2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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平鍋健児氏(以下、平鍋):平鍋と申します。僕の背景と第2版の書影と2つもあってうるさい感じがしますけれども(笑)。今日はこれ推しでいきますので、よろしくお願いします。
簡単に自己紹介します。私は福井県大野市に住んでいて、今日も福井県大野市の自宅から参加しています。株式会社永和システムマネジメントの社長をやっています。
それ以外にも「astah*(アスター)」というUMLのツールをもうかれこれ20年開発しています。
みなさん、UMLは人気ないと思っているでしょ?でも中国で今めっちゃ人気で、びっくりしているんですよ。やっぱりワールドワイドにやるのはいいですね! ぜんぜん思ってもみない展開で、中国ってやっぱり今経済がすごいんですかね。それも楽しみにしています。
それからScrum Inc. Japanという会社の取締役もやっています。そこはJeff Sutherland氏のスクラムを日本でやろうとKDDI株式会社さんと一緒にやっています。
下に本がたくさんありますが、今思い返すと30代の週末は翻訳ばっかりやっていたなぁ(笑)。今でもそうだと思いますが、その頃は本がけっこう重要な情報源でした。そんな中で、翻訳だけではなくて、自分でも書けるというのはやっぱりうれしいことだなと思っています。
野中(野中郁次郎氏)先生と第1版を書きましたが、新しい本を作るにあたってぜんぜん違う観点を持った人に入ってほしかったので、及部さんに参加してもらって本当によかったなと思っています。今日はよろしくお願いします。
佐藤治夫氏(以下、佐藤):よろしくお願いします。次は及部さんお願いします。
及部敬雄氏(以下、及部):みなさん、こんばんは。及部敬雄と申します。「Twitter」やSNSは@TAKAKING22というアカウントで活動しているので、ぜひ仲良くしてください。
僕は今SILVER BULLET CLUBというチームに所属しています。このチームができたのは前職の楽天のときなんですね。そのときにチームFA宣言をして、結果として現在の所属である自動車部品の会社の株式会社デンソーにチーム移籍をして、今のチームで活動しています。
それ以外にもAGILE-MONSTER.COMという屋号でアジャイルコーチをやっています。
そのチームでは『銀の弾丸ラジオ』というラジオもやっていて、今日の本についてもお話ししているので、興味があったらぜひ聞いてください。よろしくお願いします。
佐藤:よろしくお願いします。このあと平鍋さんから本の紹介が簡単にあるんですかね?
平鍋:はい。せっかくなのでちょっとお話をさせてください(笑)。
佐藤:今日のきっかけはこの書籍なので、ぜひお願いします。
平鍋:ありがとうございます。もし買った人がいたら「買った!」と言ってもらえるとちょっと気分が上がってくると思います(笑)。
佐藤:私は買いました。みなさん買ってますね。
平鍋:ありがとうございます。『アジャイル開発とスクラム』第2版の冒頭ですが、これは野中先生に頼んで書いてもらいました。野中先生が1986年に書いた論文の話から始まるんですが、当時アジャイルという言葉を聞いたときにソフトウェアで使われるなんてまったく思ってなかったんだよねという話です。
川口さん(@kawaguti)と企画した2011年の「Innovation Sprint」でJeff Sutherland氏が日本に来て、そこで野中先生と話したんですが、意気投合という感じではなくて、奥で通じ合っているものをお互いがひしひしと感じる瞬間がありました。
Jeff Sutherland氏がちょっと涙ぐんだんですよ。会えてうれしいですと尊敬の念をお互い出していました。
野中先生はけっこう戦争の話が好きじゃないですか。なぜなら軍事の中の戦略に、組織論の種があると考えていて、戦争はいったん外して考えても、目的を達成する組織はどういうかたちをしているかというのが野中先生のテーマなんですね。Jeff Sutherland氏がパイロットだったこともあって、言葉少なにけっこう盛り上がっているのを感じました。
当時はアジャイルはチームのもので、ソフトウェア開発のものだったので、野中先生も「僕はソフトウェア開発はわからんわ」「ガラケーだから」みたいな話をよくしていたんですが、それが組織改革の手法にまで発展していったのは、野中先生がちょっと俺にも1枚噛ませろではないですが(笑)。ここは俺は得意だというのがあって、先生もけっこう盛り上がっている感じです。
今の日本の会社の環境は、海外のスタートアップや、あるいはスタートアップが大きくなったユニコーンのような「Spotify」みたいなものとぜんぜん違うじゃないですか。そんな中でやることの意味を野中先生に語ってもらいたいなと思って前書きをお願いしました。
目次だけ、どんなものになっているのかを紹介します。今回は3部構成なんですよ。第1部に「これは何の話か」というのを書いています。第2部には「アジャイル開発とスクラムの実践」を書きました。
