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スタートアップの生態系と起業家マインドの醸成(全4記事)

米国ではテスラはすでにミドルクラスの乗用車 自動信号停止も車線変更も当たり前、「情報鎖国」のデメリット

グロービス経営大学院が主催した「あすか会議2022」。本セッションでは、ユーザベース・稲垣裕介氏、東京大学教授・各務茂夫氏、そしてカーネギー国際平和財団シニアフェローの櫛田健児氏が登壇したセッションの模様をお届けします。「スタートアップの生態系と起業家マインドの醸成」をテーマに、他国の当たり前を知らない「情報鎖国」の危険性や、創業当初のユーザーベースのリレーションの作り方などが語られました。

小さめのIPOからコツコツ成長で良い

櫛田健児氏(以下、櫛田):あとは、今お話を聞いていて思ったんですけれども、日本のスタートアップの課題の1つでよく挙げられるのが、「IPO(新規公開株式)が小さいですよ。ユニコーンが育ちません」と。日本は確かにユニコーンが少ないです。

でも、ちょっと前はIPOもできなかったわけですから。1990年代後半とかは、IPOに平均25年かかっていたわけです。なので、その問題を解決するためにマザーズとか懐かしいナスダック・ジャパンとかができて競争しあったわけです。そこでサクサクIPOできるようになった。

そうすると、IPO経験者がどんどん増えたわけです。シリコンバレーに比べたらとっても小さいIPOです。でも経験しているわけです。そして、ある程度資金も入るわけです。そうするとエンジェル投資をやったり。これは循環にはとっても大事です。なので、まだ日本にユニコーンが多くないのは、そんなに悲観視する必要はないかもしれない。

次のポイントですけど、ユーグレナの出雲さんが言っていたように、急成長する領域だったらユニコーンにならないのはおかしいです。ただし、急成長しないようなディープテックや、IPS細胞を使った何かとか、QDレーザみたいな目にレーザーを入れて見えるようにするみたいなものは急成長しません。でも、とってもペインポイントを解消していて、世のためになるものです。

だったら、小さめのIPOでそこからコツコツ大きくなるのは何が悪いんですか。ユニコーンを作りたいんだったら、トレジャーデータの芳川(裕誠)さんみたいな感じでやりたいんだったら、シリコンバレーに行けばいいじゃないか。すみ分けとしては、こういうマインドもありかもしれません。

「情報の鎖国」の危なさ

櫛田:みなさんが解決しようとしている問題は、グローバルなペインポイントですか? それともローカルなペインポイントですか? 多くの日本のペインポイントはけっこうローカルです。なので、日本市場に特化すると、自動的に国際市場には出にくくなります。それはそれである程度はしょうがない。いいかもしれない。

ただし、「スケールするのに日本でしか当てはまらないよね」は、「いやいや、世界を見たら絶対当てはまりますよ」というものもあります。これはもったいない。じゃあ、どうやったらこの感覚がわかるのか?

次に言いたかったのが、日本のコロナの水際対策。亡くなった人の数が少ないのはグッドニュースです。アメリカに住んでいると、100万人以上の人が亡くなっているので、知り合いから一歩先へ行くと、友だちのお母さんとか親戚のお兄さんとか、必ず亡くなっている人がいるわけです。

それに比べたら、日本は亡くなっている人が少ないのはいいんですけれども、鎖国はどうかなと思う。人の行き来だけではなくて、メンタルな鎖国が私は猛烈に危険だと思います。外の感覚がわからない。何がグローバルで、グローバルで何が受けそうかがわからない。

例えばシリコンバレーの私が住んでいるあたりはテスラ保有率が40パーセントくらいです。ミドルクラス、アッパーミドルクラスの人が住んでいる辺りで、超大富豪たちがいるようなところじゃないのに、4割ぐらいテスラに乗っているのです。スーパーチャージャーはいたるところにあります。充電はまったく困りません。

テスラに乗ってみると、セーフティスコア(安全運転スコア)が出ます。自分の運転の度合いによってセーフティスコアが付いて、いろんな項目を測っています。それが保険のプライスに連動している州もあるんです。スマートフォンを開けたら、今車がどうなっているのか、そして車に付いている防犯カメラを作動させて、家の周りがどうなっているかも確認できるんですよ。

「どうしてみなさん、これを知らないんですか? 当たり前ですよ?」というこの感覚。オートパイロットで信号停止もするし、余裕で車線変更できる。私からすると、今日の暑い日に背筋が寒くなるような、「これを知らないのはおかしくないですか?」という取り残され感です。情報の鎖国は解消していきましょう。以上です。

アルムナイネットワークの重要性

柳川範之氏(以下、柳川):心の鎖国、情報の鎖国は避けないといけないというのは、我々は非常に心しないといけない話です。

一方で、いわゆる指数関数的な伸びを示すようなものじゃなくても、ディープテックのような話であれば、確実な成長を実現するスタートアップでもいいんじゃないかと。

グロービスの話でいけば、やはりペインポイントをしっかりつかんで、自分たちの、みなさんの志をしっかり実現していくものであれば、エクスポネンシャルかどうかは二の次なのかもしれないというのも重要なポイントだと思います。

