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東洋経済主催 経済記者×名物鉄道マンが語る「鉄道ビジネス最前線」(全7記事)

「相鉄は小田急を警戒している」多角化する鉄道ビジネスの行方

鉄道ビジネスの現状や各社の取り組みなどを語る「鉄道ビジネス最前線」。今日本で問題視されている少子高齢化や人口減に、鉄道各社はどう挑むのか。鉄道事業以外での「多角化」から、次なる生き残り策についてのトークが行われました。本パートでは、『週刊東洋経済』副編集長の大坂直樹氏が、鉄道各社の非鉄道事業の今後について語っています。

売上は低く、利益率は高い鉄道事業

大坂直樹氏:じゃあ、利益はどうか。やっぱり、さっきの儲かってる・儲かってないというのは、売上じゃなくて利益の話ですから、利益はどうかというと、実は鉄道事業のほうが利益は高いんです。これ(スライド)は、さっきの各社別にまとめたものを円グラフにした……、全社合計ですね。

非鉄道事業というのは、やっぱり売上のだいたい7割を超えているんですけど、営業利益に占める鉄道の割合というのは、半分までいかないけど、かなり半分に近いです。つまり、鉄道事業の売上はこれだけ少ないんだけど、利益はこれだけ、半分近く稼いでいると。だから、鉄道事業のほうが利益率が高い。

これを各社別に見ると、こっち側が鉄道事業の売上高営業利益率です。トップは東京メトロ、2番目が阪急(電鉄)。このへん、売上高営業利益率が24〜25パーセントです。定期購読者の方で経営分析とかよくやってらっしゃる方だったら、この数字がいかに高いかというのがおわかりかと思います。京成(電鉄)・京王(電鉄)、このへんのところでも売上高営業利益率10パーセントを超えています。

これを全体で見ますと、やっぱり売上高営業利益率が少ない。だいたい6〜12パーセント程度のところにきます。つまり、売上、営業利益の面で見ると、非鉄道事業というのは、全体の足を引っ張ってる……、赤字じゃないから足を引っ張ってるとは言わないな、でも、鉄道ほど利益に貢献していないということになると思います。

すみません、さっき1個言うのを忘れてました。ちょっと戻ります。なにを言うのを忘れたかというと、中央線は駅の数が少なくて、私鉄は駅の数が多い。当然、「なんで?」と思いますよね。

これは、僕も分析しきれてないんで、もしかしたら違うかもしれませんけれど、中央線は国鉄時代、そんなに副業ができなかったので、基本的には輸送力増強ということで、スピードアップを優先していました。逆に私鉄は、多角化によってどんどん宅地を分譲したり、マンションを作ったりということで、沿線に人口を増やして不動産でも儲ける必要があった。

だから、沿線の利便性を高めるために駅をどんどん作っていったんじゃないかということを、今考えていて、このへんを取材していきたいと思っているところです。ということを、さっき言うのを忘れていました。

戻ります。不動産事業、私鉄はそういう多角化をやってきたんですが、今までは沿線人口が増えてきたからよかった。ですが、すでに大阪とかはもう人口減少に転じてますし、東京もあと数年で人口減少に転じると言われています。大手私鉄の沿線というのは、そのなかでもまだ力のある線でもうしばらく人口が増えるんですけど、やはりいずれは人口が下がっていく。

そうすると鉄道事業、今は高収益ですけど、今後は利益率にかげりが見えてくるかもしれない。そんななかで、各社は今までとは違う理由で多角化に力を入れていかざるを得ないという状況になっているようです。まさに去年、あるいは今年あたりから、そういう傾向がだんだん見え始めてきました。

近鉄がオフィスビルで東京へ進出?

