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愛とテクノロジーとブランディング【第3部】(全2記事)

消費者の「どれでもいいじゃん」を回避するには? ものが溢れる時代の製品・サービス開発のポイント

経営者、事業責任者、マーケターからPRパーソン、デザイナーまで、業界業種を問わず、企画職の誰もが頭を悩ます「ブランディング」をテーマに、じっくり向き合う音声番組「本音茶会じっくりブランディング学」。今回は、『温かいテクノロジー』の著者で、家庭用ロボットLOVOTを提供するGROOVE X代表の林要氏をゲストに迎えた「愛とテクノロジーとブランディング」の回をお届けします。第3部の後半では、GROOVE X社のブランディングの特徴や、幸せを追いかけるために必要な分解について語られました。

わかりやすく、安易に手に入るドーパミンの刺激は薄れる

工藤拓真氏(以下、工藤):先ほどの「WHYだけでは始められないよ」と一緒で、「とはいえドーパミンは必要でしょう」と。「何も刺激がなかったら、『買いたい』のスイッチを押せないよ」という声も、聞こえてくると思うんです。

林要氏(以下、林):もちろんです。

工藤:だからドーパミンにも、何パターンかあるわけですね。

:そうですね。決してドーパミンが全部駄目なわけではないです。安易に手に入るドーパミンは必ず刺激が薄れていく問題がある。どちらかと言うと、ひと手間かけて何かを達成していくみたいなことのほうが大事かなとは思っています。

工藤:本の中にも、名作絵本みたいなお話が出ていましたけど、先ほどのご飯と一緒で、ダーッと流れ込んでくる動画とかではなく、文字は少ないけれど、何か考えさせるような絵本だったりコンテンツだと違うドーパミンになってくるんですかね。

:そうでしょうね。例えば最近聞いた話だと、短歌が若い人に流行っていると聞いたんですけれども、短歌はまさに余白ですよね。

工藤:なるほど。

:おそらくわかりやすいコンテンツによるドーパミン漬けに脳が反応しなくなってしまった人たちが行き場を求めると、最後はそこにいくのではないかと僕は思うんですけど、実際にはどうかわかりません。

勝手なことを言っていますけど、すごく健全な心の動きだと思うんですよね。なので、バランスを取りにいく意味では、余白や能動性をどうやって高めるのかが大事だし、達成感みたいなのも大事かなと思います。

工藤:すみません、タイトルに「じっくり」という名前がついているので、意地悪な聞き方になってしまうんですけど。

:いえいえ、ぜんぜん。

工藤:とはいえ、ドーパミン的にユーザーさんのドアをノックしたくなることも、ビジネスの中ではある気もするんです。例えば広告活動とか、あるいは体験会とかも多くされていますけど、そういう中で、おっしゃっていた悪いドーパミン、際限のないドーパミンにならないように、何か気をつけていることはありますか?

:どうでしょうね。そもそも「LOVOT」は15分抱っこするとコルチゾールが出てリラックスすることがわかっていて、「LOVOT」チャージに来る人がいらっしゃるんですよね。

工藤:「LOVOT」チャージね(笑)。

:会社帰りに「LOVOT」チャージに来て、また帰られる。そもそも存在的にはあまりドーパミンではないんですよね。

工藤:オキシトシンの塊だから。

:だから、販売が楽なわけでは決してなくて、そういう意味では何か努力をしているというよりも、そこをあまりうまく使えていないとも言えるかもしれないです。

GROOVE X社のブランディング

工藤:一方で前の放送で投資家さんのお話とかも出ていましたけど、「LOVOT」の、あるいはGROOVE Xさんの、ブランディングという意味での特筆すべきポイントとして、まだ形もない時から大注目されていたところはあるのかなと思います。

まだ形もないけどアイデアのあるブランド作りを、これからされたい方もいらっしゃるかなと思うんですけど、どういう点が大切ですか?

:たぶん私どもがやってきたのは、比較的余白の提示が多かったと思うんですよね。ティザーもやらせていただきましたが、今になって思えば「確かにこれにつながるんだね」とわかるけど、当時見たら「なんだかよくわかりません」みたいな。

ただ、その時に私どもは、「これからどんなロボットが出ると思いますか」というキャンペーンをやったんですよね。みなさんにロボットを好きに書いていただいて、それを投稿いただきました。多くの方々が実際に手を動かしたし、想像力を膨らませてわくわくした。そこには余白とひと手間があったのかなとは思います。

工藤:そうか、そこにもうプロジェクションがあるわけですね。

:そうですね、それはプロジェクションの塊ですね。

工藤:それはプロジェクションという意識のもとでそういう取り組みをされたんですか?

