地方で起業した2名が語る、ビジネスのヒント

あかしゆか氏(以下、あかし):みなさん、こんばんは。note LIVEをご覧いただきありがとうございます。本日進行を務める、編集者のあかしゆかと申します。よろしくお願いいたします。

今日は「“暮らしのとなり”でビジネスをはじめる方法」と題しまして、イベントを配信してまいります。さっそくですが、お一人目のゲストをご紹介いたします。長野県でパンと日用品の店「わざわざ」を営む、平田はる香さんです。平田さん、よろしくお願いします。

平田はる香氏(以下、平田):こんばんは、はじめまして。

(会場拍手)

平田:……優しい(笑)。長野県東御市で、株式会社わざわざという会社を運営しています、代表の平田はる香と申します。

私たちは小売業を主体とした事業を行っているんですが、長野県東御市という人口約3万人の小さな町で、実店舗を4つとECサイトを2つ運営しています。自分たちが焼いたパンを中心に、およそ2,500種類の衣食住にまつわる日用品を販売している会社です。よろしくお願いいたします。

あかし:よろしくお願いいたします。続いてお二人目のゲストは、千葉県大多喜町でmitosaya薬草園蒸留所を営む江口宏志さんです。江口さん、よろしくお願いいたします。

江口宏志氏(以下、江口):江口です、よろしくお願いします。

(会場拍手)

江口:ありがとうございます。ご紹介いただいたとおり、千葉県の大多喜町という、房総半島のちょうど外房寄りの、少し内に入った……「チーバ君で言うとお尻ぐらい」っていう説明をしても、みんなにぜんぜんわかってもらえないんだけど(笑)。

(一同笑)

江口:もともと公営の薬草園だったところを2017年に引き継いで、蒸留所に改修してお酒を作ったり、お茶やお菓子とか、自然から生まれるものを自分たちの手でかたちにしようという考え方で、いろんなものを作っております。どうぞよろしくお願いします。

あかし:よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

学生時代から挫折の連続だった

あかし:本日はお二方に、このようなお話をお聞きしていければと思っております。

トークテーマは「おふたりが、今の事業をはじめるまで」と「もののつくりかた」。

そして、「そもそもビジネスとして成り立つの?」という部分と、「これからのお話」ですね。最後に質疑応答の時間を設けられればと思っておりますので、最後までお付き合いいただければと思います。よろしくお願いします。

さっそくなんですが、1時間という短いお時間なので、本題に移っていければと思います。最初のトークテーマは「おふたりが、今の事業をはじめるまで」です。

平田さんはもともと東京でDJを目指されていて、そのあとに長野でパン屋をされている。江口さんは東京で本屋さんをされていて、今は千葉県で蒸留所されている。

今はまったく違うキャリアになられていると思うんですが、今の事業を始めるに至った経緯をお二人におうかがいできればと思います。じゃあ、平田さんからお願いします。

平田:すごく簡潔に説明しますね。

あかし:たっぷりしゃべってください(笑)。

平田:(笑)。もしかしたら、4月に出版された『山の上のパン屋に人が集まるわけ』を読んでいただいた方は知ってることかもしれないんですが、私の人生の前半戦は挫折続きでした。

中学から高校に上がる受験も失敗して、大学にも行かないとか、DJをやりたいけれども、やってみたら7年ぐらいで大失敗。

やりたいこともなかったから、最初はそれなりに社会に沿って生きようとしたんですけれども、それもうまくいかず。やっと見つけた「やりたいこと」だったDJもうまくいかずに、全部挫折しちゃって。

好きなもの・得意なことを集めたお店づくり

平田:「これからどうしようかな?」って考えた時に、当時の彼が……元旦那さんですけど(笑)。

(一同笑)

平田:長野に転勤で引っ越していったので、そこに乗っかって一緒に長野に行こうということになって。じゃあ、そこで何をやろうかなって考えた時に、今まではやりたいことを中心に考えてたけど、人の役に立つことで、自分のできることを集めたものにしようと思って。