今、僕がすごい動きだなと思っているのは、この宿泊特化型ホテル、いわゆるビジネスホテルですね。これをどんどん作ってる私鉄が増えてきてます。

1番すごいのは、相鉄(相模鉄道)ですね。相鉄フレッサインというビジネスホテルが、相鉄の沿線だけじゃなくて、都心にもかなりできてますけど。ここは、ホテルサンルートというホテルチェーン(サンルートホテルチェーン)も買収してしまいました。今や、そういうホテルの客室数では日本で5番目という、いわゆる大手ホテルの仲間入りをしちゃったわけです。

その次が、西武のプリンスとか東急(東京急行電鉄)。そのへんは昔からホテルやってて、大手だというのはわかりますけど、相鉄はそういうところも追い抜いて、大手ホテルになっちゃったというのはすごいと思います。京王も、昔は京王シティプラザというシティホテルを作ってましたけど、最近は京王プレッソインという、宿泊特化型のホテルを作ってます。

それから、今日もここにいらっしゃる京急。やっぱり京急も宿泊特化型ホテルを作っていて、これに並行して、お台場にグランパシフィック(LE DAIBA/現・グランドニッコー東京台場)という大きなホテルがあるんですけど、これを売却しました。「これを売却した資金で宿泊型ホテルを作るんじゃないか?」という質問をしたら、「いや、関係ありません」という答えが取材した時には返ってきたんですけれど、ふつうに考えれば「あるのかな」なんて思います。

要するに、シティホテルより宿泊特化型のほうが儲かると見ているということだと思います。あと、京急はロイヤルホテルと組んで、「やっぱりホテルやる、動く」と言っています。

小田急(電鉄)はセンチュリーハイアット(東京/現・ハイアットリージェンシー東京)とか、シティホテルやってるんですけど、ここは子会社のブランドを使ってビジネスホテルをやっていきたいという意向を示しています。このように宿泊型ホテル、各社どんどん入ってますね。

ただ、この動きが本当に正しいのかというところには疑問があります。近鉄(近畿日本鉄道)とかは、「宿泊特化型ホテルというのはブームに過ぎないんじゃないか」ということで、慎重な姿勢を示しています。どっちの戦略が正しいのかは、また取材をしていこうかなと思っています。

あと、オフィスビルに特化している会社もけっこうあります。阪急は梅田駅前で今どんどんやってますし、今度は神戸でも始めるそうです。それから、西武。西武は、紀尾井町に昔、(グランド)プリンスホテル赤坂があったところに大きなオフィスビル(東京ガーデンテラス紀尾井町)を作って、ここにヤフーが入居するそうです。

西武はこういうふうにポートフォリオを平準化するということで、今までの商業施設とか軽井沢のショッピングセンター(軽井沢・プリンスショッピングプラザ)、ああいうのをけっこうやってたんですけど、今後はオフィスビルに力を入れると言っています。

近鉄も近畿地盤ですけど、東京にもオフィスビルを購入して、やっぱりオフィスビルの投資を増やしていくと言っています。「なんでオフィスビル、こんなに増やしていくのかな?」なんて思って聞いてみたら、やっぱりマンションとか宅地分譲というのは、そろそろ限界がきていると。そういう土地がだんだんなくなってきたというところと、今後の人口動態とか見ても、今までのようにガンガンできない。

あと、マンションとか宅地分譲は、売っておしまいですよね。その売った時に利益が計上して終わってしまうと。それだったら、オフィスビル投資をして安定的に利益を稼ぎたい。こんな傾向があるそうです。

もう1個おもしろいと思ったのが、東京メトロです。さっきご説明したとおり、東京メトロはあまり多角化事業をやっていないんですけど、今度は地下から地上に出てオフィスビル投資とかもやりたいという意向があるそうです。

要するに、今はバリアフリーで、どんどん駅の入口とかにエレベーターを作らないといけない。でも、エレベーターを作るとしたら、今までは道路のところに作れなくて、隣のビルとかにエレベーター作ってもらわなきゃいけなかった。そんなんだったら、そういうビルと組んででかいビルを作ってしまおうという戦略だそうです。

確か、今日の持ち時間が7時10分までだったと思うんですけど、まだ半分も終わっていません(笑)。

(会場笑)

相鉄が警戒する、小田急の「複々線化」

ここからは、超駆け足でやります。駅周辺再開発というのも活発で、京急はJR東日本とかと組んで・・・・・・はいないと思いますけど、非常に隣接してますので、品川再開発もどんどんやっていくそうです。

それから、西武。西武も品川駅前にプリンスホテルありますから、後藤(高志)社長は「やる」とは明言していませんけれど、ホテルはあるということは断言してますので、たぶんやるんだろうと思います。

