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“暮らしのとなり”でビジネスをはじめる方法(全4記事)

1億5000万円の融資が、店舗着工の前日にまさかの白紙…… 経営者2名が明かす、最大の“ピンチ”と事業の心得

パンと日用品の店「わざわざ」の平田はる香氏と、薬草園蒸留所「mitosaya」の江口宏志氏が、「暮らしのとなりでビジネスをはじめるための方法」について語るイベントに登壇しました。両氏がものづくりに込める思いや、地域コミュニティとの関わり方について明かします。本記事では、両氏がこれまでに体験した“最もピンチなエピソード”や、地方ビジネスに向いている人の特徴を明かします。

人間関係を広げたのは「ゴミ処理場」での出会い

あかしゆか氏(以下、あかし):江口さんのmitosayaは、オンラインですぐに売り切れてしまう、めっちゃ人気なイメージがあります。

江口宏志氏(以下、江口):ありがとうございます。そうでもないけど。

あかし:地方で営まれることについて、いかがですか?

江口:そうですね。僕はママさんバレーまではやってなかったけど、やはり関係性の構築はすごく大事だと思います。

僕らの(事業をやっている)場所は、今まで人が住んで事業をやってた場所じゃないので、ゴミの収集が来ないんですよ。だから、ゴミ捨てに行かなきゃいけなくて。仕方ないので、月に1回とか何週間にいっぺんゴミ処理場に行くんですが、ゴミ処理場がけっこうハブで。

わざわざゴミを捨てに来る人って、離れた場所に住んでいたり自分で事業をやっていたり、なんかおもしろい人がいるんですよね。

そのゴミ処理場の担当者の人が「今度、ちょっと合わせたい人いるからさ」と。そんなんでけっこう紹介してもらって、チーズを作る人とご飯を食べたり、竹を加工してる人を紹介してもらったりとか、ゴミ処理場がハブだっというのに気づいたのはけっこう大きくて。

あかし:ママさんバレーがハブであり、ゴミ収集所がハブなんですね。

平田はる香氏(以下、平田):何がハブかはわからない。

江口:そうそう、本当にわからなくて。

でも、田舎によそ者が行くことによって、僕らはすごくおもしろいことしかないわけですよ。今までみんなが当たり前にやってることが、僕らから見たら「最高じゃないか」っていうことがいっぱいあって。視点が違えば、はっきり言って宝の山なんですよね。

それをどれだけ享受できるかというのは、関係性もあるし、観察とか、いろんなところに顔を出すこともあると思うので、僕は田舎で苦労したことはまったくないですね。むしろ、すごく恩恵しかないという感じです。

地方ビジネスに向いている人の特徴

あかし:気になったので、最後にこれだけ一言ずつお答えいただければと思うんですが、地方に向いてる方と都内に向いてる方の違いというか、特徴についてどう思われますか?

平田:一言で言っていいですか?

あかし:お願いします。

平田:郷に入れば郷に従え。これができる人が地方向き。

あかし:なるほど。

平田:何かを変えたいとしたがる人は、田舎には来ない方がいいですね。新しい人が何かを変えようとするのにはすごく力が加わるので、「変えようとする人」ってすごく力を使うじゃないですか。リソースを割くのはそこじゃないですね。

あかし:なるほど、ありがとうございます。すごくわかりやすい(笑)。

江口:勉強になります。

あかし:江口さん、どう思われますか?

江口:田舎でやれる人?

あかし:田舎向きな方と、都会が向いている方の違い。

江口:誰でも向いてると思うけどな。たぶん、「田舎に来よう」って思った時点で、もう向いてると思う。

あかし:ああ、なるほど。

平田:そっか。

江口:「変えよう」とか、そういう話はまた別としてね。

平田:そうですね。

あかし:地方に行きたいと思った時点で、もう地方に向いている。

江口:もう来てますね。

あかし:(笑)。

江口:大多喜町、ぜひ。

あかし:東京が好きな方はそもそも(東京から)出ないですよね。

平田:行かない。

あかし:確かに。ありがとうございます。

ビジネスでも日常生活でも“一番大事なこと”

あかし:ここからは質問のお時間にできればと思います。まずは事前にいくつか質問をいただいているので、1つだけ取り上げます。「ビジネスを始めるにあたって、『これだけはしない方がいい』ということはありますか」ということです。

平田:そんなのあるんですか。

江口:教えてくれよ。

(一同笑)

平田:本当ですよね。いやぁ……これは難しいです。でもなぁ、そうじゃない人で活躍してる人いっぱいいるもんな。難しいですね、この質問。何かありますか?

