『大きなシステムと小さなファンタジー』の刊行を記念して開催された本イベント。著者で、クルミドコーヒー/胡桃堂喫茶店店主の影山知明氏がゲストに登壇し、社会や組織にある大きなシステムのなかで、「どうすれば一つ一つのいのちが大切にされるのか」について語り合いました。本記事では、同氏が3パターンのクラウドファンディングをして気づいたことについてお伝えします。
「どこまでが自分の大切な人か」は変わっていくもの
乾真人氏(以下、乾):今のお話はこの、「愛情の射程距離」という表現。この本の中の、友愛の経済と友愛の金融というところで、まずこの表現が本当におもしろいなと思ったんですけど。たぶん愛情の射程距離って、どこまでそのイメージを膨らませて、人とのつながりを自分事として感じ取れているのか、みたいなところが、今のお話の中でも大事になってくる部分なのかなと。この表現に込められた思いも併せて聞かせていただきたいなと思います。
影山知明氏(以下、影山):ありがとうございます。これは確か、脚注でそのことをちょっと拾ってもいて。今回この本を書いてみて、かなり真顔になっちゃったなという反省が僕の中であって。
(会場笑)
乾:真顔(笑)?
影山:真顔の本になっちゃったなって。いや、自分で言うのもアレですが、実は僕自身はもうちょっとユーモアがあったり気さくなところがあると思っているんですね。
乾:(笑)。なるほど。
影山:だから今回はその部分をちょっと脚注に担ってもらっていて、クスッとした感じをそこに込めている。まずは脚注を飛ばして読まれると思うんですけど、ぜひどこかでまた見ていただけるとうれしいんですが。
この愛情の射程距離も、実は僕が作った言葉ではなくて、長野県の駒ヶ根にシャムロック・コテージというカフェがあるんですね。そこを経営されている福田(健一)さんという方がいて、その方とイベントでお会いしたんです。
その時に(福田さんが)、「自分はクルミドコーヒーのこぼれ種です」と言ってくださったんです。「クルミドコーヒーがやっていることとか『ゆっくり、いそげ』を読んで、触発されて自分なりのお店を始めているんです」と言ってくれて以来、やり取りが続いているんですけど。
その方がご自身のブログの中で、僕のトークイベントでの発言の様子を見て書かれていたのが、「自分と愛情の射程距離が違う」と。「どうしたらそこまで遠くにいる人のことを大事に思えるようになるんだろうか?」「自分はそれと比べた時に射程距離が狭い」ということを書かれていて。
乾:なるほど。
影山:「おおっ」て。僕が広いか狭いかは別として、その表現はとってもいいなって。自分にとってどこまでが自分の大切な人なのかはすごく変わっていく。
互いに支援し合う「友愛の金融」
影山:例えば投資をする行為も、それを通じてその投資先の事業が他人事ではなくなるみたいなことがあるから、そういう意味で(人と)関わる機会だし大事な人が増えるチャンスにもなり得る。
それが、さっき言ったように、お互いのメリットで付き合うような利用し合う関係ではなくて、相手を応援する気持ちで投資をして、相手もその気持ちに応えたいという活かし合う関係ですよね。支援し合う関係が取り結べた時に、相手が自分にとって大切な人になるということが起こる1つの機会(になる)。
それをここでは「友愛の金融」と呼んでいるわけなんですけど。今は、自分にとって大切な人の範囲はなんとなく狭くなりがちだと思うんですよね。

「最後に信じられるのはもうここだけだ」みたいな。そういうふうになるのは、外に出ていった時に痛い目に遭っているからだと思うんです。誰かと関わって傷つけられたとか、利用された経験があるとか、そういうのを積み重ねると、やはり狭くなっちゃう。
けど、それを自然と広げていける、それが自然と広がっていくためには、前向きなかたちで関わる機会が大事なんだということを言いたくて、この言葉を使っています。
お金は「誰かの仕事を受け止めるための道具」
乾:なるほど。だからお金を使う時にも、自分がどういうスタンスでそこに関わっていくのかが大事だということですか?
