2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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安斎勇樹氏(以下、安斎):「自律・自走型人材の育て方」というテーマで、伊藤さんと私、安斎でディスカッションしながら、話を深めていければと思っております。伊藤さん、本日はよろしくお願いします。
伊藤羊一氏(以下、伊藤):よろしくお願いします。とても楽しみです。
安斎:かなりいろんなところで、みなさん悩んでる方が多いテーマだなと思います。この後、自己紹介をさせていただきつつ、いくつかのトピックで議論していければと思いますが、たぶんおそらく伊藤さんと僕のそれぞれやってきたことや書いてる本が、かなりこのテーマを通ずるところがあるなと。僕自身、楽しみにしております。
では、伊藤さんのほうから、まず自己紹介をいただければと思いますけれども。
伊藤:ありがとうございます。伊藤羊一でございます。現在仕事はいくつかやってるんですけど、武蔵野大学でアントレプレナーシップ学部を作ったのが2年前なんですけど、大学の教員をしてるというより、学部長として企画運営してる感じです。
それから、Zホールディングスは、ヤフー、LINE、アスクル、ZOZO、一休、PayPayなどの会社が集まっています。Zホールディングス全体の企業内大学である「Zアカデミア」の学長ということで、「Yahoo!アカデミア」から数えると、企業内大学の責任者を8年ぐらいやっております。
あとは自分の会社があったり、ビジネススクールの先生をやったり、本を書いておりまして、『1分で話せ』その他もろもろという感じのお仕事もさせていただいてます。
伊藤:その新刊として今日のテーマにも近いのは、2022年11月に出した『僕たちのチームのつくりかた』です。
『僕たちのチームのつくりかた』(ディスカヴァー・トゥエンティワン )
この本の根底にあるのは、帯に書いてある、本当はみんな力を発揮したいと思っていて、ここに依拠してるというか、よってたってるという内容の本です。
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部は、2021年4月に立ち上げました。日本でアントレプレナーシップ学部はここしかなくて、もう完全に色物みたいな学部でございますけど。
なんとかかんとか立ち上げて2年、あれやこれややっておりまして、だいぶ「こういうことかな」と見えてきたという。そんなところかなと思います。
それから最後ですね。Voicyというインターネットラジオをやっております。今日の話みたいなテーマも、四六時中話してますので。1on1の仕方やチームマネジメントなども四六時中話してますので、もしよろしければ聞いていただければと思います。以上でございます。よろしくお願いします。
安斎:よろしくお願いします。ありがとうございます。本当に活動幅と量がすごいですよね。
伊藤:(笑)。「大学とヤフーの仕事、両方やってるってどういうこと!?」みたいなね。でも、結局は同じことをやってるんですけどね。
安斎:なるほどですね。大学の学部長をやって、企業内大学の学長をやって、客員教授もやってって、大学の純正の先生でも、そんななかなかいらっしゃらないですもんね。
伊藤:本当になかなかエキサイティングな体験でね。大学のことに相当詳しくなりましたね。
安斎:なるほどですね。ちなみに『1分で話せ』は、読まれた方も多いんじゃないかなと思うんですけど、パート2も含めて、今は累計何万部売れてるんですか。
伊藤:2も含めると、65万部ぐらいですね。
安斎:まじですか、65万部。いやぁ、やばいですね。
伊藤:本人もまったく、何が起きてんだかよくわかんねえみたいな。今も売れてるんですねぇ。
安斎:すばらしいです。そこらへんは見習いたいなと思いつつ、僕も自己紹介させていただきます。
いつも、伊藤さんの後に自己紹介をすると、僕の本があんまり売れてないみたいな見え方になって(笑)。ちょっと、あれなんですけれども。あらためまして、安斎と申します。
私は今、株式会社MIMIGURIという60名ぐらいのベンチャー企業を経営しながら、東京大学の情報学環で、大学の研究者として、経営と研究を往復しながら活動しておりまして。
主に、今回のテーマにも通ずるんですけれども、人や組織の創造性のポテンシャルはもっと発揮できます。それこそ、みんなもっと発揮したがってるはずだと思っていると、僕の根底にもすごくありまして。
それを引き出すお手伝いをする営みをファシリテーションと言っています。ファシリテーションって、いわゆる会議の進行役、今日の会議の話にも通ずると思いますけれども、ファシリテーションってすごく技術として捉えているところもあると思います。