江口:でも……何でもやったらいいと思う。

平田:そうですね。特になさそうな気がしちゃいます。

江口:別にビジネスだろうが生活だろうが、好きにやればいいと思います。「法を守って」ぐらいかな(笑)。

平田:そうですね。法は守りましょう。法を守る。法を破らない。

あかし:ありがとうございます。

本屋から蒸留家に転身したきっかけ

あかし:では、会場にお越しのみなさまから、ご質問や聞いてみたいことがあればお願いします。

質問者1:おもしろい話をありがとうございます。平田さんは「わざわざ」を始めるにあたっては、ご自分の好きなものを集めたとおっしゃっていました。対して江口さんのほうは、どうしてお酒になったのかが気になっていたんですね。

江口:ああ、なるほど。

質問者1:好きな本を集めて、自然が気になってそういう方向に行って、そこからお酒に飛んで、ドイツに飛んだ。いろいろな選択肢があったと思うんです。

江口:確かに。お酒の良いところはさっき話したと思うんですが、自分にとっても良いけど、やはり人にとってもけっこう良くて。

僕、本がすごく大好きで、ずっと本の仕事をやってきました。本のおもしろさって読まないとわからないんですけど、お酒はたぶん5秒ぐらいでわかっちゃうんですよね。飲んだらすぐバレちゃうので。パンもけっこうそれに近いと思うんですが、そのダイレクトさとか。

あとはやはり、本を読む人ってジャンルや世代などでどうしても限られてしまうけど、お酒はすごく幅が広い。二十歳以上とか体質の話はあるかもしれないけれども、いろんな人に楽しんでもらえるのが良いところなんですよね。

だから、自分にとっても良いけど、相手にとってもけっこう良いなっていうのは思ってるかな。

質問者1:そうなんですね。本よりも、より多くの人が楽しみやすいかなという。

江口:まあでも、今の話はちょっと後づけっぽいですね(笑)。

あかし:「好きだから」とかですか?

江口:それもあると思います。お酒って嗜好品なので、今言ったこととちょっと違うかもしれないけど、逆にみんなに好きでいてもらわなくても良いわけじゃないですか。

「このお酒はあんまり好きじゃないな」という人が90人ぐらいいても、熱狂的に好きになってくれる人が自分ともう1人ぐらいいれば、「まあまあ、それはそれで良いか」みたいな部分があったりするのも、お酒の良さかもしれないですよね。

質問者1:私は熱狂的に好きです。

江口:ああ! そんな告白を(笑)。来て良かったです。

ここ最近で、最もピンチだったエピソード

あかし:では、前の方どうぞ。

質問者2:とても興味深いお話をありがとうございました。2人に質問なんですが、今まで一番追い込まれたというか、ピンチだったエピソードがあれば、1つで良いんですけど、それをどうやって切り抜けたのかをお聞きしたいです。

江口:痛いなぁ。

平田:言えないなぁ。

江口:つらいですね。

平田:つらいですね。

あかし:(笑)。

平田:これ、言います?

江口:今、出方をうかがってます。平田さんがどこまで言うかで、僕もどこまで言うかなって。

平田:一番最近つらかったのは……最近で2番目につらかったことにしようかな。「よき生活研究所」を作る時に、契約しようとしていた銀行と1年間調整をしてたんですよ。

1億5000万円の融資を受けるという約束になっていて、条件とかを調整していたんですけどね、合意する瞬間に契約条件を全部ひっくり返されて。

江口:ええ!

平田:工事着工の1日前に契約が破綻するっていう(笑)。

江口:そんなことあるんですか?

