2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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司会者:ちょっとお話が戻りますけれども、先ほどはいわゆる「自社の組織活性化のために採用をする」のではなくて、「先に組織の変革する方針を決め固めてから、それに合う人を採用する」というお話だったんですけれども。やはりそうなってくると、大事になってくるのが「定着」だと思うんですよね。
いわゆる入社後、時間が経ってもよい関係を築いたままの採用というのは、どうすれば可能なのかというところなんですけれども、曽和先生、どうでしょうかね。
曽和利光氏(以下、曽和):今回は「採用力検定」のお話なので、採用の話に無理やりつなげているように聞こえるかもしれないんですけど、最近本当に思うのが、やはり入口のところ。
服部(泰宏)先生は「心理的契約」ってよく使われると思うんですけど、どういう心理的契約なのか、つまり「どんなつもりで入ってくるか」というところが、意外と10年くらい経っても残る感じがあって、私も実務家として人事をずっとやってきて、ビフォーアフターを見て思うときがあります。
なんなら今でも、例えば私が20代の新人人事をやっていた時に採用した人から、20年ぐらい経って「曽和さん、あの時ああ言って、その時にそのとおり、こんな感じにやってて」って、いまだに言われることがあるんです。「入口」における採用プロセスを通じて、それこそ最近の言葉でいったら、エンゲージメントをどう作っていくのかというのが重要なんじゃないかと思いました。
むしろそこでボタンを掛け違えていると、入社してからの後工程であれこれやって、パワーばかりかかるという。最初にかけ違えたボタンをもう1回掛け直すのは本当に一苦労で、掛け違いがなければその関係性が20年も続くわけですよね。これは1例ですけど、本当に重要だなとあらためて感じました。
曽和:採用担当者をやっていると、10年くらい会っていなくても、たまに採用に関わった方から連絡があって、飲みに行ったりすることもあるわけなんですけど、そういう時によく感じているというのがポイントですね(笑)。
問いでいうと、「どうやったら入社後月日を越えても、よい環境築ける採用ができるか」だったんですけど、そういう「心理的契約」を単純にお互いに理解できていればよいですね。
ありがちなのは、自社の採用基準である能力だとか性格を満たしていたら内定を出して、それである程度終わっちゃっているところも中にはあると思うんですけれども、そうじゃなくて。「決まればいい」とか、「内定が出て受諾になったからまあいい」とかじゃなくて、「どんなつもりで入ってきているのか」とか、なかなか聞き出せないような考えていることですね。
要はもっと言うと、変に誤解して勝手に入ってきているかもしれないところをちゃんと俎上にあげて、違っていたら違っていたで是正してから、内定受諾してもらって入ってもらう。そうしないと、すごく難しいことが起こるなと思います。
曽和:これは自分の実感からなんですけど、伊達さん、どうですかね。採用ってこれだけ長きに響くものなんですかね。
伊達洋駆氏(以下、伊達):せっかく振っていただいたので、学術的な話が少しできればと思います。候補者にとって、企業選びのプロセスって、さまざまな情報を得て、意思決定をするプロセスなんですよね。
どういう情報を得るのかというと、大きく分けると2つ。1つが、企業に関する情報ですね。この会社はどんな仕事をするのか、どんな人が働いているのかといった情報です。
もう1つが、意外に思われるかもしれないんですが、自分に関する情報も得るんです。自分ってどんな人で、どういうところで働きたいと思っていて、将来どうなっていきたいのかという情報も得ていくんですね。
「自分に関する情報」と「企業に関する情報」という2つの情報を得ながら意思決定していくのが、職探しのプロセスになります。このうち入社後の定着に影響を与えるのは、「自分に関する情報」です。
例えば、内定を承諾する段階で、その会社をどういう理由で自分が選んだのか、なぜ他ではなくそこへ行くのかを把握できている人が、定着する傾向が高いんですね。
本人の選社基準を含めた「ストーリー」をきちんと作っていけるような採用を行えれば、入社後の定着にもつながっていくというのが、曽和さんの話と関連付いた、アカデミックな知見になっています。
司会者:ありがとうございます。
