スタートアップは5年で85パーセントが潰れる

川原崎晋裕氏(以下、川原崎):お待たせいたしました。今日は「エンジェル投資家・小笠原治氏に聞く、スタートアップのメンタリング」というところで、小笠原さんに福岡から東京までお越しいただいております。よろしくお願いします。

小笠原治氏(以下、小笠原):このご時世に(笑)。

川原崎:このご時世に、リアルで付き合っていただくということで(笑)。今回のテーマについてですけれども。日本で起業家を増やそうとしている中で、スタートアップで働いている方たちって日々辛いこともたくさんあって。途中で心折れちゃったり、上手くいかなくなって仲間が全員いなくなっちゃったというような話はよく聞きますよね。5年で85パーセント潰れるんでしたっけ。

小笠原:そのぐらいは潰れるんじゃないですかね。

川原崎:有望な方が上手くパフォーマンスできずに辞めてしまうようなサイクルは非常によくないと思っておりまして。私は、小笠原さんがメンターとしては滅茶苦茶素晴らしい方だと思っていますので、実際に投資してもらった私とのやりとりも踏まえて、そこの課題をどう解決していくかをお聞きできればと思います。よろしくお願いします。

小笠原:よろしくお願いします。

川原崎:では最初に自己紹介をしていただきたいと思います。

小笠原:僕は、関係値が近い人だとたぶん「awabar」というバーのオーナーとして一番よく知ってもらっている気がしますけど。もともと、さくらインターネットというクラウドサービスの会社を、今の代表の田中さんと一緒に創業させてもらいました。

その後「iモード」とかいろんなコンテンツ系の仕事をしていたんですけど、最近だと「DMM.make」(モノづくりをしたい人の設計・製造・販売・技術導入をサポートするプラットフォーム)だったり「mercariR4D」という研究(開発)組織の立ち上げをやったり。あと京都芸術大学で、起業家になることを少し助けるような、クロステックデザインコースというものをやっています。

「すべてを書き起こしたい男」とエンジェル投資家の出会い

小笠原:最近だとエンジェル投資家というよりは、「ABBALab」というファンドを立ち上げて、今74社に投資をさせていただいています。

川原崎:「ABBALab」は、シード(創業初期の起業家への投資)がメインですか?

小笠原:シードがメインです。

川原崎:拠点は今も福岡にあるんですか?

小笠原:2つあって、1号ファンドは東京、2号ファンドは福岡です。わりと福岡のスタートアップにも投資させてもらっていますね。その中の「tsumug」という会社に今、プレイヤーとして入っていたりします。

川原崎:ありがとうございます。名刺に何を書けばいいかわからないタイプの方ですね(笑)。次、ログミー側も簡単にご紹介させていただきます。

川原崎:私、代表の川原崎と申しまして、もともとサイゾーという会社でWebメディア事業の編集や責任者をやっておりました。その後2013年、8年前にログミーを設立して、小笠原さんに投資をしていただいたという流れになっております。

次が小笠原さんとの沿革みたいなものですけど。2013年に起業して、2014年の2月に古川健介君、けんすう君の紹介で小笠原さんと出会いました。当時小笠原さんが何かニュースをシェアして「こんな偏向報道みたいなものをなくして、もう全文でええやん」みたいなことを言っていたのをけんすう君が覚えていて。

「すべてを書き起こしたい男がいる」みたいな感じで私を小笠原さんに紹介してくれて。起業からちょうど1年経ったぐらいで出資いただいて、その6年後にSansanにM&Aといったかたちになります。

小笠原:そうですね。そう思うと、会ったのはだいぶ昔ですね。

川原崎:まさか8年もやっているとは夢にも思わなかったんすけど。

小笠原:確かに。わりと早く上がろうとしていた感じが……。

川原崎:(笑)。当時は周りもけっこうそうでしたよね。

小笠原:今その頃のチャットを探してみたんですけど、バリュエーション(企業価値評価)とは何か、みたいな基本的な知識の話までして。

川原崎:(笑)。そうですよね。

出資を決めた理由は、事業内容と創業者から受けた印象のギャップ

川原崎:当時私はログミーの運営資金を稼ぐためにコンサルをやっていて、お金にそんなに困ってはいなかったんですよね。なので、当時エンジェル投資家の方が提示する金額って……1,000万円からどれだけ多くても5,000万円ぐらいですかね?

