2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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西村真理子氏(以下、西村):では、ただいまより開始したいと思います。改めまして、みなさまご来場いただきましてありがとうございます。
I.C.E. Creative Loungeですね。「カンヌはどう進化した? 変わりゆくクリエイティブの意義」ということで、非常に豪華なゲスト4名を迎えて、ただいまより9時までセッションを行い、その後、懇親会へと流れていきたいと思います。
私は、本日のモデレーターを務めさせていただきますHEART CATCHの西村と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
(会場拍手)
さて、豪華なゲストにはどういう方々がいらっしゃるかというところで、まずご紹介したいのが、電通の尾上さんです。尾上さん、どうぞよろしくお願いいたします。
尾上永晃氏(以下、尾上):よろしくお願いします。
(会場拍手)
西村:尾上さんは今回審査員として(参加された)。
尾上:そうですね。今年できたSocial&Influencer部門の審査員をやらせていただきました。
西村:尾上さん自身、今までにカンヌへ行ったご経験は?
尾上:今回で4回目です。
西村:4回目なんですね。4年連続という感じですか?
尾上:3年連続で。
西村:3年連続で。では、ちょっと1回飛びがあって、というような。
尾上:はい、1回抜かして。よろしくお願いします。
(会場拍手)
西村:次ですね。アクセンチュアの望月さん。よろしくお願いいたします。
望月良太氏(以下、望月):望月と申します。よろしくお願いします。
(会場拍手)
西村:望月さんは初カンヌですか?
望月:プライベートでは20年前に1回行ったことがあるんですけれど(笑)。
西村:20年前(に行っていた)とはすごいですね。
望月:ビジネスというか、この件では初めてです。
西村:なるほど。今回は審査員で参加されたということですね。(参加されたのは)どの部門か教えていただいてもいいですか?
望月:Creative Data部門という、確か4年くらい前に新設された部門の審査員をさせていただきました。よろしくお願いします。
(会場拍手)
西村:続きまして、資生堂の小助川さん。よろしくお願いいたします。
小助川雅人氏(以下、小助川):資生堂の小助川と申します。よろしくお願いします。
(会場拍手)
小助川:カンヌへは、2000年に1回行っているんですよ。それは仕事なんですが、それから2016年、1年おいて今年という3回目です。
西村:了解です。今回は審査員で(参加されたんですね)。
小助川:そうですね。Film Craftと言いまして、FilmとFilmの中のそれぞれの技術というか、それを審査する部門で行ってまいりました。
西村:今日はそのFilmもご紹介いただけるとのことで、楽しみにしています。
小助川:そうですね。
西村:よろしくお願いいたします。
(会場拍手)
西村:ゲストの4人目は、ワントゥーテンデザインの小川さんです。よろしくお願いします。
小川丈人氏(以下、小川):小川です。よろしくお願いします。
(会場拍手)
西村:小川さんは、この中では一番カンヌ歴が長いということですよね。何年連続でしたっけ。
小川:8年間連続で。2011年から参加させていただいております。
西村:すごい。ちなみに、この会場の中で「俺はもうちょっと行っている。9年連続だ」という方はいらっしゃいますか? そんな猛者さんは? なかなかいないですよね。ということは、ここのところの流れでは、やっぱり小川さんが一番トレンドをご存知なのかなと思います。
小川:いやいや(笑)。
西村:今回はいろんな変化があったところをご紹介いただけるということで。
小川:のちほどお話しさせていただきます。
西村:よろしくお願いいたします。
(会場拍手)
ということで、この非常に豪華な4名のゲストと進めていこうと思います。私は、HEART CATCHという会社を持っています。ビジネスとクリエイティブとテクノロジーを繋ぐ「分野を越境するプロデューサー」というかたちで紹介させていただいています。
私自身も本当に今まで繋がりのなかった領域を繋げていくというような、ポリネーター、あるいはカタリストというような仕事をさせていただいております。
