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藤原和博x尾原:プロセスエコノミー対談(全4記事)

富士山を世界遺産に引き上げた「2月23日生まれ」の功労者 車を締め出し、登山鉄道を敷く“運命と物語”を感じる試み

『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』の著者・尾原和啓氏と、「朝礼だけの学校」校長/教育改革実践家/​​奈良市立一条高校元校長/杉並区立和田中学校元校長/元リクルート社フェローの藤原和博氏の対談の模様を公開します。

2月23日に生まれた、ある人物の活動

藤原和博氏(以下、藤原):二つ目のケースは、まずちょっと面白いクイズね。はい。「2.23」。2月23日だとすると、これ何の日だか尾原さんは知っていますか? これは祝日です。天皇の誕生日なんです。

尾原和啓氏(以下、尾原):やばい、海外にいるから、ちゃんと知らない(笑)。

藤原:この誕生日の人って、百田尚樹さんがそうですし、卓球の石川佳純ちゃんがそうだし、KAT-TUNの亀梨くんもそうで。2月23日だからといって、何か運命が規定されているわけじゃないんです。

これをよく見るとですね、もうひとつの意味がありまして。気づいた人はいますかね。「富士山」なんですよ。この日に生まれた天皇陛下よりも一世代年上で、72歳の平林良仁さん。ちょっと面白い人に、ぼくはこの1週間で出会って、かなり深いコミュニケーションをかわすことになるんですが。

この平林さんがどういう人か? というと。昔に賃貸住宅の不動産の仕事をしていて、一度失敗するみたいなんですね。船井総合研究所の船井さんに相談に行ったところ、船井さんにゾッコンになりまして、私淑して。そして、船井財産コンサルタンツっていう会社の社長になって、これを上場させるわけです。上場させたときに「60歳で自分はもうスパンと引くんだ」っていうことで、全株を売るんですが、それが2007年のことで。2008年リーマンショックの手前で、一番株が高い時に売り抜いた。

尾原:はぁ〜。

藤原:「サブプライムローンを予測した」と言われて、金融界みんなの憧れになるわけですね。そのあと何をやったか? というと「うかい亭」って知っているかな? 東京タワーの下にある豆腐屋さんで、海外の人をそこで接待するとすごく喜ぶというお店がありまして。もともとは発祥が八王子で、古民家を改造した鉄板焼きでものすごく有名になって。

ほかにも飲食だけじゃなくて、たとえば箱根のガラスの森美術館、それから河口湖の音楽と森の美術館にはストラディバリウスもあるし、それから昔の自動演奏楽器。タイタニックに積む予定だった、オーケストラの音を出す自動演奏楽器とかがあって。間に合わなくてタイタニックには積めなかったようで、助かったんだけれど。それが展示されていたりね。

こういうものをうかいさんが全部集めた資産とともに、美術館と店舗をすべてそれを持っているうかいさんの株式を、亡くなる前に全部買い取るということにして。いま、河口湖に半分居住しているのがこの平林さん。

だから、船井財産コンサルタンツを上場させた社長だったんだけれど、そこから全財産をつくって、今度はうかいさんが広げた文化を事業として引き継ぐということをやっているわけですけれども。この人が2月23日生まれだ、っていうことでですね。河口湖から冨士山に引き寄せられて、何をしたか? というと。

富士山って世界遺産に登録されましたよね。自然遺産としてずっと申請していたのですが、自衛隊なんかもあったりアメリカ軍もいたりして、登録が難しいと。それを文化遺産として「みんなが祈る霊験あらたかな場なんだ」っていうことで、方針を変換して。そして国民会議をつくって、これを世界遺産にまで引きあげた功労者が、この平林さんなんです。つまり、富士山(2.23)というこの日に生まれたことで、自分が運命づけられた。

尾原:あぁ〜なるほど。

藤原:そういう物語の中で、自分自身がそう解釈をして、「自分」が強くなる。「富士山をなんとか世界遺産にしたい」というところから、今は何をやっているか? というと、その富士山に富士スバルラインを敷いて登山鉄道をつくろう、と。そして、車を締め出したらどうなのか、と。富士山をCO2を撲滅していく象徴として。いまみんな、観光客が300万人〜500万人と五合目まで車で行っているわけです。コロナで人は減っていますけれど、またコロナが落ち着けばすごい勢いになるでしょう。

そうすると、富士山って「水道がない」「電気が通っていない」それから「下水がない」んですね。なので、本当にゴミだらけ、あるいは排便だらけの大変なことになっちゃうわけなので「その前に電車を通そう」と。スイスに登山鉄道がありますよね。それで観光するのが流儀で車を締め出しちゃう、というのは世界の先進国もやっているわけですけれども。「そういうことをやるべきだ」ということで、運動しているのが平林さんなんです。ちょっとどうですか、面白い活動でしょう。

尾原:や〜、そうですし、結局、プロセスエコノミーって物語の力によって加速するってのはあるんだけれども、何よりも「自分自身が何の物語に生きているか」っていうことによって、「自分がより遠くに行く」ということですよね。

最初の物語、最初のユニークさ、最初の希少性

藤原:そうだと思います。最後に、尾原さんの本業のほうに戻してみたいと思うんですけれども。ぼくが最近注目している、このプロセスエコノミーの中でね、Amazonマーケットプレイスがあるじゃないですか。またクイズです。日本のAmazonマーケットプレイスで、年商1千万円以上の中小出品者って何社くらいあるでしょうか? 