小笠原:だいたい500万円スタートぐらいかな。

川原崎:500万円スタートぐらい(笑)。なので、お金自体にはそんなに興味がないというか、価値を感じていなくて。私はどちらかと言うとマスコミのほうから来た人間だったので、ぜんぜん知らない業界の案内役として小笠原さんに一緒になってほしいなというので。いろいろありましたね。

小笠原:いろいろありましたね。でも、ちゃんと次の年にはけんすうも片桐君も出資して。このメンバーでの株主チャットが一番おもしろかったですね(笑)。

川原崎:(笑)。みんなが投資した意味は、あのチャットがあったことだ、みたいな。3人もいるとぶっちゃけ、あそこに何か投げ入れてもみんな返答に困るだろうなっていうのと、多少ポジショントークになるだろうなと思ったんで、個別に相談していましたけど。

小笠原:起業家がエンジェルの株主コミュニティみたいなものを上手く動かすのって、けっこう大事なことなんですよね。

聞きたいことをちゃんと聞ける、誰に聞けばいい(と教えてもらえる)、もしくはその何人かが議論してくれる、みたいなことがあって。1つのチームを持っているようなもので、ああいうものはやっぱりいいな、というか。

川原崎:投資家のマネジメントをしろと言われると、「荷が重いな」って一言に尽きるんですけど(笑)。当時、ログミーに出資してもいいかなと思った決め手って、どういうところだったんですか?

小笠原:カワパラ(川原崎)が嫌な奴そうだなって(笑)。

川原崎:(笑)。性格?

小笠原:実際、変わったんじゃないですか。

川原崎:性格ですか?

小笠原:性格なのか思考なのかはわからないですけど。性格というよりは、「いい感じに嫌な感じだな」と思ったのがわりと最初の感覚で。でもやることは全文の書き起こしってすごく正しいことをやろうとしていて、そこのギャップが無茶苦茶おもしろくて。

エンジェル投資の目的は、儲けよりもエンタメ

川原崎:なるほど。当時、嫌な奴ってみんなに言われてましたからね。

小笠原:(笑)。最近はすごくいい奴オーラが出てるじゃないですか。人って、そういう変化量がめっちゃ楽しいですよね。絶対に変化はするんですけど、その変化量がどれぐらいあるかっていう。

川原崎:いやー、なるほど。エンタメっすね。

小笠原:エンタメですよ。エンジェル投資なんて、本当にエンタメですよ。そのエンタメの結果として、社会にいい影響だったり、一石を投じるみたいになったらめっちゃ満足だし。

例えばエンジェル投資で儲けるとなると、すごくシンプルに言うと、エンジェル投資だとフォローオンをあんまりしないから、数やるしかなくなる。40〜50社投資したら、何かしら当たるかもねっていう。

3社とか5社とかエンジェル投資をしている人は、完全に儲ける気はないんだと思っていて。たくさん投資している人も別に儲ける気はないんだろうけど、たぶんそれだけやると当たるのも出て、そこからまた次の投資に回せているような気がしますね。

川原崎:確かに片桐も投資する時に、カワパラがどうなるのかちょっと見てみたいから投資するみたいなこと言ってて。要はそういう愉快犯みたいな……。

小笠原:そこのプロセスが共有されてくるのが無茶苦茶おもしろいんですよ。結果、会社が大きくなりましたとか、どっかにM&Aされました、上場しました、と。一瞬「おーっ」てなるんですけど、やっぱりプロセスを知っているからこそ、ここがめちゃめちゃおもしろくなるので。SansanにM&Aしてもらって、グループジョインしてっていう、その手前の1年間とか、かなり濃いじゃないですか。

川原崎:そうですね。いろいろありましたね。

小笠原:それを知れるっていう(笑)。

川原崎:みなさん、小笠原さんに投資してもらいたければ性格の悪い私を目指していただければと思います。

小笠原:あんまりいい人に投資したことないかもしれないけど(笑)。

川原崎:爆弾発言していますけど(笑)。

クリニックでのメンタルケアを受けづらくする、周囲の視線とプライド

川原崎:じゃあちょっと本題に入りまして。ストレートに「起業家の心が折れる瞬間」のエピソードを最初にお聞きしてから、具体的にどうやって解消していくのかという話につなげていきたいと思います。