私が今ハマっているのがアートシンキングです。デザインシンキングの前段階でイノベーションを起こすために、起業家のマインド・モチベーションを上げるアート思考プログラムという講義があって、カンヌの2週間くらい前にフランスで受けてきました。今それを日本に展開しようと目論んでいる人間です。
カンヌとの関わりで言うと、そのHEART CATCHを起ち上げる前に、バスキュールというクリエイティブの会社にいて、その際に関わったプロジェクトで、カンヌのゴールドを取らせていただきました。
ソーシャルとテレビを繋げるような番組で、新しいデジタルの可能性と、テレビの可能性を拡張するという内容で、カンヌで受賞しています。ただ、私自身はカンヌへ行ったことがないので、カンヌライオンズに関わらせてもらうことに非常に興味があります。
ですので、今日はどちらかというとカンヌへ行ったことのない人間として興味を持ちながらも、モデレーターとして聞いていく、という視点を持って進めていきます。
西村:それから、もう1つは、カンヌへは行ったことがないんですけれども、けっこうテック系のCESと言われてるものやSXSW(には行っています)。
CESは6年連続、SXSWは5年連続で行っていたり。フランスで3年前から始まったVivaTechにも行きました。こういうオープンイノベーションやテック系のイベントには行っているので、カンヌ以外の海外のいろんなイベントを見ている人間としての視点からもモデレートさせていただきます。
そのVivaTechが、今回のクリエイティブの質がどう変わったか、というお題にもつながっていて。カンヌが始まる1ヶ月くらい前に行った、フランスのVivaTechというカンファレンスが私の中ですごく衝撃だったんです。
どういうことかと言うと、今けっこう日本でも言われているオープンイノベーションが、大企業とスタートアップが一緒にコラボレーションするための座組みというのはご存知だと思います。
フランスのVivaTechは、大企業も複数いるし、スタートアップも複数いるという状況でやっていて、非常にダイナミズムを感じてまいりましたと。
ここからカンヌに近付いてくるんですけれども、このVivaTechという、(エマニュエル・)マクロン大統領も登壇するような、国としても非常に力を入れているイベントを主催しているのがPublicisという世界大手の広告代理店と、フランスの経済紙のLes Echosというところなんですね。
私はカンヌへ行ったことがないけれど、憧れでいつか行きたいなと思っているところで、ぐさっとくさびが打たれたのが、昨年のPublicisの発表です。あとで小川さんの話もあると思います。
Publicisは今まで広告代理店として当たり前のように、カンヌを目指していました。でも、これが昨年11月の記事で(スライドを指して)「Publicis Groupe salutes」というのは、要はカンヌから離れるということを言っていて。「2018年はいったんカンヌから離れて2019年から戻ってくるよ」という話を発表しました。
そこで何が起こっているんだと。今まで大手の代理店やクリエイティブの方々がカンヌを目指すのは当たり前だと思っていたのに、どうも「カンヌに出ないで、その代わりに人工知能を使った仕組みを作ることにお金をかけている」というので、「何が起きているんだろう」と思いました。
西村:実際、今年のVivaTechに行ったときにも、Publicisという大手代理店さんで30年くらい社長をやっていて、今は大会長になっているモーリス・レヴィという方が、Googleの持株会社Alphabetのエリック・シュミットや、Facebookのマーク・ザッカーバーグと対談をしていて。
あたかもこのPublicis大会長さんが、IT系のトップと対談し、ITの企業かのように……という言い方がいいかわからないんですけれど、セッションを回していることが非常に印象的でした。
(Publicsが)今年のカンヌに出展するお金を削減して作っている人工知能の仕組みは、Marcelというものです。これは、クライアントから案件がきたときに、Publicis Groupeで働いている人材がどういうスキルセットを持っているかを判断し、それによって適切なチームを作るというものです。人工知能がチーミングするようなものですけれども、それをこのVivaTechのタイミングで発表したんですね。
