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東洋経済主催 経済記者×名物鉄道マンが語る「鉄道ビジネス最前線」(全7記事)

もしもJR東日本が新線を作ったら? 京急と西武が注目する“影響”とは

鉄道ビジネスの現状や各社の取り組みなどを語る「鉄道ビジネス最前線」。今日本で問題視されている少子高齢化や人口減に、鉄道各社はどう挑むのか。本パートでは東洋経済新報社と京急電鉄、西武鉄道の3社が、JR東日本が企てる新線への所感について語りました。質疑応答では、鉄道会社同士でのM&Aに関する質問にも、各登壇者が回答しています。

2030年に「羽田空港アクセス線」が誕生?

大坂直樹氏(以下、大坂):続いて、お二方にお聞きしたいことがあります。またぜんぜん違うテーマなんですけど、今年の3月末に国の交通政策審議会が「東京圏における今後の都市鉄道のありかたについて」という答申をまとめて、(そのなかに)みなさんもすごく関心があるであろう「羽田空港アクセス線はどうなるんだ?」という話題があったと思います。

その対抗馬として蒲蒲線(注:別名は新空港線。JR・東京急行電鉄の蒲田駅と京急蒲田駅を連絡するもので、大田区などが調査・計画中)があったり、モノレール構想(注:東京モノレールによる浜松町から東京駅への延伸計画)があったり、あるいは成田と羽田空港を高速鉄道に繋げるみたいなアイデアがあったり。

今までの答申だと「どれを1番最初にやろう」という優先順位がつくんですけど、今回はつかなかったんですね。だから、新聞とかを読んでても「いったいどれをやるんだ?」みたいな、なかなかわかりづらい点があります。その点の評価の前に、ウチの小佐野がすごくおもしろい分析をしてますので、どの路線が有力なのか、彼の仮説を聞いてやってください。

小佐野景寿氏(以下、小佐野):今年の4月に国交省の交通政策審議会が、東京圏の鉄道の今後(2030年)を目標にした将来の方針が出されました。こちらで1番注目を集めたのが、今のお話にもあった羽田空港アクセス線の話です。前回に(答申が)出たのが2000年になります。その時の答申では、路線の優先順位というのが一応ついておりました。

ただ、今回の答申に関しましては、優先順位がつかなかったというのがニュースにもなったんですけれど、そこでどう読み解いていくかというところで、実際に取材もしました。その答申の文言、文章をどのように読み解くかというところが、実際にその線が有力か・否かをかなり裏づけていると思っています。

こういったものを取材しているライターの方とお話したり、あとは国交省の関係者は言わないですけれども、都の関係者や鉄道関係者にお話をお聞きしますと、やっぱりそう見ております。

例えば、触れられている路線のなかで「〜すべき」と書いている路線は、基本的に優先度が高いだろうと見られる。「早急に○○を整備すべき」とか「計画すべき」とか、語尾が「〜すべき」と強い表現を取っているところと、それ以外の「○○が望ましい」という表現になっているところがあります。その2つの表現を比べますと、やっぱりどう考えても「〜すべき」と書かれているところが強いと、読むことができるわけですね。

そのリストには全部で26プロジェクトが出ているんですけども、そちらにはすべて順番は振られていない。優先順位は振ってないんですけれど、「〜すべき」と書かれている路線は、そのなかでも非常に数が少ないということがあります。

具体的に羽田空港アクセス線で言いますと、かなり有力だろうと思われるのが、JR東日本が計画している「羽田空港アクセス線」という、新宿や新木場方面から今ある貨物の路線等やトンネルを使って羽田空港のターミナル直下に連絡するという路線です。答申の中身を読んでいきますと、表現としては非常に強い。「早急に考えるべき」とされているということですね。ですので、そちらが有力度としては高いのかなと見られます。

先ほどお話にありました、京急さんにも絡んでくるところですけど、蒲蒲線という、JR・東急の蒲田駅と京浜急行の蒲田駅を繋いで、京浜急行の空港線を使ってアクセスするという路線もあります。こちらも一部の区間については「〜すべき」という表現が使われておりますが、ただこちらは路線の半分で表現が違ってきます。

途中の半分までは「早急に整備すべき」ですとか、正確な文言は忘れてしまったんですけれど、そういった「〜すべき」という表現があります。ただ、残りの半分についてはやや弱い表現になっているということで、JRの羽田空港アクセス線と比べますと、そちらのほうが表現は強いというかたちですね。

ですので、国交省や答申を出した審議会なんかは具体的に順位をつけてないんですけれど、「〜すべき」と書かれているほうが有力度は高いんじゃないかと見ています。

大坂:ありがとうございます。今の話を踏まえて、JR東日本が羽田空港アクセス線を作るという前提で、今の京急の羽田空港線はドル箱ですが、影響はありますか?

