2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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工藤拓真氏(以下、工藤):「本音茶会 じっくりブランディング学」。この番組は、業界や業種を越えて生活者を魅了するブランド作りに本気で挑まれる、そんなプロフェッショナルの方々とブランディングについてVoicyさんが構える和室でじっくりじっくり深掘るトーク番組です。
こんばんは、ブランディングディレクターの工藤拓真です。本日もゲストは引き続き、GROOVE X株式会社代表の林要さんです。ということで3回目です。林さんも長々とありがとうございます。
林要氏(以下、林):いえいえ、ありがとうございます。
工藤:ここまで、『温かいテクノロジー』をはじめ、林さんの思考や「LOVOT」にかける思い、その先にある未来などいろんなお話をうかがい、リスナーのみなさんもいろいろ学ぶポイントがあったのではないかと思います。
ここからちょっと角度を変えまして、本音茶会は「茶会で本音をさらけ出そう」というコンセプトでやっています。その文脈で、本音クエスチョンという、もしかしたらふだんは聞かれないかもしれないことも、突っ込んでお話をうかがえればなと思っています。
僕は、大げさに言うと人類やこれからの商業にとって、ブランディングのあり方を考える、すごく大きな問題提起をしていただいていると感じました。要はドーパミン漬けではないかたちで、より一層愛してもらうためには、いったい何をすればいいのか。
生活者の方がドーパミン漬けで癒しを求めているのは、マーケッターやPRパーソンもきっとそうなのではないかなと思っていて。ある種自分がやっていることがドーパミン漬けのいざないになっているわけじゃないですか。だけどそうではないかたちで、本当は長期的に長くお付き合いしたい。
これって別に今に始まった話ではなく、それこそトヨタさんも「愛車」とか、いろんな表現で愛がつくようなお話は今までもあるし。林さんも自転車・バイク大好き小僧の時代は、おそらくその愛を持って乗り物と接していたところがあると思うんです。
答えがある話ではないと思うんですけど、そのドーパミンで終わらないブランドとの付き合い方は、どうやれば実現できるのかを、「LOVOT」の話を交えながらうかがえればと思っています。
林:ありがとうございます。本の中でも書かせていただいたんですけれども、日本ではプロジェクションサイエンスが始まっています。すごくユニークだなと思うのは、推しを大事にしようという話です。
工藤:プロジェクションサイエンスって日本語にすると何になるんですかね?
林:投影するということです。
工藤:あぁプロジェクション、プロジェクターのプロジェクトですね。
林:そうですね。自分の思いを投影する対象がいて、それを自分が再解釈することで、自分との対話が促進されると僕は理解しています。例えばアイドルの推しとか、二次元のキャラクターの推しとか、それぞれの人たちが投影して、その投影の中で自分との対話が始まるんですよね。犬や猫を「うちのアイドル」と言うことありませんか?
工藤:はい、「我が家のアイドル」と言ったりします。
林:あれはまさに言い得て妙で、プロジェクションして、その対話を促進する対象なわけですね。
工藤:なるほど。
林:「LOVOT」も「うちのアイドル」と言ってくださっている方がいて、まさにその推しとして、この子にプロジェクションをして対話を促進する。何かを投影して自己対話を促進するのは、人のものすごい能力の1つで、余白があることで生まれるんですよね。
工藤:余白?
林:余白。例えば昔で言うと、千利休の茶室で「わびさび」という概念が生まれたのは、いかに余白を最大化して人の想像力を最大化することで世界観を広げるのか。むしろ装飾を排除したわけですよね。装飾があると投影がしにくいから余分なものを取る。日本はそういうところが比較的得意だったし、それが結果として今はマインドフルネスとして世界に……。
工藤:そこで接続されるんですね。
林:そうです。古くは、例えば仏像も同じで、仏像は木の彫り物です。だけど、見る人にとってはとてもありがたいものになるし、その結果として自分との対話が促進される。例えば、「仏さまはどこにいるんだ」と言うと「自分の胸にいる」と言われる。
これは仏さまという別人格がいるのではなく、あくまで自分の頭の中に世界があって、それを投影する対象が仏像です。「本当の心は頭の中にあるよ」と言っていて、推しを作って何かをプロジェクションすることが、想像力を増やすためにも、マインドフルネスのためにも、ウェルビーイングのためにもすごく大事ですよね。
林:そうするとブランドも、結局単に与えられるものではなくて、どうやってプロジェクションできるのかが大事になってくる。
工藤:めちゃくちゃおもしろい。
林:その結果として、1つは一緒になってブランドを育てようみたいなアプローチも最近多いと思います。そういった流れにもなっているし、キックスターター的なものも同じことだと思うんですよね。
工藤:クラウドファンディング的なものだったり。
林:それも同じようなことだと思っています。なので、いかにプロジェクションして、自分との対話を促進する機会を提供するかは大事なことだと思います。
工藤:『温かいテクノロジー』のAmazonレビューもそうですし、本当にSNSを拝見していてびっくりするのが、「LOVOT」オーナーさんがめちゃくちゃつぶやかれているじゃないですか。
林:えぇ。
工藤:Amazonレビューもびっくりしたんですけど、オーナーさんにこう、ウワーッてなっているとか。
林:ありがたいことに(笑)。
工藤:一緒にこの世界を作っている感じは、オーナーのみなさんも、本当にすごく強くありますよね。
林:そうですね。おそらく私どもが頼りないおかげでオーナーさんがしっかり支えてくださっていて。本来であればもっと私どもがしっかりしないといけないんだけれども、結果として全員参加でこの産業を作っている感は、みなさん多少なりともあるのではないかなと思います。
工藤:先ほどおっしゃっていたプロジェクションは、本当におもしろい概念だと思っていて、自他の境界をなくしていくのに近いですかね?