実際にはMarcelの画面などは見られなかったんですけれども、ライオニウムというその場で使えるコインを渡して、「MarcelやPublicisがVivaTechにいる」と呟いたら、そのコインがもらえるというソーシャルのキャンペーンをしていました。
非常に衝撃的だったのが、来場者の方でいっぱい呟いた方には、カンヌライオンズのアワードのトロフィーをプレゼントするということをやっていて。Publicisが非常に刺激的なことをやっているなと。
でも結果としては、Publicisは今年のカンヌでもセッションを持って、そのMarcelの話をやっていたり、エントリーもしているので、ちゃんと(カンヌへ)出ているじゃんというところもあるんですけれども。
私としては、今までずっと出ていたPublicisが、今年いったん出展を大幅にやめて、人工知能を開発していてというところもそうですし、新設されたり、なくなっている部門もあったりというところで、「今年、カンヌで何が起きていたんだろう」ということが、非常に気になっている状態です。
西村:では、ここからは実際に行ってきたみなさんが、どういう経験をしてきたのかを聞いてみたいと思っています。憧れと、何が起きているんだろうというところを、みんなと一緒に掘り下げていければと。まず最初に小川さんから、今年カンヌがどうだったのかをお話しいただきたいと思います。
小川:審査員のみなさんの深いお話を聞く前に、簡単に今年の概要等々のお話をしていきたいと思います。みなさんはもちろんご存知だと思うので、簡単に話しますと、カンヌは今年で65回目になりました。60回目となる2013年にものすごく(規模の)大きいカンヌが開かれて、それから5年経っても毎年1万5千人くらいは参加をしています。
そう考えると、さっきいろんなセッション(の紹介)がありましたけれど、参加人数で比べたらカンヌのほうがぜんぜん小さいですね。
西村:でも、けっこう質が濃いというか。クリエイティブ業界に特化している方々が集まっていて、人数というよりも深い話が行われているのかなと思いますね。
小川:確かに。ありがとうございます。カンヌの歴史的な流れですね。ちょっとまとめたところ、2008年くらいから、ものすごい勢いでカテゴリーがどんどん増えてきています。
2014年~2016年はライオンズヘルス、イノベーション、エンターテインメントというように、サブイベントのようなかたちへどんどん成長してきているんですけれども、2017年にその増幅傾向をやめまして。
そして、2018年にトランスフォーメーションをしなければならないという状況に陥ったのが、先ほどお話しいただいたところです。「Publicisが反乱」という書かれ方をされていますように、2018年は撤退すると。
それで、2019年には(Publicsは)戻ってきますよというお話で、この自社AIのMarcelの開発に全部を注ぎ込みますよ、と。Publicis自体はここで大きい発表をしたんですけれども、その裏で(世界)1位の(広告代理店)グループのWPPは、実は1,000人いた参加人数をこっそり500人まで大幅に削減していました。
要は、カンヌへ参加すること自体にものすごくお金がかかり過ぎているということで、この1位と2位の会社自体が参加を縮小ないしは取りやめるというような発表がありまして。(これに)カンヌサイドが即座に反応をしてまいります。
Ascentialは改革委員会を立ち上げ「カンヌを生まれ変わらせますよ」という話をして、広告主側のトップクラスのメンバーをその改革委員会の中に入れていくんですね。Burger Kingのヘッド・ブランドとか、AT&TのCBO、Heinekenのチーフとか。
小川:ユニリーバのCMOのキース・ウィードやP&Gのチーフブランドオフィサーのマーク・プリチャードは、クライアントの超重鎮ですよね。こういった方々がいろいろと協議をした結果、2018年から5つの改革が走りました。
今までサブイベントにより会期が8日間ぐらいあったんですけれども、それを月曜から金曜の5日間に短縮するようになりました。また、1つの広告コミュニケーション自体は、6個のライオンにしか応募できないと上限を定めました。
さらには、ライオンの下にものすごく細かいカテゴリーがあったんですけれど、それを大幅に削減しました。ですので、受賞数はたぶん減っていると思います。登録パスの種類も簡素化して、少し低価格化しました。
西村:(登録パスは)いくらくらいなんですか? けっこう高いですか?
