2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:パナソニック株式会社
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林千晶氏(以下、林):私は98年から2000年までアメリカで経済ジャーナリストとして取材していた時に、孫さんも来て「豆腐の会社を目指す」と。つまり1兆、2兆の会社になるということをおっしゃっていたのがすごく印象的でした。
それと、いろいろな日本の経営者の方がアメリカに来て記者会見をする時に、私はいつも記者として行かせてもらって記事を書いていたんですけど。「なんか切ないな」と思ったことがありました。私が大学院に行っていて、かつジャーナリストになったばかりの97年に、ソニーはプレイステーションがすごくうまくいっていて、出井(伸之)さんが来た時に「Best CEO」とアメリカで書かれていたんですよ。
「マイクロソフトはXbox不調だけどソニーに対してどうやって戦うんだ? もうソニーが世界の覇者になる」とニューヨーク・タイムズでイラスト付きで出ていたような時代がありました。
それからたった数年後、具体的な名前を出してしまってあれなんですけど、今度は「Worst CEO」で出井さんが出ていました。「え、数年前Bestって言ってたじゃん」と……。要は経営者として「これだ」とフォーカスして事業がうまくいったら「すばらしい」となるし、失敗したら「あの人のせいで」と言われる。そんな厳しさはあるのか。
とはいえ真面目にきちんと考えたら戦略を立てられるようになるのか。または「生まれながらの才能だから、そういうのが得意じゃない人間は社長にはならないほうがいいよ」ということなのか。
私へのアドバイスも含めて聞いてみたいんですけど、どう思いますか?
樋口泰行氏(以下、樋口):1つ言えるのは、やはりメディアの人が雑誌を売ろうとすると、刺激的なことを言おうと人の評価を上げるか下げるかしかない。中途半端なことを言ったら売れないですよね。だから、上げておいて下げた。その要素は大きいです。
林:なるほど。樋口さんも上げられたり下げられたりしてますか?(笑)。
樋口:その前に、ニュースバリューがないからあまり話題にならないと思いますけど(笑)。
林:そんなことはないですよ。でも、樋口さん自身はいろいろな企業の経営者として、自分の戦略もそうですし、競合企業の戦略を見たときに「いい戦略だな」「悪い戦略だな」ということはきっと絶対的にあるんですよね。
樋口:それはあると思いますね。
林:あと時間差もありますよね。
樋口:今みたいな、逆立ちしてもアメリカのメガプレイヤーに勝てない。それはスピード勝負、規模の経済性勝負、面取り勝負ということで、やはり最初に面を取られたらもう終わり。今のシェアエコノミーのプラットフォームも面を取られたら終わりですよね。
林:そうですね。
樋口:そういうところはやはり勝てない。そうしたら、どこで勝てるのか。しかも一瞬勝つだけじゃダメだと。サステイナブルに持続性を持って勝てるところはどこなのか、その条件はなにか、ということはやはり見出さないといけないですよね。
林:なるほど。ということを今やっていらっしゃる?
樋口:やらないといけないかなと思っています。
林:控えめの方で、なかなか自慢話してくださらないんですよ(笑)。
樋口:いや、そういうのはちょっとキャラじゃないですから(笑)。
林:そうか、やはり勝てないところを変に「勝ちます」と言うよりは、アメリカが強いところはそこはそことして認めつつ、そのなかでどう勝つかということもすごく重要な戦略だということですよね。
樋口:そうですね。
林:例えば具体的に、よくIoTの話題があがり、それもプラットフォームを作っていくとか、俯瞰の設計のところではどうしてもアメリカや中国のほうが上手なんじゃないかと思うんですけど。
でもIoTって、それを実社会に戻すわけですよね。プラットフォームという上層のものと比較的日本が得意そうなリアルなものがある。実社会に戻して動かすとなったときの動きの繊細さや丁寧さという意味では、日本にも優位性があるんじゃないかと。
どちらの強みもつながって、最も駆け引きが行われそうな領域だなと思っている。そんななかで、そのままの戦略をしていてくださいとは言わないんですけど、IoTのような戦略のなかで、大きな意味ではどういうところに勝機があると思っていらっしゃるのかを可能な範囲でお聞かせください。
樋口:IoTって1つの勝機ではあるかもしれないですけれども、お客さんのところに行って「IoTいりませんか?」なんていう商売の仕方はしないですよね。ですから、いろいろなものがインターネットにつながる、そして「つながった結果なにがうれしいの?」というところが一番の肝で。
「いや、うれしいところは別にありません」、あるいは「データが集まることがうれしいんです」と。「データを集めてなにするの?」「データを集めていろいろな分析ができますよ。その分析がこう役立ちますよ」となって初めてうれしいわけです。でも、そのうれしいところがなかなか出て来にくいんですよね。