:そうですね、言語化できていたわけではないんですけど、ずっと千利休の茶室のようなロボットを作りたいとは言っていて。言われたほうはもう、ポカーンですけど。

工藤:(笑)。そうですよね、今までのこの時間があるから僕は「あぁ~」って言いましたけど、これが出会い頭だったら「えっ?」という(笑)。

:「それはどういうロボットでしたっけ」と。そういう話はずっとしてきたので、そのへんはある程度みんな認識があったのではないかとは思いますけどね。

ものが溢れる時代の製品やサービスづくりの留意点

工藤:ちなみに先ほどおっしゃったみたいに、「LOVOT」はそもそもがプロジェクションであり、オキシトシンであると思います。一方でこの本のエピソードにも出てくる、バイク大好きとか車大好きとか。ある種車って、人によっては「LOVOT」のようなものではなく、機能的なものとして見る。

ご著書の中でも、「機能価値に振り切ったらちょっと違うかも」とか、「不便なんだけど愛すべきもの」とか、そういうお話があったと思うんです。いわゆるオキシトシンもあればドーパミン的なものもある。

世にいっぱいプロダクトが蔓延っている時に、林さんがプロジェクトオーナーだったら、今提言されている問題、「ドーパミン漬けにしてはいかん」で言うと、どんなところが力点になってくるんですかね?

:そうですね、例えばすごく大事なテーマとして、どうやってみんなで幸せになるのかがあると思うんですよね。

工藤:なるほど。

:SDGsの次に来るのはウェルビーイングだと思っていて。ウェルビーイングはフワッとした、理解もしにくいテーマです。ただ、ここに対してどれだけ真摯に取り組んでいるのかは、僕はすごく大事なポイントになると思うんですよね。

今までの価値観とはちょっと違う文脈を持ってこなければいけない。それをみんなで作っている、そこに自分も参加できているという思いは大事。それができている企業のほうがいいよねという流れが、もうすでにSDGsの時にあると思うんですけど、今度のウェルビーイングは、僕だったらすごく意識すると思います。

なぜ消費者が「どれでもいいじゃん」になるのか?

工藤:一方で、ウェルビーイングとはちょっと違いますけど、著書の中でSDGsに思いっきり反する車がいてほしかったりする、みたいな話もあったじゃないですか。

:えぇ、ありますね。

工藤:そこで言うと、今は社会正義として反するようなことは認めるべきものではないと思うんですけど、一方でプロジェクションは、外から見ると、もしかしたら心の安全だったり、精神的豊かさを個々のブランドが求めていくと、作り手は一般倫理とは違うような視点も、何か考えないといけない点が出てくるんですかね?

:そうですね、1つ言えるのは、プロジェクションするためにはプロジェクションする器が必要です。

工藤:そうか、映し出す場所が。

:そう、映し出す場所が必要です。自分たちはこういうものを映し出すのは比較的みなさんにとって、「コンファタブルな会社ですよ」とか「プロダクトですよ」とわかりやすいほうがいいとは思うんですよね。

例えば、自動車でも必ずしも燃費性能だけではないものは、僕も未だにすごく興味があるし、好きです。じゃあ彼らが邪悪なのかといったら決してそうではなくて、違う価値観から見ると、操縦者との感性のやり取りという意味で、ものすごくピュアです。

それって、例えば音楽を鳴らす時にわざわざオーケストラを呼ぶのか、「単にスマホで聞けばいいじゃん」の違いみたいなものです。完全に効率だけ、エネルギー消費だけで見ていけばスマホで聞いたほうが安いんだけど、そういうものではないと思うんですよね。

なので自分たちが大事にしている価値観が何で、いかにそこに余白を持たせるか、という気がしますね。

工藤:違和感で重ねると、たぶんぜんぜん感じ方が違いますよね。けれど、その違和感がない人にとっては、「どれでもいいじゃん」になる。

:そうですね。

工藤:めちゃくちゃおもしろい、ありがとうございます。

ユーザーの期待値コントロール

もう1個、これは「LOVOT」さん的には「そういうことではないよ」というところもあるかもしれませんが、世のブランド作りの人たちの参考として、当然いろんなセンスは、輝かしく見えている点に入っていると思います。

いろんな最先端テクノロジーがあるからでもあると思うんですけど、めちゃくちゃ高級商材ではあるじゃないですか。それをわかった上でご購入されて満足されているユーザー、オーナーさんがたくさんいらっしゃる。価格は常に検討項目の中にあるのかなと思うんですが、林さんはいかがですか?