小川:もともと、たぶん1人50万円くらいかかったのが、42万に(笑)。ただ、会期が短くなっているので、「1日で割ったら高くないか」という話も出ていましたね。
それから、ライオン部門自体も統廃合されまして。デジタルがもはや当たり前なのでCyberライオンが廃止になって、Integrated統合型のものも廃止になりました。追加されたのが(尾上永晃氏が)審査員をやられました、Social&InfluencerのライオンとIndustry Craft。
Industry Craftはデジタルでもなく、Filmでもなく、その他のCraftといったところですかね。あとはCreative eCommerceとSDGs(Sustainable Development Goals)ですね。この4つが追加されました。
先ほどPublicisの話もありましたが、カンヌが開催される前に、R/GAのナンバー2と言っていいニック・ローが、Publicisのグローバル・チーフ・クリエイティブ・オフィサーに引き抜かれ、ヘッドハンティングで移りました。
それからWPPのマーティン・ソレルが不正のようなものを突っ込まれて、WPPを離れるという、広告業界大激動という流れの中で開催されたカンヌだったんです。
2017年のカンヌ出品総数が4万1千点だったんですけれど、今年の出品総数は3万2,000点ということで、実は前年比マイナス21パーセントでした。運営側の収入にもけっこう大きな打撃があったと言われています。
小川:日本の受賞数が受賞リストまで含めて73ライオンでした。出品は1,055だったので、入賞率がだいたい7パーセントとなっています。(スライドを指して)もう1回チャートに戻ると、横にアイコンを足したのが2011年からのTitaniumですね。(Titaniumは)業界を前に進めるというアワードで、そのTitaniumのグランプリを持ってきました。
2011年は広告という名前をやめて「クリエイティビティ」と言い切ったタイミングだったので、Titaniumにはなにが出るかなと思ったら、そのときはグランプリなしという判断になりました。
2012年にR/GAさんのNIKE+のFuelBandが出てきて、「テクノロジーの商品開発か」「これが新しい道か」というような感じになったんですけれど、2013年にカンヌ60周年の記念大会があって、リビングレジェンドの審査員委員長がだーっと並んでいる中で、『Dumbs Ways to Die(おバカな死に方)』という広告が5冠を取った。要するに広告クリエイティブで「社会を少し良くできるんだぜ」ということで。
そういうメッセージのあと、2014年に電通さんの菅野(薫)さんのテクノロジーかける熱いストーリーテリングでハートキャッチな、まさにアイルトン・セナのような感じで(『Sound of Honda / Ayrton Senna 1989』がグランプリを取りました)。
その次は絵文字のブームがちょっと遅れて出てきて、海外で絵文字でピザが頼めるというドミノピザさんのやつ(『Pizza Emoji Ordering(ピザエモジ・オーダリング」』)があって。
『Dumbs Ways to Die』以降、またソーシャル・グッドの潮流がじわじわときていたんですけれど、2016年くらいになったときに、「ブランドのビッグチャレンジを応援しようよ」という潮流が審査員の中にあったと聞いています。
アウトドアブランドREIの「#OptOutside」では、一番儲かるブラックフライデーのタイミングで全店を閉めて、「お前ら、外へ出てアウトドアを楽しめ」という話をして、ものすごく話題作りに成功したという流れがありました。
2017年の「Fearless Girl」は、金融市場における女性の経営者が少ないということで、金融市場のところに銅像を建てて話題を作っていくものでした。
小川:私は2011年から(カンヌライオンズを)拝見していて、全体の流れをまとめるには、先ほどの改革委員会の中にもいらっしゃったP&Gのマーク・プリチャードさんの話がいいかなと思ってお持ちしています。
「MASS MARKETING to MASS MATTERING」という話をマーク・プリチャードさんがされていて。2014年のセミナーで使われたフレーズが「Success in the new Golden Age」でした。広告の新しい黄金時代を作るためには、ブランドがブランドの話をしていなくても、みんながブランドの話をしてくれる(ことが大事)。
そういう状況を作るのが一番の成功に繋がるんだ、という話を彼がしていました。MASS MATTERINGは私の意訳で、「みんなごと化」と訳しました。ブランドの資産、ブランドアセットになにかをかけ合わせて、みんなが思わずしゃべりたくなったり、みんなが思わず伝えたくなったりする構造体を作る。
そうなったときに、かけ合わせる要素は複数あると思っていて、そこで今一番必要とされているのが、その社会を改善していく、前に進めていくというような流れなんだろうなと思っています。
2017年、2018年のセミナーでも、こういった話題がたくさん出てまいりました。アメリカの大統領が分断傾向にあるということだったり、ブレグジット(イギリスのEU離脱)だったり、テロや難民問題、LGBTなどの話ですね。
国連のSDGs自体は2015年に策定されていますけれども、(その後)どんどん注目率が上がって、グローバルな企業さんもすごく注目のテーマとして取り上げています。今年(カンヌに)SDGsができたのも、納得のタイミングかなという感じです。
このように、この社会的なテーマをかけ合わせることによって、ブランドをみんなごと化していく。そんな流れが、今年僕が一番感じたところかなと思っています。
西村:小川さん、ありがとうございます。
(会場拍手)
今のトレンドの流れは、トランスフォーメーションという書き方がすごく刺激的だなと思ったんですけれど、あれはカンヌの中でもそういうかたちでみなさんが語られていたんですか?
