会議でやってはいけないのは「偉い人から順番に話す」こと

安斎勇樹氏(以下、安斎):というところで、1on1を深めつつ、次のトピックに行きましょうか。トピックとして3つ目で、最後です。今、1対1のミーティング、1on1の話をしたんですけれども、もうちょっと広い複数人のチームの定例だったり、プロジェクトのミーティングだったり、いわゆる「会議」ですね。ここをどう作っていくかも重要かなと思いますけど、このあたりはいかがでしょう?

伊藤羊一氏(以下、伊藤):これはあれですよね。要するにやっちゃいけないのが、偉い人から順番に話していくみたいな。

安斎:(笑)。

伊藤:下っ端はしゃべっちゃいけないみたいな空気を全部破壊して、偉かろうが偉くなかろうが、フラットに話せる環境を作るのはすごく大事かなと思っています。だから、座る場所が決まっている会議は本当にいかんなと思っていて。そうじゃなくてフラットなんだと。

安斎さんが言ってたように、みんなのこだわりみたいなことをガーッと言わないと新しいものができない時に、発言しにくい空気を作るのはよろしくない。本当の意味での心理的安全性、「何を言っても大丈夫」みたいなのを作るのが大事なのかなと。

「うちの会社はこれがダメだから、こういうふうにしたいと思います」「いいね!」みたいな。だから、何を言っても「いいね!」みたいな人をまず入れるようになるといいと思うんですね。

安斎:なるほどですね。そこはすごく重要ですよね。

組織の問題を「心理的安全性が低いから」で終わりにしてはいけない

安斎:昨今、心理的安全性がすごく広がって、日本国内のいろんな職場の課題認識に「心理的安全性を上げないと」と入ったと思うんですけど。

逆によろしくないなと思うのは、「そっか。うちの会社は心理的安全性が低いからダメだったんだ。なるほどな。誰か心理的安全性を上げてくんないかな」と、全部心理的安全性のせいにして終わっているみたいなことも出てきているなと思っていて。

だから、心理的安全性を上げるために、具体的にどういうアクションとか場作りをしていくのかという。会議もやはりデザインが重要じゃないですか。

伊藤:そうですね。

安斎:そこを、「心理的安全性」という、見えない空気が上がるのを誰かのせいにして待つんじゃなくて、みんなで作っていけるとなるといいと思うんですけど。どこから着手していくのがいいと思います?

伊藤:すごく細かいところから言うと「座るのは円卓がいいよね」だったり、「偉かろうが何しようがフラットに座るのがいいよね」とか。第一声は、全員まずチェックインみたいな感じで、とにかく全員話す。

それをファシリテーターが、「フラットとして扱いますよ」というサインをするみたいな、細かいところがすごく重要だと思っていて。もちろん細かいところだけじゃないんだけど、なんせフラットに意見を出し合うために、そういうことをやるのはすごく大事かなということと。

やはりブレストでよくあるのは、「否定したらダメよ」みたいなのってグランドルールで決めるじゃないですか。そこを徹底的に守ってもらう。だから、ファシリテーターの役割はすごく大きいなと思います。ファシリテーターはそのチームでリーダーシップを発揮するのがすごく重要かなと思います。

安斎:なるほどですね。ありがとうございます。

会議のルールを共有することのメリット

安斎:今、前半の1人ずつしゃべって、これを「今日はフラットな場にするんだ」という明示的な儀式としてやるって、確かに重要だなと思うし、僕もよくやるなと思ったんですけど。

暗黙的にせよ明示的にせよ、この会議のなんとなくのルールを共有するのが共通しているのかなと思います。グランドルールは明示的に、「今日は批判禁止です」と言って明示的にルールを掲げることだと思うんですけど、ルールとして掲げなくても、「1人ずつしゃべってから始めようね」とか。

伊藤:そうそう。

安斎:みんなの意見を平等にファシリテーターが扱っていることを示すと、その会議のスタンスの見えないルールみたいなことを、みんながなんとなくわかった状態で始める工夫を、しっかり散りばめるのは、重要な工夫かもしれないですね。

