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東洋経済主催 経済記者×名物鉄道マンが語る「鉄道ビジネス最前線」(全7記事)

鉄道は儲からない? 東洋経済ベテラン記者が紐解く「最新の鉄道ビジネス」

鉄道ビジネスの現状や各社の取り組みなどを語る「鉄道ビジネス最前線」。日本経済各所で問題視されている少子高齢化や人口減に、鉄道各社はどう挑むのか。鉄道事業以外での「多角化」から、次なる生き残り策についてのトークが行われました。本パートでは、『週刊東洋経済』副編集長の大坂直樹氏が「住みたい街」が多い中央線の駅数から、鉄道による波及効果について語りました。

経済誌なのに、なぜ「鉄道」?

司会者:今回は鉄道ビジネスに焦点を当てて、お話をさせていただきます。鉄道のビジネス、経済的な観点からの特集を『週刊東洋経済』では、長年にわたって定期的に実施しております。今回も『週刊東洋経済』ならではの切り口で、お話させていただきたいと思います。

第1部では、『週刊東洋経済』の鉄道特集を手がけ、また鉄道の臨時増刊の編集長を務め、現在は「東洋経済オンライン」の「鉄道最前線」を担当しております、弊社の編集局ベテラン編集の大坂直樹より、お話をさせていただきます。よろしくお願いいたします。

大坂直樹氏:今、ご紹介をいただきました大坂と申します。どうぞよろしくお願いします。先ほど『週刊東洋経済』編集長の髙橋(由里氏)から、2008年に鉄道特集をやった当時は環境問題とかがあって、そういうモーダルシフトみたいなところから、鉄道の必要性みたいなものが世界的に叫ばれていた、と。まさに鉄道特集をやるには絶好のタイミングだったわけです。

この時は、経済雑誌として鉄道を取り上げる意義がすごくあったんですけど、それがすごく売れたので、「じゃあ、翌年もやろう」。これも売れたので、「また翌年もやろう」と、結局毎年やってるんですけど、そうすると、そのうちあちこちから「なんで経済誌が鉄道特集をやるんだ?」みたいなことを、けっこう……。社内でも言われるし、外でも言われるし、もう本当に困っちゃいます。

しかも僕、実は鉄道好きなので、「大坂は鉄道好きだから、自分の趣味でやってるんじゃないか?」みたいなことを言われる方もいまして、そうすると非常に悔しいです。できるだけ「『東洋経済』ならではの鉄道特集をやろう」ということを、いつも頭の上に考えながらやっています。

今日ご参加のみなさまは、定期購読者の方々ということで、必ずしも鉄道がお好きな方だけではないかと思います。そういう方が聞いても「聞いてよかったな」と思えるような話が1個でもあればと思ってます。

あと、僕は基本的には取材した内容しかしゃべれませんので、もし深い質問とかが出てきたら答えられないかもしれませんので、今日は僕よりずっと鉄道に詳しい同僚記者と、スペシャルゲストとして京急(京浜急行電鉄)と西武(鉄道)の方にも来ていただきました。

鉄道会社の生の声も聞ける貴重なチャンスですから、この際「聞きたいけど聞けない」みたいなことは、僕ではなくてこちらの方々に質問していただければと思います。

「住みたい街」が多い中央線は、駅の数が少ない

先日、ある不動産会社の人とお話をしていました。これも強調したいんですが、鉄道雑誌の人は基本的に鉄道会社の人に取材をしますけれど、『東洋経済』の記者は鉄道会社だけじゃなく、いろんな業界の人と話をします。だから、『東洋経済』の鉄道記事というのは、すごく経済に密着した記事が書けると思っています。

不動産会社の人と話していて、みなさんもご存じと思いますけど、吉祥寺とか国立とか三鷹とか高円寺とか荻窪とか、「住みたい街」というと、だいたい中央線の駅がランキングに入ってくるんですね。

確か、ランキングのベスト30のうち6個は中央線の駅だったと思います。「じゃあ、なぜ中央線は人気があるんでしょうね」というお話をした時に、不動産会社の人からこんなことを言われました。「中央線は駅の数が少ない」と。

中央線、新宿とか高幡不動とか町田とか所沢、(資料を指して)ちょっと字が小さくてすみませんが、だいたい起点の駅から30キロ圏内という前提で駅数を数えた場合、中央線は15駅あるんですね。

ほかの京王線、小田急線、西武新宿線、東急田園都市線、東横線、京急線……、東海道線は除きますけれど、このへん全部、30駅くらいあるんです。だから、「中央線は駅が少ないから、稀少価値が高いんじゃないですか」という話になりました。

この「駅が少ない」というのは、稀少価値が高いというだけじゃなくて、スピードも出せるんですよね。要するに、朝のラッシュとか、けっこう通過する駅が多い。中央線は混んでますけれど、駅が少ないということは、プラスに働くことがいろいろあります。とくに昼間。朝は通勤ですごく混んでて、遅れるので朝は除きますね。

