企業の「ダイバーシティ疲れ」

堀江敦子氏(以下、堀江):もう1つ、企業さんをいろいろ回っていくと「やっぱりさ~」みたいに管理職の方は言うわけですよ。「結局、女は結婚・出産したら辞めるよね」「これだけ制度を充実させてるのに辞めるなんて、やる気がないんでしょ」「えっ? 女性活躍、ダイバーシティ。もう疲れてきたんですけど」みたいな感じで、みんな「ダイバーシティ疲れ」してるわけですよ。

みんな働きたいと思っているし、がんばりたいと思っている。でも、そういった本質的な彼女たちの気持ちがわからないことによって対応がズレまくっていて。「お金をかけて施策をしてもぜんぜん刺さってないというのが、超もったいない」という感じになっていたわけですね。

このように、会社や社会としても、労働力としても必要だと思っているし、個人としても必要だと思っているのに、それがズレてしまっている。そのことによって、結局は活用されてないわけですよね。それってすごくもったいないなと。

だからこそ、女性たち自身が「やりたい」とちゃんと発信をしつつ、周りは状況を理解して、ミスマッチじゃなくてしっかりとしたコミュニケーションをとっていくことが必要だなと思ったんですね。

アンケートから見る、女性の本当の気持ち

こういうことをいつも説明するんですよ。でも2時間くらいかかるわけですよ。全体を話していくと、納得してもらうまで1時間半とかかかっちゃうので、もうすごくめんどくさいなと思ってですね(笑)。もうこれはデータにしないと客観的にわかってもらえない。

女子がピーチクパーチク言っても意味がないと思いまして、「これはデータと根回しだ」「データにして、白書をつくろう」ということでアンケートを開始しました。アンケートは去年12月末くらいからやったんですけれども、1週間で500人ぐらいの女性と会って広げ、回答してもらいました。

そのなかでも、出産経験がなくて働いている女性にキュッと特化をして、350名くらいの方を分析しました。簡単にご説明していきます。みなさんのお手元にあるものでなにを言いたいかというと、「先ほど言ったことがデータ化されました」という話です。

仕事と子育ての両立を今やっている人ではなくて、直面する前の人でどれくらいの人が不安を抱えているのかというと、92.7パーセント。ほぼ全員ですね。ほぼ全員が「不安を抱えた経験があります」と答えています。

この不安を抱えた人に聞いてみました。両立不安だけが原因で「転職や退職を考えたことがある人」は50.4パーセント。あとは「妊娠・出産を遅らせようと思った」という人は46.6パーセント。ということで、半分の人がただ不安なだけでやめようと思っているわけです。

この人たちが仕事が嫌いなのかというと、実はそうではないんですね。不安を抱えている人に対して、「今の仕事は充実していますか?」と質問したところ、80.3パーセントが「充実している」と答えている。あとは、「求められればマネージャーを経験してみたい」という人が66.5パーセントいるんです。

こんなに多いんです。けれども不安で辞めようと思ってしまっているんです。なんでそう思ってしまうのかというと、「家事と育児は自分の仕事」「女性の仕事」と思っている人が82.4パーセントいるんですね。あとは「仕事で成果を出すには時間が必要」と言っている人が78.3パーセント。そして「子育てをするために時間が必要だ」と思っている人が94パーセント。

ということで、自分は24時間しかないのに仕事も子育ても家事も全部完璧にやらなきゃいけないと思ったら、「無理ゲー」みたいに思っちゃうわけですね。それをやってる人というのが、すごくバタバタしている感じがするので、それを見たら「ちょっと無理そうだな」と思ってしまう状況があります。

両立不安の一番の正体は「こうしなきゃいけない」という固定観念

その不安をどこで掻き立てられたのかというと、「会社のなか」が73.3パーセント。あとは「メディア」ですね。メディアで完璧なママ像を見せられたり、待機児童とかいろいろ言われたりすると、「自分のやりたいこともあるけれど、やっぱり無理なのか」「こうやっていかなきゃいけないかも」と思ってしまう。

この両立不安の一番の正体は、「こうしなきゃいけない」という固定観念なんです。それは女性の頭のなかにあるものではなくて、周りが求めているんですね。会社やパートナーや親などが「こうしてほしいな」と言っていることによって、実はそういう固定観念がつけられてしまっています。

そのことによって、就職、転職、復職、昇進などを考えているところでキャリアダウンしてしまうことがある、と書かれています。この先はちょっと長くなってしまったので割愛します。

女性はこういった3本軸でいつも考えていて。キャリアをがんばりたいし、プライベートもどうにかしたいし、周りに迷惑をかけちゃいけない、それを長期的に考えて完璧にやらなきゃと思ってしまうことによって悩んでしまう。そういうところをちゃんと解明をしていって、しっかりと対応していくことが必要ですよ、ということをお伝えしています。

