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中小ベンチャー企業がハマる 人事評価の「ワナ」「落とし穴」とその回避法/立て直し方(全4記事)

「部下から信頼されていない評価者」は人事評価シートを無力化させる 社員の納得感を高める「評価者の評価」5項目

白潟総合研究所株式会社代表で『中小ベンチャー企業を壊す! 人事評価制度 17の大間違い』著者の白潟敏朗氏と、『起業の科学』著者の田所雅之氏による対談の模様をお届けします。テーマは「人事評価の『ワナ』『落とし穴』」。中小ベンチャー企業の経営者に向けて、人事評価に対する悩みを解決するために最も大切なポイントについて語られました。本記事では、自分自身でモチベーションをコントロールできる部下の育て方、2つ目・3つ目の「落とし穴」について語られましら。

自分自身でモチベーションをコントロールできる部下の育て方

白潟敏朗氏(以下、白潟):では、次に話を進めさせていただいて。ここから先は「自分自身でモチベーションをコントロールできる部下をどうやって作っていくか」です。

最近流行りの言葉で「自己効力感」という(のがあります)。自分自身の能力にちゃんと自信が持てる、「もっとできるぞ」と思わせるようなかたちに持っていくのは、ある意味自分自身でモチベートできるということで、極めて重要なテーマなのかな。

こちらは有名な「Will・Can・Must」です。下の赤色のところの状態ですと、やりたい仕事ではないのでモチベーションが下がってしまうんですね。左の(赤色のところ)であれば、そもそも会社としてやるべき仕事の外なので、仕事を与えられることはないという前提になります。

特に赤色のところから、「やりたい」「やれる」「やるべきだ」の3つの丸が重なる青色のところをどれだけ大きくできるか。どんどん大きくなっていけば、部下が自分で大きくなるやり方を覚えていくので、最初の段階は上司がこの丸をどんどん大きくしてあげる。

ある一定ラインになったら「自分でどんどんいけるよね」というかたちで任せると、部下が自分でやりたい仕事を部門のやるべき仕事の中から選んで、「これは私に任せてください」と(言うようになる)。

「ただ、ちょっとだけチャレンジなんですけど、チャレンジさせてもらってもいいですか?」というようなこともありますし、「完璧に自信があるのでお任せください」ということもいいと思う。

そんな状態にどう持っていくかですが、このあたりを上司のマネジメントと会社の仕組みとしてしっかり整備していく展開ができれば、自ずと部下がモチベーションをコントロールできていくんじゃないのかな。

部下が「仕事をやりたくない」と思う5つの要素

白潟:例えばですが、部下のモチベーションが下がる、要は「仕事をやりたくない」という原因に関しては、代表的にこの5つがあったりするのかなと。「この仕事は嫌だ。やりたくない」「自信がないからやりたくない」「飽きたからやりたくない」「好きにやれないのでやりたくない」「やりがいがないからやりたくない」。

このそれぞれの原因に対して解決策を出しながら、まずは「仕事をやりたい」というふうに思ってもらい、それを持続させていくことだと思います。

1つ簡単な仕掛けとしては、お客さまの喜びの声・感謝の声を全員で共有する仕組みがある会社であれば、やはり「お客さんにもっと喜ばれたい」という状態になりやすい。

当然、営業の方やクライアントワークで前線でお客さまと接点を持っていらっしゃる方であれば、目の前で直接お客さまから喜ばれたり感謝(される)というのはあると思うんです。お客さまとの距離感が遠い仕事をしていらっしゃる方であればまったく見えないので、そこらへんを見せてあげると「やりたい」に変わったりするのかなと。

あとは会社のミッション・理念に目いっぱい賛同していれば、当然、「自分は何のために仕事をするのか?」「会社のミッションを体現するため」という状態に仕上がりますので、完璧に自己管理できる状態、使命感を持って毎日仕事ができる。これは1つありかなと。

もう1つは、会社のビジョン。「社長、めちゃくちゃビジョンを体現したいです」というふうに夢中になってくれれば、ある意味フロー理論になって、「この仕事、最高」という状態になる。

そのあたりを工夫することのほうがモチベーションアップでは極めて重要です。人事評価がなかなか力を及ぼせないテーマであるので、誤解なきように進めたらどうかなというのが1つ目のお話になります。田所さん、ここまではよろしいでしょうか?

