2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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前野隆司氏(以下、前野):今の一連の話にすごく感銘を受けたんですが、今の話の最初のところについて、すごく素人っぽい質問をします。
宮田裕章氏(以下、宮田):どうぞ。
前野:「医学はお金主義ではなくて、生命やウェルビーイング第一主義しかうまくいかなかった」というのは、すごくなるほどと思った一方で、金儲け主義・お金第一で成功している病院もあるような気がするんですが、そんなことはないですか?
宮田:日本の医療システムがすべて最善とは言いません(笑)。もちろん世界にはそういう利益集団もいますし、日本ではそんなに課題にはなっていませんが、アメリカでは医療関連企業は悪の商人みたいなレッテルを貼られがちです。
そういう意味では、命に関わる人たちがすべて高潔かつ誠実にビジネスをしているかというと、そんなことはない。ただ、世界中の医療システムで、いわゆる利益を最大化するために医療の仕組みを作るのはうまくいかなくて、結局は生存率やいろんな指標を設定しながら回していくほかはないということなんですね。
だから、経済だけを見てプレーヤーをボンッと放り込むのではなく、お金以外の価値をいかに誠実に定義し続けるかしかなかったんだということです。
前野:なるほど。ということは、我々一般人から見ると、幸せなのはお金持ちのような気もしますが、マクロ全体で見ると基本的には善というか、当たり前ですが「医学は命を救うんだ」という本流のほうが、金儲け主義よりも勝利している。
宮田:そこに悪意のあるプレーヤーは常にいるし、金儲け主義の病院や医師も絶対に一定割合います。ただ、システム全体としての設計ですよね。医療は現時点までは基本的に各国で閉じていて、それぞれの国の方針に従って行われていますが、国の仕組みとして経済合理性を最優先に置いた医療システムは破綻しているということです。
前野:なるほど。世界はいろんな課題だらけですが、人の命を救うことをピュアに目指すほうが多数派になる世界があるんだなと思いました。
これが心理学で言うエビデンスなんですよね。しあわせな人は良い人である。これは、データを全部足し合わせると明らかなんですよ。要するに、みんなを蹴落とし合うよりも、みんなが良い人で、みんなで助け合うほうがしあわせに決まっている。
これが生きるか死ぬかの医学だけじゃなくて、普通の生活のあらゆる産業のリテラシーみたいになってピュアになっていくと、それこそ世の中がお金第一からウェルビーイング第一にグーッと動いていくんじゃないかと思います。
宮田:そうですね。そういう意味では、私が1つの可能性として考えているのは地域通貨です。地域をつなげる仕組みのあり方ですね。もちろんお金がすべて悪ではなくて、お金は基本的には価値を共有するための手段だったんですが、共通通貨でひとり歩きしているんです。
宮田:地域のつながり、人と人のウェルビーイングやしあわせをお互いが持ち寄りながら豊かになっていけるのかをデザインする。地域はあくまでも例えですが、それが飛騨高山の大学でチャレンジする1つの理由でもあります。
自然が好きな人たちや音楽が好きな人たちとか、コミュニティや地域をより豊かにするためにどうデザインするのか。その媒介として地域通貨のようなものをどう作っていくのかは、1つの可能性かなと思っています。
前野:同感です。宮田さんは今度、飛騨高山の大学の学長も兼任されるんですよ。僕は地域通貨というか、「eumo(ユーモ)」という円と違う通貨を作る実験を新井和宏さんと一緒にやっています。良いものを作っている人を応援する通貨で、腐るお金なんです。ずっと持っているとだんだんなくなるから、利他的に他の人にあげたりする。
新井和宏さんのイメージだと、円は色の付いていないお金で、国分寺に行くと「ぶんじ」という誰が使ったかがわかるお金があり、「eumo」には全国で使えるお金があり、飛騨高山に行くと新しいお金がある。お金も多様化して、みんなが使い分けるようになっていくといいですよね。
宮田:そうなんですよね。経済合理性も社会にとって大事なので、そこと連動しながらどういう豊かさを作れるかがけっこう大事です。前野先生のそのチャレンジも、特に貯められないことはけっこう大事ですよね。
前野:ええ。
宮田:もちろん、貯めることは貧困に対するバッファーでもあり、未来に対する備えでもあり、いろいろな要素を持ちますが、それが時に格差にもつながり、いろいろな不均衡を招く可能性がある。通貨をどう循環させていくかもすごく大事なので、期限を設けたり、目的によって価値が変わったり、デジタルだとそのあたりのデザインを柔軟に設計できるんですよね。
宮田:飛騨高山の大学でも話していますが、今までの地域振興券は期限を設けることはできました。ですが、これとこれとこれを連動させて使うと価値が上がるとか、自然や子どもたちの教育に貢献する使い方など一貫性を持たせるとさらに価値が上がるとか、コミュニティの中で新しい経験ができるとか、デジタルの力でそのあたりも組み合わせていけるとおもしろいんじゃないかなと思います。
