中小ベンチャー企業1万2,600社を支援

白潟敏朗氏(以下、白潟):白潟敏朗と申します。ほとんどの方に「新潟の出身ですか?」と聞かれるんですが、こちらのプロフィールに書いていますとおり、生まれは神奈川、育ちは九州の宮崎、埼玉で社会人になったという経歴です。

新潟には1ミリもかすっていないんですが、「白潟」と名乗らせていただいております。よろしければ名前と顔を覚えていただけたらうれしいなというふうに思います。

今から33年前の1990年にデロイトトーマツグループに入りまして、そこから33年間、今34年目になるんですが、ひたすらコンサルティングですとか、今日のようなセミナー・研修をやり続けている人間でございます。

濃淡はございますが、中小ベンチャー企業さま、もちろんスタートアップ企業さまも含めまして、1万2,600社くらいの会社さまとご縁を持たせていただいています。

会社の経営ということでは、デロイトトーマツグループでは企業内起業ということで3社ほど会社を経営いたしまして、50歳で独立をして、今は白潟総研(白潟総合研究所)という会社を作り、子会社4社を含め、合計5社の経営をしているような人間でもございます。

そして大変恐縮なんですけども、本を46冊書いています。今回の本(『人事評価制度 17の大間違い』)は出だしが好調ですので、これが3万部から4万部を突破すると(累計で)100万部超えになるのかなといったかたちでございます。

今日、私のお話をお聞きいただくのが初めての方もいらっしゃるかもしれません。私のお話は田所さんとの対談を含めて今から60分くらいですが、話が滑りましたらその方はこちらの本を全部忘れていただけたらなと思います。ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひAmazon等でお読みいただけたらと思います。

期待値が高い社長ほど陥る、人事評価制度の4つの落とし穴

白潟:では、本題に入らせていただきます。まず、「人事評価制度は魔法の杖ではありませんので、あまり期待なさらないほうがいいかな」というのがみなさま方にぜひ覚えていただきたい最初のメッセージでございます。

期待値が高い社長、CHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)、人事部長の方々は、必ずと言っていいほど落とし穴に落ちてしまいます。今日はお時間の関係で、代表的な落とし穴4つを今からご紹介いたします。「こういった落とし穴に落ちちゃいますよ」というのがこちらになります。

まず、(スライド)左上からまいりますと、「人事評価制度を作ったり改良すれば、社員のモチベーションは上がるんじゃないか」。期待値としては、これがものすごく多いですね。

その次に、「モチベーションが上がれば、業績も良くなるんじゃないの?」という落とし穴。もちろん期待どおりにはいきませんので、あまり期待なさらないように。

(スライド)左下もよく落ちる方が多いんですが、「人事評価シートをとことん精緻に作れば、社員の納得感が高まるだろう」。これは、残念ながら高まるどころか低くなってしまう。

そして、本日は社長も聞いていただいていると思いますが、「社長の好き嫌い評価ってやっちゃいけないの?」。これは、やり方を間違えなければやっていいかなというふうに私は思っております。

人事評価制度の構築・改良でモチベーションは上がるのか

白潟:今日はこの代表的な落とし穴4つに落ちないように(したり)、万が一落ちてしまったらどうすればいいのか。そのあたりのお話をご紹介していきたいと思います。

まず、1つ目です。「人事評価制度を構築/改良すれば社員のモチベーションが上がるぞ」と。正確に申し上げますと、この図にある状態であればモチベーションは上がります。すなわち、モチベーションがマイナスになった状態ですね。

マイナスになったモチベーションをプラスマイナスゼロの状態まで戻す。厳密に言うとマイナスからゼロなので、上がったという見方はできます。こちらは可能だと思います。

「従業員さんが20人を超えても人事評価制度がない」とか「人事評価制度はあるんだが課題だらけ」という会社さんの場合は、社員のモチベーションが下がっていくと思うんですね。下がったモチベーションをゼロに戻すところに関してのみ、人事評価制度の改良/構築は威力を発揮するのではないかというのが正確な表現でございます。

落とし穴に落ちる企業さまは、「人事評価制度を改良/構築すれば、モチベーションがぐんぐん上がる」と期待されると思うんですよね。こちらは残念ながら、あり得ないというふうに見ていただいた方がいいんじゃないのかなと。

お聞きいただいている方は、おそらくハーズバーグの衛生理論をご存じだと思いますが、「満たされないと腹が立つ」という要素に人事評価はございます。

満たされたところでプラスマイナスゼロ止まりなので、そこから動機づけ・モチベーションを高めるためには、残念ながら人事評価制度の構築/改良は1ミリも威力がございません。そこは誤解のないようにというところが、まず1つ目の落とし穴のお話。

社員のモチベーションを下げないための19の要素

白潟:「じゃあどうすればいいんだ?」というところなんですが、まずこちらを少し考えていただいてもいいですか? 「まずは『部下のモチベーションアップ』よりも、『部下のモチベーションを○○○○』」。○は文字数なので4文字。ひらがなか漢字かカタカナかは内緒です。