平田:本当にびっくりして。朝から出張してたので銀行の電話を知らなくて、帰って報告を受けて、すぐに友だちの経営者の人とかに「銀行を紹介してほしい」と電話して。

帰ってまずは現場に行って、集まった工務店の方たち全員に謝って、「融資が降りなくなった。でも、必ず1ヶ月以内に資金調達してくるからお願いします」と正直に話して頭を下げたら、前から付き合ってた方々だったので、みんな信頼して着工してくれたんですよ。

江口:へえ。それ、すごいな。

平田:それで背中を押されて。

自身の体験や、先輩経営者から学んだ“教訓”

平田:7月1日です、忘れないですね。いろんな銀行にダーッと行って「お金を融資してほしい」とプレゼンしたら、全社が貸してくれることになって、無事1ヶ月間で調達しました。

あかし:すごい。

平田:本当に眠れなくなりましたね。心臓が痛くなりました。

江口:そんなことあるんだ。

平田:あるんですね。そうしたら、「よくある話だよ」って言われました。「だから平田さん、銀行は1個じゃなくて複数と話さなきゃダメだよ」って先輩経営者の人に言われて。

江口:なるほど。それも「早く言ってよ」って話だよね。

平田:でも、知らなかったです。初めて大きな融資をしたから、やはり本当にいろんな人に話を聞くのが大切だなって思いました。すごく反省した出来事です。

江口:なるほどね。でも、乗り越え方がすごいですね。すばらしいです。

平田:やらないと全信頼が破綻するじゃないですか。設計士さんには設計してもらって、1年間調整してずっと工事のスケジュールも決めて、そこに向かってきたことが全部崩れちゃうので、「スケジュールは固定させて実行して、お金だけ集めてくればいい」って思いました。

江口:なるほどね。

平田:話していても、なんかちょっと心臓が痛くなる(笑)。

(一同笑)

江口:今、ちょっと移った(笑)。

平田:キリキリしました。

あかし:そうだったんですね。

お酒作りならではのトラブル

江口:お金のことって、本当に自分ではどうにもならない要素が85パーセントぐらいあるから困っちゃいますよね。そうか。そんなこと、あったかな?

僕もいっぱい失敗はしてるんですけど、「お酒を回収しろ」って1回言われたことがあって。アルコールにはとエタノールとメタノールとあって、メタノールが発生しやすいフルーツがあり、さらにそれを蒸留すると純度が高まるので、メタノール値が上がるんですよ。

僕らがやってることって、果物を発酵させてお酒を作るので、特にペクチンの部分にメタノールが含まれるから、発酵するとメタノールが発生するんですね。

それが基準値を超えると、世の中には出せないってわかってたんだけど、うっかり検査に出さずに出しちゃってた商品があって。

税務署で、年に1回品質検査というものをやるんですが、その時はだいたい1銘柄出すんです。(提出する商品は)何でもいいんだけど、僕はその時は「おいしいものを出すんだ」と思ってたんです。

に成分的にOKのものを出せばいいんだけど、「これはすごく上手にできたんだよな」と思ってそれを出したら、まんまとメタノール値を超えていて。呼び出され、売った分を全部回収するか、公告出すか、なんかするかという話になり。

「ああ、どうしよう。今さらそんなことできんし、どうすりゃいいんだろう」と思って、念のためもう1回だけちゃんとした検査機関で出そうと言って出したら、ちょっとだけ(数値が)下がっていた。

平田:そんなに微妙なものなの?

江口:ギリギリ超えてなかったので、大丈夫だったっていう話なんですが。

平田:やはり、法は守らないといけないって話ですね。

江口:本当に、法を守るために、やらなきゃいけないことはやらなきゃいけないっていうことを、すごく反省したという話でした。すいません。

あかし:ありがとうございます。すごく胃が痛くなったまま終わっていいのかな? って思うんですが。

(一同笑)

「自分でも読んだら泣いちゃった」という、平田氏の新刊

あかし:お時間が来たので、名残惜しいんですがこのままエンディングに入らせていただければと思います。本日は2冊の本を持ってきておりまして、こちらのお知らせをしていただければと思います。まず、平田さん。

平田:(2023年)4月28日に、サイボウズ式ブックスから『山の上のパン屋に人が集まるわけ』という私の本が発売されました。ぜひ買っていただけたらと思うんですが、この本のちょっと良いところをご説明しますと、あと書きにも書いてあるんですけど、実は私はこれを書いてないんですよ。

江口:おお。

平田:2時間のインタビューを5、6回受けて、そのインタビューを2年半かけてまとめているんです。

私の話って、すごく多岐に渡るというか、経営の話から、パンの話から、ものづくりの話から、何でもかんでも毎週の2時間のミーティングでお話ししちゃったので、膨大な書き起こしになっていて。