曽和:ちょっと自分をよく言い過ぎかもしれないですけれども、採用担当者ってある個人から見ると、タイムカプセルのような存在なじゃないかなと思うんですよね。
自分のことって、徐々に忘れていくじゃないですか。例えば新卒入社する時に、こういうつもりで入ってきたという思いがあっても、しばらく続くとぼんやりとしてきますよね。それを採用担当者は、離れれば離れているほど、まだ覚えていたりするわけですよね。
だから、たまに採用担当者に聞いて、「ああ、そうそう。そういうつもりで、その心理的契約で俺は入っていた」ともう1回思い出すような役割なんですかね。そうでなかったら、10年経ってこれだけの飲みの誘いは来ない気がするんですね(笑)。
なんのために僕と飲むんだろうというのは、別に僕が好きだからというよりは、そういうことなのかなという気はしますね。だいたい聞かれる質問というのは、「僕、あの時どうでした?」ということですからね。
伊達:起業家研究で、「原初的状態」という概念があります。曽和さんも私も、自分の会社を立ち上げている点は共通していると思うんですけど、日頃忙しいと、「もともと自分は何を思い描いて会社を起こしたっけ?」ということを忘れてしまうんです。
もともと描いていたものを「原初的状態」と言います。最初の状態ですね。それをリマインドしてくれる人って貴重なんですよね。自分のモチベーションを上げてくれますし、キャリアを振り返る機会にもなるわけです。
その関係性を、従業員と採用担当者が結ぶことができればいいですよね。原初的状態のリマインダーを提供してあげられるような関係性は、多くの人がができているわけではないので、理想的な関係の1つではないかと思います。
司会者:ありがとうございます。時間的にそろそろ最後のトピックになると思うんですが、今、そのオン・ボーディング、定着に関しての話をしていただいたんですけど、一方で最近、いわゆるリモートワークが流行りだした頃から問題になっているのが、「自律した人材に働いてほしい」という話です。
自律した人材の育成あるいは採用についての話題が出てきているのかなと思うんですが、そのあたりと「定着」が矛盾していないかなと、気になっているところなんです。いかがでしょうか? 伊達先生におうかがいしてもよろしいですか?
伊達:自律した人材がほしいという本音が、「勝手に何とかしてほしい」という意味だったら大問題ですよね。でも実際、そういう企業は無きにしもあらずだったりします。
人材育成がうまく機能しにくくなっていて、「勝手に育ってくれる人がいたらいいのに」と思ってしまっているとしたら、それはオンボーディングを損なってしまいます。
ただ、自律した人材が駄目かというとぜんぜんそんなことはなくて、「自律した人材」って言ってみれば、「自分で周囲に対して働きかけができる人材」です。そういう人材は、その会社に慣れていくプロセスにおいて有利なんですね。
なぜなら、オンボーディングを促すための方法って、大きく分けると2つあるんですけど、1つは、「組織社会化戦術」というもので、企業から新人に対する働きかけです。新人研修であったり、メンター制度であったり、そういうものは「社会化戦術」と呼ばれます。
他方で、新人から周囲に対して働きかけることを「プロアクティブ行動」と呼びます。組織社会化戦術とプロアクティブ行動の2つが、オンボーディングを促すことがわかっています。
このうち「自律した人材」は、プロアクティブ行動を取りやすいと言えます。
例えば情報を求めたり、フィードバックをしてもらいに行ったり、上司との関係をうまく構築したり、周囲と人脈を作ったりする。そういう意味での「自律した人材」であれば、オンボーディングにつながっていきやすいです。
司会者:ありがとうございます。曽和先生もお願いします。時間的に締めだと思います。
曽和:これって自律的キャリア開発の話ですよね。僕はこれをもう25年くらい前に聞いていて、要はバブルの崩壊後、終身雇用が難しいとなったんです。終身雇用の時は…...本当は終身雇用はなかったと思うんですけど、でも建前上で終身雇用だった時は、「面倒見てやるから言うことを聞け」という時代で、あまり自律を求めていない時代があったんです。
でも「もう面倒見られないから自由にしていいよ」という意味で、「自律的」とか「自由と自己責任」のようなキーワードがバンバン出て、きれいな言葉で言ったら「自律的キャリア開発」ということなんですよね。
確かに個人面でいうと伊達さんがおっしゃるように、自律的にキャリア開発することはぜんぜん問題ないし悪くないんですけど、それはもう個人の問題です。僕は今の世の中において、企業側が率先して「自律的キャリア開発だ」って言っているのは、ちょっと古いような気がしています。