起業家のメンタルケアみたいなものって、シリコンバレーなどのほうが日本よりも発達している印象があるんですけれども。

小笠原:環境というか、一番大きいのは雰囲気かなという気がしていて。日本で心療内科に行きますと言うのは、周りの人の目も含めたハードルってあるじゃないですか。

川原崎:そうですね。

小笠原:発達していると言うよりは、相談に行きやすいという意味では、向こうのほうがハードルが少し低いのかなとは思いますけどね。日本だとそういう病院に行っても薬を出されて終わり、という話になってしまうでしょ。

川原崎:そうですね、うん。

小笠原:コーチングもある程度回数をこなさないと、自分の変化に実感が持てないから。そこまでにやめちゃう人もいるし。何となくまだあんまり上手く機能している気がしないですね。

川原崎:恥ずかしい感覚はすごくあるんです。スーパーマンじゃなきゃいけないみたいな。精神科というかクリニックにかかっていることがばれたら、もう二度とこの界隈で働けないぐらいの恥という感覚が大きいですよね。

小笠原:それはあるかもしれないですよね。僕自身も1回会社を潰しているので、潰す時もそうだし、潰す決断をする前の数ヶ月はたぶんちょっとおかしい人になっていたはずなんですよ。

当時、子どもたちに俺はどう見えていたんだろうなというのも怖くて聞けないし。それこそ当時京都で、家族4人がお腹いっぱいになるために、ポケットの中にある1,500円でどこに行こうかな、みたいな。

川原崎:え?

小笠原:で、王将でなるべく量が多いものばかり頼むとか。そういうことをしていると、なんて言うんですかね、いろんなことに対して余裕がなくなるから。

精神的に追い詰められる前に、相談できる関係値のある人を作る

小笠原:会社を潰す過程の中では、従業員の次の行き場所を探したり、これだけは支払いをしないといけないとか、債権者に対してどういう態度を取るとか、株主に対してどう説明するのか、とか。そんなの、いっぺんに絶対できないじゃん。たぶん気が狂う手前みたいな。

「俺の心のケアは誰がしてくれるの?」みたいなことになってくるので。そこまでいく前に相談できる関係値のある人を作るとか、それがコーチングでもいいとは思うんですけど、恥ずかしくない状況を作っておかないとやっぱりしんどいですよね。

川原崎:私の感覚だと、医者に相談してもたぶんこの感じを味わったことがなさそうだから、あんまり励ましにならなそうだな、みたいな感じがあって。起業したことがある人なら共感してもらえそうだなと思ったりするんですけど、そういう知り合いを見つけるのが大事なんですかね?

小笠原:なんだかんだ言って、お医者さんに行くのはぜんぜん否定はしないんですけど、基本対応がオーダーメイドじゃないと思うんですよね。

川原崎:あー、確かに。

小笠原:感覚値が違うし、たぶん体の異変みたいに何か数値でわかるものでもないから、きっとオーダーメイドしようと思ってもできないんだと思うんですよ。それで、ある程度薬を出すとかって話になったり、仕事を少し休んだほうが、みたいなことになると思うんですけど、休みたくないから行っているんですよね。

川原崎:(笑)。

小笠原:もっと仕事をやりたいから行っているようなところがあるので。やっぱりオーダーメイドというか、共感を含めて、本当に必要な何らかのきっかけの1つを求めている。コロナの前くらいだと、スタートアップの経営者ってわりと群れていたじゃないですか。

川原崎:“村”と呼ばれていましたよね。

小笠原:あれはあれで一定の効果があったと思っているので。うちの店、「awabar」とかでも、ちょっとしんどいから来る人ってけっこういたんですよ。クラブのお姉ちゃんに馬鹿話でストレス発散とかじゃなくて、単純にちょっと弱音吐きたいという感じはけっこうありましたね。

川原崎:なるほどー。あのコミュニティでは、その機能はでかそうですね。

小笠原:なんとなくそこに行ったら誰かいるよね、みたいな。逆に今はコロナでそういうのができていないのがちょっともったいなくてね。