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Opening Keynote -経営者からみたエンジニアキャリア-(全1記事)

2022.01.26

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「この会社は詰んでます。潰れました」で気づいた“恥ずかしさ” DeNA南場智子氏がエンジニアから学んだこと

提供:株式会社ディー・エヌ・エー

「DeNA TechCon 2021 Winter」は、DeNAを軸に「エンジニアとして企業で働くこと」について、学生に向けて先輩たちが紹介するイベントです。そこでまずはファウンダーの南場智子氏が、「経営者からみたエンジニアキャリア」について話しました。

本当にやりがいのある、充実した彩り豊かなキャリアとは

南場智子氏:みなさん、こんにちは。ファウンダーの南場です。オンライン開催となりちょっと寂しいですけど、「経営者からみたエンジニアキャリア」ということでお話をしたいと思います。

どの業界でも、そしてどの企業でも、もうDXをしないと後れを取るどころじゃなくて退場しなければいけないと、そういう厳しい状況になってきています。ですから、どの会社もエンジニア採用には必死です。そういう時にみなさん、エンジニアということで、おめでとうございます。

先週かな、学研の「高校生のなりたい職業ランキング」の1位がエンジニアということで、高校生もわかっているねぇ、という感じなんですが。

そういうわけで、需要がすごく高まっているのはいいことなんですが、でも、本当にやりがいのある充実した彩り豊かなキャリアを歩めるかどうかはみなさんの選択にかかっているので、それについて話をしたいと思います。

今日はDeNAのシステムの歴史をちょっと振り返りながら、うまく伝わるかなあっと思ってはいますが、ちょっと話をしてみたいと思います。

「遠隔地のシステム開発会社に丸投げ」から始まったDeNAのサービス

DeNAは最初、インターネットオークションの会社として立ち上がったんです。今はゲームやライブストリーミング、ヘルスケアサービス、それからスポーツ、球団や球場の運営、街作りまで幅広くやっているんですが、実はオークションの会社だったんですよ。そして私は元マッキンゼーのコンサルタントで、コンサルタントの後輩2人と、3人で起業しました。

バックグラウンドから、戦略や企画、戦略的提携、事業計画やマーケティングは得意だし、大事だと思っていたんですよね。でも、システムがわからなかった。システムは、まぁ企画がちゃんとしていれば、開発会社にお願いすればいいんじゃない? ぐらいに考えていて。それが私たちの恥の始まりというか。そういう状況でしたね。

本当に企画を作って、開発は遠隔地のシステム開発会社に丸投げ。それでなんと、今日開発が終わって明日からテストという日に、コードが1行も書けていないという事態に見舞われます。ちょっと被害者のように言っちゃいけないね、自分が起こした問題なので。でも、そういうことが起こった。

既に競合の「ヤフオク!」などは始まっているし、企画も何回もやり直した末なので、もうこれ以上は遅れられないというデッドライン。開発が終わっているはずの日にコードがないという状況なので、私はどうしたかっていうと、まあパニックになりましたね。

DeNA初めてのエンジニア登場

そこに4人目の社員としていたこの人、我が社初めての、そしてその時オンリーワンのエンジニア。匿名希望の茂岩祐樹さんです。この人が、メチャクチャがんばった。もうコードが1行も書けていないというその日から自宅に帰らず、アパート引き払って会社に住民票を移して。本当に自宅に帰らないの。それも1週間や2週間じゃないんですね。数ヶ月。

それで彼はなんと、そのコードがないと発覚してから2ヶ月以内で、なんとか開発会社を見つけて、新しいサービスをローンチさせたんですよ。

しかしローンチ後もサービスが超不安定で、いっつも彼は床で寝袋で寝てましたが、15分に1回くらいダウンするので大変です。人間って寝返りを打つじゃないですか。なので、右を向いている時も左を向いている時も、即座に再起動できるように、右と左の両方にPCを立ち上げて寝ていました。