前野:いやあ、確かにそうです。お金まわりはあんまり得意じゃなかったのですが、しあわせについて考えるとお金のことも考えなきゃいけないですよね。
我々も今日来られている(エミーバンク協会代表理事の)末吉(隆彦)さんと一緒に「エミーとゼニー」のお金の実験をやっているんですが、すごくおもしろいビジネスゲームです。
「みんなで同じケーキを売る」というビジネスゲームをやるんですよ。同じ資本主義の同じ円の世界で、利益最大化と感謝最大化に分かれて売るんですが、感謝最大化は利益は減るけどみんながしあわせになると思ったんですよ。ところが、利益最大化より感謝最大化のほうが利益も出るし、しあわせになった。
なぜかというと、感謝されると自分の利益ばかりを考えなくなるから、安く売ったり、感謝の手紙をつけたり、飾らなくていいケーキをみんなで工夫して飾ったり、イノベーションが起きてものすごく豊かな場になった。
利益最大化の時はちょっと市場が硬直化して、それこそ理事の保井(俊之)先生が「大恐慌とかと一緒ですね」と言っていました。「なんだよ、お前ケチだな」と、ゲームなのに喧嘩が起きちゃったんですよ。だから、同じ資本主義でもちょっと考え方を変えるとぜんぜん変わるんですよ。
宮田:おもしろい。それはすばらしいですね。
前野:それこそ日本語で論文にもなったんですけど(笑)。おもしろいですよ。
宮田:たぶん、これからは多様なコミュニティや国とか、特に既存の国を越えたいろいろなかたちでの枠組みが出てくると思うんですよね。どうしてもそれぞれの中でのパラダイムというか価値観はいろいろ出てきますが、外側からのバランス調整は、既存の共通通貨をはじめとしたものを考えざるを得ないところがあります。これが両方良しとなれば、未来にとって短期的にはすごく新しい力になりうる感じがしますよね。
前野:ありえますね。この議論も続けたいんですが、ぜひウェルビーイング学会やウェルビーイングリサーチセンターとかで続けるとして、あと7分になってしまいました。質問もたくさんきているので、どなたか読み上げられますか?
司会者:「苦しんでいる人を見て、今の自分のありがたさから、しあわせを感じることに関してどう思いますか?」という質問がきています。
前野:要するに、苦しんでいる人を見て、「ああ、自分はあの苦しんでいる人よりマシだからよかった」としあわせを感じている人がいる。これについてどう考えるか。
宮田:難しいですね。これは近年、科学論文においてもSNSの研究で盛んになっています。人との比較優位性の中で感じるしあわせは、やはり持続しないんですよね。あるいは、自分をどんどん不幸にしていく。
いろいろなSNSを比較していくと、それがよりビビットになる。社名は出さないですが、画像が付いているものが一番に不幸になるという結果もあります。これは1個の研究なのでそんなに強力なエビデンスではないですが、他者との比較優位の中で安心やしあわせは持続しづらい。
先ほど前野先生がおっしゃっていた「より広い視点を持つ」というのは、そういうマウントを取り合うという話ではなくて、よりWin-Winになるというか、相乗効果になっていくようなしあわせの感じ方や目標設定をしながら、自分の人生の生き方や働き方を見つけていくということだと思うんです。
なので、比較の中で安心を感じられたからそれがいいかというと、いろいろなエビデンスでは是とは言っていない部分もあるかなと思います。
宮田:もちろん人間が生きている以上、誰しもがそういうことを感じる側面もあるし、私もそこからフリーになれてはないです。ただ、Co-Creation、Co-Innovationと言っていますが、できれば相互にとってウェルビーイングを高めるようなところに向かえるものを見つけていくことに、時間を使いたいなと思います。
前野:ありがとうございます。本当に僕も同感です。そういう気持ちが出てくる人間である寂しさを感じつつも、その後、その人をどう救うかに思考がいくといいですよね。
さて、他にも質問はありますか? 「emmyWash」(笑顔で感染症予防をはじめとした社会課題を解決するための装置を開発した)末吉さん、今日はせっかく会場にお越しいただいているので、ぜひ質問を考えてください。
末吉隆彦氏(以下、末吉):どうも、おはようございます。
宮田:こんにちは、どうも。
末吉:どうも、はじめまして。前野先生と「エミーとゼニー」の研究をしております、末吉です。僕から質問してもよろしいですか? 僕がすごく共感したのが、「Z世代、アルファ世代がまぶしい」「すごく正しい正義感を持っている」というところです。
価値観が多様化してるというところでコミュニティ通貨の話になりましたが、昔の世代と言っていいのかわかりませんが、そこと連携や交流させる新しい交換装置というか、報酬系というか、それはどのようなことが考えられるでしょうか?