要するに、オリンピックが終わったあと、そのホテルをオフィスビルに作り変えるんじゃないかなという気がします。あと、西武はそれ以外にも所沢とか池袋の駅前再開発もどんどんやっていくので、今後、不動産業がすごく増えていくと思います。

この3つは飛ばして、小田急。小田急は今、新宿西口に……、例えばスバルビルをご存じですか? 真ん前にあるビル。ここを小田急が買収したんです。なにをするかというと結局、小田急は(新宿に)小田急百貨店があって、小田急ハルク(HALC)があって、小田急エースがあって。あと、新宿の地下の駐車場(新宿駅西口駐車場)の運営も小田急がやってます。

だから、新宿西口は小田急がすごく持ってるんですね。しかもスバルビルを買いました。要は、新宿西口を大々的に再開発したいという構想を、小田急は持っているということです。ただ、それがすぐにできるわけじゃなくて。今、小田急がやらなきゃいけないことは複々線化です。3,100億円という、小田急の利益の10倍というすごい大規模な投資を、30年かけてやってます。

この複々線化ができあがると、朝のラッシュ時の本数が1.5倍に増えて、なおかつスピードも本数が増えるから上がるし、所要時間も短くなって、混雑も減る。だから、お客さんがたくさん来てくれて、利益が出るだろうという戦略をとっています。

あと、相鉄は、横浜を起点とする都心に出てないローカルっぽい路線なんですけど、これを都心に乗り入れようとしています。その乗り入れるための新線を、今、建設してます。さっきの小田急が複々線化することに対して、1番警戒しているのがこの相鉄なんですね。

なんでかというと、この海老名とか湘南台とか……今、けっこうこのへんに住んでる人は、小田急に乗って都心に出たりしてるんですけど、ここ(相鉄)が直通で都心に出れるようになると、海老名とか湘南台は始発駅なので座っていけるようになる。今まで小田急を使って都心に出ていた人が、こっちを使う可能性があると。こういう動きが、2018〜19年あたりにどんどんできてくるんじゃないかと思っています。

JR西日本の収入の半分以上が新幹線

あと、最近、東急がすごいと思っていて、先週、東急が仙台空港の運営というのを始めました。もともとJAS、日本エアシステムとかやってた会社ですから、「空港に思い入れあるのかな?」なんて思いましたけど。あとは、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)とか東京ディズニーランドの近くにホテルを作りますね。こちらは他社と違って、シティホテルです。

それから渋谷開発、ご存じだと思いますが、東急パワーサプライという電力事業なんかも始めたり、ホームドアも全駅に入れるなんて話をしています。東急というのはすごく多方面にやってて、今後数年で大化けするかもしれないなという気がしています。

JRは、時間がないので飛ばして……。ここで言いたいのは、キーワードとしては新幹線です。これも数字を見ていて「へーっ」と思ったんですけど、運輸収入にしめる新幹線収入の割合です。

JR東海が圧倒的に新幹線が多いというのは、イメージとしてわかると思いますけど、僕が1番驚いたのは、JR西日本です。収入の半分以上が新幹線になっちゃってます。山陽新幹線と北陸新幹線を合わせても、距離としては在来線の4分の1くらいしかないんですけど、もう売上としては半分以上になっちゃっています。

あと、九州もびっくりですね。九州新幹線も、全体の路線距離でいうと1割ちょっとくらいしかないんですよ。だけど、売上でいうと3分の1になっちゃっています。利益がどれくらい稼げてるかというのが、数字でお示しできなくて残念なんですけど、売上的には新幹線というのが、すごく経営に貢献するんだろうなと思います。

そんななかで、最後に1つだけつけ加えたいのは、JR北海道ですね。今は「経営がよくない」とか「函館旅客いないじゃないか」とか、いろいろ批判されてますけど。2030年(度)、札幌は人口200万近くいる都市ですから、札幌に延伸すると、実は新幹線はドル箱になるんじゃないかと思います。あとは、2030年までJR北海道が経営的に保つのかどうかというのが、気がかりではありますけど。

最後、かなり新幹線ばりのスピードでしゃべってしまって恐縮ですが、このあたりで終わりにさせていただきます。次からは現場の方からのお話ですので、より深い話になると思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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