お客さまに「共感」はあるのか、エントリーマネジメントの重要性

田所雅之氏(以下、田所):ありがとうございます。思ったんですが、とは言ってもモチベーションとか制度が作れないとか、エントリーマネジメントも大事ですね。

僕も採用とか採用のご支援もさせていただくんですが、当然あらゆる業種・業態にお客さんがいるわけですよね。そのお客さんに対して共感しなかったり、どうでもいいと思ってしまうような人だと、どんなポジションであっても絶対カルチャーフィットしない。

以前、僕は介護業界のとあるスタートアップを支援していたんですが、例えば自分の親戚やお父さん、お母さんが介護業界で介護されたわけでもなく、かなり儲かりそうだからとやっている人は、実際に「この人辞めるな」と思ったら大概辞めているということもあった。

「顧客に喜ばれる」というのもあると思うんですが、やはり「自分が好きな顧客」「自分が共感できる顧客」に喜ばれるって、すごく大事なのかなと思っています。

白潟:確かに、おっしゃるとおりですね。

田所:とは言っても環境も変わっていくし、当然いろんな仕事も降ってくる中で、飽きる場合もあるし、やりがいを見い出せないこともあると思うんです。そこは、先ほどの3つの輪があったんですが、どうするかというところですよね。

白潟:そうですね。

田所:ありがとうございます。これが(人事評価制度ではまりやすい「落とし穴」の)1つ目ですね。

白潟:エントリーは私もかなり大事だと思います。最初の段階からMVV(Mission、Vision、Value)に賛同している人が入ってくれば、常にモチベーションが高い状態で仕事をしてくれるというのもあるので、採用から入るというのは一番重要ですよね。

人事評価制度を改良しても、業績アップにつながるわけではない

白潟:では、2つ目の「人事評価制度を改良/構築すれば業績は良くなる!」。

ここまでのお話を聞いていただいた方ですとイメージが湧くと思うんですが、業績の向上を紐解きますと、「売上アップ」と「コストダウン」(がある)。

ここはみなさまが一番得意な領域ですので、私が細かく言う話ではないですが、ここに書いているようなテーマを1つずつしっかりやっていくことが、売上アップやコストダウンにつながっていきます。

そのため、「人事評価制度を改良/構築して社員のモチベーションが上がれば、よりこのあたりの仕事をしっかりしてくれるんじゃないか?」という想定で、結果、業績の向上という期待を持たれると思うんです。

先ほどご紹介したとおりですが、人事評価制度の改良/構築でモチベーションが上がることはありません。逆にモチベーションが下がったりしますので、(スライドの)赤色になってしまうというところで、このへんも誤解のないようにされたほうがいいのではないのかなというところが2つ目でございます。こちらは田所さん、よろしいですか?

田所:そうですね。これはまさにおっしゃるとおりかなと思っています。結局、経営者はやはり全体最適を考えるべきで、全体最適といった時に、まさにこの図ですよね。売上とかファイナンスの状況は、あくまで結果指標であって結果要素なんです。

当然その手前には喜んでいるお客さんがいて、当然その手前でプロセスがあって、当然その手前でそのプロセスを司る人がいるわけですし、当然その手前でどの戦略でやるかが問われる。戦略というのもミッション・ビジョン・バリューに則るところなので、やはりストーリーとか因果関係が下にいけばいくほど、レバレッジがかかることかなと思っています。

専門家のハンドリングも、CXOの役割の1つ

田所:ミッション・ビジョン・バリューは基本的に立てているかなと思うんですが、やはり多くの経営者が、たぶん白潟さんのクライアントもそうだと思うんですけど、別に人事のプロじゃないんですよね。