田所雅之氏(以下、田所):よければ、チャットにこの虫食いを入れていただいて。

白潟:ああ、ありがとうございます。ご回答いただけるのであれば、ぜひチャットにお願いいたします。

田所:4文字だと無限にチョイスがありますね。

白潟:ああ、なるほど。けっこう「下げない」が(ありますね)。あと「維持する」。みなさん、4文字は大正解ですね。ありがとうございます。私どもが考える正解は、「『モチベーションアップ』よりも『モチベーションを下げない』」。この原稿は本にはないです。

社員のモチベーションを下げる要素を私どもなりに分析しまして、全部で19個くらいあるんじゃないかと。この19個が整っていないと、おそらくみなさまの会社の社員のモチベーションは下がります。

最低「腹八分の待遇」をキープする

白潟:代表的なところで申し上げますと「腹八分の待遇」ですね。当たり前ですが、年収が安ければモチベーションは下がりっぱなしなので、年収が安い会社が人事評価制度を変えても何も起こりません。期待を上げるだけ最悪になるので、まずは最低限腹八分の待遇をキープする。

「腹八分」は私どもの造語ではあるんですが、どういったイメージかと言うと、業界平均の年収より少し高いくらいですね。すなわち、転職すると給料が下がってしまうかもしれない。これくらいを我々は「腹八分の待遇」と言っている。そこまでいかない限りモチベーションは下がるので、まずこのあたりをしっかりしましょう。

あとは、ここに書いていますが、「社長や幹部・上司・先輩・同僚・後輩が周りから信頼を失うような言動をしまくる組織」。これ、誰も働きたくないですね。意外とけっこう多いんです。上司のちょっとした一言が部下のモチベーションを下げまくって、それを2回、3回言って信頼を失って、「この人に付いていきたくない」「この人に評価されたくない」。

そんなことも多いですし、オープンな時代ですから「情報開示をしっかりしている」とか「会社の将来に安心感がある」とか(も挙げています)。

オレンジ色のところは上司のマネジメントに関連する、上司がやってしまいがちなモチベーションを下げる要素。例えば「部下にまったく興味関心がない」。そういう方が上司だと、部下はかなり悲しくなっちゃうんじゃないのかな。

というところで、まずはこの19個をしっかりチェックしていただいて、こちらがクリアになった状態で初めてプラスマイナスゼロ(になる)。これが全部できている会社さんは意外とそんなに多くないんですね。なので、ここから入ったほうがいいんじゃないのかな、というのが1つ目のご紹介です。

自分でモチベーションをコントロールできる部下を育てる7項目

白潟:こちらがクリアになりますと、「(部下の)モチベーションを下げない」は完璧な状態になっていますので、常にモチベーションはプラスマイナスゼロ。理想は、自分でモチベーションをコントロールできるような部下に仕上げていく。

これは上司や会社の仕組みの問題だと思うんですが、そこにいくまで、上司としてちょっとだけモチベーションを上げるくらいはあってもいいのかな、というやり方でやっていかれたらどうなのかなというところでございます。

少しモチベーションを上げるためにやることは、こちらのオレンジ色の7個の項目です。「ああ、これはやっているわ」という方は多いと思うんですが、これは上司が当たり前のマネジメントをしていれば、普通にやれてしまうことです。

ただ、例えば上司が部下の話を途中で遮ったりすると、先ほどのモチベーションを下げてしまう。途中で遮ることなく最後まで聞いてあげれば、ちょっぴりうれしくなっちゃうぞというところがある。

部下を理解する、共感する、気にかけていく、声を掛ける、感謝する、ねぎらう。これは人間として当たり前ですね。あと、ほめすぎ・認めすぎは良くないですが、適度にほめる・認める。

この7個を日頃のマネジメントで行っていれば、モチベーションがちょっぴり上がる。人事評価制度はモチベーションが下がらない状態まで持っていけば、あとはこういったテーマに話を持っていかれたほうがいいのではないのかなというところでございます。田所さん、このあたりはよろしいですか?

田所:ありがとうございます。ここで言うと、やはりこういうのが自然にできる人がマネージャーになるべきというふうな捉え方もできると。いかがですかね?

白潟:そうですね。それが一番いいかもしれませんね。

田所:あと1つ思ったのが、例えば「あいまいな指示」と「明確な指示」といった時に、部下の中でもすごく年次が長くてエキスパートスキルが高い人だったら、わりと抽象的なテーマを与えて、そこから後を埋めていく感じだと思うんです。そこはやはり多少の文脈によるということですよね。

白潟:もちろん、おっしゃるとおりです。部下がある程度優秀で、1を言って10できるのであれば細かくは出さなくていいと思います。ただ、1の出し方があいまいだと、特に社長の戦略や方針とずれているようなテーマが来ちゃって、「どっちなんだろう?」というファジーな状態だと良くないのかな、くらいですかね。

田所:なるほど。やはり「(腹)八分の待遇」じゃなくて「十分」になってしまうと、逆に弊害があったりするんですか? そのあたりって、たぶん労使の争い的なものも引っ掛かると思うんですけど。

白潟:そうですね。もちろん十分、十二分は理想なので、余裕があるのであればそうされてもいいかなとは思います(笑)。最低限八分までは持っていきましょうという感じですかね。

田所:なるほど。ありがとうございます。