2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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辻広志氏(以下、辻):ここは非常に盛り上がりましたが、続いてテレコムのアプリケーションがOSSになるのかというところですね。MANO系はけっこう前々からあったかなと私は今思っています。
OSMとかONAPとかTacker(OpenStack Tacker)とか。NFV(Network Function Virtualization)というキーワードが出たタイミングで、NFVオーケストレータやVFNマネージャーというところのOpen Sorceのものはある程度あったなと思いました。ちょっと宣伝ですが、KDDIも実はTackerはUpstreamingに参加しています。
(スライドを示して)これはOMNI JP(Open Mobile Network Infra Community Japan)の資料から拝借しましたが、OMNIのほうでも出て、国内でもこういうコミュニティが立ち上がっています。
5G、EPC、いわゆる“パケット交換機”と呼ばれていたものや、場合によっては基地局のソフトウェアとか。こういったOpen Sorceで実装しようとしているものが、いくつか出てきています。
代表的なところだとfree5GCとかmagmaとか、NextEPCでしたっけ。OpenAirInterfaceなど、いろいろ出てきています。これはけっこう最近のトレンド感があると私も思っていて、ちょっと気にはなっています。
(スライドを示して)さっそくですが「本当にこれが商用のネットワークで稼働する日は来るのか」というところは、けっこう夢のある話だし、どうなんだろうなと私自身はけっこう気になっています。実現できたらすごくおもしろい未来が来そうだなというようなところです。
ただ、ここは先ほども(話題に)出ていたように、キャリアグレードという言葉があるように、やはり通信キャリアの(ネットワークの)中で使っていくには、いろいろな、品質や性能など、乗り越えなければいけない壁はいっぱいあるだろうなと思っています。
ここはどうやったら乗り越えられるんだろうかということ、「現状がどんなものですか?」ということを、ぜひ(OSSの5Gコアの検証や開発をしている)渡邊さんから教えてもらえるとうれしいなと思います。
渡邊大記氏(以下、渡邊):まずどの程度使えるのかという話なですが、OMNI JPでもfree5GCを動かしてみてどのぐらいの性能が出たとか(は資料が)あるので、そちらを見てもらえるといいと思います。
個人の感覚では、例えば「ローカル5Gみたいに基地局1個でハンドオーバーが発生しません」とか「データ通信だけです、電話は要りません」とか。そういう機能を限定して、小規模だったらUpstreamそのままは無理かもしれませんが、フォークして改造するなら商用利用はあるかなと思っています。
辻:おお、なるほど。思った以上です。私は、商用に近いというか、「まだぜんぜんだめですよ」という回答が来るのかなと思っていました。でも、正常系はやはり呼処理(Signaling)シーケンスの部分はちゃんと通るし、問題ない感じなのですか?
渡邊:正常系ならは、free5GCは比較的動くと思います。
辻:正常系は比較的動くのですね。
渡邊:ただ、触っている方や自分で改造している方がいるかもしれないですが。機能を足そうと思うとけっこう大変です。例えば、N2 interface、NGAPは、ASN.1というバイナリに落ちるスキーマ言語があって、それをジェネレータに食わせると、N2のバイナリをエンコード・デコードできるライブラリが基本的にはできます。
free5GCはそのジェネレータを公開していないプロプラなので、出てきたコードはOpen Sorceだけど、それを生成するジェネレータはプロプラなので出せませんとか。
辻:なるほど。
渡邊:同じことがService Based Interface側、コアネットワークのRESTのOpenAPIで書かれているモデルにも言えます。モデルは公開されているけど、ジェネレータは彼らは改造しているので、僕らが何か新しくRESTのパスを足そうと思うと、自分でジェネレータを作るか、がんばってfree5GCの構造体に合うように「どこに足そう」みたいなことをやるとか。まあ、拡張はけっこう大変ですね。
辻:なるほど。それはなかなかシビれる話でしたね。私は知らなかったのですが、free5GCはどこかの開発ベンダーが基本的にはやっているって。
渡邊:もともとは大学、たぶん台湾の大学だったと思うのですが、メンバーシップというかたちを取っています。
辻:ああ、なるほど。
渡邊:企業が「メンバーシップ登録します」と言うと、free5GC側はけっこう早く対応してくれるとか、「メンバーシップに登録してくれたら質問は最優先で答えます」とは書いてありますね。
辻:なるほど。ありがとうございます。ちなみにそれは、なぜそういうかたちをとるのか、いわゆるオープンコミュニティじゃないのは何か理由があるのでしょうか?
渡邊:僕はモバイルシステムは5Gから入った人間なので、3Gや4Gを経験されている方に「いやぁ、5G大変です。難しいですよね」と言うと、「いや、3Gや4Gのほうが複雑で、5Gはシンプルになった」と言われるぐらいで、僕はまずそこに対してギャップを感じています。
僕はそもそもモバイルシステムは5Gになった今でも難しいと思っています。それがまず動く状態になっているので、free5GCやOpen5GSは偉大なのですよね。
なので、それを簡単にジェネレータの部分まで出すとなると、それはコミュニティ側(として)は干あがってしまうので、お金を集めて優先順位を決めるとかしないと、たぶんコミュニティは開発が続かないんじゃないですかね。
辻:なるほど。そういうことなのですね。ありがとうございます。ちなみにこのあたりは、他で試されていたりしますか? 何かありますか?