白潟:そうですね。

田所:全体の中でこの部分がボトルネックになってしまったら、まさに制約理論と言われるみたいに、全体のパフォーマンスも絶対落ちてしまうという状況なんですよね。

みなさんの中にもいわゆるCxO(Chief x Officer)の方はいると思うんですが、当然CHROだったらこのあたりはできる必要があるかもしれないですけども、いわゆるCEOとかCxOの人は、やはり専門家と会話できることが多いですよね。

たぶん今日の趣旨は、どうしてもいろんなコンサルとかいろんな専門家がいる中で、「モチベーションを上げたら業績が上がりまっせ」という口車みたいなところがあるんですが、その部分を「本当にそうなんですか?」とファクトチェックしていく。専門家をディレクションするとかハンドリングするのは、僕はすごく大事だと思うんですよね。

なので、このあたりの因果関係をつかんだ上で、原理原則みたいなところを押さえるのは非常に大事かなと聞いて思いました。

白潟:まさしくすばらしい解説をしていただきましてありがとうございます。ここも落とし穴に入らないようにしましょうというところで、3個目に移りたいと思います。

人事評価シートを精緻に作り込むデメリット

白潟:3個目も、ものすごく落ちちゃっている会社さんは多いんですが、「人事評価シートを精緻に作成すれば、社員の納得感が高まる!」。

初めにお断りしておきますが、私も30代前半の頃はお客さま・クライアントに人事コンサルをしながら、残念ながら私自身が精緻に作ることに命懸けになってしまって、お客さまに大変ご迷惑をかけたという失敗事例を持っている。その中で、30代半ばくらいから「これじゃいけない」ということで、この主張を始めています。

「どうして精緻に作ると納得感が高まらないのか?」というお話をご紹介します。まずは、デメリットが4つあるのかなと。1つ目は、精緻に作れば作るほど評価項目も増えますし複雑になってくるので、やはり運用し切れない。点数をつけてヘトヘトというですね。なので、上司からすると、評価が終わったらすべてが終わっちゃったという状況になりがちです。

評価誤差は項目の数が少なくても起こり得ます。数が増えれば増えるほど評価誤差は出てしまうので、最低限の公平感も担保できないんですね。

きめ細かく作ると、今度は社員から突っ込まれちゃうというリスクもあるんですよね。「これとこれ、おかしくないですか?」みたいな。ある程度アバウトになっていけばそこまで突っ込まれないんですが、ひどい場合は社員からいちゃもんをつけられることにもなりがちです。

細かく作りすぎると、会社の成長スピード・変化対応にまったくもって追いつけなくなってしまうので、このあたりが精緻に作るデメリットではないかなというところでございます。

なので、私どもは「人事評価シートは、まさに社員の給与と賞与を決めるための道具である」というくらいの割り切りで考えています。

ただ、1人の人間の能力、働きぶりやパフォーマンスを正確に評価することはもちろんできません。人が人を評価するのはある意味神への冒涜行為でもありますので、ざっくりでいいんじゃないかなということです。正確さはあまり追求しないで、最低限の納得感と公平感でいいんじゃないのかなというふうに白潟総研は考えます。

人事評価の納得度を高める「評価者の評価」

白潟:そして、やはり「(人事評価の)納得感を高めたければ『人事評価シート』ではなく『評価者と評価面談』に時間とお金をかけましょう」というのが我々の提案です。

みなさん、このセリフをご覧いただいていいですか? 部下から「○○マネージャーには評価されたくない」「○○リーダーには評価されたくない」「○○課長には評価されたくない」というセリフが出た瞬間に、1,000万円、500万円をかけた人事評価シートが完全に無力になってしまうんですね。

なので、まずは各評価者が部下から信頼を得ているかどうか。これは、先ほどモチベーションが下がるところでもご紹介しました。あと、部下から尊敬されているかどうか。尊敬されていない人が評価すると、「あの人に評価されたくない」とやはり言われてしまいます。

そして、部下の仕事ぶりをちゃんと見ているのか。「私の仕事ぶりを見ていなくてよく評価できますよね」と言われてしまったらおしまいなので、こちらの評価シートを活用いただいて、まずはみなさまの会社の全評価者をアセスメント評価されてみてはどうかなというふうに思います。