第3部に「アジャイル開発とスクラムを考える」を入れます。「実践する」と「考える」をこの順で入れたかったんですよね。なんでかというと、このとき僕の娘が小学校4年生だったんですが、娘の教科書にオリンピック走者の高野進さんの短い文章があったんですよ。それがもうすごくイケてたんです。
タイトルからしてすごいんですよ。『動いて、考えて、また動く』というタイトルなんですが、彼自身、挫折を経験して途中で走り方を変えていて、動いて、考えないとダメだと言っているんです。考えてから動いてもダメで、動いて、考えてという順番でやらないとダメだという話を書いていたんです。
これってめっちゃアジャイルじゃんと思いました。なので実践する、考えるという順序にしたかったんです。
1部、2部、3部とあって、1部がアジャイル開発とは何かという話で、文脈の話とスクラムの話を書いています。スクラムはせっかくアップデートが出たので、2020年のアップデートにしています。ここはスクラムの新しい版ですね。
ここにスクラム以外のものも含めてプラクティスを入れて、スクラムという器の中にプラクティスを入れていくといいんですよみたいな話をしています。このあたりも及部さんに協力してもらって全部書き直しました。
5章はやっぱり組織論との関係があるので、今大規模フレームワークと言われているところをできる限り書きましょうと分担して書いています。また、契約のプランの話はesm(永和システムマネジメント)の木下(@fkino)にお願いして書いてもらっています。
スケールする前に考えることがたくさんあるだろうと思っているので、僕はあんまり「これが大規模のやり方です」みたいに書くのはいいことじゃないなと思っています。
大規模を考える前に、すでにうまくいったチームが2つ以上あることと、大規模化する必要があることの条件を書いていて、そのあとにいくつか説明をしています。当然僕が取締役をやっているScrum Inc.のScrum@Scaleも入っています。
第2部が「実践する」で、エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社さん、株式会社永和システムマネジメントさん、ANAシステムズ株式会社さん、株式会社IMAGICA Labさん、KDDI株式会社さんに、彼らの文脈の中の悩みと、それをどう乗り越えたかを中心に『プロジェクトX』的に書いてもらいました(笑)。
エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社の薄井さんにはカルチャーの変革を書いてもらいました。品質部門とどうやって一緒に動いていったかの話がおもしろいですね。それから、日本では受託開発がまだすごく多いので、ANAシステムズ株式会社さんの受託開発の話を株式会社永和システムマネジメントさんに書いてもらいました。
株式会社IMAGICA Labの蜂須賀さんには、アジャイルの文化ですね。株式会社IMAGICA Labがどう変わっていったかという話を書いてもらいました。
KDDI株式会社の佐野さんは、会社としての動きよりもチームを大事にしているということをすごく書いています。だからKDDIという会社がこんなことをやっているんだという話はぜんぜんありません。どうやってDIGITAL GATEというPoCを作る場所の運営をやっているかが書かれています。
あとは考えるという話で、お好きな人は噛み締めて読んでもらえればと思います(笑)。ちょうど野中先生の新刊『ワイズカンパニー』が出たあとで、このあたりの言葉も全部直して『ワイズカンパニー』とうまく接続するように書き直しています。ぜひ楽しんで読んでください。
ちょうど野中先生の「RSGT201」のビデオが公開されています。これはめっちゃおもしろいです! 下にトピックが書いてありますが、どれもこれもウィットに富んでいます。及部さんは、この回は見ました?
及部:もちろんです。会場で実際に聞かせてもらいました。
平鍋:そうなんですか。僕はYouTubeでしか見られなかったけど、会場はどんな雰囲気だったんですか?
及部:野中先生の人に語りかけながら引き込む話し方に会場にいたみんなが魅了されていました。
平鍋:やっぱりそうでしょう。そうか、先生のリクエストだったんですね。1人で「Zoom」ごしの無に向かってしゃべるんじゃなくて。
及部:そうですね。
平鍋:僕は「野中酔い」って言ってるんですが、野中先生の話を聞くとけっこう酔うんですよね。野中先生のバイブスがすごく伝わってきて、酔うんです(笑)。落語に近いような、すごくいいライブですよね。本当に古典落語を聞いているようなリズム感なんですよ。まだ聞いたことがない人はぜひ味わってみてください。
僕の話は以上です。本当は、野中先生の本を辿りながらお話ししたいんですが、今日はちょっとやめておきます。もし興味があったら、ぜひ本を読んでみてください。
佐藤:ありがとうございます。では「BPStudyラジオ」の話に入っていきたいと思います。今日は「アジャイル開発の今を語ろう」というテーマです。まずは、平鍋さんと及部さんにアジャイル開発を始めたきっかけや、関わるようになったきっかけを聞きたいなと思っています。及部さんどうですか?
