元大統領の卒業式スピーチ

ビル・クリントン氏:マーク・ギアラン学長、マリーさん、そして親愛なるすばらしい娘さんたち、ここに立たせてくださったことに、感謝します。振り返ってみると、私が2001年に初めてこの場に来た時、あなたは学長になってまだ2、3年でしたね。平均的な在職期間ですね。

私が大統領だった頃、マーク(学長)はホワイトハウスの通信局長であり、ホワイトハウスの副総裁、平和部隊の隊長、でした。彼は6年間でそれだけのことを成し遂げたのです。自分自身の首を絞めないようにすることができなかったわけですね。

(会場笑)

今や彼は大学史上もっとも在任期間が長い学長です。彼をとても誇りに思いますし、感謝に堪えません。そして、奥様マリーさん、私の妻、ヒラリーと私へのあなたたちの友好関係も感謝に堪えません。彼女がコネによって学位を取得したかどうかは私には伺い知りません。

(会場笑)

彼らの長きに渡る関係性も含めて。今も昔も、一部ではコネが悪く言われるものです。

理事、教職員、経営陣、に感謝を捧げます。そして、2017年度の卒業生のみなさん、ご両親、友人にお祝い申し上げます。そして該当する方々に、母の日おめでとうございます。

母の日にスピーチができるのはとてもすばらしいことです。49年前にジョージタウン大学で私がやっと学位を取得出来たときの母の安堵の表情は忘れられません。私が49年前に学位を取った時、自然史博物館のミイラになることは決定的でしたからね。

(会場笑)

知っていたのですよ。断言しますが、大学卒業から10年経っても卒業スピーチをそのまま覚えているという者は私くらいでしょうね。最良のスピーチ、というのは短く、適切な話題でないといけないこともその時に学んだのです。

私たちは真ん前の芝生で嬉しさにあふれていました。ワシントンD.C.市長のスピーチでした。ファンファーレと共に紹介があり、嫌な予感のする黒い雲が突如涌き上ってきたのです。稲光がまたたいているのが見え、雷鳴が響き、キャンパスの後ろから雲がもくもくと上がって来ている中、ウォルター・ワシントンがこう言ったのです。「卒業おめでとうございます。今すぐ避難しないと溺れ死ぬでしょう」と。

(会場笑)

「もしスピーチの内容を知りたいのなら、事務所に連絡してくれれば送りますよ。幸あれ」と。

それだけです。もし1968年に大統領選があって、選挙がちょうどその時にあったら、ウォルター・ワシントンは私の年の卒業生全員から記入投票数を集められたでしょう。

世界はいい方向に進むと信じている

さて、私はもう少々話をしようと思いますが、長過ぎはしないですよ。私はみなさんに、今日ちょっと時間をとって、自分自身に問いかけることをお勧めします。

何から卒業したのだろうか、何を学んだのか、それまで知り得なかったことで、何を学んだことが重要なことだったのだろうか。自分とは違う人との関わり方が学べたここでの人間関係は、ここに来なければ築けなかったのだろうか。もしくは、私が学んだのは物事に対する考え方だったのだろうか、と。

経済、社会、そして政治的な発展が、物理学におけるカオス理論のように見える世界において。

すべての点と点が繋がった今、どれくらい成長できたのだろうか。私は大学の学位を取得したのだから、偽ビジネスには騙されはしないぞ、などと思うでしょう。

知識があるならなおさら、できる限り的確であることはとても大切だと思うが、しかし、点と点は繋げるのだろうか。将来が描けるのだろうか。到達できる道が見えるのだろうか。できなかったとしたら、何が原因なのだろうか。4年前よりも、よりよい自分になれているのだろうか。もしくは根本的に変わったのだろうか。どんな違いがどんな人を引き寄せるのだろうか。

少しの時間でいいのです。今日、このことを考えてみてください。あなたたちには、それぞれのやり方で、あなたたちにこういうことを考えさせてくれた熱心な教授陣がついています。人類史上においてもっともわくわくする時期と、私の信じる相互依存と、急速な変化を理解するきっかけや余裕を資金面で支えてくれた家族がいます。

それがなんであれ、価値あるもののために、私の思いを述べさせてもらいます。私は、最終的に世界的な相互依存はいい方向に進むと信じています。しかしながら、そこに辿り着くまでにはたくさんの紆余曲折があるでしょう。

インターネットが当たり前の現在では、ありとあらゆることが調べられます。時として、真実も。

(会場笑)