「(全員の)部下から信頼されていますか?」「(全員の部下から)尊敬されていますか?」「個人で成果を出す力がありますか?」「全員のメンバーの日頃の仕事ぶりをしっかり見て記録していますか?」。記録しないと忘れてしまいます。

そして、「人事評価シートをつける時に適切に評価しているか?」。評価誤差がないということですね。直近だけで評価をしちゃう、甘すぎる、辛すぎる、自分と比較しまくってしまう。これはよくある誤差なんですが、こういう誤差が出まくる評価者は良くないので、5つとも「YES」の方に評価権をプレゼント。これだけで部下の納得感がすさまじく高まります。

極論ですが、これをクリアした上司ならば評価シートなしでも、「いや、マネージャーにつけられるんなら、私は全部納得しちゃいます」という世界はできちゃう。それくらいのイメージで評価いただけるといいんじゃないのかな。

優れた企業は外部環境の変化に合わせて「動詞」で変えている

田所:今のところでよろしいですか?

白潟:どうぞどうぞ。

田所:「YES」「NO」にしている理由は、やはりノックアウトファクター的なところなんですか? 3段階・4段階評価にして、「非常にできている」「できている」「あまりできていない」「できていない」ではなくて、やはり自己認識として「できている」とやったほうが、クオリファイされるという認識なんですかね?

白潟:そうですね。これで自己評価もしますし、上司の上司評価もしますし、場合によっては部下につけてもらうことなんかもあり得るので、あとで検証する時に白黒はっきりしておいたほうがいいかなという趣旨です。本来であれば、「YES」「YES」「YES」とくるはずだという我々の思いもありますかね。

田所:このあたりを聞いていて思ったのは、僕もいわゆる起業の専門家として「PMF(プロダクトマーケットフィット)を評価してください」と言われるんですが、これもそうだと思うんです。

僕が『起業の科学』という本を書いてちょっと後悔しているのが、PMFって状態と思われるんですけど、状態じゃなくて動詞だと思うんですね。

今Zoomを使っていますが、やはり優れた企業は外部環境が変わり続けたら常にアップデートして顧客に合わせるように動詞で変えているんですよ。ある意味そこのダイナミクスってすごく大事かなと思っています。

基本的にやはり状態だと思うんですよ。一人ひとりの上司の行動、要は方針なので、ダイナミクスのほうはやはり評価していないんですよね。

当然、状態として達成するのは大事なんですが、いわゆるベクトルとかダイナミクスでできているかどうかというので(評価するのも大事です)。カルチャーフィットみたいにプロダクトマーケットフィットと言われるみたいに、やはり外部環境が常に変わり続ける中で、ダイナミクスというかコンパスを持って動けるかどうかとかね。

環境変化に応じた「尊敬され続けているかどうか?」

田所:たぶんプロダクトと向かい合う時も同じですし、プロダクトではカスタマーサクセスという表現になるんですが、サクセスでもやはり陳腐化していくところだと思うんです。この場合だとエンプロイーサクセスだと思うんですが、その捉え方がダイナミクスという意味では非常に共通しているなとちょっと思いました。

白潟:ああ、なるほど。ダイナミクスは極めて重要な概念だと私も思います。やはり外部環境が変わって、やる仕事・事業が変わってくれば、その仕事ができなくなる上司が出てくることもあり得る。そうすると、部下のほうが実力があって上司に実力がない。この状態で評価してくれと言われると、かなりチャレンジングな状況にはなる。

環境変化に応じて尊敬され続けているかどうかは見たほうがいいでしょうし、いったん信頼感を得た上司が何かの変化で急に部下に対してパワハラし始める可能性もゼロではない。そういう意味では、ダイナミクスに定期的にアセスメントしていくのが大事かなと。

田所:だからもうちょっと厳しくすると、「環境が変わったとしても、上司への質問5つに対してあなたは適応できていますか?」の「YES」「NO」がありますよね。

白潟:そうですね。そこまでくるともうパーフェクトですかね。

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