私は、もちろんこういうことを推奨するつもりじゃないんだけど、ただ人間ってここまでがんばれるものなんだということを知って、とにかく正直、すごく驚きました。

それ以来ずっと、これ以上のがんばり、人のがんばりを見たことがない。自分自身も火事場の馬鹿力については、わりと自信があるほうだったけど、茂岩と比べると30分の1ぐらいかなと思う。本当にすさまじかった。そしてその間、1回も感情的になったり、焦ったりパニクったりすることがなく、とても冷静にやり抜いた感じなんですね。

それでサービスが生まれて、不安定だったけど、それも徐々に彼のがんばりで安定していきました。

新卒2年目の生意気なエンジニア登場

だけど突貫システムだから、スケーラビリティがないんですよね。それでやはり1年も経たないうちに、しっかりと作り直そうとなって、それで大規模システムを作れる開発会社にお願いしました。

当時調達したお金のほぼすべて、5億円をかけました。今日であれば信じられないような金額だけど、5億円をかけてシステムの更改をするんです。これは本当に清水の舞台から飛び降りるような覚悟でやったプロジェクトです。

そしてそのシステムがローンチして、切り替えが無事終わったと。ただもう、Oracleのシステムなんですけど、ORA-00600って知ってますか? 内部エラーがどんどん出て。かなり安定していない状態なんですよね。

それで、それをなんとか安定させるように、茂岩がファイアファイティングに必死になっていたところに、この男が現れます。徐々にエンジニアを増やしていたんだけど、エンジニアの1人、匿名希望のMヤス、守安功さんです。

彼が超生意気なんですね。新卒2年目で転職してきたんですが、仕事はできるけど、とにかく生意気。

彼が私のところにやって来て「茂岩をクビにしろ」と言い放ちました。で、「どうしたの?」と。「これを見てくれ」と。彼の分析によると、「スケーラビリティを解決するために5億円かけたんですよね。この会社、スケールしたら死にますよ」と言ってきました。

彼は実証実験を自分でしていたんですね。クエリを投げて、そのレスポンスタイムを計るなど。「今、もうすでにCPUの稼働率が、ピーク時に75パーを超えている」と。それで「南場さん、わかりますか」と。「出品数が2倍に増えると負荷が2倍になり、ページビューが2倍に増えると負荷は3.9倍に増えます。これがどういうことか、わかりますか」って。

「ユーザーが1万人増えたとしましょう。それによって得る売上よりも、掛かるコスト、すなわちCPUの追加やメモリの追加などのコストのほうが、大幅に上回るんですよ」と。「この会社は詰んでます。潰れました」と。「なので、茂岩さんをクビにしてください」と言ってきました。

分析を読み込んで初めて気づいた「恥ずかしさ」

私はとにかくその分析を読み込みました。目が覚めるような思いで。今まで信頼している誰かに、ボコッと丸ごとブラックボックスで任せていた自分が本当に恥ずかしかった。初めてその分析を読み込んで、経営とシステムをつなぐ方程式や数式が頭に入って、これを私が最初からわかっていなかったからいけなかったんだな、とものすごく反省すると同時に、やはりコイツはすごいなと思ったんですよ。

それからあともう1つは「ヤバいな」ですよね。会社が。で、「わかった。でも茂岩さんはクビにしないよ。茂岩さんと一緒にこの問題を解決してください」と伝えました。

守安が「わかりました。でも1つだけ条件があります。自分をリーダーにしてください。そして、執行役員の茂岩さんを自分の下につけてください」と言ってきました。私は「なんかめんどくさいねえ、こういう時に上とか下とか」と思いながら、その分析の資料を持って茂岩のところに行って「これ見て」と言ったら、茂岩も「これはすごい分析で、本当に自分がしてなきゃいけなかった分析だった」と言いました。「だけどファイアファイティングで本当に申し訳ない。確かにこういう事態で、自分はすぐに解決したい」と。

そこで、「ファイアファイティングは他の人に任せて、守安さんと一緒にやってくれる?」と言うと「もちろんです」と。そして、「守ちゃんがねえ、自分がリーダーでやりたいって言ってるんだけど」と言ったら、「ぜんぜんかまいません」と言って、そこから茂岩と守安の真剣な作業が始まりました。