影山:はい、そうですね。さっきまさに武井さんが言われたとおり、お金を使う場面もすごく大事で、自分がなにか欲しいものを手に入れるための道具としてお金を使うのではなくて、誰かの仕事を受け止めるための道具(として使う)。
乾:なるほど。
影山:例えば、ご飯を食べるというシチュエーションにしても、誰の仕事を受け取りたいと思うかと想像するだけで、たぶん消費行動はちょっと変わってくると思うし、結果としての関わり方も随分変わってくると思うんですよね。
武井浩三氏(以下、武井):いや、なんか、心が温かくなるなと思って。その表現、すごく文学作品ですね。
乾:本当にそう思う。僕は本の中から、お金という軸で拾っていっている感じなんですけど、コモンズのお話も出てきていてですね。受け手と送り手が互いに越境する。ここもお金の使い方で、お金を払ってあげているんじゃなくて、自分が相手の仕事を受け止めているという感覚になる。
僕がちょっと思っていたのは、ギブから始めるのかテイクからいくのかみたいな、どっちも同じなんじゃないかなという感じがしてですね。ここのギブ・アンド・テイクみたいな、ギブとテイクの使い方もちょっと気になるところではあったんですけど。どこだったかな? ちょっと多すぎてわからなくなったので。ちょっとコモンズのお話も聞いていきたいですね。
(会場笑)
「お客さんをお客さん扱いしない」
影山:でも最後は、「自他合一」と言ったりしますよね。私はあなたであり、あなたは私であるという、そういう境地になってくるところはあるんだと思います。
実はクルミドコーヒーを始めて以来、ずっと僕なりによりどころにしている言葉が1つあります。「お客さんをお客さん扱いしない」ということを言っていて、それはお客さんも望んでいないからという意味ですね。
だから、一緒になって作っていくんだということをイメージしているんです。じゃあ、お店を一緒になって作っていくってどういうことなのかは、いまだに日々考え続けていることなんですけど。
例えばわかりやすく言えば、たまにはシフトに入ってもらうとか、あるいは一緒にクルミを割ってもらうとか、労働を一緒に担ってもらうのも確かにお店を作る一部だとは思うんです。
でも、そういうことをしてくれる人だけがお店を一緒に作っている人かというと、やはりそういうことでもなくて。日々店頭でご飯を食べてくれる、デザートを食べてくれる、コーヒーを飲んでくれる方も、ある部分では一緒に作っている。
けど、自分が本当にコスパのことだけを考えてコーヒーを飲みに来て、良かった、良くなかった、おいしかった、おいしくなかったということを評価者目線で見ていく人と、「自分も一緒になって作っているんだ」という気持ちをもって店頭にいてくれる人とでは、同じ消費行動でも意味合いが随分違うということを感じています。
そういう点で言うと、僕は今、お金を払ってコーヒーを飲んでいるだけなんだけど、このお店を一緒に作っているんだという感覚を持ってくれること。それがまさにホストとゲストの境界を越えていくということになる。だからまさに、その人たちも一緒になってお店を作ってくれていると言っていい存在だと思うので。
だから、お店でそういう過ごし方をしてくれる人がどうしたら現れてくれるかを考えるようにはなってきているわけです。
1人の人間として一緒に関係性を作っていく
乾:お客さまをお客さま扱いしないで、具体的にどんな扱いをされるか。どうするとそういう意識を持ってもらえるのでしょうか?
影山:段階で言うと、お客さんは消費のフレームワークの中で、お金を払って何かを買ってくれる人という枠組みがありますよね。その消費者という仮面であり枠組みを超えて、そういうマスクを剝がした状態の、乾真人という1人の人間として出会いたいというのが次の段階にある。
さらにその次の段階に、「1人の個人たる乾さん」と一緒にお店を作っているという関係になりたいというステップがあるということですね。
乾:なるほど。お客さんとしてじゃなくて、1人の人間として一緒に関係性を作っていく。
影山:そういうことです。それをこの本の中では、「重なりを作る」という言い方をしている。例えば今の例で言うと、乾さんの中でクルミドコーヒーの存在が高まるということは、集合図的に言うとクルミドコーヒーの一部が乾さんになっていくということでもある。円が重なるということはね。
そういうものがだんだんより重なっていくと、乾さんの中のクルミドコーヒー割合も高まり、僕らの中の乾さん割合も高まっていく。
そうすると、例えば仮にお店がなくなるみたいな話があった時に、自分の大事な一部が失われたような気持ちにさえなることって、みなさんもお付き合いされているお店とかであると思うんですよね。それはたぶんそういう関係を結んできたからということなんだと思っていて、どうしたらそう思ってもらえるお店に僕らがなれるかを、日々考えています。
3パターンの「クルミド資本市場」
乾:ありがとうございます。ちょっとお金の流れの中で、クルミド資本市場がすごくおもしろい仕組みだなと思ったんですけど。これがどういうものかを少し説明していただいてもいいですか?
