問いを立て、磨くためのポイント

工藤拓真氏(以下、工藤):この本(『温かいテクノロジー』)を読んでいると、林さんの問いの立て方と、その問いの答えの中で、「あれ、ちょっとこっちかな」と新たな問いが出る。問いを追い続ける旅みたいなことができて、すごくおもしろいと思いながら読んでいます。

『イシューからはじめよ』で安宅さんが言っている「イシューが大事だ」とか、『WHYから始めよ』もある種、「なぜ」を持つという意味では近いと思うんですけど。林さんははたから見るとその能力がすごい。なぜかと言うと……これは良い意味でですけど、この本は冒頭から「林さん、めっちゃぶっ飛んでいるぞ」から始まるんですよ。

林要氏(以下、林):そうですか?

工藤:「まずメーヴェを作りたい」という話から入っていって。これは当時中学、高校時代ですよね?

:中学ですね。

工藤:「なぜくるくる回りながら落ちるのか」という問いから始まって、「12キログラムに抑えるためには何が必要か」って。10代前半でそういう問いを立てられるところが素晴らしいと思うんですけど、その問いを立てる習慣とか問いを磨くための方法で、リスナーのみなさんに届けられるものはありますか?

:そうですね、このプロセスで大事だと思うのは、一時期ちょっと流行って今は下火になってしまいましたけど、デザインシンキングですね。あのプロセスにちょっと近いところがあります。

何か思いついた時にプロトタイプをシンプルに作ってみること。シンプルに作るプロトタイプとは、付箋紙とセロテープで作るみたいな勢いですね。

工藤:おー、なるほど。

:身の回りのもので簡単に試してみる。それによってびっくりするぐらい自分の見込みが違っていることがわかるんですよね。ちょっと試したり、ちょっと調べると、自分の愚かさに比較的早いタイミングで気づけます。気づくとこれまたおもしろくて、「あっ、違った」と次にいくんですよね。

なので、ほんの小さなことでいいので、仮説を作ることだと思います。大きな仮説を作ろうと思うと大変なので、とにかく小さな仮説を作る。小さな仮説をちょっとずつ検証するだけで、聞いたことに常に疑問を持つようになるし、それを確かめたくなる。

「あの人がああ言っていたよ」で終わらなくなる。「あの人がああ言っていたのは本当かな」と調べて「うわ、本当だ。やっぱりすごいわ」となったり、逆になることもあるので、小さな仮説をいかに持ち続けられるかは大切かもしれないです。

クリエイティブやマーケティングのプロが持つ「些細な違和感」

工藤:おもしろい。不気味の谷の話とか、あと「LOVOT」に口をつけたらどうかとか、そういうお話もこの本の中に載っていました。これはちょっと違う文脈で紹介されていましたけど、その時も些細な違和感に近い感覚ですか?

:そうですね。僕は、些細な違和感は、プロをプロたらしめる最も大事なものだと思うんですよね。

工藤:どういうことですか?

:例えば、弊社のクリエイティブチームは、やはり「LOVOT」のほんのわずかな些細な振る舞いとか声の違和感を、僕よりもよく見つけるわけです。それが見つけられるから彼らはプロだと思うんです。

工藤:なるほど。

:おそらくクリエイティブの人たちも一緒だし、マーケティングの人たちも一緒。「こんなもんじゃない?」に対してどれだけ違和感を多く感じるかがプロの証左だと思うんです。

その違和感の正体を、自分の専門領域だけは追うことができるけど、専門じゃない領域も素人なりに追うのはまぁまぁ大事な気がしていて、その結果として広がるわけですね。正直私はどちらかというと、空気の流れはまぁまぁ専門家ですけど。

工藤:(笑)。はい、自動車の空気の流れ。

:どちらかというと、レーシングカーを速くするほうが得意で、ロボットを作るのは決して得意な分野ではないんですよね。

工藤:そうなんですね。

:だけど、素人でもどんどん深掘りして広げていく中で、むしろその前提をつなげることはできたのかもしれなくて。「なぜロボットって飽きられるんだろう」とか、「飽きるってどういう仕組みなんだろう」とか、「そもそもなぜ人は飽きるようなロボットを買うんだろう」とか、そういった細かい違和感を1個1個分解していったのが、「LOVOT」ができた理由かもしれないですね。

問題が解けないのは、その問題が分解されていないだけ

工藤:この本、異常な解像度だなと思って拝読していたんですよ。

:ありがとうございます。

工藤:解像度が高いと当然違和感を感じるし、メッシュが細かくなって拾えるところも多くなるのかもしれないですね。

:そうですね、解像度はなぜ高くなるかというと、高くないと実行できないからです。

工藤:なるほど。

:おもしろいのは、才能のある人が1人で仕事をすると、解像度はあまりいらない場合もあるわけですよ。

工藤:えっ、どういうことですか?