小川:審査員のお話で、今は政府自体も弱体化しているし、行政も弱体化しているから、今世の中を救えるのはスーパーパワーを持った企業だと。だからこそ、企業がそこに強く飛び出していくという意思表示をしてくれるのは、評価せざるを得ないよね、という話があったと聞きましたね。
西村:今まではカンヌの中でそこまで強い話はなかったんですかね?
小川:ソーシャル・グッドがきている潮流の頃は、どこかのローカルの課題を引っ張ってきて、そこに新しいやり方やテクノロジーをかけ合わせて救う、というものがすごくありました。今年はすごく大きなテーマに対して、本当の企業として踏み出していく勇気を評価する時代になってきたのではないかと感じています。
西村:すごい。さすが8年の積み重ねから教えていただける変化というところで、ありがとうございます。では、そのような変化のあった年なので、審査員の中でもたぶんそういうディスカッションはあったのか。もしくは、そういう変化の中でも、大切にすべきことはなんなのか、というところを審査員の3名の方にご紹介いただきたいと思います。
西村:では、ここからは資生堂の小助川さんにお願いしたいと思います。
小助川:はい。1人10分ずつということなので、手短にいきます。ちなみに、今回カンヌへ行かれた方っています?
(会場挙手)
西村:けっこういらっしゃいますね。会場の2、3割な感じ? まあまあ、いますね。
小助川:わかりました。今回Film Craftというところの審査をしてきました。私は資生堂のクリエイティブ本部というところで、クリエイティブディレクターをやっているんですけれども、最近は割とデジタルのほうもいろいろとやっていて、ブレイルネイルズという視覚障害者用のネイルで何が見えるのか? というようなことをやったりもしています。
TeleBeautyといって、テレビ会議のときにあたかもメイクアップしているように見えるものだったり。この「LOVE THE DIFFERENCES.」という資生堂の創立記念日に出したものや、社内外のコミュニケーションであったり、いろいろやってます。
今回、なんで呼ばれたかと言うと、2016年に『High School Girl?』というもの(※資生堂のメーク男子ムービー)を作りまして、これでFilmとFilm Craftの2部門でゴールドを取って、その縁で審査をやらせてもらいました。
FilmはさっきのSXSWのように、いろんな賞があると思うんですけれど、カンヌはやっぱりもともと映画祭からきているんですよね。だから、さっき望月さんが「20年前に行っている」と言っていて、ちょっとほっとしたんです。僕が2000年に行ったときは、FilmとPressというポスターくらいしかなかったんです。
でっかいホールに集まって、みんなでFilmを全部観るという体験をしていて、つまらない作品には、ものすごいブーイングなんですよ。ある意味、あれはあのときしか経験できなかった。今はもうできないですね。
だから、ちょっと残念だなあというか。そこからずっと行っていないですけれど、カンヌのものはずっと見ていました。やっぱりすごいなあと思いつつ、ふだんやっている自分のものと(比べて)どうなんだろうと、常にもやもやしながら……今でももやもやしていますけれど。そういうふうにきて、たまたま今回こういうふうに声をかけてもらったという感じです。
小助川:Craftは、12カテゴリーに分かれます。Direction、Script、Castingといったもので、犬などでもいいんです。犬が(何かを)押していたり。CinematographyやEditingといったことを1個ずつやっていくという部門です。
どういう基準でやるかというクライテリアは、事務局から出されます。なるほどなと思ったのは、Directionの際のクライテリアで、クリエイティブブリーフを想像しなさいと。それに基づいたエクスキューションとなっているだろうかと。
そういうクライテリアがあります。これは非常にわかりやすくて、今後仕事をしていく際にも、自分たちのやろうとしているものに対して、この技術はフィットしているかどうかという視点は、非常に参考になるなと思いました。