影山:まずここに書いてあるファンド①、②、③は実際の例で、2店舗目である胡桃堂喫茶店を立ち上げる時に、そういった出資型のクラウドファンディングという仕組みを使って、1口3万円だったんですね。その3万円をただ寄付で受け取るわけじゃなくて、返します。
返すにあたってはこういう事業計画の見込みを持っていますということもお伝えします。その計画どおりに達成したらお預かりした3万円をお返しします。上回ったら、3万円よりも増やして返します。下回ったら減っちゃうかもしれませんっていう、そういうタイプの金融商品として設計して、お金を調達しました。その時、1,650万円、応援していただいたという経緯があります。
その時にファンドのスキームを、今言ったパターンがパターン1だとすると、ファンド②、パターン2は、最初から3万円のうちの3割は寄付にしてもらうという。
だから「計画どおりに達成したとしても2万1,000円しか戻しません」「それでもよければ」と。「でもそういった寄付のお金があることによって、例えば採算ベースには乗りにくいけど、大事だと思う取り組みのために経営資源を振り分けられるようになるから、それを支えていただけたらうれしいです」と。
ファンド③は、もう一切現金としては返しませんというタイプのものとして設計して募ったんですね。3つのファンドを合わせて333人の方が投資をしてくださったんですけど、そのうち②と③を選んだ方が(全体の)3分の1にあたる100人ぐらいいたんです。
経営の自由度が大きく変わる「ギブし合う金融市場」
影山:だから、金銭的には間違いなく損するとわかっていて、お金は減るかもしれないけど、お金ではない別の価値がそこで生み出されることに対して、自分のお金を投じていいと思ってくださる方が、それぐらいの割合でいた。
こういったものを実体験として持っているので、これがもう少し継続反復して行われるような資本市場が世の中にあったら、経営者にとっても経営の自由度が大きく変わってくるし、事業体と投資家の関わり方も随分変わってくるんじゃないかと。そういうギブし合う金融市場という意味で、クルミド資本市場という名前を冠しているんですけど。
乾:これ、たけちゃんは聞いていて、どうですか?
武井:いやもう、だいたい考えていることが一緒だなという。俺よりも、もっと素敵な言葉を持っていらっしゃる(笑)。
(会場笑)
武井:でも、俺がやっていることも本当にこれです。ちなみに影山さんがもともとやっていらっしゃったミュージックセキュリティーズという会社は、日本で最初の出資型クラウドファンディングを立ち上げられていて。
影山:クラウドファンディングは2001年からですね。
武井:超早いですよ。「FUNDINNO」という株式投資型クラウドファンディングのサービスができたのが2018年とかなので、もう16年前からやっている。だから本当に先駆けだし、当時は「それ、儲かるの?」と言われませんでした?
影山:しかも、「そんなお金が集まるの?」ということもやはり言われましたしね。
世の中に眠っている「応援のエネルギー」
武井:でも本当に応援のエネルギーって、実は世の中にいっぱい眠っているなと思うんです。というのは、僕もダイヤモンドメディアの時はITベンチャーだったので、ベンチャーキャピタルとかから出資を受けている仲間がいっぱいいて、それでとんでもないことになっているのもよく見ていて。
絶対にあのエネルギーを入れちゃいけないと思って、ITベンチャーのくせにずっと借入で超がんばっていたんですね。だけど、もうそういうのが抜けて、ダイヤモンドメディアを辞めたあと、新井(和宏)さんと一緒にeumoとかをやり始めて、金融のことをもう少し深く知るようになった。
あと、そのタイミングで少額の電子募集とか株式型クラウドファンディングの法律もだいぶ整ってきた。それから株主が多くても、株主総会を電子総会で開けるように法律が変わったり、世の中の仕組みもちょっとずつ動いていたり。そういうのができるたびにすぐにやりたくなっちゃうのでやっていったら、同じようなところにたどり着いて、「なんか影山先輩いたわ」みたいな感じですけど。
乾:影山先輩(笑)。
「消費者は損得で動くもの」として扱いすぎている