その技術も含めて、人や組織の才能・ポテンシャルを、眠っている部分を引き出してあげること自身が、すごくファシリテーションの本質だと思って、ずっと探求を続けています。
これまで、ワークショップの方法を博士論文で書いたりして、実は研究していたりしたんですけれども。徐々にワークショップだけの方法論だけじゃなくて、組織や人の力を引き出すための問いの重要性が、ここ数年の大きい研究テーマになってました。
安斎:2020年には『問いのデザイン』という本を出版して、本当の本当の問題の本質でいい課題を設定しないと、悪い課題設定のまま努力を重ねても、なかなか成果が出ないので、大本の問いをいかにデザインするかを、体系化したところですね。
こちらがHRアワードという、人や組織の登竜門的なアワードで、年間最優秀賞をいただいたりして、ご好評いただいています。HRアワードをとっても4万部なので、どうやったら65万部売れるのか、皆目わかりません(笑)。
伊藤:でも、この『問いのデザイン』を出されたあたりで、安斎さんとイベントでご一緒したんじゃないかなと思うんですけどね。『問いのデザイン』はやばい。これはやばいです、本当に。それを巷に下りてきてやったのが『問いかけの作法』ということになるかなぁみたいに感じたんですけど。
安斎:ありがとうございます。
伊藤:『問いのデザイン』は、これはやばいですよ。だから方向性としては、2人とも共通項で持っているものはあると思うんですけど、そこを掘り下げるのが安斎さんで、これをとても簡単、一言で言うとのが僕の本。逆の方向に、世の中に対して貢献してるなぁみたいな。
安斎:なるほどですね。そう言っていただけると、うれしいですね。
なので、今まさにご紹介いただいたとおりで。『問いかけの作法』は、本当に明日のミーティングでどういうふうに問いを投げかけたらいいのかで、まさにチームの魅力と才能を引き出す技術と書いているんですけど。
会議の質問の投げかけ方みたいなことをできる限り体系化したという本を書いています。
実は、最近の関心事項として3月1日発売の新刊が、『パラドックス思考』という本を最近出したんですけれども。これは、さらにハイコンテクストな本ではあるんですけど。
『パラドックス思考 ─ 矛盾に満ちた世界で最適な問題解決をはかる』(ダイヤモンド社)
自分の外側のマネジメントやチームの問題で、「あー、これなかなか解決しないな」「厄介だな」という問題解決がうまくいかない時って、リーダーやマネージャーの、自分の中に感情的な矛盾を抱えて、そこに向き合えていない結果、外的な問題が解けなくなってることがすごく多いです。
そこにロジカルシンキングでアプローチするとうまくいかない時に、自分の感情のパラドックスを見つけ出します。パラドックスというのは矛盾ですね。そこを解きほぐすことで解決を探るところを体系化した本があります。
今日も後で話題に出すかもしれませんが、こんな本も最近は書いているので、興味があれば読んでいただけるとうれしいなと思ってます。
伊藤:今、Amazonでポチりました。
安斎:すみません、ありがとうございます(笑)。献本させていただこうと思ってたんですが……。
伊藤:結局、そのパラドックスみたいなのがなければ、別に世の中ってそんなに難しくないですよね。
でも、こういうことがあるから、世の中が難しいんですよね。そこをちゃんと俯瞰するのはとても大事だなというのはおっしゃるとおりですよ。
安斎:そんなことを最近は探究しておりますが。今日はそんな互いの専門性を掛け合わせながらも、自律・自走型に迫っていこうと思うんですけど。
安斎:最初は、そもそもこの自律・自走が課題として設定されるのか。なぜこれができないのかみたいなテーマで掘り下げられたらなぁと思うんですけれども。
そもそも自律・自走ってどういう状態なのかとか、なんでこれが難しいのかとか、このあたり、伊藤さん、お考えありますか。
伊藤:そうですね。でも考えてみりゃ、これがテーマになること自体、パラドックスを見せてるというか。働いてんだから、自分で自律しろよみたいなね。
安斎:そうですね(笑)。
伊藤:簡単に言っちゃえば、そういうことなんだと思う。だけど、できませんと。でも、確かにできないのもわかるみたいな感じなんですけど、自律・自走はどういうことかというと、簡単に言うと、自分の人生を生きるみたいなことをしてる状態と思うわけです。
チームというか、組織の中にいると「えっ、そんなことできんの?」みたいな感じで困るかもしんないんですけど。だから会社や組織って、単に宿借りというか、場所でしかないんですよね。