(スライドを指して)これがスケジュールです。Film Craftは一番長くて、全部で2,400(本)きたんですね。1週間まるまる窓がない部屋にこもって、ずっと(審査を)やると。毎朝8時半に出勤して、夜までやるんですが、最終日にグランプリを決めるときは、8時半から深夜3時までやっていたという過酷な審査でした。
(スライドを指して)これが審査風景で、(自分が)ものすごく気弱そうにいるという(笑)。アメリカ(人の審査員)がやっぱり一番多いです。なんでかと言うと、前年の受賞作で審査員の数が決まるらしいんですね。そういうのがあって、米英対ノンネイティブのミーディアムという感じで、ブラジル人とすごく仲良くなったり。僕はジャッジを見ていないですが、まさにそんな感じです。
さっきクライテリアがあると言ったように、その年ごとに審査委員長の方針があるんですね。今回、(審査委員長の)ダイアン・マッカーターが最初に言ったのが、Craftとはなんだ、ということを考えたときに、それはもともと籠とか、そういうものだったと思います。
もともと人間の役に立つ、単なるスキル以上のものなんだよと。まっすぐに人間の心に触れてくると。だから、とにかく技術だけが特化しているというものではなく、それがどのように感動を生み出すかという視点で考えようというような。
僕はそんなに英語が得意ではないですが、そんなことを言っていたなという感じで。でも、大きな指針としては割とわかりやすかったです。もちろんそのカテゴリーごとに見ていくんですけれど、そもそも1つの作品としての力がないと、ショートリストには残らないということがあります。
小助川:だから、ショートに残ったものを見てもらうと、けっこう同じ作品が残っているんです。1個ずつのカテゴリーで同じFilmも観るんですが、観る度に「今回は音楽」「今回はアニメーション」という視点で1個ずつそのカテゴリーを観ていくと、やっぱりぜんぜん違うんですね。
そのときに、カテゴリーごとに「このFilmはなにが強いのか」が問われます。(スライドを指して)この人がオリビエといって、マドンナの友達のようなセレブな人が、毎回「それは世界レベルか?」というような話をして進んでいく感じでした。
西村:ちょっとだけ聞いていいですか? 世界レベルの視点で見るときに、各国の審査員がいたと思うんですけれども、例えば「小助川さん、日本人としてこれはわかる?」というような審査員同士のディスカッションもあったりするんですか。
小助川:最初の3日か4日は、ほとんど(作品を)観て投票するだけなんですね。だからディスカッションはあまりないんですが、ショートリストとして選ばれたものからのディスカッションは相当濃い感じでしたね。
西村:ありがとうございます。
小助川:今年は、かなりオーソドックスな基準でした。たぶんその年の審査員の傾向によって、結果がかなり違うんだろうなと思います。そういう意味では、ものすごくクオリティの高いものがどんどん落ちていったりして。下馬評で言うとスパイク・ジョーンズの『HomePod』がそうでした。
あれがめちゃくちゃ(賞を)取るのではないかと言われていたんですけれど、Craftの場合は、1個ずつのカテゴリーで見ていくので、「じゃあなにが強いのか」と言ったときに、必ずしもそれが残らなかったということがあります。意外と水物だなと思いました。
全体的な大きな傾向で言うと、やっぱりダイバーシティだなというのは、Craftというより応募された2,400(本)の予選でも相当な数を見て、本当に思っていて。
僕は2000年にカンヌに行ったと言いましたね。そのときのグランプリが、FOXだったかな? スポーツチャンネルだったんですが。例えばロシアでビンタをしあうスポーツといった架空のスポーツで、そんな超マイナーなスポーツまでオンエアするというものだったんです。
当時は、マイノリティを笑うという欧米の文化だったんですね。翌年の2001年に、9.11(アメリカ同時多発テロ事件)が起こるんですよ。たぶん、そこからものすごく変わって。今年行って、本当に変わったなとつくづく思いました。