数ヶ月かかって、もうバンバンインデックス貼っていったり、その後には今でいうパーティショニングや、プログラミングの部分から書き替えたり、抜本的な作業をして、システム負荷を下げていきました。

そしてなんとか売上の増加を下回るコスト増でスケールできるギリギリのところまで、2人でがんばって漕ぎ着いた。それがもう、数ヶ月のプロジェクトでした。

本物が本気を見せ合った結果起きた化学反応

この数ヶ月のプロジェクトが終わって、ようやく会社がすぐには死なない状況になったので、ユーザーを思いっきり入れていこうとなったわけだけど、驚いたことに、本人が認めないかもしれないけど、守安がこのプロジェクトを経て本当に変わった。上だ下だも、「茂岩をクビにしろ」も一切言わなくなって、それどころかその後20年間ずっと、茂岩を心から尊敬していて、非常にいいチームワークでこの会社のシステム基盤を作っていったと思います。

これは何が起こったのかというと、やはり本物が本気を見せ合ったんだろうなと、そんなふうに思います。もちろん、こういう状況を起こしてしまった私がいうのも変なのですが。でも、このトラブルで拾い物を1つしたなと、私は思ったんですよね。

DeNAという会社のものづくり。エンジニアがお互いをリスペクトしつつ、何かあった時に互いを責めずに、上だ下だと言わずにコトに向かう、そして本気を見せ合うところが、なんかできたような気がして。そんな出来事だったので紹介しました。

1人が3ヶ月で作ったサービスが一人勝ちした理由

もう1人紹介したい人がいるんです。これは川崎修平さんっていうんだけど。その後に入社してきたんだけど、東大の博士課程でAIの研究をしていたところを私たちが引っ張ってきて、「研究もいいけど、サービスおもしろいよ」ということで我が社に入社しました。

彼は、会社にはあんまり来ないで、こうやって自宅で作業するんですが、我が社のヒットサービスをどんどん生み出しました。一番初めは「モバオク」というモバイルのオークションサービスを立ち上げました。

これ、私たちが作った時に、まったく同じタイミングで他の大手2社が同じサービスを同じ発想で作っているんですね。そのうち1社の情報が入ったんだけど、なんと150人月〜160人月かけているんです。我が社は、この川崎先生1人で3ヶ月で作りました。なんと蓋を開けると、我が社の「モバオク」の一人勝ちでした。

この時、経営者として「なんなんだろう、人月って」と。あるいは「ブランドってなんなんだろう」「コストってなんなんだろう」と。見た感じまったく同じようなサービスなんですけど、ちょっとした心憎い使いやすさが、川崎先生はとても優れていた。

私のこの経験からの学び、学びというか、もう痛感したんですけど。結局工夫だな、と。しかもユーザーに向いた工夫。これに長けているほうが勝つんだなっていうこと。それを学んだ瞬間でもありました。

その後、我が社のサービスはシステムが分散化していきます。そうねえ、サービスがヒットして、1秒間で数十万リクエスト、1日で50億リクエストもある凄まじい高負荷のサービス、そしてデータの規模でいうとペタバイト級のサイズを扱うシステムをまったく落とさずに、たった3,000台のサーバーでマネージをする。

しかも、データベースのプライマリーサーバーが障害を起こした時は、レプリカサーバーをプライマリーに昇格するのを、10年前から自動で数秒でできるようなスキルを持っていました。

今でも、パブリッククラウドで、おそらくフェイルオーバーが20秒から30秒くらいはかかるんじゃないでしょうか。そう言ったスキルをどんどん構築します。そしてそれにもかかわらず、その後この3,000台の自社サーバーを捨てて、クラウドにシフトすると。

だけどその時培ったスキルが活きていて、おそらく普通にクラウドを定価で使った時の半分以下のコストでできていると思う。これは詳しくはAWSやGCPのイベントでも私が講演しているんで、ぜひ見てほしいと思います。

レベルの高さだけじゃなくて、1つのDelightに向かっているということ

ちょっとインフラの話が多かったかなあ。だけど、実は我が社のエンジニア陣は本当に会社の宝物、いろいろな分野で日本最高レベル、世界最高レベルのスキルを持っていて、これを私は心から誇りに思っています。

