「長く働くこと」が評価された時代の終わり

ーー過去に多数のご登壇イベントをログ化していますので、ログミー読者には越川さんのことをご存じな方が多いと思いますが、あらためて簡単なご経歴と、クロスリバー社の会社概要をお聞かせください。

越川慎司氏(以下、越川):国内外の通信会社やベンチャー企業で働いたあと、前職はログミー読者さんを困らせているExcel、PowerPoint、Wordなどの担当(日本マイクロソフト業務執行役員)をしていました(笑)。そして、「ITが働き方を変える」ではなく、「人が働き方を変える時にITが必要」だと気づき、週休3日でも成果が変わらない働き方の実現を目指して2017年に独立してクロスリバーを立ち上げました。

クロスリバーは効率・効果を高めるために全社でリモートワークを実施し、全員週休3日で週30時間労働、かつ副業をしないと入れないという会社です。そんな新しい働き方を我々自身が実践し、800社を超えるクライアント企業、累計17万人の従業員の方々の業務改革やタイムマネジメントのご支援をさせていただいています。

ーー週休3日は羨ましいですね。

越川:実は週休3日はけっこうつらいんです。分刻みにスケジュールが入るので、お昼休みも15分くらいしかなく、座って食事なんてなかなかできませんし。でもそういうことも含めて、今日の結論になると思いますが「やめることを決めること」がすごく重要なので、先に長時間労働にならない仕組みを作ってしまいました。

ーー今回は「脱ハードワーカーに聞く、余白を作るタイムマネジメント」がテーマですが、働き方関連法が施行されて多くの企業で残業削減の取り組みが行われる中、「もっと長い時間仕事をしたい」という人も一定数います。越川さんは若い頃に過労で体調を崩され、短い時間で成果を残すという働き方にシフトされたとお聞きしましたが、長く働きたいという人たちはどう意識変革すべきでしょうか?

越川:好きな時間に好きなだけ働くという仕事の仕方が今までは許可され、むしろそういった人たちが評価されていましたが、法律が変わったことで「限られた労働時間の中で成果を残す」というゲームに変わりました。

短い時間で成果を残すことのメリット

越川:いろいろと異論反論あると思いますが、ワークライフバランスという言葉は誤解を生むことがあります。ワークライフバランスを保つために仕事を早く終えないといけないとか、ワークライフバランスがないと介護や育児ができないと思われるなど、ワークとライフが相対するものと捉えられがちです。

特にこの2年間でコロナと向き合って、やっぱりワークとライフは別ではなく、「ワーク・イン・ザ・ライフ」だと思うんですね。ライフの中にワークがあると考えたほうが、読者の方々もしっくり来るのではないでしょうか。

自分のライフの中で仕事とどううまく付き合っていくかであって、「働きたいけどどうしたらいいんだ」「どうやったらたくさん残業できますか」みたいな議論からは、もう卒業したほうがいいと思います。僕も正直長く働きたいタイプですけど、これからは「長く働いて成果を残すのはずるい」という位置づけに変わっていくので。

無制限に働くみたいな考え方から脱して、より短い時間でより大きな成果を残すという、10年20年前とは違うタイムマネジメントが求められていると思いますね。

ーー越川さんご自身は、働き方をシフトしたことで肉体的、精神的に感じられた変化はありますか?

越川:肉体で言うと、マイクロソフト役員の時よりもたぶん倍ぐらい健康ですし、精神的なところもあります。稼働中は大変ですけど1週間総じてみると、やはり週休3日なので心のゆとりも大きい。それこそ何も考えずにジョギングしたり本を読んだりという時間は、今だからこそ持てていると思います。

心身の健康ももちろんですけど、短い時間で成果を残せるようになったことで、いつ仕事をしていつやめるかとか、この仕事をやる・やらないといった「自己選択権」が持てるようになったことが僕にとっての一番のメリットです。「More with Less」という海外でよく使われている言葉を働き方で実現できると、時間単価が上がりますし、何よりも自己選択権が得られるのがうれしいですね。