及部:『アジャイル開発とスクラム』の第1版の緑の本に載っていた楽天の事例は、藤原大さんという方が書いているんですね。僕は実は、そこで触れられているアジャイル開発のチームの事例の中のメンバーだったんですよ。
佐藤:なるほど。
平鍋:それは知らなかった。
及部:そのときのプロジェクトが2011年くらいなんですが、僕は新卒2年目くらいで、それまでは目の前の仕事を必死に覚えるだけで、アジャイル開発のことはぜんぜん知りませんでした。
藤原大さん(@daipresents)が僕らのチームに来て一緒に働いたときに、よくわからないけど楽しいし、今までとは違う「チームで作っている感じ」や、「人と話しながら作っていいものができあがっていくスピード感」がいいなと思いました。それを経験したあとに、それには実はアジャイル開発やスクラムという名前がついているんだとわかった体験があったんですね。
そのときのプロジェクトのことを事例として書いてくださって、2013年に出版されました。そこから8年経って、平鍋さんに声を掛けてもらって、今回著者として参加するというのは、ちょっと人生観というか、感慨深いものがあったなというのが僕がアジャイル開発を始めたきっかけです。
佐藤:なるほど。ありがとうございます。平鍋さんはどうですか?
平鍋:出会いはエクストリーム・プログラミングなんですよ。XP(エクストリーム・プログラミング)の最初の本が1999年の冬に出ていて、僕が手にしたのは2000年の頭くらいです。
佐藤:白い本ですかね?
平鍋:白い本、白い本! Kent Beck氏の第1版が出て、その本を読んだときに衝撃が走りました。
その頃はウォーターフォールどうこうの話ではなくて、受託開発でやっていたから契約でやるじゃないですか。そのときは、なんとか工程で見積もるという感じだったんだけど(笑)。
できるエンジニアは、不安なところを最初に手を動かして作っていたりするんですよね。工程は工程として、進捗率などは出しているんだけど、実はそれは報告のためにやっているだけであんまり気にしていない。「あ、これはいける」という感覚を自分でコーディングして、難しいところはこうやってやろうと作戦を練って、できることを確認して、それを抽出して、やおら基本設計書を書くみたいな。できる人はみんなそうやっていたと思うんです。それを言葉にしてくれたんですよ。
佐藤:言語化されたということですね。
平鍋:そうなんですよ。12のプラクティスはびっくりしました。ほかにも、その本の中には「ソフトウェア開発で一番大切なことは、システムをリリースしたらお客さんと一緒においしい食事をすることです」と書いてあって、なんじゃこれはと思いました(笑)。
ソフトウェアデザインとソフトウェアのプロジェクトの話なのにと「ん?」と思ったんですが、よくよく考えると「そういうことだよね」と腑に落ちました。アジャイルやっている人はわかると思います。
チームデザインやコミュニケーションや、会議や、あるいはコミュニケーションパターンデザインみたいな側面がプロジェクトにはあります。ソフトウェアの内部の開発設計パターンのほかに非常に相似系なチームデザインパターンがあるという考え方を発見して、僕は熱狂しました。
佐藤:なるほど。ただ単にシステムをどう作っていくかだけではなくて、チームをどう作っていくか、コミュニケーションをどうデザインするかみたいなところも含まれていたのが、これまでとは違ったところなんですね。
平鍋:でもぜんぜんうまくいかなかったけどね。やっぱり契約で、一括請負契約みたいものをやっていたからどうしてもうまくいきませんでした。
佐藤:なるほど。ちなみに私が最初にアジャイル開発を知ったのは、平鍋さんが「JavaWorld」に書いた記事です。2001年に『Embrace Change、変化ヲ抱擁セヨ』というすごく熱い記事がJavaWorldに出ていました。それを読んで、XPを知って「お、これはすごい!」と思いました。
平鍋:懐かしいな。うれしいな。
佐藤:そのときは私は1人チームだったので、ひとりペアプロをやっていました(笑)。
平鍋:ちょっと意味がわかんない(笑)。
佐藤:人形に話しかけていました(笑)。XPを知って、実は平鍋さんに会いに「OBJECT DAY」というイベントに行きました。
平鍋:ありがとうございます。
佐藤:それがきっかけです。なので偶然ですが、私は平鍋さんがきっかけですね。
平鍋:すごくうれしいです。
(次回へつづく)
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