それと自分の人生を生きるのはぜんぜん矛盾しないんだと思うんですけど、現実にはそこに「組織だから組織の言うことを聞かなきゃいけないじゃん」みたいなことを感じる人が多いという状態なんだと思うんですよね。
おそらく、海外の事例はわからないんですけど、日本特有の悩みなんじゃないかなと感じる部分が多いですよね。
安斎:前提の部分で、本来の自分や自分の人生の全体性、中心みたいなものと、会社で働く自分を切り離しちゃってるということですよね。
伊藤:そう、そう。だから自分の人生は、朝起きて飯食って、家族と話して出勤して、会社行って。昼飯食って戻って、映画見て寝るという、その全体としての生活があります。その生活そのものが自分の人生なのに、おっしゃるように切り離して、別なものだと捉えている。
少なくとも、自分の意志を会社で表現したらいけないみたいに思っちゃってる人が状況としては多いんじゃないかなとは思いますよね。
安斎:そうですね。一般的にこのテーマを、ミドルマネージャーの方が思い浮かべると、自律人材、自走型人材とは指示しなくても、自分でタスクを設定して、期日を守れたり、自分で問題を見つけられたり、主体的にタスク管理ができるイメージを思い浮かべられることが多いかなと思うんですけれど。
その一般論的イメージと、自分の人生を生きてる状態って、もしかしたら一般イメージと離れてるところもあるのかなと思ったんですけど。
そこはつながってくるものなのか。伊藤さんがこのテーマで、自分の人生を生きると結びつけられてる理由をもう少し聞きたいなと思って。
伊藤:自分の人生と言うと、大げさになるんですけど、海外の事例は知らないんですけど、日本の教育は、そもそも自分の意見を極端に避けてきてるんだと思うんですよね。
だから、教育において大事にされてるのは、年号を覚えたり公式を覚えたりして正解を出すみたいなことをステレオタイプ的になっちゃうけど、そういうことをひたすらやってきたのが、今までの教育だと思っています。
だから、もう教育された時点で、そういう人材になっているんですよね。だから、他律型や自走できない人材が出来上がってるんだと思うんですよね。
それはなんなのかというと、「社会は自分の意思を出しちゃいけないんだ」みたいな。そんなふうに教えられて育って、社会に出ていくんじゃないかなって、多くの人がそういうふうに思っちゃってんじゃないかなと思うわけですよね。
そもそもの大前提として、こういう日本の教育が行われて、親からの教育も「言うこと聞きなさい!」みたいな、そういうことが大前提となって「好きなことやんなさい」みたいなことは言われないわけですよね。言い訳しようとすると「言い訳すんじゃないわよ!」と言われて、もう言葉を発しないみたいな。
社会に出ていくとわかるんだけど、その状態でやってる限り、自分の充実した仕事ができるわけないし、成果も出ないんですよね。
だけど、そういう状態であるにも関わらず、とにかく「自分で自律して動きなさい」とだけ言われちゃうんで「どうしたらいいんですかね」みたいな感じになる。
すなわち(自分の意見を持つ機会を)ショートカットしていて、「会社と自分というのをどう考えてます?」「会社に従う存在ですよ」「自分のことを考えてないですか」と言うと、多くの人が「いやいや、会社に属してんだから、会社のいうこと聞くでしょ」みたいな。序列が会社>自分みたいになっちゃってる気がします。
そうじゃなくて、フラットであるべきだと思っていて、その感覚ですよね。会社は会社であるんだけど、別にそれは自分の好きと、好きなように生きるだけじゃなくて、制約になる場合もあればチャンスにもなるという。
それは正当というか、この公平・フラットな契約関係にあるんじゃないでしょうか。だから、そうすると、「じゃあ、あなた何するんですか」というと、「いやいや、俺はこういうことを仕事でやってきたい」みたいなことがあっての人材という関係なのかな。それが人生を生きるみたいな、そんな表現です。
安斎:なるほどなるほど。「自分の人生を生きる」の解像度がだいぶ上がったなと思ってるんですけども。
確かに学校教育のお話がありましたけど、ずっと外的なところに正解があって、その基準を探りに行くことをずっと教育で受けてきているから。そのモードのまま、会社や上司に「自律しなさい」と言われても、上が言っている正解としての自律をパフォームしなきゃいけなくなると、結局は一生自律できないパラドックスに陥るということですよね。
伊藤:僕は確実にそういう人間だったし、安斎さんが過去どんなふうに思われていたかみたいなところは知りたいとこなんですけど。そこらへんが、ある瞬間に「教育おかしいな」「自分の思いを出していくって大事だな」と思い立ちました。
そうすると、コンフリクトが起きるようになって、別にそれは人間性の喧嘩をしてるわけじゃなくて、意見が違ってきて、そういう中でベストな答えを見つけたらいいと思う瞬間がありました。