伊藤:そうすると、そのファシリテーターはまさにリーダーが買って出るべきであって、リーダーが自分は自分として意思表示はあるんだけれども、「今日はファシリテーターだからみんなの話を聞きます」と。

それは本当に明示的にも、暗黙のうちにも、「フラットな場で意見が出てくることが大事なんだ」とメッセージとしてしっかり伝える。それは顔の表情などからも伝える。それから、上の人が押さえつけようとしたら絶対そこはさせないみたいな。断固たる姿勢みたいなものがすごく大事だなと思います。

自発的に意見を出してもらうには、まず意見を欲している姿勢を見せる

安斎:そうですね。僕は最近、『問いかけの作法』のセミナーをいろんなところでやる時に、冒頭で質問するようにしているんですけど、「『意見を言うのは、やっぱりやめとこ』って思った瞬間はどんな時ですか?」みたいなことを聞いてみてます。

だいたいの場合、リーダーが周りに意見を投げ掛けているんだけど、しゃべっている人のことをまったく見てなかったり(笑)、キーボードでなにか打ってたり、そもそも何か意見に対してウェルカムな姿勢を開いてないところでした。

明示的に「今日は意見を欲しがってるよ」と、まずリーダーが示さないと自発的に意見が出るわけがないですね。

伊藤:本当にそうなんですよね。「いや、理屈はわかるけど」などの話じゃなくて、本当にそれができないと結局は会議の意味ないですよね。

自分がリーダーとして何かやる時、誰よりもたくさん考えているから、俺がファシリをやるんだけど、俺も意見をたくさん言っちゃうかもしれない時は、自分はファシリをやらないですよね。というか、そもそも会議に出ないですよね。

安斎:(笑)。

伊藤:強すぎるからという時がある。「勝手に話してくれ。ごめん」と。それで「ガンガンやった後話そうぜ」みたいな感じで、そういうこともやりますよね。

安斎:なるほどですね。そういう意識的なパフォーマンスをちゃんと示すことは大事だなと思うんですけど。

意見が出ない会議は、質問が雑

安斎:技術的なところで言うと、『問いかけの作法』のメインテーマなんですけども、「いい質問を投げ掛ける」のもやはり欠かせないなと思っていて。「意見が出ないんだよな」って、こういう会議を見てみると。質問が雑すぎるというか。「いいアイデア、ない?」みたいな。

伊藤:「ない?」はありますよね。「ない?」はヤバい(笑)。

安斎:「ない?」でもヤバいのに枕ことばに「いいアイデア、ない?」みたいな感じでハードルを上げた上に雑みたいな(笑)。

伊藤:そうしたら絶対出ないですよね。

安斎:絶対出ないです。そこの問いかけを一工夫凝らすだけで、意見が出てくる確率はかなり変わるので、そこの質問の試行錯誤を多少するだけでだいぶ変わるよなとは思いますね。

伊藤:「質問は大事だよね」と言った時に、受け取りようによっては、だからそのテクニックを磨こうとするんだけど、質問や問いかけってテクニックじゃなくて、その人の軸そのものなので、「そこはサボっちゃいかんよな」という。

安斎:そうですね。

うまくいくミーティングに必要な、マネージャーとしてのスタンス

安斎:本当にまさにそうだなと思っていて。問い、質問の本を読んだりとか、それこそ『問いかけの作法』の表面的なフレームをまねするんだけれども、心のどこかでそもそも部下をまったく信用していなくて、いいアイデア出ると思ってなくて、「最終、俺が答えを出すしかないんだろうな」と思ったまま、工夫された風の問いかけを投げ掛けてるなと(笑)。

伊藤:(笑)。そうだよね。

安斎:基本スタンスで、やはり一人ひとりのこだわりは違うはずで、それが取るに足らない、他の人にとっては些細なものだから出しづらいんだけど、うまく出せるといろいろ違う観点が出てきます。