なぜ男性はこれがないのかというと、今のところ求められているのはキャリアだけなんですね。これが、一緒に子育てをしている人、介護もやっている人は、たぶんここが出てくると思うんですけれども。

女性は社会から求められているから悩んでいるということと、特性として交渉とか整理が男性に比べてすごく下手くそなことによって迷宮入りしてしまうことがあるということは言われています。

ということですみません、お時間ですね。オーバーしてしまいましたが、こちらのほうでいったん終わりにします。ありがとうございます。

(会場拍手)

西村創一朗氏(以下、西村):敦子さん、ありがとうございました。

「両立不安白書」リリース

西村:ではこのあと、白河先生も交えて3人でトークセッションというかたちで、残り30分お話できればなと思っております。

白河桃子氏(以下、白河)・堀江:よろしくお願いします。

西村:改めて、「両立不安白書」はすごく社会的に意義がある白書ですよね。「ゾンビのように出てくるモヤモヤ女子」という表現が秀逸すぎて、頭から離れないんですが(笑)。もう無限に相談を受けるわけですよね。

1件1件全部、ちゃんと真摯に対応したいけれども、時間がいくらあっても足りないという状況の中でリリースされたかと思うんですが。さっそく反響の方はどうですか?

堀江:そうですね、昨日アップをしまして……。

西村:ちょうど昨日ですよね。Facebookでも見ました。

堀江:私が投稿したものが、今62件ぐらいシェアしていただいておりまして。ダウンロード数はちょっとまだ確認してないんですけれども。反響はすごくいただいています。

メッセージも「ずっと悩んでいたけど、みんなも悩んでるんだ」とか。後半は解消方法について書いてるんですけれども、それを見て「自分はこのままでいいんだって思えた」「がんばりすぎなくていいんだと思った」とか。実は、男性のほうからもいただいたりしています。

男性中心の長時間労働全体にも働きかけなきゃいけない

西村:ありがとうございます。さっそく白河先生もFacebook、Twitterでシェアをされていましたけれども、両立不安白書をご覧になっていかがでしたか?

白河:この課題は私もずっと取り組んでいることなので、やっぱりこのワードで可視化されるのがすばらしいと思っているんですね。働き方改革をちゃんとやって、労働時間の問題に取り込めば、女性は本当に働きやすくなるはず、ではあるんです。

(会場笑)

さまざまな人が本当に働きやすくなる。ですけれども、やはり、それが1年とか2年もかかるのを待っていられないじゃないですか。

西村:本当にそうですよね。待ったなしですもんね。

白河:待ったなしですから。やっぱり女性の意識に対しての働きかけはもちろん重要ですし、あとは環境整備。だから私も『「産む」と「働く」の教科書』という本を出したりして、もちろん意識のほうにも働きかけていますが。

けれど、働き方全体、とくに男性中心の長時間労働全体にも働きかけなきゃいけない。ということで、結局両方やってきて、やっとここでそれが少し実現しそうかなという感じです。

両立不安がなくなれば、女性はもっといきいきできる

西村:そうですよね。結婚・育児を取り巻く環境というのは、この数年、10年ぐらいで変わっている部分、変わってない部分があるかなと思います。それこそ『「婚活」時代』を上梓されてから、もう10年近く……。

白河:そろそろ10年ですね。

西村:あれから変わりましたか? 結婚・婚活を取り巻く環境って。

白河:そうですね、それはまた今度出す本で……(笑)。

西村:あら、そうなんですね(笑)。

(会場笑)

白河:ただ、最近本当に驚くのは、管理職の女性を取材しに現場に行くじゃないですか。そうすると、課長になっているぐらいの女性があとからこっそりやってきて、「あの本を読んで結婚できました、ありがとうございます!」と言ってくれるのがすごくうれしいですね(笑)。

西村:すごいですね!

白河:それから、スリールさんでも5年前から「産むと働くの授業」をずっとやらせていただいていまして。もう結婚して子どもを産んでいる方が2〜3人。その頃はまだ学生だったんですから。

西村:そうですよね。

白河:だから、両立不安がなくなるだけで、女性はこんなにしっかり働けているし、こんなにいきいきと自分の人生を歩けるんだと、彼女たちを見ながら本当に実感しています。

西村:なるほど。『「婚活」時代』が社会に与えた影響というか、ものすごい数の人を救ってらっしゃると思うんです。

白河:そうなるといいなと。 まぁでも、いろいろ誤解もあったりとかね、なかなか難しいところもあるんですけれども。