パンを作るのがすごく好きだったり、料理を作ることが好きだったり、ファッション系の専門学校に行ってたので衣服の知識があったり、DJをやっている時にはWebデザインを仕事にしていたのでWebデザインを使ったり。

あとは、日用品も好きで集めていたりしたので、そういうものを全部集めてお店というかたちにまとめたら、何かできるのかもしれないと思って始めたのがきっかけです。

あかし:ありがとうございます。では江口さん、いかがでしょうか。

江口:僕もちょっと短めに話しますと、長く東京で本屋さんをやってました。東京って良い本屋さんがすごくたくさんあるし、「自分の考える良い本屋さんって何だろう?」って思ったら、やはり自分が好きな本を扱うしかないわけですよね。

そうすると、当たり前なんだけど、自分の読みたい本、好きな人の本、これから考えておきたいこととか、そういう本ばっかりになるわけです。そういうのを読んでると、どんどん影響を受けていくというか、「自作自演フィルターバブル」みたいなことが起こるわけですよね(笑)。

(一同笑)

江口:そうすると、「なんか知らないけど、自然の中でものを作ってる人が最近気になるな」みたいな。自分がそういう本を集めてるから当たり前なんだけど、いろいろと見ているうちに、ドイツで蒸留をやっている人がいて「こんな人がいるんだ」と。

その人も、もともとは同じように本を作っていて、ドイツの田舎でお酒を作っているというのを見て、その人に話を聞いてみたいなと思って。

事業をけん引したのは、蒸留所につけた「名前」

江口:それで、会いに行ってすっかり影響を受けて、「この人の下でお酒作りを勉強したいな」というお願いをしたのち、しばらくドイツで蒸留の勉強をしました。

日本に帰ってきたあとに、どういった場所で自分がお酒を作れるかな? っていろいろ探す中で、今の薬草園だった跡地で使う人を探していたので、そこに手を挙げたという経緯で今の仕事が始まりました。

始めた時は、どういうものを作るのかはそこまで考えてなかったというか。考えていた部分もあると思うんですが、今の場所の出会いと、あとは「mitosaya」という名前をつけたことによって、実だけでなく、今まで使ってなかった「さや」の部分を使ってものを作るんだと。

自分たちの事業が名前に引っ張られた部分もあって、場所と名前によって、今の道筋があるような感じがするなと思います。

あかし:なるほど。わざわざさんも、「わざわざ」という名前をつけて、「わざわざ来てもらえる場所にしなければ」ということでいろいろ(事業展開を)されてきたので、何か通ずるところがありますね。

平田:そうですね。江口さんの話を聞いていて、「私もその話をしなきゃいけなかったな」って反省してたところです(笑)。

(一同笑)

「わざわざ」という店名の由来

平田:うちの店は、公共交通機関が通らない場所にあるんですね。最寄りの駅から歩くと1時間かかっちゃう場所で、バスもほとんど通っておらず、車で来るのが基本なんです。

でも、その場所の景色を一目ですごく気に入って、お店を作ったというのが、その場所を選んだ経緯なんです。なので、「そんなところまで、わざわざ来てくださってありがとうございます」っていう名前の由来なんですね。

それで名前をつけたんですけど、「わざわざ」っていろんな意味があるじゃないですか。

江口:確かに。

平田:「わざわざ来たくなるような店なんじゃないか」「わざわざ来た人が後悔しないようなお店でなければならない」とか。ほかの人に言われたのは、「技があるってことですよね?」って。

江口:僕は(名前の由来が)それかなと思ったんですが。

平田:(笑)。ただ感謝の気持ちでつけたつもりだったんですけど、店名にふさわしい店にしないといけないと思って。最初はパンと日用品も、商品数も種類も少なかったんですね。パンと基本的な調味料と、少し好きな器を並べるとか、それぐらいだったんです。

パンが売り切れちゃった時にがっかりしたお客さんの顔を見て、「パンがなくてもがっかりしない店作りをもっとしよう」と思って、どんどん商品数が増えていったり。そういったかたちで、名前にふさわしいお店になろうとはすごくしましたね。

あかし:なるほど、ありがとうございます。

「諦め」からのスタートは怖いものなし

あかし:お二人とも、人生と今の事業がすごくスムーズにつながっているとは思うんですが、とはいえまったく違うことをされることに対しての勇気や怖さはなかったですか?

