたね。ありがとうございます。

「ローリスク・ハイリターン」なものは世の中にない

越川:「flier book camp」は、こうやってインタラクティブにみなさんの意見を聞きながら進めていきます。今日はすごい人数なので音声を出すことはできないんですが、答え合わせしていきましょう。ちなみに、トップ5パーセントの久保さん、1から4のうちどれでしょうか?

久保:えっ! そういうことになったんですか(笑)。理想は3ですよね。みなさんも書かれている「ローリスク・ハイリターン」、ちょっと狙い過ぎかな。

越川:ありがとうございます。3が一番多かったですよね。じゃあ、答え合わせにいきましょう。ずばり、答えは4の「ローリスク・ローリターン」。ローリスク・ハイリターンを目指そうとするから騙されちゃうんです。投資にしたって、勉強にしたって、仕事にしたって、ローリスク・ハイリターンなものは世の中にないです。

ローリスク・ハイリターンなものを探しちゃうから、「最新のITを導入したけど使わない」とか「キーボード・ショートカットを60個覚えたけど業務効率が上がらない」ということが起きちゃうんですよ。ですから、小さいことの積み重ねです。もっと言うと、小さな行動実験を積み重ねることが大切なんです。

著者としてぶっちゃけたいと思うんですが、『トップ5%社員の時間術』はたいへん多くの方に読んでいただいてるんですけど、あれをぜんぶ読んで同じようにやったからといって、全員に同じように成果が出ることはないです。だってあれは、最大公約数の全体最適ですから。

なので、「ちょっとこれをやってみよう」「フィードフォワードをやってみよう」「45分会議をやってみよう」というふうに、自分に合うものを個別最適してもらわないとダメなんですよ。だから、読んで終わりじゃなくて行動してください。

「意外とよかった」という学びが、ローリターンなんですよ。トップ5パーセント社員は、「やってみたら意外とよかった」を積み重ねていく。この積み重ねが、結果として成果の差に出ることがわかったんです。答えは「ローリスク・ローリターン」でした。

「時短術」と「時間術」の違い

越川:今回の書籍(のテーマ)は時間術ですが、時短術と時間術の差は何だと思いますか? 久保さん、時短術の本ってたくさん出てるじゃないですか。

久保:ありますね。

越川:今回の『トップ5%社員』は時間術なんですが、違いは何だと思いますか?

久保:そういえば「時間術」ですね。時短って、基本的に考え方としては「短くする」ことを狙ってますよね。時間術は、母集団が違うという感じですか?

越川:そうですね。時短術というのは、どちらかというと作業効率を高めることに近いかなと思います。時間術はタイムマネジメントで、起点が「作業」から開始するのが時短術。「そもそもこの作業って必要かな?」というところから入るのが時短術ということで、広く捉える意味では久保さんの言うとおりですね。

例えば、キャンプで一緒に山を登っていきます。一番最短距離で登る方法が「時短術」で、多くの本ではこういった時短術が書かれてます。でも、この山は本当にみなさんの目指すべき山ですか? というのがすごく重要です。

もし、青い旗の立っている山が目指してる山じゃない場合、この水色(最短)の矢印は無駄に終わるじゃないですか。時短じゃなくて、むしろ時間が浪費されるんですね。目指すべき山がピンクだったら、ピンクの最短距離の山登りをする。

「(本当に)登るべき山は何ですか?」というところが、すごく重要になってくるんです。だって、使わないキーボードショートカットを覚えたって効果はないですし、PowerPointを派手に作れば作るほど効果が上がることもないですから、重要なのは仕事の見極めなんですよ。

久保:そうですね。時短や時間を考えた時に、すごくパラドックスがあるなと思うのがそこです。

時短とは「手段」であり、「目的」ではない

久保:よくあるんですが、家庭でも仕事においてもそうなんですが、大切な決定をしているつもりがなくて、その場しのぎでやることの積み重ねで、気がついたら大切なものからかけ離れてる時間の使い方していることはありますよね。

越川:そうです。時短は手段なのに、時短することが目的になってしまうと、本質から離れてしまう。例えば、働き方改革に取り組んでる企業は87パーセントいますが、成功企業は12パーセントしかない。それは、働き方改革することが目的だからですね。

目的と手段を履き違えちゃうと効果が出ないということは、たぶん、今日の参加者のみなさんはわかってることかなと思います。

早く帰る、早く成果を出す。その手段として「時短」をするのであれば、「そもそもこれは必要なのか」「このアウトプットって何なんだろう」「相手が求めることは何だろう」ということが起点にならないと、作業興奮で必要じゃないことにエネルギーを使ってしまうんじゃないかなと思います。

久保:今、越川さんは「作業興奮」と言われましたが、加えて「正当化」もあるなと思います。「やり始めたから、これが私にとって正しいと思う」と、そのまま突っ走ることもけっこうありますよね。仕事においても、家庭もそうなんですが。

越川:そのとおりですね。たぶん今、参加者の方が大きくうなずいていると思います。結論から言うと「無駄な時間」なんてないんですよ。無駄な時間だと思って時間を費やしてる人は、誰もいないんです。

久保、なるほど!

越川:良かれと思ってやっていることが無駄だったんです。時間というのは、「消費」と「浪費」と「投資」の3つなんですね。消費はなんとなくわかるんですが、浪費と投資の差がなかなかわからない。

そうすると何が必要かがわからないから、一番重要な「仕事の見極め」ができないんです。最短距離の、最低限の仕事の、「最低限」がわからないんですよ。これが、コミュニティ・ラーニングの大きなベネフィットだと思います。無駄なことなんてわからないんですよ。僕だって、良かれと思ってやってるんです。