トップ5%社員が「仕事を小分け」する意味

ーー他にもトップ5%社員の行動や習慣の特長はありますか?

越川慎司氏(以下、越川):圧倒的に仕事の取り掛かりが早いのも特長です。やる気があろうがなかろうが、体調が良くても悪くても、初動がめちゃくちゃ早いんですよ。そのために彼らがコントロールしているのは、いわゆるルーティン、習慣化です。「これをやったら、仕事に集中する」という習慣スイッチを自ら作っています。

例えばコーヒーを飲んで、皿洗いをして、パソコンの電源を入れたら仕事のスイッチが入るみたいな、そういったルーティンの仕組み化を5%社員の8割以上の人がやっていました。いわゆる生活の流れですね。トイレに入るためにドアを開けるみたいな、そんなレベルで、通常の行動の中に仕事のスイッチを入れるものを組み込んで、初動がすごく早かったですね。

ーーこの初動の早さはルーティンの効果もありそうですが、時間術のお話の中にあった「棚卸し」や「期待値の確認」で、やるべきタスクをはっきりさせていることも影響していそうですね。

越川:その通りですね。5%社員は、仕事を受けた時に相手の期待値を確認して、締め切りから逆算して仕事を細分化しています。細かく順番に分けておくことで仕事の初動が早くなり、スキマ時間にこなすこともできるようになります。けっこう意外だったのは、5%社員は移動中に仕事をする方が多く、10分とか15分をムダにしないように10分用とか15分用の仕事を小分けして持っていました。

さらに彼らは週に15分ぐらい自分のやった仕事が成果につながったかどうかの振り返りをします。それによって、仕分けの精度がどんどん高まっていくんですね。

「未来の5分10分」を短縮するための仕組み化

ーー5%社員の仕事の棚卸しや仕分けについてもう少しお聞きしたいのですが、彼らは重視するタスクと手放すタスクをどのように見極めているのでしょうか?

越川:このへんはさまざまな条件で異なりますが、抽象的にまとめると、5%社員は仕事をする時に仕事の「重要度」と「緊急度」の2つの評価軸を持っています。

95%の社員は重要度と緊急度が高いものを管理しがちですが、5%社員は「重要度が高くて緊急度が高いものは勝手にやるので、そこはマネジメントの必要がありません」と言っていたのがすごく印象的でした。

重要度が低く緊急度も低いタスクに手を出さないのは、両者共通です。

一方、5%社員は重要度は低いのに緊急度が高いタスクを見つけるのがうまく、自分でやらないと宣言したり、後回しにすることを相手に伝えていましたね。そして何よりも特徴的なのは、「重要度が高くて緊急度の低いタスク」。

彼らは「ここに時間を費やすためにムダなタスクを手放す」と言っていました。例えば、ショートカットキーを覚えるとか、仕組み化でITツールを入れちゃうとか。今やらなくてもいいけれど、将来やっておかなきゃいけないものに時間を費やすことを心がけていましたね。

みなさんも経費精算などをされていると思いますが、例えば新宿・池袋間の経費を毎回Excelに入力するのは面倒くさいですけど、辞書登録したりプルダウンにして選択したりと未来の5分10分を短縮できます。5%社員は「ローリスク・ローリターン」の積み重ねが最も時間効率を高めると言っていました。

ーー5%社員の時間術を一般の社員が採り入れる際のポイントをお聞かせください。

越川:企業規模や、業種・業態、わがままな上司とか、いろいろな変数はありますが、時間術の本の中で紹介しているものは再現性が高いですね。

例えば先ほどの、進捗20%で「イメージは合っていますか?」と聞くと差し戻しが74%減るとか、冒頭に2分の雑談を入れると、会議が早く終わる確率が45%高くなるとかですね。

個人の能力やセンスみたいなのは再現が難しく、言語化できないものは再現実験すらできませんが、定量化できるものは再現できるところがあると思います。

本で学んだ時短・時間術を「自分のもの」にする方法

ーー『AI分析でわかった トップ5%社員の時間術』の中に、これだけ変化が激しい世の中では時間をかけてデータを蓄えても陳腐化してしまうので、「70%程度のステータスと分析で仮説をつくり、行動実験をすることを決めた」「行動を変えるのは、意識ではなく変化」という言葉がありますが、越川さんはとても「行動」を重視される方という印象があります。