:例えば1人でロボットを作る時は、その人の中では何かイメージがあるのかもしれない。それを形にしたり振る舞いにしたりもできる。その作品もすばらしい。だけど、それが人に説明できるかと言ったら、できなかったりするわけですね。

工藤:なるほど。

:ややアーティスティックな感じで。集団で作ろうとすると、「なぜ」と問いがいっぱい来るわけですよ。

工藤:困ってしまいますよね(笑)。

:困ってしまう(笑)。それで「えぇっ!? そういうものじゃないの!?」みたいな、ちょっと雑な返し方をしたくなるんだけど、そこは全部打ち返せないといけない。そうなると、「そう言われてみればどうしてなんだろう」となるので、どうやっても解像度が高くなるんですよね。

工藤:なるほど。

:なので、問題が解けない時は、僕はその問題が分解されていないだけだと思うんです。

工藤:なるほど。

:すべての問題は解けるんだけど、十分に分解されていないから解けない。なので、解けない問題に当たったら、誰かのせいにしても進まないのでとにかく分解する。分解しても分解しても解けない時にはもっと分解していくと、いつか解けるようになる。

素人が「LOVOT」というロボットを作るようになる過程で、ひたすら分解した結果がこの本なのかもしれないです。

投資家へのプレゼンで磨かれた分解力

工藤:先ほどおっしゃったように、1人だとたぶんその過程もなくできてしまう。一方で傍目から見ると、例えば林さんのように分解できる人と一緒に動くチームのみんなは、分解魔の林さんとともに働けるようになっていくんですか?

:やはり対話をしていけば、みんな「あぁ」ってなるわけですよね。

工藤:なるほど。

:話していくうちに、そのうち分解はできます。そう言われて思い出したのが、投資家との対話も大事です。最初は僕はバックリとイメージを持っていて、投資家にお金を出してもらうためにプレゼンをしても、十中八九断られるわけです。なぜなら、この製品はドーパミンも出ないし、生産性も上げないから。

工藤:ドーパミンが出ない(笑)。

:「ドーパミンも出なくて生産性も上げなくて、事業になるんですか」と言われると、なかなか類例がないわけですね。十中八九断られるんだけど、その八九の断られるものに対して答えられない自分を発見すると、やはりそれは分解の対象ですよね。

工藤:なるほど。

:そのすべてのリジェクトに対して、次に投資家に会う日まで……だいたい翌日とかですけど、ちゃんと分解して解を持っていかないとお金が集まらないので、そういう1,000本ノックはすごく効いた気がします。

プロが感じる違和感の具体例

工藤:すごい。そうか、そういうことですか。先ほどのプロの違和感の話と、問いを分解する話のところで、逆に言うと、林さんからするとちょっと追いつかないようなクリエイティブを持ったチームがいるじゃないですか。彼らの違和感にある種委ねるみたいなことが発生しているのかなと思うんですけど。

:ぜんぜんありますね。

工藤:例えば林さんも気づかないその違和感は、具体的にはどんなことがありますか?

:そうですね、どちらかというと僕は常にお客さん目線です。なので「いや、これはこういう構成だからこうにしかならないけど、その中で最高のものを作る」のが専門家です。

なので「LOVOT」の振る舞いの中で、「自然に抱っこをねだってよ」と僕は言えるんだけど、その「自然」の定義は僕にはできない。そこを分解して、「自然とはこういうものです」と決めるのは、そのクリエイターたちになる。

工藤:なるほど。

:だけど、そもそも抱っこをねだるべきかどうかは意外と僕が決めていたりします。人はこういうコミュニケーションをするし、「LOVOT」は進化の過程で「こう進化するはずである」「そうすると、その生き物とこの存在がクロスした時にはこう動くであろう」みたいなことを僕は考えたりするので、そういうコンビネーションになりますね。

工藤:おもしろい。問いの連なりがもう、そのチームのかたちになっているんですね。

:そうですね。

「テクノロジーはどこに向かうべきか」への解

工藤:めちゃくちゃおもしろい。『ドラえもん』の話だったり、ほかにもいろいろと聞きたいトピックでいっぱいですけど、時間もないので最後におうかがいしたいのは、(『温かいテクノロジー』は)めちゃくちゃ印象的な終わり方をされると思うんですよね。

:ありがとうございます。

工藤:「昔々の反対、未来未来の話」。ここにはどんな思いが込められていますか?