そこからこの1冊の本にどうやってまとめるかが二転三転していって、まさにチームで作ってテーマを決めていったんですね。

作り方も「わざわざの作り方で作りたい」と言って、装丁も全部わざわざのものづくりの仕方にしようということで、実はこの本は余った紙に印刷されてるんですね。

さっきは「残糸」と言って、余った糸を靴下にしてましたけど、これは余った紙で印刷されているので、重版がかかればかかるごとに紙も変わっていくんですよ。

あと、ここ(表紙)を丸くくり抜いてるんですけど、ちょっと仕掛けになっていて。中のところに付録がついていたり、作られた経緯とかもすべて巻末に載っているんですね。

「自分で書いていない」と言って、「自分の本だ」と言って宣伝するのも変なんですが、でもまさにこれは“私が書いた本”で、インタビューも自分の言葉がぎっしり詰まっていて、最初は自分でも読んだら泣いちゃったんですよ(笑)。

江口:へえ!(笑)

平田:もう何度も読んで、何度も書き直ししているはずだったのに、感動してなぜか涙がこぼれてきてしまって。

江口:おもしろかった。

平田:なので、本当に絶賛発売中ですので、ぜひみなさん買っていただけたら幸いです。

蒸留家になる前に上梓した『僕は蒸留家になることにした』

あかし:江口さんも、この『ぼくは蒸留家になることにした』。

江口:僕の本もいいの?

あかし:持ってきました。

江口:ずいぶん前の本だよ。ありがとうございます。『僕は蒸留家になることにした』という本なんだけど、この本の良いところは、これが出た時には蒸留家になってなかったところ。

本の企画はずいぶん先に声をかけていただいたので、「だいたい1年ぐらいしたら、たぶんお酒を作ってますかね。蒸留所できてますかね」みたいなことを言ったら、まんまと2年半ぐらいかかりました。なので、この本が出てきた時にはまだお酒もできてなければ、蒸留所もできてなかった。

あかし:なるほど。それで、「なることにした」と。

(一同笑)

江口:「なることにした」というのもあるし、あとから振り返って「こうだった」って言うんじゃなくて、本当に作ってる時のことが書いてあるので。

ひょっとしたら、万が一そこれから同じようなことをやろうという人には、同じような失敗を逆に先に体験できるというか。「これをやると蒸留家になれる」というわけじゃなくて、同じようなことが先にわかることが、ちょっとだけ良いことだと思います。

あかし:私も読ませていただいたんですが、資金調達とか、お酒の免許がなかなか取れないお話とか。

江口:ほとんど愚痴しか書いていないですね。

あかし:(笑)。

イベント前に起きていた、まさかのハプニング……

あかし:本当に、すごくリアルなことがたくさん書かれていておもしろかったです。それでは最後に、お二人に今日の感想を聞ければと思うんですが、江口さんはいかがでしたでしょうか。

江口:僕、ずっと平田さんにすごく会ってみたかったので、今日はお会いできて本当にうれしかったっていうのが1つと、パンがおいしかったっていうのがもう1つ。CAN-PANYの缶飲料なんかを一緒に作れたりするとうれしいなっていうのが、3つ目ですかね。ありがとうございました。

平田:ぜひぜひ。やりたいですね。ありがとうございます。

あかし:ありがとうございます。平田さん、いかがでしたでしょうか。

平田:一番のハイライトは、江口さんがぜんぜん集合時間に来なくて。

(一同笑)

平田:もうドキドキして、「誰か連絡先は知っているのか」「どうなのか」っていうので、みんなザワザワしたのが一番の感想です。

江口:そうですね。本当にすみませんでした。

平田:(笑)。「私1人でやるのかな?」とか、ちょっと考え出してました。

あかし:「もう(平田さんの)出版記念にしましょう」みたいな話をしていました。

江口:本当に申し訳ない。

あかし:無事に来てくださって、すごく楽しくお話できて良かったです。理由がすっごい良かったですけど、これは秘密にしときましょう。今日はとても楽しい機会を与えてくださって、本当にありがとうございました。

あかし:平田さん、江口さん、ありがとうございました。

(会場拍手)

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