Kaggleも、グランドマスターを1社にこれだけ抱えている企業は、日本には他にないんじゃないかな。たぶん世界でもトップじゃないかなと思います。

そしてKagglerたちが作ったモデルをすぐにサービスに反映できるような仕組みも整っているし、我が社ではSWETと呼んでいるんですが、ソフトウェアテストもすばらしいです。もうとにかく、一つひとつの領域のレベルが高い。

でも、今日のポイントなんだけど、そのレベルの高さよりも私が自慢なのは、その人たちが1つのDelightという方向、「コト」に向かっている。Delightというのは、お客さまに喜びを届ける、社会に喜びを届ける、そういう意味で使っていますが、このDelightという方向に糾合されていて、本当にしっかりと「コト」に向かっていることです。

組織の階層、ヒエラルキーで仕事をしない。そして何かが起こってもお互いをリスペクトして解決に当たる。もちろん厳しく、ギリギリの仕事をする。そして高い次元のスキルを1つの方向性に余すことなく向けていく、使っていくというチームができていることが、私はすごく誇らしいんですよね。

これが、おそらくDeNAがたくさん、トコトン失敗をして、そしてトコトンぶつかり合って、トコトンやり抜いて、そういうことを繰り返した歴史からできているので、とてもソリッドだと思う。

プロフェッショナルとして仕事をしなきゃいけない環境に身を置く大切さ

私から今日、みなさんへのメッセージは、こういう会社は、もちろんDeNAだけじゃない。どうかこういう「コト」に向かう厳しさのある、スキルのレベルだけじゃなくて、姿勢のレベルがすごく高いところに、身を置いてほしいなと思うんです。

人材が流動化し、もはや終身雇用の時代じゃないので、1個目の会社が「違うな」と思ったら2社目に行けばいいじゃないか、と思うかもしれない。でも、実は1社目に身を置く環境は、ものすごく大事です。

みなさん、自分の腕に自信があるエンジニアもいるかもしれない。でもちゃんと報酬をもらって、世の中に貢献していくプロフェッショナルとしては、まだまだです。カラカラのスポンジのようなものだと思う。

だから、最初に「娑婆」というか、リアルに報酬をもらってプロフェッショナルとして仕事をしなきゃいけない環境に出た時に、おそらくものすごい勢いで水を吸うはずです。どうせ吸うなら、いい水を吸ってほしいということです。

それが情熱に重なっていくと思う。例えば「宇宙事業やりたいな」と思って宇宙事業ができる会社に行っても、その会社がヒエラルキーで仕事をしている、階層ばっかり見ている、上司の機嫌ばっかり見ている、「コト」に向かっていない、何かがあれば人を責め合う、そして中途半端なスキルで椅子の取り合いをしているような環境だったら、情熱は吹っ飛んじゃいますよね。無くなっちゃう、せっかくの情熱が。

だから、実はWhatよりも、環境は情熱を掻き立てるという意味でもとても大事だと思うし、こういう環境に入ると、自分が「何かやりたいな」というものをつかんだ時に、必ずそれができる実力が身につくので、私はそのことを今日言いたいと思います。厳しい環境を選んでほしい。

働くって、楽しいよ

厳しい厳しいって何度も言ったけど、これって苦行だろうか。どうだろう。苦しいところはもちろんあります。だけど、これを見てほしいんです。実はサービスがローンチされた時の写真が、偶然1枚の写真に収まっていたので、今日はそれをみんなに見せたくて。この笑顔を見てほしいんですよね。

ものづくりってすばらしいよね。なんか遊園地の楽しさと違う、もっとなんか生き様とか人の心の根幹にこう訴えかけるような喜びがあるんです。厳しい環境で、チームで高い目標を立ててお互い本物が本気を見せ合ってがんばって、到達した時に見せる笑顔の清々しさ。これはやはりたまらない。病み付きになる。そんなふうに思います。

働くって楽しいですよ。苦しいこともあるけど、その分比例して楽しいし、幸せだから、心配しないで厳しい環境に飛び込んでほしいなと、そんなふうに思います。それじゃあ、どうもありがとう。

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