しかし、それはほかの科学技術の進歩がそうであったように、とてつもない恩恵を与えてくれると同時に、災難も与えてくれます。あなたたちの多く――たぶんそうでしょうが――は、私同様、世界中で起こった、ファイルをハッキングして身代金を要求される事件にいつ巻き込まれてもおかしくない状況だったでしょう。

結局、イギリスの若者による犯行で、別の若者、もっと若い若者によってその犯行は阻止されたので、私たちの国の重要機密までが損傷を受けることは、見たところなかったようですが。

違いを楽しみ、そのことに自信を持とう

私たちみんなに時代の激変が与える恩恵はさまざまです。経済的に多くを受け取れる者とそうでない者がいます。めまぐるしく変わる社会と生活様式は多くの人に取り入れられる一方で、誰かを傷つけ、最近では多くの混乱を残しています。

ことの始まり、つまり、大多数の人々が、自分が何者で、どこに属しているのかを把握できていた時代は、理論上ですが、落ち着いていました。神話の時代に先祖がどこにいたかによって決定付けられているほうがよかったのです。

私が少年だった頃、私が産まれる大分前に亡くなっていたのですが、偉大なるコメディアン、ウィル・ロジャースに夢中でした。彼の残した一言で私がもっとも偉大だと思うのは、「昔はよかったなんて言わないで。そんなはずはないのだから」という言葉です。

自分たちにこのことを問いかけてみてください。この言葉をどう思うのか? 自分は何者なのか? 世の中にどう馴染んでいけばいいのか?

人類史上において、今がもっとも相互依存している時期だと言うことを信じられるでしょうか? もしそうなら、あなたと、あなたの仲間が支配する世界を造ることを最初の目的とするか、もしくは、一人ひとりが表舞台で第一人者となれる世界を造ることを目的とするか、どちらなのでしょうか?

戦い続けることが繁栄や調和、平和を築くよりよい方法だと思いますか? さまざまなつながりを持つ人々が力を合わせることがよい結末を生み出すとは思いませんか? ご存知でしょうが、裏付けはたくさんあるのです。

私たちが卒業生の中でもっともIQの高い者を連れて行くとします。それがあなただと特定されたとします。私たちは奇跡的にあなたを連れ出して部屋の1つにあなたを閉じ込めます。そして、2日間ここにいないといけない。必要なものがあれば言ってくれれば用意する、と言います。

そして残った者は悪天候の下で、雨が降らないことを祈りながら段々冷えてくるコーヒーを飲み、ひからびたパンをかじりながら2日間を過ごすことを強要されたとしたら。

天才と、残った者には2日間に渡って10の質問を渡されます。2日後、あなたたちはよりよい判断を下すでしょう。あなたたちの多様性は同じような天才ばかりのグループよりもよい決断を導けるのです。

違いを楽しみ、そのことに自信を持とうではありませんか。生物学的な視点から厳密に言えば、私たちは99.5パーセント同じ仲間なのですから。地球上の私たちすべて、です。今日、性別や人種、体つきや髪の色や目の色、それぞれに見られる違いというものは、たった0.5パーセント分の遺伝子情報にしか過ぎないのです。

私たちはみな複製品のようなものなのです。あなたの体に36億ある中の0.5パーセントは、重要な部分です。人生をよりおもしろくし、かけがえのないものにしてくれるのですから。しかし、私が言いたいのは、私たちはみな同じ人類なのだという本質を認めずに違いにこだわることはできないということなのです。

誰かの人生を危険にさらし、しらんぷりするのは恥ずべきこと

激動の時代において、何者か疑わしく、正体が不明な人々がいて、ばかげた話のようですが、現実主義的な話ができなかったら、全部ひっくるめてその種族は脅威だ、あの種族は脅威だ、ほかの種族も脅威だ、と決めつけてしまう。

ある例を挙げましょう。アメリカの人口のうち、ほとんど1パーセントを占めるのはイスラム教徒です。9.11以降21万もの人々が銃によって亡くなっていますが、その中でイスラム教徒による犯行は、1パーセントの10分の3です。言い換えると、国際平均の3分の1です。

だからと言って、イスラム思想の元に行われたテロに耐えなければならないのでしょうか。そうではありません。しかし、玉石混交して、思い込みの中で堂々巡りを続け、この国の才能に溢れた、献身的な人々である、国のために助力してくれる人々を恐れるようなことがあってはならないのです。多種多様な民族はよりよい判断を導き出し、人生をより味わい深いものにしてくれるのですから。