新しい鉄道で、どれだけの人が動くのか

飯島学氏(以下、飯島):羽田空港アクセス線をドル箱だととらえるかどうかにつきる話だと思います。我々は先ほどお話したとおり、羽田空港に来たお客さまにどれだけ京急をご利用いただいて、京急を使って京急の沿線に来てもらうかというところに、大きくかかっていることは間違いないです。

ただ、一言で言いますと、長い距離を特別料金で乗っていただく……。まさに先ほどの大坂さんの話にもありました、新幹線輸送の鉄道を持っている会社の経営のなかに占める利益の割合のような話になりますが、当社が羽田空港と品川間をご利用いただく区間はそう長い距離ではありません。

といいますと、羽田空港というところに外部輸送ができること、新しいアクセス鉄道ができることによって、人がどれだけ多く動くことになるか。ゆえに、そういった鉄道が必要とされているほど、羽田空港という土地が価値があるものということの裏返しであると考えております。

羽田空港アクセス線が開通することで一時的には当社の利用が減ったりして、ライバルである存在は当然考えられるものです。ただ、我々が実際に抱えている鉄道のライバルとして、モノレールやバスだけでなく、乗用車もあります。利便性が向上することは、利用する側からは望ましいと思います。

ですので、一時的にはおそらく強力なライバルかもしれませんが、羽田空港というのが、ゆえにそれだけ注目されているところであって、成長性があるととらえているところです。

大坂:ありがとうございます。西武は遠いからあんまり関係ないのか……。どうでしょう?

手老善氏(以下、手老):そうですね。広報でもない一社員が言うのもアレかもしれないですけれど(笑)、私どもとしても、羽田空港アクセス線という意味では、もしかしたら池袋からJRさんで1本で繋がるかもしれない。それはプラスかもしれないし。

ただ、弊社は鉄道だけじゃないので。グループ全体で考えた時に、例えば先ほどのお話のとおり、プリンスホテルが品川の近辺にもあります。そういった選択が増えることによって羽田の価値が上がり、その周辺で1番近くの大きな都市であろう品川が発展する。それは間接的かもしれませんけれど、弊社グループにとってもプラスになるんじゃないかと思っております。

どちらかと言うと、(羽田の件と同じように)「〜べきである」と書いてあった大江戸線の延伸が、私どもの西武バスの営業エリアを走りますので、そちらのほうが気になるところでございます(笑)。

大坂:ありがとうございます。実はトークセッションのためにいくつか質問を考えてきたんですけれど、せっかく会場にたくさんのお客さまがいらっしゃいますので、マイクを司会にお返しして、みなさんからの質疑応答の時間に充てたいと思います。どうもありがとうございました。

東急の社長は、東武の社外取締役

司会者:本当に興味深い話でもう少しお聞きしていたかったんですが、時間になっておりますので、ここでお二人だけご質問をお聞きしたいと思います。

(会場挙手)

どうぞ。

質問者1:非常に興味深い話をありがとうございました。1つお聞きしたいのは、ほかの産業であれば経営統合とかM&Aはふつうですよね。こちら(鉄道業界)も今後はマーケットや人口が減りますから、インバウンドが増えても、そういうことは(起こると思う)。(M&Aを)考えられているのか、もう進んでいるのか、よく知りませんけれど、どういう状態にあるのか。

あるいは世界の状況でも、そういうことを調べておられるなら、東洋経済さんからご意見いただければと思います。

大坂:では、私から。鉄道会社の経営統合というと、直近の例だと阪急(電鉄)と阪神(電気鉄道)というのがありますけど(注:2006年に阪急側が阪神の株を取得し、子会社化した)。あれはホリエモン(堀江貴文)さんとかの関係で、いわゆる特殊な例だと思います。それ以外にあるかと言うと、大手私鉄とかでは今のところないとは思いますけど……。どうなんでしょうね、将来は。