武井:でも本当に思うのが、世の中は消費者を消費者として扱いすぎている事業者が多いから、優しさを発揮する機会が失われているような気がして。だから、消費者は損得で動くものだろうと。どうやって得を見せつけて、「これ、得だよ。これやるとクーポンが、キャッシャバックが」みたいにこっちがするから、そう振る舞ってしまうみたいな関係なんじゃないかと思っています。
それをすごく感じたのが、AFRIKA ROSEっていうフェアトレードのバラのお花屋さんで、僕らは仕入れた分だけケニアに木を植えるということを5年ぐらい前からやっていて。最初、「持ち出しでやろう」と言っていたんだけど、お客さんにも知ってもらって、できたら本当に一緒にこの活動をやっていくみたいな感じになったらいいよねというので。
けっこう手間なんですけど、来るお客さん全員に、「バラ1本当たりCO2が1.4キロ出ちゃうんです。でもこれを1本5円ぐらいの負担でゼロにできるんですけど、よかったら協力してくれませんか?」と言うと、ほぼ100パーセントのお客さんが「喜んで」と言ってくれて。
そのうちの過半数以上のお客さんが、「5円でいいの? もっと出すよ」と言って、もっと出してくれるんですよ。5,000円の商品の花束を買ったお客さんが、「5,000円だけじゃなくて、あんたたちを応援するわ」と言って1万円をさらに置いていったみたいなことがあって、慌てて僕らは募金箱を後で設置したということがありました。
「世の中って愛にあふれているな」という体験をした。だから本当は、みんなそういう思いがあるから、それを引き出すインターフェイスと僕は言ったりもするんですけど、そういうものを僕らが作っていけば、実は世の中は愛のエネルギーでどんどん回っていくみたいなことが起こるんじゃないかと思って、これもその1つだなって。
乾:なるほど、なるほど。愛を発揮する機会を作っていないということですね。
武井:そうそう。でも、絶対にみんな(愛は)ある。
世の中は愛にあふれている
武井:「世の中って愛にあふれているな」という体験をした。だから本当は、みんなそういう思いがあるから、それを引き出すインターフェイスと僕は言ったりもするんですけど、そういうものを僕らが作っていけば、実は世の中は愛のエネルギーでどんどん回っていくみたいなことが起こるんじゃないかと思って、これもその1つだなって。
乾:なるほど、なるほど。愛を発揮する機会を作っていないということですね。
武井:そうそう。でも、絶対にみんな(愛は)ある。
乾:じゃあ、ちょっとお金の話はコモンズの話のところでつながってくると思うので飛ばします。もう1時間経ったんですけど、まだスライドの3分の1しか進んでいないので。
影山:そうなりますよね。
(会場笑)
武井:でも、本当に読み込んでいますよね。これ、すごいわ。
影山:本当ですね。これ、『千夜一夜物語』的にやりたいぐらいですね。いや、本当にうれしいです。ありがとうございます。
乾:本当に全部やりたいです。これからはお金から、存在そのものみたいな、関係性みたいなところの切り口かなとも思うんですけど。仕事に人をつけるのではなく、人に仕事をつける。この『DXO』のテキストの30ページ、31ページに書いていることと同じですね。
左の図は、組織構造があって、役割があって、仕事に対して人が紐づけられる(ということを表しています)。そういう世界から、人と役割と組織の構造みたいなものが一体となって人の役割みたいなことが決まってくるという考え方が『DXO』の30ページ、31ページに書かれていますよ、ということを言いたいだけです(笑)。
(会場笑)
武井:いや、それにしても、だいたい一緒ですよね。本当に被りすぎて。
影山:本当に。事前にやり取りをしている時にも申し上げたんですけど、2022年の1月に武井さんに国分寺にいらしていただいて、トークイベントをやったことがあったんです。
その時も、あらためて武井さんの本もすべて読ませていただいて、読めば読むほど、もう同じことを言っているという感じがあって。だから対談が成り立つのかという。
武井:もう、「ですよね」しか言えない(笑)。
影山:そうそう、もう論点がないから、「そうですよね」って。
武井:そうそう、膨らまない。「うん、わかるわかる」でおしまい。
乾:膨らみそうにないので、掘り下げていく。
影山:別にこれまで交流があったわけではなく、それぞれの経験を通じてそこに、それぞれがたどり着いていて、これだけシンクロしているのは、なんか不思議な気持ちさえあるというかね。
武井:前世で兄弟だったかもしれない。