:この最後については、「けっこう感動しました」と言っていただくんですけど、本を読んでいない方はこの最後だけ読まないでくださいね(笑)。

工藤:確かにそうですね(笑)。

:ちゃんと最初から読んでいただかないと最後が伝わらないんですけど、大事なポイントがまさに『WHYから始めよ!』です。ある種途中で「僕は何をやるべきなのか」に気づかされた部分ですよね。

結局、生産性の向上でもドーパミンでもない存在は、何をするために生まれたのかと言うと、人の成長を助けるためです。人の日々に潤いを与え、その人が元気になって、より良い明日が来ると信じられる。

人の成長を助けるためのロボットとも言える。ここに長年僕が持っていた疑問、「テクノロジーはいったいどこに向かうべきなのか」への解があったんですよね。その良い例として僕が見つけたのが『ドラえもん』です。最初からすごく『ドラえもん』が作りたかったわけではなくて。

工藤:そうですか。

:そういう意味では、『ドラえもん』はある種メタファーとして、僕も途中で「あっ、そんなすごいロボットだったんだ」と気づいた。

工藤:そうだったんですね。

<h2「気づきの最大化」をするためのライフコーチ

:しかも、『ドラえもん』といえば四次元ポケットだと思っていたのに、「それは別にAmazonとか楽天でよかったわ」と。それ以外のあのポンコツ部分が、実は人類の未来を決める大事なキーだったと気づいたんですよね。例えば、最近で言うと資本主義の限界とか民主主義の限界は、みんな気にしているポイントですよね。

資本主義の最大の問題は、指数関数的な富の配分が行われてしまうことにあって、二極化してしまう。この二極化は誰にとっても不幸で、勝ち組にとっても、社会が不安定になることは決して良いことではない。

冒頭に申し上げたとおり、この二極化が起きて、みんな余った時間をどうやってドーパミンで埋めるかを考えているだけです。これってどれだけ意味があることなんだろうと考えた時に、SDGsの観点を入れると、人はこれ以上消費に頼ってドーパミンを出してはいけないと気づくわけですね。

そうすると、僕らは消費に頼らず、より良い明日が来ることを信じられる社会を作らないといけない。それはどうすればいいかと考えると、結局僕は、気づきの最大化に行き着いたんですよね。

工藤:気づきの最大化?

:気づきの最大化。僕らはほかの動物と違って学習する生き物です。この学習能力を活かすためにあらゆる性質が決まっている。学習をして何かに気づくと、誰しも快感を得るようにできている。その快感を積み重ねていくことで僕らは成長できているし、自信もつく。

この気づきの最大化は、能力とか時代に合っているとかにかかわらず、みんなが持てることです。気づきの最大化が全員できていれば、過剰な消費をする必要もないし、全員ハッピーな上に人類の生産性も上がるんです。

だけど、この気づきの最大化をするためには、ライフコーチが必要です。そのライフコーチこそが四次元ポケットは必要ない『ドラえもん』。それで、『ドラえもん』を作ることが、テクノロジーの最終ゴールの1つだなと気づいたのが、この最終章に書いてあることですね。

全員が幸せになる道がある

工藤:いやぁ、すばらしい話です。林さんが強調されているのは、それが唯一の答えではないということですよね。

:そうですね。テクノロジーの中の1つのゴールだけれども、少なくとも僕らにとってのWHYであるのは間違いない。それともう1つは、僕らは全員が幸せになる道があるんです。誰かを切り捨てないといけないわけでもない。

これも「LOVOT」を作っている時に気づいたことですけど、結局進化の過程においてその時代性にたまたまマッチした人がいたとして、その人は自分でものすごく努力したし、ものすごくいろんな運にも恵まれたし、結果的に成功したと思っているんですけど、その人が生まれる背景には、バリエーションがものすごくたくさん生まれているわけですよね。

いろんな人が生まれた結果の、たまたま1つの形質としてその人が生まれています。じゃあそれ以外の形質の人たちは無駄なのかといったらぜんぜんそんなことはなくて、その人たちのおかげで、ある成功した人がいるんだから、全員が等しく、成功した人と同じように幸せになるべきです。

そう考えると、やはり集団としてどうやって全員で幸せになるのかを考えた時に、みんながより良い明日が来るようにテクノロジーがサポートする。なるべくコスパよくドーパミンを出すこととは決して違う。これが僕らが最終的に実現したいことですね。

工藤:いやぁ、めちゃくちゃすばらしいお話ありがとうございます。こんなすばらしい話がいったいブランディングとどう接続するんだよと思っている方もいらっしゃると思いますが、僕はこれがめちゃくちゃ大事だと思っていて。

ここで一度切らせていただいて、今のお話と、ブランディングや「LOVOT」の事業の話の接続を、次の放送で深掘りさせていただければと思います。ということで、本日のゲストは林要さんでした。ありがとうございました。

:ありがとうございました。