小杉正昭氏(以下、小杉):たぶん試してはいないとは思います。例えば「じゃあ小杉、これ導入してみろ」と言われた時にまず何を考えるかと言うと、もちろん性能や可用性をちゃんと担保しなければいけないとなると、「なにかあった時に誰に助けてもらえばいいの?」「直せるの?」と。
渡邊:そうですねぇ。
小杉:Open Sorce全般に言えると思うのですが、やはり自分たちがOpen Sorceで「ここは使う」と決めたら、自分たちの中に体制と、ちゃんとソースコードメンテができる仕組み、他に頼らない構造を作らないと使えないと思います。
だからそれができるかというところですね。でも前向きな話をすると、我々は仮想化でやっているので、例えばミニマムに入れてみて、だめだったら安定している今の状態に戻すのはけっこうできたりもするんじゃないかなというのが個人的な意見ですね。
辻:そうですね。ありがとうございます。
辻:ではこれの乗り越え方の話で、先ほどの小杉さんの話にもありましたが、やはり体制を持つのはけっこう大変だと思います。そのあたり、例えばNTTさんはドコモさんが事業会社としてあって、例えば研究所さんなどの体制も組まれていて。
どちらかというとNTTさんがやれる体力が一番強いんじゃないかなと僕は思いました。(津留崎さんに)無茶ぶりしているので、はい。
津留崎彩氏(以下、津留崎):いえいえ。弊社で言うと、例えば先ほどのTackerもいろいろやっていたりしますが、基本的に「コントリビューションは研究所で弊社は活用」みたいな感じの枠組みになっています。
ただやはりTackerは、KDDIさんもコントリビューターも充分いるのでいいかもしれませんが、ネットワークファンクションまでとなってくると、体制がそれでもぜんぜん足りていないと思っています。
ぶっちゃけネットワークファンクションはかなりお高い製品なので、OSSを使ったとしても、結局品質面の確保などで、ファンクションを作っている会社が抱えているだけの体制を、今の自分たちで持ってやれるのかと、それに価値があるのかという話に結局はなってきちゃうのかなとは思いますね。
辻:そうですよね。だから1社だけでやるとなるとやはりなかなかつらいので、こういうのはそれこそコミュニティなどで(やった方がいい)。コミュニティが育っていって、放っておいても、放っておいてもと言うとちょっと語弊がありますが、やはりみんなで課題解決できる仕組み作りができないとなかなか難しいんだろうなと思いますよ。ありがとうございます。
私がTackerというファンクションを入れた時の経験的にも、プレスリリースにも出していますが、実はTackerは最初にNECさんと一緒にさせていただいています。
フォークしてもらって。魔改造と言ったら怒られますが、足りない部分はかなり入れてもらったうえで、「商用導入までできるね」という品質まで持っていったものを、今度はUpstreamに還元することをやったりもしました。なので、こういう流れはどこかで誰かか、みんなでやらないとなかなかちょっとつらいだろうなと思います。
ここは夢はある話ですが、やはりみんな二の足を踏んでいて、誰がやるのか。「いっせいのーで」で足を出せればうまくいくのかもしれないですが、未来を見据えて継続して、ぜひ「使ってみた」という話を。
商用は難しいかもしれませんが、POC(Proof of Concept)で、特に我々モバイルキャリアであれば、実際のネットワークの一部の装置と相互接続してみたりとかもできるので。だからここはぜひ渡邊さんとかに期待したいと思います。ソフトバンクさんもどうでしょうか。
渡邊大記氏(以下、渡邊):はははは(笑)。そうですね。一応研究所と名前の付いている所属ではあるのですが、OSSをメインストリームのほうにプルリクを出してマージしてもらう活動をしているのか、していないのか、全社的にそもそもやっているのかも私は実は知らないんですね。
そういうことはたぶん会社のガイドラインに則ってじゃないと、「そういうことはやっちゃだめだよ」とかがあると思います。やはりそういうガイドラインを社内で策定して調整するところから始めないとなと思っています。
辻:そうだよね。なるほど(笑)。わかりました。ありがとう。「動かしてみた」のような話はされていたりもするので、そういう話で継続的に何かコミュニティに(アウト)プットして、誰か、(もしくは)みんなでやっていければ楽しい領域かもしれない。
渡邊:そうですね。どこかで出したいなと思っています。先ほど辻さんもお話されていましたが、商用利用まで考えるならみんなで「せーの」で足出せばいいと思うんですけど、そうじゃないと「このOSSと一緒に心中するのか?」みたいな感じで腹を括らないといけないじゃないですか。
辻:たぶんそうですね。
渡邊:けっこう大変だと思うので、やはり横並びで「せーの」で足出したいですね。
辻:ダチョウ倶楽部だけはやめようっていうことで。ありがとうございます。
(次回に続く)
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