:そうですね、正直売りやすい売り方はしていないと思うんですね。なぜかというと、初期費用だけならまだしも、月額がかかるんですよね。この月額を「最初から覚悟せよ」という売り方は、まぁまぁしんどいです。

じゃあなぜ月額を設定しているかというと、「LOVOT」は1万点以上の部品から成り立つのでメンテナンスがまぁまぁ大変です。月額を抑えれば抑えるほど、いざという時の負担がすごく大きくなってしまうんですね。

結局、買っていただいても、いざという時にすごくびっくりするような請求が来る。しかもそれが1回だけではなくて2回、3回あった日には、やはりそのユーザー体験はだいぶつらくなるのではないか。そう考えると、そこを抑えて月額をいただいたほうがいいな、となったんですけど、これは売りにくいんですよね。

工藤:はいはい(笑)。

:これって結局、期待値コントロールの問題だと思うんですよね。買いやすかったけど、結果として裏切られたと感じられるのか。買いにくかったけど、結果として満足いったのか。買いやすくすればするほど、意外とその満足度は下がってしまう面はあると思うので、ここはバランスかなとは思いますね。

なので、満足度を上げたければ価格を上げて買いにくくするんだけれどもサービスも上げる、ということがあるけど、ビジネス上本当にどこがいいのかは、商材特性による気はします。

工藤:もう、今月は埋まっていて来月も再来月も、という状況ですもんね。

:そうですね。

工藤:ありがとうございます。

幸せを追いかけるために必要な分解

工藤:この「LOVOT」のオーナーさん向けの情報もそうですけど、本当にいろんな意味で、今日みたいなお話を、いろんなところで林さんからうかがえるといいと思います。マーケターの方もそうだし、最後におっしゃったように、決してマーケティング上、「あぁ、こうやればいいのね」ではぜんぜんないと思うんですよ。

だからこそ冒頭から言われている、分解して考える。「分解して考える」という単語だけ切り取ると、それこそすごく冷たく見えるんだけど、実は幸せを追いかけるために必要な分解です。

その幸せを失わずに考えるにはどうすればいいかと、それこそ価格の話も、デザインの話も、もしかしたら電池性能とか、そういうところも日々いろんなレイヤーで全部見られているが故にこのブランドがあるんだなと、今日お話をうかがってすごく思いました。

:ありがとうございます。

工藤:愛の話も書かれていましたけど、まさにそういう愛のあるブランディングをみんなで考えていけるようになれば、もっとおもしろくなるなと思いました。今日は本当にいろんなお話をうかがえて感無量でございます。

:今後ともよろしくお願いします。

工藤:よろしくお願いします。最後に何か告知等がございましたら。

:はい。先ほどから出ている『温かいテクノロジー』ですね。この本は2年かけて書きました。おすすめポイントは、最新のChatGPTの話も含めて理系ではない方、非エンジニアの方に対して、極力わかりやすく書かせていただいたこと。

工藤:そこは僕が太鼓判を押しますよ。

:ありがとうございます(笑)。

工藤:ド文系がめちゃくちゃわかりやすく拝読させていただいたので。

:非エンジニアの方も含めて、みんなで未来を作っていこうよ、という提言の本です。テクノロジーは、決してエンジニア任せではない。なので、この潮流をぜひ日本から発信して、世界を幸せに、平和にしたいです。

工藤:なるほど。

:テクノロジーの平和利用は、全消費者が責任を負っている。全消費者の消費行動によって選ばれるものですよね。

工藤:そうですよね。この本は、もっといろいろ書きたいことがあったのをギュッとしたのかなと想像するんです。

:まさに(笑)。

工藤:今おっしゃっていただいた消費論だけでも1冊になりそうなぐらい、めっちゃ濃厚な話がギュッと入っているので、マーケター視点でも勉強になる部分があると思うので、ぜひご覧になっていただければと思います。長時間お付き合いをいただきました。本日のゲストはGROOVE X代表の林さんでした。林さん、ありがとうございました。

:どうもありがとうございました。

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