江口:僕はそんなに。今も、あんまりそんな変わったことしてるとは思ってないので。本屋さんでやってたことがそのまま場所を変えて、対象物が変わった。けっこう言われることはあるんですけど、「本もお酒もすごく似てるなぁ」っていうふうに思いながら(笑)。

平田:たぶん、当事者意識としてはそうなんですよね(笑)。

あかし:江口さんの著書『ぼくは蒸留家になることにした』にも書かれていましたけど、最初に大きなお金を借りられていて、すごい勇気だなとは思ったんですけど、そういう感じでもなかったんですか?

江口:そうか、そういう話はちょっとあるかもですね。でもまぁ、マンションが売れたんですよね。

(一同笑)

あかし:めちゃくちゃリアルですね(笑)。

江口:それがあったので、「そういうことをやれっていうことかな?」と思ったのはありますよね。

あかし:なるほど。平田さんはどうでしたか?

平田:今の江口さんのお話を聞いていて、「当事者意識としては大したことをしてる気ではない」というのに、まったく共感してます(笑)。私も、「できるはずだ」と思ったことで失敗してるので、「どうせできないだろう」と思ってスタートしてるんですよ。

あかし:なるほど。

江口:諦めから始まってる(笑)。怖いものなしだ。

平田:諦めから始まってます(笑)。だから、ここに来る人なんかいるわけないかもしれないけど、1人でも来た人を大切にしようと思って、それが1人、2人と増えればいい。

営業日も、最初は1日だったんですね。週に1日だったのを2日にして、2日でもパンが売り切れちゃうから3日にして、4日にして、5日にして……って、どんどん増やしていって。できる範囲で増やしていったので、そんなにチャレンジしているという意識もなくて。

低予算・低リスクでパン屋をスタート

平田:先ほど、江口さんの初期投資のお話がちょっと出ましたけど、お酒だとかなり投資がいるんですよね?

江口:そうだね。お酒(の製造や販売)は免許を取らなきゃいけないので、そのために、最初にある程度の設備や資金を用意して申請するので、ちっちゃく始めるっていうのはちょっと難しいですよね。

平田:一応、パン業界でも開業資金1,000万円と言われていて、普通の発酵管理機器とミキサーとオーブンを揃えると、だいたい1,000万円になるんです。

でも、私はそれをやる気がなかったので、コンベクションオーブンと、自宅に併設した厨房機器は全部リサイクルセンターで買って、開業資金50万円でスタートしてるんです(笑)。

江口:(笑)。それは、みんなすごく勇気がもらえますね。

平田:今の物価だともうちょっとかかっちゃうとは思うんですけど、本当に最小限の設備機器で、パンを売れてお金が入ってきたら投資していくかたちだったので、ぜんぜんリスクもなく、借り入れもせずスタートしました。

江口:すばらしい。

あかし:なるほど、ありがとうございます。ビジネスの仕組みは、また後ほど詳しくおうかがいできればと思います。

小麦・塩・水のみで作られたシンプルなパン

あかし:では、次のトークテーマの「もののつくりかた」にいきたいと思います。わざわざさんもmitosayaさんも、パンや蒸留酒など、熱狂的なファンがつくすてきなものを作られていると思います。