昼間という前提でいうと、結局駅が少ないから、立川とかから都心、新宿とかまで出るのに30分くらいで行けちゃうんですね。これはほかの駅だと、さっきの町田とかあのへんとかだと、1時間くらいかかったりします。(中央線は)駅が少ないから、各駅停車でも早く行ける。

それから、これもたぶんみなさん予想つくと思うんですけど、駅が少ないから遠くからも人が集まってきます。遠くからも人が集まってくるから、商業施設も中央線の駅にはたくさん作られやすいです。実際、大きな商業施設が中央線にはたくさんある。いろんな駅にあると思います。こういうことが起きてるから、中央線はやっぱり人気があります。

「吉祥寺からバス8分」の引きの強さ

これもその不動産会社の人が言ってたんですけど、中央線の競合に、例えば吉祥寺の近くに西武新宿は武蔵関という駅があるんですけど、その中間あたりのマンションだと……、西武の方もいらっしゃるなかで申しわけないんですけど、「西武武蔵関から徒歩8分」といううたい文句よりも、「吉祥寺からバス8分」のほうがお客さんの引きがいい、と。

ふつうに考えればバスより歩くほうがいいと思うんですけど、バスに乗ってでも「吉祥寺に住んでる」と言いたい住民の方がたくさんいらっしゃるということなんだろうと思います。

もう1個、「へーっ」と思ったのが、沿線の年齢別人口も、やっぱり不動産会社の人は分析してるんですね。そうすると、中央線で人気の場所に何才くらいの人が住んでるのかというと、20代と60代がほかの線と比べるとたくさん住んでいるそうです。田園都市線とか東横線とかは、わりと30代・40代・50代といったファミリー世代の人がたくさん住んでいる。

ここからなにがわかるかというと、今、現実に起きていることというのは、中央線の立川とか国分寺あたりにタワーマンションがたくさんできているんですけど、そういうタワーマンションに住んでいるのは、この60才以上の人。要するに、中央線は駅が少ないから、家がけっこう遠いじゃないですか。だから、退職したシニア世代とかが、駅近とか駅前のタワーマンションを買って住んでいるという現象が起きているんだそうです。

それからもう1つ可能性としてあるのは、これもみなさん印象としてあると思いますけど、だいたい新聞のチラシとか見ていると、自分の沿線のマンションとかのチラシとかが入ってきますよね。そうすると、やっぱり住むとしたら自分の沿線に住みたいと思う人がわりと多い。だとすると、20代がこれだけ住んでいるということは、自分たちが結婚して今後持ち家を持つとしたら、やっぱり中央線になるんじゃないか、と。

だから、今30〜50代の人口が中央線は少ないけれども、このへんが今後ふくらんでいくんではないかというようなことを、不動産会社の人は分析されていました。たぶん、こういう話というのは鉄道雑誌とかは絶対書けないし、やっぱり『東洋経済』ならではの記事なんじゃないかなと思います。この話、まだまだ続きがあるんですけど、これ以上話すとだんだん鉄道の話じゃなくて不動産特集になってしまうので。このへんは切り上げておきます。

私鉄の売上7割が「非鉄道事業」

次は、レジュメを作っている時に1枚作り忘れてしまったので、これ(スライド)を見てください。字が汚くてすみません。鉄道は儲からないから、多角化を進めているのかということです。

昨日もある鉄道メーカーの幹部の方と話していて、その人がこういうことを言ってました。鉄道メーカーの幹部だから、鉄道会社のことはよくわかってると思うんですけど、その方も「私鉄というのは、鉄道が儲からなくなってきたから多角化をやって、利益をたくさん出しているんじゃないか」というようなことを言ってました。

でも、これは必ずしもそうではないです。要するに、「鉄道が儲からないから多角化をやってるわけではない」と。連結の売上高に占める、非鉄道事業の割合。緑色が鉄道です。鉄道以外のものが、オレンジ。

東京メトロは、やはり鉄道ばっかりですよね。これはだいたい、みなさんもイメージがつくと思います。それからJR東海、西日本、東日本、やっぱりこのへんは鉄道事業が圧倒的に多いです。JR東日本なんかは多角化をかなりやってるように見えますけど、でもこうやって数字で見てみると、まだまだ鉄道事業のほうが売上が多いということです。

逆に私鉄は、大手私鉄をズラッと並べましたけど、もうほとんど……。1番非鉄道が少ない南海電鉄(南海電気鉄道)でも、売上の7割が非鉄道事業です。西鉄(西日本鉄道)になると、95パーセントが鉄道以外のもので売上を稼いでいます。だから、そういう意味で、売上という面でいうと、確かに私鉄というのは鉄道以外のことをすごくたくさんやっています。

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