簡単にいうと、僕ら団塊ジュニアの世代が200万人いるわけで、200万にもいたら、「ふるいにかけて上がってきたやつだけを採る」ということで何とかなったのかもしれないです。でも今、若者人材って希少人材ですよね。
そうなってくると、「ふるいにかけて」とか「自由と自己責任で勝ち上がってきた人を採る」というやり方では、今企業間で行われている「人材育成競争」には勝てないと思うんですよね。
もちろん、先祖返りして高度成長期あたりの「会社の言うことを聞いてずっとやっていろ」とかそういうのじゃなくて、1周回って似て非なると思うんですけれども、会社がちゃんと一人ひとりに対してプランを立ててあげる。
「そのとおりにしろ」じゃなくて、プランを立てて、例えば次はこの仕事にこの人をアサインしてあげるほうが、能力開発されていくんじゃないかとか。
曽和:これ、調べていただくと出てくると思うんですけど、リクルートも人材開発委員会というのをやっています。役員は部長の人材開発を会議でいろいろ検討して、部長は課長のを、課長はメンバーのをというふうに、全社員が年2回やっているらしいんです。
そんな感じで、「自由と自己責任」じゃなくて、やはり「育成責任」というのを持つべきだと思います。責任というより、育成の主体は会社にあるんだと考えてやっていかないと駄目だと思うんですよね。
基本的に「勝手にやって」という意味ではなくて、採用される彼・彼女が考えているかは別として、採用の時から「この人は、うちの会社の中でこういうキャリアを持ってほしい」と採るほう側も考えて、キャリアパスを組み立てておく。最初の配属から次も次もと、ずっとモニタリングしながら追っていく。そういう細やかな解像度の高い人材育成を、会社側主導である程度やっていかないといけないと思います。
ちょっとくどいですけど、昔のように先祖返りしろというわけではないんです。少なくとも「自由と自己責任です」「自律的キャリア開発です」と言っている場合ではないと私は思っていますね。
司会者:ありがとうございました。採用力のお話から始まって、実際の採用の話、最近のトレンドについてもお話しお話をいただきました。ありがとうございます。
司会者:最後に、先生方に「採用力」に関して一言いただければと思うんですが、いかがでしょうか。
曽和:私のほうから、これは宣伝になりますが、さっき(「採用力検定試験」が)どんな試験なのか説明したんですけども、実際に10月1日から募集が開始されています。
この検定は、五月雨式に受けた人から回答も返ってくるようになっています。結果が見られるのは11月からなんですけれども、みなさんぜひ採用スケジュールに合わせて受けていただければと思っております。
最後に言いたいのは、なんで検定をやったかということです。結局、「何ができていないか」がわからなければ、変えることも改善することもできないわけですよね。それは個人でもそうですし、あるいは人事、チームを率いている方もそうです。「うちのチームは何が強くて何が弱いのか」がわかったら、どこを採るようにすればいいのかがわかると思います。
この検定は、僕や伊達さんも他の理事の方も、基本的にボランタリーでやっているものです。だからというわけじゃないんですけど、本当にみんな、「社会の採用力が上がってミスマッチが起こらなくなるといいな」と思ってやっています。力を入れてやっていますので、ぜひぜひ覗いてみていただけるとありがたいです。今日は本当にありがとうございました。私からは以上です。
司会者:伊達先生、お願いします。
伊達:もう曽和さんから話していただいたことの繰り返しですが、「採用力検定」という言葉を今日初めて聞かれた方もいらっしゃるかも知れません。
一度「採用力検定」と検索していただければと思います。ウェブサイトをぜひ覗いていただいて、最初は軽い気持ちでもけっこうですので、検定試験を受けていただけるとありがたいです。
そうすると、曽和さんがおっしゃったとおり、「自分はここができて、ここができていないんだ」ということが可視化されます。今後の学習を考える際にも参考になるはずです。
司会者:どうもありがとうございました。以上を持ちまして、本日のセミナープログラムのほうは終了となります。最後に伊達先生、曽和先生、本日はどうもありがとうございました。
曽和:こちらこそ、ありがとうございました。
伊達:ありがとうございました。
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