小助川:もう1個の傾向として、トゥルーストーリーというのがあったんですよ。ベースに本当のストーリーがあって、実話に基づいた話が多かったです。たぶん、今の実話の話で言うと資生堂もそうなんですけれど、混乱した世界の中にあって、企業やブランドにどういう存在意義があるのか、というのを求められている時代なんですね。
そうすると「創業者」「原点に立ち返ろう」というような話はすごく自然な流れで。だからだと思うんですけれど、そういった話が多かったです。今日は1本だけグランプリを紹介します。『HOPE』という赤十字が作ったものにしました。
当然、ものすごくバジェットの多い有名なFilmはいっぱいあったんですけれど、我々が夜中の3時まで議論をして、全員一致でこれにしたということがあって。ただ、それに決まった翌日に、「なんで『(Apple)HomePod』ではないんだ」というような話があったりもしたんですけれど。
ニック・ベイリーというコピーライターが言っていたのは、「400万ドルの制作費やセレブリティを使うのが傑作ではない」と。「情熱と努力と技術があれば、傑作は生まれる。そのことを私たちはこのindustryにメッセージするんだ」と。
僕のざっとした解釈なんですけれど、そんなことを言っていました。そういうことで『HOPE』が選ばれたんです。概要をちょっと説明しますと、中東の戦争で、病院や医療関係者が攻撃の対象になっているんですね。
それに対して警告、警鐘を鳴らすというものです。設定はすごくシンプルで、車の中で爆撃を受けた女の子をお父さんがずっと慰めている、元気付けているという話なんです。
これはスクリプトでもゴールドを取っていますね。さっきのコピーライターのニックと、なぜこれがいいのかという話を夜中までしていました。途中で、普通だったらお父さんは「今から病院へ行くよ」と言うところを、「今からお前が生まれたところに行くんだ」と言うんですね。
それはやっぱり「家族の幸福な想い出を娘に思い出させようとしている。それが希望であってスクリプトの力なんだ」というようなことを言っていて、「なるほど」と思いました。では、ちょっと見ていただきたいと思います。
(映像を開始)
(映像を終了)
小助川:この作品がグランプリになりました。思ったことは、プロモーションとアドバタイジングの違いということで、やっぱりブランディングをすごく大事にしているなということですね。「わかってくれる」ではなく「わからせる」という。
日本はハイコンテクストというか、みんなわかり合っているので……ちょっと省略するんですけれど。俳句と小説の違いのように、とにかく丁寧に積み重ねていくという手法です。それとタグラインの強さですね。さっき、企業の本質という話をしましたけれど、いわゆる最後のコピーがめちゃくちゃ効いているんですね。
その精度の強さのようなものはポイントでした。Craftでも、Filmというものを考えていったときに、あるいはコミュニケーションもそうだと思います。その企業やブランドの本質、存在意義などを深く考え抜いて、それをアイデアに転換するものが評価されていると感じました。
人のエモーションにどう働きかけるのか? というところが強いなと思いました。(スライドを指して)図式っぽくしたんですけれど、すごく当たり前な話です。ブランドなり企業の本質やコミュニケーション自体の目的のようなもの、それをどうアイデアにするか、それからCraftというものの三位一体が、どれだけ鮮やかに見事にできているか。
それから最終的に人のエモーションにどう結びつけられるのか、というようなことがFilmとしての強さなんだなと思いました。ちょっと長くなってしまいました。私からは以上です。
西村:ありがとうございます。
(会場拍手)
企業から消費者に伝えるメッセージで、何を伝えれば響くのかということも変わってくるのかなというのを、今の小助川さんの話を聞いていて感じました。
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