企業が研修して教えられるもんじゃなくて、自分の生き方をどうしようみたいなところレベルまで考えないとなかなか出てこないですよね。たぶん、そういう人じゃないと出てこないと思います。安斎さんは経営をされているわけなんだけど、(自律できてない人は)経営はたぶん絶対できないですよね。
安斎:そうですね。
伊藤:そうすると、いつか気づいて「ごめん」ってなりますよね。「組織と自分ってフラットなんだ」「組織って自分を表現する道具なんだ」と思い至る。この逆転が起きるような気がするんですけど。
安斎さんはどんなふうに今に至ってるのか、聞いてみたいです。そういう瞬間ってありましたか? 実はあんまり考えたことがなくて、それは当然そうなってたのか、変わったのかみたいな感じで言うと、どうですかね。
安斎:でも僕もなんだろうな。途中まではあまりそこは無自覚でした。僕はいわゆる受験勉強をとてもがんばったタイプの人間です。東大に入って、いわゆる偏差値教育をある種のゲーム的にクリアしていった側だったんですけど。
伊藤:僕もそうです。
安斎:そうです? でも、大学に入って学問の広さを学びました。今までは正解、与えられた正解をどう攻略していくかをゲーム感覚でやってたんだけども、攻略不能なゲームに途中で急に変わったなという感覚があったんですよね
伊藤:大学の時ですか。
安斎:大学に入って、海に放り出された感覚になりました。だから、大学の先生たちも「よくわからないまま授業をやってるんだな」とと思ったり、最新の研究の知見の授業を聞いて、質問しに行っても「あ、教授でわかんないことがあるんだなぁ」とか。
伊藤:なるほど。
安斎:やがて大学院に進んで研究しようとすると、大学院に進学すると、親戚たちからは「勉強が好きなんだね」とすごい言われるんですけど、研究で求められることって、まだ誰も明らかにしてないことを明らかにしないと評価されないわけですよね。
だんだん、自分で問題を見つけて、自分で誰も踏んでいない領域を踏んでいかないと評価されない。ゲームが劇的にチェンジした時に、今まで一生懸命身につけていた、勉強してきたことが一体なんなのかみたいなに、ここの歪みをすごく感じるようになったのが、個人的にはすごいありました。
伊藤:なるほどね。それはたぶん、誰かから与えられたもんじゃなくて、「え~、これ、ぜんぜん正解みたいなルートないじゃん」みたいに、ご自身で気づかれたってことですよね。
安斎:そうですね。
伊藤:でも、どうやってそこに気づいたんですか? 僕は今55歳で、就職する時はバブルの真っ最中だったので、古き良き日本の体制だったので、正解みたいなルートは引き続き大学に行ってもあったんですよね。
大学から日本興業銀行に入るんだけど、「こういうルートがあるんだな」みたいに思いました。そこに乗ってただけだったので、気づくのが若干遅かったんだけど。
いずれにせよ、何にせよ、だから自律自走する人材は、自分で気づかず押し付けてわかってもらえるわけがないですよね。そういうのがないかもしれないけど、基本的に自分で気づいてもらう場を提供していくのが、重要な気がしますよね。
安斎:そうですね。教えてできるもんじゃないみたいなことが、「自律しろ」と言ってできるもんじゃない前提に立つことがすごく重要だなって思うのと、あともう1個ごめんなさい。
伊藤:大丈夫です。
安斎:トピックが変わるかもしれないんですけど、組織としての有効な戦略が、たぶん過去と今だと違うところもあるのかなと思っています。
今、VUCAと盛んに言われていますけれども。実際に経営学の知見を学んでいても、かつては1回、例えば特許をとるなどのすごいビジネスモデルを見つけて、競争優位性を1回確立したら、それで何十年か業界地位を確立するのができたのが、今はそうじゃないですよね。その賞味期限がめちゃくちゃ短くなってるという経営学の知見がありました。
だから、組織全体がもっと柔軟に外部環境の変化に適用しなきゃいけなくなった結果、経営者がいい問題を見つけて現場に解かせるトップダウンが、過去はより有効だった。
今それだと立ち行かなくなってきてますよね。組織にある程度ボトムアップ性を入れていかないと、そもそも経営上対応できなくなってる変化が起きてるのが、前提としてあると思っていて。
旧来のトップダウン型で経営者が指示した問題を効率的に解く人を育てるんだったら、たぶん学校教育は適切なことをしていたと思うんですけど。
伊藤:そうです。僕も気づいちゃったんですよね。
安斎:(笑)。
伊藤:今まさにそういう感じになってきてるよね。その分岐点はいつだったんだろうなとずっと考えています。
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