越川:ありがとうございます。昨日も『29歳の教科書』という新しい本を出したところですが、僕は本は手段だと思っていて、読者の方には「本を読んで終わり」だけはやめていただきたいと思っています。

これは著者だから言える部分もあると思いますが、本はビッグデータの抽象度の高いものを出していて、いわゆる全体最適、最大公約数なんですね。これを自分の職場や自分の能力に合わせて、各個人が「個別最適」をしないと、自分のテクニックに落とし込めないと思うんですよ。ですから、本を読んで終わりではなく「どれか1つやってください」と。

時短テクニックとか時間術テクニックっていっぱいありますが、絶対に全部をやらないでほしいんですよ。全部やろうと思うから初動が遅くなるので、まずどれか1つやって欲しいんです。

例えば冒頭2分の雑談なんて2分で終わるので、そういうのをやって「意外と良かった」となったら次をトライする。ローリスク・ローリターンで、ちっちゃいトライを積み重ねていくことで、結果的に自分のものになりやすいと思います。

僕の本も、やったら100%同じ結果が出るわけではなく、80%再現できる方と20%再現できる方がいると思います。自分にはどれが当てはまるかという確認は著者ではできないので、ぜひ読者の方に小さな行動実験をやってもらいたいなと思います。

「良いサボり」が生む好循環

ーー今回は「仕事のパフォーマンスを上げる、上手な『サボり方』」が特集テーマになっていますが、越川さんにとって上手なサボり方とはどういったものでしょうか。

越川:「サボる」の定義が難しくて、「仕事をしていない」=「サボる」だとすると、「良いサボり」と「悪いサボり」があると思うんですよ。仕事が終わっていないのに仕事をしないのはダメなサボりだと思うんですね。これはもう「業務処理能力を高めて、自分のやるべきことに集中してがんばろう」と言うしかないんですけど。

一方で、5日でやる仕事を4日で終えたら1日仕事をしなくてもいい。僕はこれが良いサボりだと思っています。ぜひ時間術と時短術の両方を駆使して、5日で終わる仕事が4日で終わるような良いサボりを目指していただければなと思います。

良いサボりによって余白ができると、精神と時間の余裕が生まれます。そうすると、適度に休憩しますので、疲れにくくなるのは間違いないですし、浮いた時間で先ほどの重要度は高いけど緊急度が低い仕事に時間を費やせるので、さらなる“仕事貯金”ができるんですよね。

そうすると、5日でやっていた仕事を4日ではなく3日で終えることができるかもしれない。さらに時間が空いて、また仕組み化して、自分がやりたいことをやってという、プラスのサイクルになってくると思います。

イギリスの歴史学者のシリル・ノースコート・パーキンソンは、「人間は与えられた分の時間やお金をすべて使い切る傾向がある」と言い切っています。いわゆる「パーキンソンの法則」です。期限が5日後だったら5日じゃなくて4日で終えるような段取りをしたり、社内会議も60分ではなく45分で終えるような、ずる賢い仕事術を身につけていただきたいなと思います。

ーーありがとうございました。最後にあらためて短い時間で成果を残したい人へのアドバイスやメッセージをお願いします。

越川:ありがとうございます。ぜひ良いサボり方をみなさんが実現して、時間と精神の余裕を持ち、そして自分のやりたいことを増やしていくという「More with Less」(より多くの成果をより少ない時間で)な働き方を自分のものにしてもらいたいなと思います。

ですから、この記事を読んで終わりではなくて、「どれか1つやってみる」と。やってみて、「越川、嘘ついてたじゃないか!」というのと、「ああ、意外と良かった」みたいなものを見つける旅に出て、有意義なワーク・イン・ザ・ライフを楽しんでいただければなと思います。

ーー貴重なご意見をたくさん聞かせいただきました。本日はどうもありがとうございました。

越川:ありがとうございました。