「一人じゃ出せないコラボレーションが起きる可能性があるんだよな」「それを作れるかどうかは自分次第なんだよな」というマインドでミーティングに臨んでいたら、質問が多少下手でも、うまくいくことはけっこうあると思うんですね。

伊藤:本当そうなんですよね。

安斎:だからそのへんは、「問いかけが下手だとダメですよ」という技術論的な部分もありつつ、スタンスとセットで問うマネージャーとしての自分のスタンスを磨いていくのがいいマネージャーにとって重要なのかなと思いますね。

伊藤:本当にそうですね。いかようにもそういう雑な質問もできるし、鋭い質問もできるんだけど、それってテクニックというより、鍛冶屋さんが刀をトンテンカンテン叩きながら鍛えていくみたいな感じで切れ味の良い質問みたいなことによって、みんながハッとするんですよね。

複雑にするんじゃなくて、ハッとすることは、わりとみんながすっとわからない方向に行く感じ。そういうことをトンテンカンテン、日々鍛え続けるみたいなのが大事な気がしますね。

安斎:まさにまさに。ありがとうございます。というわけで、あっという間にそろそろ終わりの時間が迫ってきました。

伊藤:あっという間ですね。

ミドルマネジメントの立場の人は、いい組織に変えていくキーマン

安斎:最後にまとめです。今日は3テーマでいろいろ話してきて、「なぜ自律できないのか?」というところから、「1on1のミーティング」と「会議のあり方」を深掘りしてきました。

伊藤さんに総括してもらって、何かまとめ、あるいは話し足りない、話し切れなかったことなどがあれば、最後に一言いただければと思うんですが。

伊藤:そうですね。今お話ししていて、「マネージャーは大変だな」と思うのが正直なところなんですけど。その大変なことを、ちゃんとやり切る。思いを持ってそこに向き合う。だから、テクニカルには未熟でもいいから、とにかくちゃんと思いを持って向き合うことをしっかりやるのが、まさにマネージャーの仕事だと思うので。

それはもうプレイングマネージャーの方でもあるかもしれないけど、「大変だよそんなの」ってあるかもしれないけど、やはりそこに向き合うのは、今日は感じてほしいなと思った次第です。

安斎:ありがとうございます。僕自身もすごく今の最後のメッセージに共感するところで、マネージャーって、特にミドルで立たされている方は、いろんなパラドックスに立たされていて、日々葛藤の連続だと思っています。そこに自己武装して、そういう問題に向き合わないように処理したくなるところもあると思うんですけど。

逆に言うとミドルマネジメントって、大企業であっても中小企業であっても、組織に創造性を取り戻して、いい組織に変えていくキーマンでもあると思うんですよね。

伊藤:本当にそう。

安斎:だから、ミドルが組織に流れているベクトルを自己起点で変えていくと、これは本当に大げさでなく、ミドルマネジメントが変わったら組織が変わることはけっこうあるなと思っています。

なので、そこをマネージャーの方が率先してやっていただくと大きい組織も変わり得ます。あとは自分の人生を生きるメッセージやリーダーが意志を持つことはすごく大事なことだなと、今日あらためて思っています。

ミドルマネージャーというと、「自分を殺してつなぎ役、調整役になって、そこに自我は込めない」とかと思われがちなんですけど、「超大変なマネジメント業務をやらなきゃいけないからこそ、そこにせめて自分の『Will』を入れないと、やってらんない仕事でもあるよな」と思っています。

伊藤:本当にそうですね。

安斎:だからそこに自分の個人的な欲望、叶えたいこと、達成したいことをうまく入れ込んで、自分起点のマネジメントができるようになると、大変なんだけど、すごくやりがいのある仕事になっていくんだろうなと、今日あらためて思いました。

というわけで、まだまだ、いろいろディスカッションできそうなところがありつつ、ここで今日は終わりにできればと思います。というわけで、ちょうど1時間弱のお時間、伊藤さん、どうもありがとうございました。

伊藤:ありがとうございました。とても共感しました。

安斎:ありがとうございます。