別の例をとってみましょう。不法滞在者は多くいるでしょうか。います。なぜか。30年以上も出入国管理の更新を行っていないからです。領土を守り、公民権の基準を設けたいなら、定期的に法律を改訂しなくてはいけません。でないと、状況はなにも変わらないでしょう。

優先しなければいけない目の前の問題は常に変わります。その順位を常に自分の中で改正し、入れ替えることです。理想的なことを言えば5年、10年ごとは確実に。

私たちが移民問題を解決できないのは、両党連立での支援が必要だからです。

両党連立の事例をつくることは経済的には可能です。しかし、政治的には違います。というのも、移民は選挙において、共同社会主義者に傾く傾向があり、より親しみ深く、みな平等によりよい生活ができるように政府は働きかけなければいけない、と言う、強い信念をもっているからです。

その結果が、今の狂った現状です。名も無い男が自分の人生を危険にさらし、私たちのためにアフガニスタンで2回軍事遠征を行うような。あなたがその行為を容認できるかどうかは別として、彼はほとんどのアメリカ人が行わないことをしているのです。

やがて彼は道の真ん中に放り出され、国に送り返されるのです。2回の軍事遠征後、です。私たちのために誰かの人生を危険にさらし、しらんぷりをするのはとても恥ずべきことです。

ウエストバージニアの小さな町では、移民は悪しきものだとされていました。地元で、メキシコ料理のレストランを経営していた男性が国に送還された時、その町では大騒ぎでした。「悪人だけが国に送還されるんじゃないのか」って。彼は15年間その町に住んでいて、税金を払い、人を雇い、人々に食事を提供していました。送還の判断は正しかったのでしょうか。

あなたがその判断を正しいと思うかそうでないかはさておき、押さえてえておきたいポイントがあります。まず、私たちにおける共通の人間性は、興味を引く外見よりも大切なことなのか。また、そのことを前提に置くのか。

そして、別の点。私たちは他民族に対して期待している点があります。もしあなたが生粋のアメリカ生まれであったなら、世界中で繁栄している他の国々のように、国内の出生率が低下しているという事実と向き合わなければいけません。かろうじて人口を保っているに過ぎないのですから。移民なくしては、我が国の成長率は低迷するでしょうし、これからだんだん老いてくるのは、人口の大多数を担っている人々なのですから、税金負担は増すでしょうし、例えば、医療費ももっとかかるでしょう。

今日そのことを解決しようと言っているのではありません。政治的な点の話にしようとしているのではありません。私が述べたいのは、この国には貴重な資源があるということなのです。

共通点を重要視するか、違いを重要視するか

その恩恵はさまざまなところに見られます。世界史や世界において、とくに学部生に、最高の高等教育制度があります。私たちの国は、特別な国なのです。

私のよき友、ジェームズ・カービル、そして、メアリー・マタリンはいないでしょうか。卒業生の中にいる、彼らのお嬢さんマタリンを困惑させるつもりはないのですが、彼女にこの学校を勧めたのは私なのです。

(会場笑)

ここは最高です。地域奉仕も盛んですし。奉仕精神があります。私たちは公民権の定義を広く捉え、その精神を盛り込みましょう。

特定の位置づけについて話をしているのではありません。私が言わんとしていることは、「私たち」や「彼ら」と区別する方が、「私たち」の定義の拡大し、「彼ら」との区別を縮めるよりはよっぽどいい、などというアメリカの試みを重篤な危険にさらすような言い方は必要なのかということなのです。

私は2代目のブッシュ大統領と一緒にさまざまなことをしています。私たちはこれまで、犬と猫のような争いを続けてきました。なにもかもに反対し合ってきました。しかし、彼は移民を恐れてはいませんでした。彼は嬉々としてテキサス南部で行われた諸問題についての政治討論に私と共に出向いたのですから。

彼は私たちには移民が必要であることを知っているのです。傷ついた老兵たちの美しい肖像を見かけたら、それは第1世代のアメリカ人なのです。

党派問題とするべきことではありません。他民族を強みとするか、問題とするかは、あなたが決め、あなたたちの世代が決定するべきことなのですから。

共通の人間性について考えることを重要視するのか、違いを重要視するのか。

すべてはすぐ後ろで鳴り響いているのです。そして、約束します。アメリカがアメリカらしくあり続けてくれれば、大嫌いなロシアのサイバー戦争も私の悩みにはならないだろう、と。彼らは宇宙にまで乗り込んで来て、私たちを叩きのめし、宇宙計画がどれくらいのものなのかを見にくるのですよ。