尾原:えーっと、楽天がいま4万店舗あって、年商1千万円以上の規模感にいけるのって10%くらいなので。で、Amazonのほうが店舗数は多いので、まぁいけて5000店舗。

藤原:うわ、やっぱ、すごいね。さすが専門家。3000社は中小出品者があると。その中で、1億円越えをしているのが、500社以上ある、というんです。そのAmazonのマーケットプレイスの出店者に、アメリカである一定以上の営業利益を上げたところを買収していく、と。バイアウトしていく、というね。それでデザインを入れたり、いろんなスタッフを付けたり、世界にマーケティングしたりして、それを成長させよう、と。そういう会社があるんです。

セラシオ(THRASIO)という会社です。NewsPicksでいま特集されていますよね。2018年創業で、3年でいま3000億円以上なんだけれども。ぼくはこれ、すごく面白いと思うんですよ。Amazonのマーケットプレイスのほうで、ちょっとニッチなマーケットで、ユニークなものでかなり成功していて。営業利益が3000万円以上のところが買収対象だ、と。デザインを良くしたり、マーケティングをもっと良くしたり、プロのスタッフを付けたら、もっと良くなる、と。良くなった分の何%かをまた戻す、みたいなね。

そういう意味では「起業しますか、しませんか?」とか「上場しますか、しませんか?」じゃなくて。Amazonのマーケットプレイスで試してみて、そこである程度うまくいったらイグジットしちゃう、と。このセラシオという会社に売って。もっと事業を成長させてもらう、と。そういうオプションを用意している、ってわけですよね。なのでこれを見ている人たちの中でも「自分はこういう本業をやっているけれど、公務員・サラリーマンだけど、実は好きなモノがあって編み物でつくった商品がこうだ」とか。

「こういうものでモックアップを組み立ててみたら、こんなの出来ちゃったんだけど」みたいな。「それをもっともっと作って売ったら、売れるかな?」みたいなことを考えている人って、いっぱいいると思うんですよね。実際、この日本の代表・小澤良介さんの話によると、副業スタートのサラリーマンって結構多いんだってね。

尾原:そうですね。実際、店舗さんで最初は副業のつもりでやっていたんだけれど、さっきの「自分」の関わり合いじゃないですけれど、意外なところに「時計の見聞きができるよね」みたいなことだったりとか。「全然知らない国のことに詳しいよね」みたいなことで、だんだんと価値が見つけられて。だんだんそこの売り上げが伸びていって、みたいな店舗さんが意外と多いんですよ。

藤原:だから全部を揃えているんじゃなくて「自分はここだ」と。「ここだけの店」みたいなね。「朝礼だけの学校」じゃないけれど「〜〜だけの店」で。自転車の「あるジャンルだけ」とか。メガネの「あるジャンルだけ」とか。そういうニッチなのが出てきて、育ててメジャーにしていく。

それが、こんまりさんみたいなユニバーサルなコンセプトにもなるんだったら、世界に向けてそれを売っててもいける。その最初の物語。最初のユニークさ。最初の希少性。これがやっぱり大事になるよね、ここにこそプロセスが感じられて、ユーザーが感情移入して、ともに一緒に成長させたいって思わせた人が勝つ、というのをセラシオがプロデュースも始めていますね。

「あなたの物語」だけに専念できる、インターネットの良さ

尾原:これが、インターネットの良さだと思っていて。ぼくはインターネットの良さって「ヒューマナイズ」だと思っているんですね。インターネットって、AIとかテクノロジーで味気ないと思うかも知れないけれども、実はテクノロジーというのは「人間だけができることを、人間に集中させてあげて、それ以外は全部機械がやってあげます」っていうものだと思っているんですよ。

ぼくは楽天の執行役員を昔やっていたので、楽天で頑張っていたことって何かというと、店舗さんが成長する悲しみってあって。店舗さんが小さかった頃って、自分の好きな尖りの商品のこととユーザーのことばっかりが見られるのが、大きくなると時間の9割が「在庫の管理」とか「組織を動かす」みたいなことになって、大きくなればなるほどお客様と自分の好きなものから離れていく、という悲しみがあって。

藤原:そうだよね、資金繰りとかね。

尾原:それが、このセラシオさんみたいな会社があると「自分の好きなところだけ集中すれば、それ以外はやってあげますよ、しかも海外にもつながっていきますよ」と。こういうつながりを加速して「あなたの物語」だけに専念できるんですよ、というのがインターネットの良さだと思って。改めて、やばいっすね、藤原さんと話すと。

藤原:だから結局、結論としては、こういうことになりますよね。こういうふうに、外へ開いて開いて、色んなものと掛け算している「自分」、それを編集しているのが「自分」なんだ、っていうのでいいので。左側のように、個体としてこんな中に埋まっている、それを掘り出さなきゃなんない、っていうこの人生観から離れましょうねと。右側をやらせてくれるだけの社会システムが、セラシオもそうだと思うんだけれども、インターネットが実現している、と。

尾原:今はそれを可能にしてくれているから、「自分」の外に出ることって怖いかもしれないけれど、自分の好きとか自分の物語に身を任せれば、気づけば仲間が生まれて、気づけばテクノロジーがつないでくれて。自分より遠くに行って、最後はさっきの富士山じゃないけれど「自分だけの物語」に導かれて、より大きな世界に行ける、ってことだと思うんですね。やばい。

藤原:今日、これで1時間話しました。

尾原:で、ゴメンナサイ。次のミーティングがあってですね。今日、みんなからのQ&Aを受けたいんですけれど。

藤原:なるほどね(笑)。

尾原:Facebookの方々は、またいつものように、ぼくのサロンに書いていただければ、と思います。本当にギリギリまでありがとうございます。

藤原:はい、(チャット欄で)Sさんが気づいていますが、ダブルかずひろでした。

尾原:ダブルかずひろはロマンティストってことで。

藤原:そうです。はい、キミにならできる!

尾原:はい、ありがとうございました!

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