トップ5%社員は「時間術」、その他の社員は「時短術」を目指す

ーーここからは「トップ5%社員の時間術」についてお聞きしたいと思います。越川さんは『AI分析でわかった トップ5%社員の時間術』の中で、企業の人事評価でトップ5%に入る社員の共通点を挙げられていますが、この5%社員とその他の95%の社員との違いはどういうところにあるのでしょうか。

越川:まず、トップ5%社員は「時間術」を目指し、95%の社員は「時短術」を目指すのが大きな違いになります。

100分かかっていた作業を80分でやるのが時短術です。それは僕も実践していますが、この作業を20分早く終えるにはどうしたらいいかではなく、「そもそもこの仕事って必要だっけ? 自分がやらなきゃいけないの?」といった、仕事を受けるところから始めるのが時間術です。仕事が来た時に、自分が受けるべきか、断るべきかという棚卸しももちろんしますし、1人でやるべきか、チームを巻き込んでやるべきかも考えます。

作業を開始する時に始めるのが時短術、仕事を受けた時に始めるのが時間術で、短い時間で成果を残すには圧倒的に時間術のほうが有効ということですね。

そして5%社員が一番重視するのは、「相手の期待値を確認する」という作業です。仕事を受ける時に、「こういう資料になったら成功ですよね」とか、「このプロジェクトはこうなったら成功ですよね」「ここまでを、いつまでにやっておかないといけないですよね」といった確認をします。

あとで「イメージが違う」「思っていたのと違う」といった差し戻しを防ぐために、自分に仕事を指示した人にスケジュール感やアウトプットのクオリティを確認する。ちゃんと相手の期待値を確認して、成功の定義を決めるのが、5%社員の特長です。

「気づいたら夜」を避ける時間術

ーー逆に、95%の一般的な社員にはどのような共通点がありますか?

越川:5%社員以外の方たちは、仕事中にムダだと思って過ごしている時間が1秒もないんですよ。ムダな時間なく仕事を進めているんですけど、「振り返ったらムダだった」ということです。なので、自分の作業時間の中のムダを知るポイントは、必ず成果目的に合わせて振り返るということです。

ビジネスパーソンの働く時間の約7割は、チャットやメール、資料作成、そして会議に費やされますが、この3つは振り返らないと成果の当否がわかりません。

目的達成を目指す中で、自分の行ったチャット、資料作成、会議が正しかったかどうかの振り返りをしないと、ムダなものに気づかないというのがまず1つ目です。

そして95%の社員は、相手との認識がずれていることが多いんです。「重要そうな」とか「必要そうな」とか、「そうな」が付くものってだいたい9割使われないんですね。

僕もPowerPointの責任者だったので責任を感じていますが、日本で作られるPowerPointのページ枚数のうち、24%が上司に対する過剰な気遣いで作られています。「必要そう」だと思って作られている。僕はこれを「忖度ページ」と名付けているんですが、826名の意思決定者を追跡したら、なんと「忖度ページ」の8割がめくられてもいないんですよ。

要は上司にとって必要じゃないものを、必要だろうと思ってがんばって作っているという。「残業沼」というのは、これなんですよね。必要ないものを作って時間が長くなって、残業が多くて上司に怒られる。そして期待されたものを作れていない。

仕事は、作業する自分が主役ではなくて、提出する先の相手が主役であるということです。その主役の人に求められたものを満たすためにはどういうものが必要かを最初に確認して、それを締め切りから逆算して順序立ててやるのが、5%社員の特長です。

仕事を受けたら全力で黙々とやり、気づいたら夜になっているというのが95%の社員かなと思いますね。夜やっている仕事というのは、往々にして差し戻し対応が多いんですね。ギリギリ夕方5時に間に合わせて作ったんだけど、上司やお客さんから「ちょっと違うからここ直して」みたいな。それを残業してやらなければいけないみたいな感じなんですよ。

5%社員は、進捗20%くらいで「イメージはこんなので合っていますか?」と相手に確認するので、95%社員と比較して、差し戻しが74%少ないんですね。

そのへんの認識合わせの作業があるかないかで、だいぶ労働時間は変わってくると思います。