人生には試練がつきものです。山積みの仕事があるなかで新たな仕事を抱えようとするのは大変な挑戦です。しかし、政治的なことは度外視し、最良の方法について考えた時、まっすぐ前に延びた道は開けるでしょう。

私に気がかりはありません。あなた自身の精神や心の奥にあるものが気がかりなのです。共通の人間性が大切だと信じ続ける限り、多種多様な集まりが単一の集まりよりもよい判断ができる限り、人生における偉大なこととは最終的な勝利や最終的な征服ではなく、最終的な勝利や征服など存在しないと気付いている限り。

これは旅であり、取引です。立ち上がり、今この時にできる最良のことしてください。そして、次の一歩を踏み出して下さい。きっと上手くいくでしょう。もう一度、あなたたちと同じ世代に戻れるなら、私はなんでも差し出すでしょう。この先どうなるか見てみたいですから。

「私たち」と「彼ら」の垣根を越えて

ここ20年の間に、太陽からの距離が十分にあり、生物が存在しているだろう20もの惑星が、太陽系外で発見されました。私たちをひとつにしてくれる最終的手段ですね。最終的な局面を迎えない限り、関係ないことですが。それが態度であり、姿勢です。

この学校の創設者が 「完璧な連合を目指そう」つまり、「私たち」を多くし、「彼ら」を少なくし、毎年「私たち」の比率を増やし、「彼ら」の割合を減らしていこうと言っていたと信じられますか。

年を追うごとによくなると信じられてたのです。マークの話であったと思いますが、古代文明の教授、キャロル・キグリーはこう言っていました。「私たちの文明は未来が現在よりもよりよいものだと信じられていて、人々はそれを果たすために人格と道徳責任を持っていてすばらしかった」と。1992年に私はそれを「明日のことを考え続けよう」という言葉に直しています。

あなたたちにとってそれがなにを意味するかはあなた次第です。しかし、信じてください。保守主義であろうが、自由主義であろうが、共和主義であろうが、民主主義であろうが、そんなことは関係ありません。

あなたが共通の人間性を持つことがもっとも重要である限り、見た目は違うが同じ考えを持つ人たちと協力することを歓迎し、すべての障害や認識を取っ払って広大な多様な人の海を造り上げる限り。

未来は行き詰まらせるのではなく、引っ張り上げるのです。

力づくで押さえつければ永続する勝利があるなんて思い描かないでください。それは自分で自分の首を絞めるような構造です。

アメリカは発展に向けて働きかけ、実現させてきました。ここが、アメリカ第4位の地域奉仕活動と公共事業の地位についているのには理由があるのです。

(会場拍手)

社会を良くするのに、政治事務所を構える必要はないのです。

これが私の言いたかったことのすべてです。私たちに共通しているものの方が、興味を引く違いよりも大切なのです。そのことが、違いを個性とするのですから。

多種多様なグループは、似たり寄ったりのグループよりも協力して問題を解決できます。そして、彼らは自分たちをうまく環境にとけ込ませ、新たに挑戦します。誰もないがしろにされるべきではありませんし、重大な役割を担う機会を否定されるべきではないのです。

未来はたくさんの挑戦で満ちています。しかし、それ以上にチャンスがあります。すべてを体験するでしょう。今日、この芝生の上に座っていることにも意味はあるのですから。

思い描いてください。人類最初の祖先が15万~20万年前に東アフリカのサバンナで初めて立ち上がった時、人々はどんな感じだったのか。その時代に生きて来たほとんどの人々は起きている時間の過ごし方の選択肢はなかったでしょう。食べ物を調達し、子どもに食べさせることに心血を注いでいたでしょう。

そして今、あなたたちがいるのです。300、400ある国の高等教育機関のなかで、国を代表する高等教育機関の1つにいるのです。

微生物学者のテオ・ウィルソンはこう言っています。「私たちは、アリやシロアリ、蜂に加えて、惑星史上もっとも協力的な種族だ」と。「隠された能力を持っていて、未来への野心を持っている。分別や正気がある分、傲慢になりやすいものの、そこには多くの可能性がある」と。

私はあなたたちの世代になり、この先の世界を見てみたいです。

心に留めておいてください。永続的な勝利は存在しません。永続的な失敗も存在しません。しかし、終わりなき可能性はあります。このなんでもないことを覚えていられる限り。そして、「私たち」と「彼ら」の垣根を乗り越える術を模索してください。

いつの日にか、私たちの人生が違いによって脅かされることのないように。

幸運を。そして神のご加護を。