例えば京急と西武がこういうコラボをしてるのは、単に仲がいいだけじゃなくて、株式の持ち合いとかされてらっしゃいますよね。それから、東急と東武(鉄道)はお互いの社長が相手の(会社の)社外取締役になってるという感じで、けっこう仲がよかったりします。鉄道会社は決してライバル関係ではなくて、わりと仲がいいので。

これは推測ですけど、もしどこかの会社が厳しくなったら、別の会社が助けてくれる可能性がすごく高い。それが発展して、経営統合とまではいかなくてもホールディングスを作って、その下に2つの会社がぶら下がるということは十分あるんだろうなと思います。

飯島:とてもコメントしにくいですね(笑)。

(会場笑)

ただおそらく、調べていただけるとわかるとおり、戦時中は関東の鉄道は合併を重ねていたことがあります。これは政策的な問題というよりは、さまざまな事情からくっついていたという部分があるかもしれませんし、場合によっては1つの会社が分離して別の会社になっているということもあります。

鉄道会社は決して「単独自社でやっていくんだ」という固定ではなかったりしますので、一概にはするともしないとも言えないというのが現状なんじゃないかなとは思います。

ただ、事業として企業がM&Aをするということとは別に、それぞれの得意分野やエリアが重複したり、もしくはシナジー効果を高めるという意味合いで、例えば、当社と西武さんであれば、品川駅前開発についてさまざまなミッションを一緒にこなしていくこともあったりすると思います。そういうかたちでの組み合わせ、場合によっては企業間の連携というのは大いに考えられることかなと思います。

大坂:ありがとうございました。

ICカードの登場で、券売機への考え方が変わりつつある

司会:では、ほかにいらっしゃいますでしょうか?

(会場挙手)

質問者2:利用者の立場から、今回は質問させていただきたいと思います。駅の券売機を毎回利用させていただくんですけど、なぜクレジットカードが使えないのか。使えても、私の場合だと東武カードだったり、沿線の鉄道会社限定のカードしか使えないという現状がございます。これはなぜでしょうか? 教えていただければと思います。

飯島:京浜急行電鉄から、当社の状況と考え方の一部、断片的なことだけをお伝えさせていただきます。おそらく各社さまで考え方が違ったり、サービスの方向性が違ったりするので、1つの事例として、当社からも「これが当社の方針だ」というよりは、1つの考え方としてお話させていただければと思います。

(クレジットカードでも)定期券の購入などはできます。一般乗車券の購入に関しては、カードが使えないのが一般的かと思います。反面、カード口座をお持ちの方においては、オートチャージ機能を搭載したICカードで、乗車券を買わずにご利用いただけるようなサービスの整備が行われている事業者もございます。

端的に言いますと、ほかのサービスに投資を集中することで、別のサービス強化をはかっていきたいというのが多くあるのではないかなと推測されるところです。

とくに、定期乗車券が購入できるというのがカードを利用される方の1つのプライオリティということで、一時期は設備整備を進めていたところがあります。ICカードの登場によって券売機というものに対する投資効果と言いましょうか、サービス面の考えかたというのは大きく変わってきてるところだと思います。

これは、今後の動静によってますます変わってくるものだと思います。貴重なご意見は多く寄せられておりますので、引き続きそんな思いで見ていただければと思います。

手老:今、飯島さんからお話いただいたように……。私は広報でもないので、この立場でお話するのもアレかもしれないんですけれど(笑)、各社によって、取り組みの度合いや進捗が変わっているのはあります。あと、私どもも定期券の購入はクレジットカードで買えるんですけれど、当初は弊社のブランドカードだけだったところを、VISAだとか(いろいろなカードを)増やしていって。

やはり、お客さまからの声として「それだけじゃなくて、もうちょっと(ほかの)ブランドを使えないか」というのがありまして、だんだん拡充していっているという段階でございます。

司会者:もう少しご質問をお受けしたかったんですが、時間がなくなってしまいましたので、申しわけございません。ここでトークセッションを終わりにしたいと思います。改めまして、飯島さま、手老さま、本日は貴重なお話をありがとうございました。

(会場拍手)

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