さらに言えば、大企業に入ってくる人材ももっと増えないといけない。少しずつ変わってきた気はしますけど、もっとどんどん変わってきてほしいと思います。

もともとのご質問だった、アルムナイネットワークみたいなことはやはりすごく重要だと思います。人材は動いていくんだけど、「あの人なら採ってもいいんじゃないか」とわかるネットワーク。

そこがシリコンバレーでもポイントだとすると、みなさんに重要なことは、個人としてそういう評価をしてもらえるネットワークをどれだけたくさん持っているかなんだろうなと思います。

こういう話を具体的に、例えば地方でどうやっていくのかという話でいくと、先ほどの稲垣さんから、地域ではなかなかエコシステムが十分にはないんじゃないかというお話がありました。これはある意味でチャンスだと思うんですよね。

どういうことをやっていけば今の日本の地域でチャンスがあるのか。どういうところを掘り下げていけばいいのか。何かそこのアイデアがあれば教えていただきたいんですけど。

稲垣裕介氏(以下、稲垣):ありがとうございます。今のお話で、アルムナイネットワークとか、ペイパルマフィアみたいなお話が企業を成長させるという感覚は、お恥ずかしながら私はまったく持っていなかったので、すごく勉強になったんですけど。

私たちからもたぶん起業家が20人ぐらい出ていて。そこに対する投資はたまにあるんですが、どちらかと言うと「僕らができることをしよう」という感覚でいたので、卒業していったメンバーたちが結果的にうちの成長に寄与するという、逆のサイクルを作れるとすごく強いなと思いました。

ただ、日本は市場がまだまだ狭いんですけど、GDPはすごく高いと思いますし、東京でも早々に100億円ぐらいのARR(年間経常収益)が上がってしまうので、一定のコネクションの中でそれなりにできちゃっているところもあるんだなと思いながら聞いていました。

創業当初のユーザーベースのリレーションの作り方

稲垣:私たちがそこでどうリレーションを作ってきたかと言うと、うちらの創業事業が「SPEEDA」というファンダメンタル分析のツールで、わりと大企業の方たちに使っていただけるツールではあるんですけど。製品ができたタイミングでバリュエーションが3億円ぐらいだったんですね。

今は市場平均からしてもたぶん10分の1ぐらいだと思うんですけど、当時はそれが適正価格だったという時に3,000万円の調達をして、一応キャッシュを持った上で潰れないようにして、そこから売りに出ていこうとしたんですけど。

ロットが3,000万円だと1社しか無理だというふうになってしまうんですけど、僕らはできる限りリーチを作らなきゃいけないと思いましたし、当時26歳ぐらいだった私が、そんな状況で大企業の方たちに会いに行っても、言葉遣いも含めてちゃんとできなかったんじゃないかと思ったので、少しでも助けていただける方に投資していただきたいと思いました。

結果、1,000万円、1,000万円、500万円、500万円というかたちで、ご理解いただいた4社の方たちに投資いただきました。

そこからVCの方たちがすごくいろんなお客さんを紹介してくださって、結果として1年で黒字化できるぐらいの水準まで売上を伸ばすことができました。そこが僕らが擬似的なかたちでのネットワークを作れた1番の理由だったのかなと思っています。

そこから先のラウンドでは、グロービスさんや他の会社さんに入れていただいて、どんどん輪を広げていくことで営業のリーチを増やし、いくつかの大企業さんには購入後の利用事例などにも出ていただきました。ですので、投資をレバレッジさせることで、できる可能性はあるのかなと思います。

東京のVCが地方の有力ベンチャーを知る場づくり

稲垣:ただ、地方に目を向けた時、そのサイクルがあまり生まれていない感覚があります。投資は1つの大きな武器だと思うんですよね。ちゃんと企業が成長し、売上が上がれば、投資した方たちにお返しができるので、インセンティブをしっかり合わせた上で成長サイクルを加速させる動きを取れる感覚があります。

地方の方たちとお話をしていても、このサイクルがあまり回っていない感覚がありますし、どちらかと言うと純投資になってしまったり、自分たちの会社の名前が知られていないことによって、なかなか投資対象として見られないとも聞きます。

地方にどんなベンチャーやどんな可能性があって、そこに投資をされるとどのような可能性が広がるのかが、もっと見える化されるといいんじゃないかなと思います。

私たちも、一時期大阪で「WestShip」というVCとベンチャーのマッチングイベントを何回かやりましたが、東京のVCの方たちは現地のベンチャーをほとんど知らなかったんですね。結果的に投資案件が決まり、そこからさらに成長できたというお話もあります。

なので、今後はもっとリアルでもお会いして、これまであった地域的な壁を突破する動きがあると意味があるのではないかと思います。ですので、もっと越境する動きですよね。こういった場もまさにそうだと思います。

コロナで2年間オンラインになってしまって、名刺交換もできなかった。オンライン上でお会いして頭を下げても、やはり名前を覚え切れないところもあるので。

ようやくコロナが落ち着いてきたタイミングだからこそ、こういった地域を超えたイベントが活性化してマッチングが進むことは1つの価値ではないかと思っています。うちには「NewsPicks」というメディアもありますので、何かしら貢献できる道を作れたらと思っているところです。

柳川:ありがとうございます。そういう意味では「NewsPicks」は非常に重要なツールだと思いますね。やはり、リアルに集まれる中での越境のマッチングはとても大事だと思います。

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