それぞれものづくりへのこだわりがおありだと思うので、ものづくりに対するこだわりをお二人に聞いていければと思っております。

じゃあまずは、平田さんが「わざわざ」で作られているオリジナル商品やパンのご説明からお願いしてもいいですか。

平田:今日も持ってきていますが、一番最初に作ったのはこのパンなんです。これは薪窯で焼いていて、酵母も小麦から起こしたものなので、本当に小麦と塩と水しか入っていないんですよ。シンプルで体に負担のないものということで、3年間ぐらいこれをかけて作ってきました。

2009年に開業していて、そのあとにパンの種類を絞り込んで、薪窯を作ったのが2011年なので、2012年からこれを販売してるんですが、このパンの作り方みたいなものづくりでオリジナル商品も作ろうと。

シンプルで体に負担がないということは、作り方がシンプルで、工場に負担がなくて、素材も国産のものをできるだけ使い、無理のないかたちで、しかも価格も適正であるという、(パンそのものと)同じようなかたちです。

なのでどちらかというと、「こういうものにしたい」というよりも、「そこにある自然なものたちを集めて自然に作りたい」という思いがすごくあって。

普通だったらデザイナーさんが入ってデザインをして、それを工場に持っていって「こういう仕様にしてください」って言うと思うんですが、うちはそういう作り方はまったくしていなくて。

工場で余っていたを糸を使用し、靴下を製造

平田:工場の施設を拝見させていただいて、説明を聞いて、「こういう技術がある」とか「ああいう機械がある」ということを十分に把握したのちに、「じゃあ、こういう作り方すると生産性が良くなりますかね」とか。

例えば衣服だと、100パーセント機械が回ってるわけじゃないんですよ。70パーセントぐらい稼働してて、30パーセントぐらいは死んでる機械があるんですよね。

そういう機械を優先的に使わせてもらって、工場の生産サイクルに合わせたり、空きがあると「わざわざ」が入るという感じで連携したり。

なので、双方がいい気持ちになるようなものづくりには、すごくこだわりがあるかもしれないです。

あかし:なるほど。「残糸ソックス」というプロダクトがあると思うんですが、それも工場の方から「余ってる糸がある」というお話を聞いて作られたんですよね。

平田:そうですね。一番最初のオリジナル商品で靴下を作ったんですが、タイコーさんという長野県のメーカーさんに足繁く通って会話している時に、「平田さん。倉庫に余った糸が大量にあるんだけど、何とかならないですか?」って言われて。

「どんなふうにして糸は余るんですか?」「どういうものがいらなくなるんですか?」ってヒアリングして、糸在庫も全部見せていただいて。

生産管理の仕方も教えてもらって、「じゃあ、こういう一番シンプルな編み方で、配色だけ決定すればすぐに生産できるようなかたちを作りましょう」というかたちで残糸ソックスは生まれました。

“廃棄寸前”の素材を救うものづくり

平田:全部がすごくオープンになってるんですよ。工場とうちが同じ販売管理データを共有しているので、うちは糸の在庫も把握してるんですね。工場に何キロの糸があるかが可視化されていて、棚卸しするたびに数値が入ってくる。

「色組み」と言ってるんですけど、私が糸番号を見ながら2色の配色を全部組んでいくんですよ。これを適当にやると、すごく嫌な靴下になっちゃうので(笑)。

(一同笑)

平田:自動化できないかって何度も試したんですけど、どうしてもうまくいかなくて、ここは私が人力でやってます。

江口:色の組み合わせだけは「わざわざ」のセンスが入ってるけど、実際にやってることは、工場側で残りの糸を組み合わせて、通常どおりの靴下作りをしていると。

平田:そうです。それを少しだけ安く売る、みたいな。残糸なので、少しだけお安く買わせていただいてます。

残糸は、もともとうちがそれをやらなければ廃棄されて焼却処分になっちゃうんですよ。体積があり倉庫のを圧迫するので置いておけなくて、一定期間が経ったら捨てちゃうんです。それは日本全国の工場で起こっていると思うんですが、なんとかレスキューしてものづくりができないかというかたちで作りました。

あかし:なるほど、ありがとうございます。