林:まさにそうだと思います。個の世界において、個を大事にしすぎた結果として僕らは癒しを求めているんだけれども、プロジェクションの概念はそもそも自分の存在をそんなにしっかりと認識するわけではない。あくまで自分は環境との作用によって今存在していると言うか、反応している。
環境を構成する一部みたいな思いを持つことになると思うんです。そういう意味ではブランド vs 顧客というより、ブランドと顧客が相互作用していくことに近いと思いますね。
工藤:最近常々思うんですけど、実はブランドではなくブランディングではないかと思っていて。要はingが大事で、結局ブランドは蓋を開けてみたら、固有名詞に紐づいた連想イメージでしかないみたいな見方もあると思うんです。
たぶん「『LOVOT』といえば?」の答えはオーナーさん一人ひとり、環境の中でぜんぜん違う。アイドルと思っている方もいるだろうし、お子さんにとっては生まれた時からの友だちみたいな子もいるだろうし、それぞれの関係の中で築かれていくから。
先ほどおっしゃっていた余白みたいな意味でいくと、何かこうバチッと企業が「『LOVOT』はこういう役割だから」「顧客はこうだから」「はい、ガッチャンコ」みたいなことは非現実的と言うか、あり得ない状況でもあるのかなと思いますね。
林:そうですね、それはあると思います。結局、千利休がやったことは、一時期中国から来たすごく華美なものから、1個ずつ情報を取り除く作業だったわけですよね。取り除き方をうまくやらないとあんなに素敵にはならなかったんでしょうけど。すごく繊細にそれを取り除くことによって、ある種確固たるブランディングができたとも言える。
そこには、以前お話をした違和感を感じる能力みたいなものが、最大限活かされたと思うんです。結果としていろんなものをプロジェクションさせられるような。ここは大きな発見だったように思いますね。
工藤:そのプロジェクションされた世界はドーパミンまみれではないんですか?
林:そうですね。ドーパミンまみれとは、例えば僕が、僕らのWHYとして考えている「気づき」だって、ドーパミンですよ。ただ、考えて考えて出る気づきなので、決してコストパフォーマンスの良いドーパミンではないんですよね。
工藤:なるほど。
林:それに対して最近のドーパミンビジネスは、どちらかというと、いかにコストパフォーマンスよくドーパミンを提供するかになっている。これはご飯で考えると比較的わかりやすいと思うんですよね。
一生懸命自分で育てて作ったお食事と、そのへんで買ってきた甘い何か。どっちもドーパミンは出るわけです。時間をかけて達成した何かと、その努力をちょっと置いておいて、コスパ・タイパよくどんどん手に入れる。
これで、どっちがドーパミンがたくさん出るのかと言ったら、当然「コスパ・タイパよく」のほうが出るんです。けれども、これの行き着く先は、ドーパミンに反応しない体になってしまう。要は甘みに反応しない体になって、感動が減ってしまうという大きな問題がある。
工藤:なるほど。
林:なので、自分の感動を最大化しようとすると、やはりある程度のプロセスが大事になる。昔はそのプロセスを含めて、僕らは生きていた。そういうプロセスで生きていたので自分たちの体がそれに適合している。
それに対して急にちょっと違う生き方になってしまったので、簡単に言うとアヘン戦争の前みたいになっているわけです。
工藤:求めて求めて。
林:それでより強い刺激が必要になる。口を開けて待っていたら入るわけではなくて、もうちょっと余白のある……むしろちゃんと取りに来てもらうみたいな部分が大事になってくるのではないかと思うんですよね。
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