宮田:ありがとうございます。本当にこれも大事なポイントですよね。前野先生におっしゃっていただいたように、全般として新しい世代には期待を持てる一方で、その上の世代にも本当にすばらしい考え方を持っている人たちが多いんですよね。
団塊の世代は新しい社会を作るために一丸となった経験があったりするので、彼らがまとまった時のパワーもすばらしい。1つは世代だけじゃなくて、コミュニティやセグメントの人たちが、新しいしあわせを一緒に作れるかだと思うんですよね。その共通体験がその次のコミュニティにつながっていくように感じています。
宮田:飛騨高山の大学は、おそらく大学名も学部名もまさにCo-Innovationの方向にいくと思います。例えば今、図書館でディスカッションしているのは、図書館は書架が固定されているので、「ここに来る人」みたいにコミュニティも固定されているんですよね。でも、それを可動式にして、テーマごとに地域の新しい価値を作るような場を作っていく。
例えば、食を1つとってみても、古くからいる世代・人たちは、食べ物の旬やどのタイミングで食べれば一番おいしいかを知っている。新しく来る人たちは、多様な料理や多国籍なアプローチを知っている。彼らが集うことによって、その土地の新しい食の文化ができるだろうということです。
同じように、お祭りの体験やお花をどうアレンジメントしてみんなに見せていくとか、そういういろいろなコミュニティを分断させるのではなくて、交わりながら新しいウェルビーイングを見つけていくための場を創造し続けることが大事だと思います。
まさに、お二人が研究されている新しい通貨のあり方は、そこにインセンティブを付け、ボトムアップで常に生まれ続けるものになると、本当に世界を変えるんじゃないかなと思います。本当にお二人のチェレンジを尊敬していますし、一緒にできることあればぜひよろしくお願いします。
末吉:よろしくお願いします。
前野:ぜひ募集しましょう。
末吉:ありがとうございました。
前野:ありがとうございました。そうこうしているうちに時間になりました。末吉さんは笑顔計測もされていて、その研究も一緒にやっていたんですよ。非常にウェルビーイングと親和性の高いテクノロジーをやっている会社の経営者でもあります。
だから、通貨についてもいろいろ実験しているので、飛騨高山の大学でも笑顔計測や「エミーとゼニー」の実験とか、一緒にやっていけるといいなと思います。
というわけで、いかがでしたか? 「Better Co-Being」、みなさんご理解いただけましたか? 私と本当に意気投合して、同じ新しい世界を作ろうとして同じ大学でがんばっている宮田さんに来ていただきました。最後に、参加しているみなさんに宮田さんから最後のメッセージをお願いします。
宮田:途中でもお話ししましたが、shiawaseシンポジウムというか、何がしあわせにつながるのかを一人ひとりが考えるのは未来社会につながる本質的なことだと思いますし、それを超えて持ち寄ることが、今の激動の社会においてもすごく大事だと思うんです。
そういう意味で、みなさんの取り組みをすごくリスペクトするとともに、私もその一員として一緒に考えていければと思いますので、引き続きよろしくお願いします。
前野:よろしくお願いします。では、最後に会場からも宮田さんに拍手をお願いします。ありがとうございました。
(会場拍手)
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