だから、IoTでビジネスをしようといっても、そんなにホームランみたいに、「データを集めて分析してものすごいのが出る」「それがお客様からお金いただけるレベルのものになる」という検証をいろいろな会社が今やっている。そこにものすごい売上を期待すること自体が少し危険だと思っています。AIもそうですけれども。
林:つい最近、東大の人工知能をやっていらっしゃる松尾(豊)さんとか、ケヴィン・ケリーさんと、『WIRED』を始めたという話をした時に、「コンバージェンスとダイバージェンスが同時に起こるのがこれからだ」「どんどんグローバルに地球大のプラットフォームを作っていく力と、本当に一人ひとりの多様を生み出す、その両方が同時に起こるのがこれからだ」という話をしていました。
樋口:難しいですね。なにか図がないとわからない感じですけど。
林:本当ですよね。でも考えてください。ガーッって1個になっていく方向性とバーッて広がっていく……まあ「バーッ」でごまかしてるんですけど(笑)。
樋口:関西人みたいですね(笑)。
林:本当はそれぞれなにか違うはずなのに、まだまだ私たちの暮らしって同じことばかり求められているなというところはありそうで。そのなかで、IoTみたいなものが1人ずつ違うものをどう変えていくのかというところにすごく興味があるんですよね。
例えば、会社で同じタイミングで評価することってすごく変だなと思うんです。考えてみると学校も、人によって得意なことも覚えていることもやれる能力も全然違うのに、生まれた年で1年生・2年生、算数・国語。あれってたぶん20年後、ものすごくバカげた教え方になっているんじゃないかなと。
でも、提供する側の論理で「ごめんね。先生が1人しかいないから、もう同い年で40人一気に勉強しよう」とやっていたのが、IoTで人間に依存せずに知恵やサービスが得られるようになってきたら、1人ずつ「私は本当にここ苦手だから、ここだけ集中して勉強する」というように、より広がっていく。そういう1人ずつの幸せという観点では、けっこう日本企業が得意としそうだなと想像していたんです。
なにかすごくこだわりがある人には、「あなた、ここが好きなんでしょ」という100種類の喜びの物語は日本企業のほうが作れそうなのかなとか。そんなに単純ではないんですかね。
樋口:う~ん、なんかお金の匂いがしないのであまり興味が湧かなかったんですけれども(笑)。
(会場笑)
林:はい。では、次の話に移りますね。「未来の働き方がどうなっていくの?」について話をしていきたいなと思っています。
この中には学生の方もいらっしゃるんですかね?
(会場挙手)
あ、学生の方もいらっしゃるわけですね。なので、「これからどう変わっていくのか?」ということについて話をしていきたいと思います。
例えば、岡島悦子さんという仲の良い女性が、「40歳ぐらいで経営者になったほうがいいんじゃない?」「自分でもっと責任持って経験していったほうがいいんじゃないの?」と話していたり。あとは「小さくてもいいからスタートアップがもっと増えてもいいんじゃないの?」という発想もあったりするんですけど。
一方で、樋口さんと話していると「とはいえ、スタートアップって事業でしょ。ちゃんと戦いに勝っていくことを考えるんだったら、みんながスタートアップになれるわけではないのかな」ということも感じます。そのなかで樋口さんは、例えば自分のお子さんが大学生ぐらいの人に「これからこんな働き方になるんだよ」という話をするとしたら、どうしますか?
樋口:う~ん……。
林:戦略的に。
樋口:そうですねぇ……。
林:(笑)。
樋口:それぞれ人の生き方なので、起業するもよし、一生懸命働かないほうがいいなと思ったらそれもよし、いろいろな価値観があっていいと思います。
我々のような歳になると、「個人の生活を追求しよう」という連中が最近増えてきているんですけれども。もし若い人も含めて全員が個人の幸せだけを追求しだしたら、企業も国もダメになっちゃうんじゃないかなと思うんですよね。
ですから、そういう意味ではちょっとオーバーですけれども、この国をなんとかするためにがんばらないといけない。がんばることによって貢献して、貢献できたということを喜びに感じる部分があっていいのかなと思います。その限りにおいては、どういう仕事でもいいのかなと思っています。
あまりおもしろくない答えですよね。すみません(笑)。
林:いえいえ。一番最初におっしゃった「外資系に行った時にすごいプレッシャーがあった」という話ともつながるのは、今、未来の働き方が描かれるなかで、大企業の中では「残業を減らしていこうね」ということになっています。個人で生きている人にとってみると、「いろいろな生き方をしてもいいよ」といって、全般的に「苦しまなくていい」「自分の楽しみを追求していい」という文脈でとられがちなんですけど、一方で、良いプレッシャーがないと育たないのも事実なんじゃないかなと思っていて。
でも、プレッシャーだけ与えられて苦しむのも違う気がするし、「これがやりたい。だからプレッシャーがあってもがんばれるだろう」、そして「がんばって伸びた」というのが理想ですけど。
実は私、何かをやっている最中に「やりたくない。つらい」というのがあって。それを何年も続けていると「あれがあってよかったな」と後からしか気づけないことがいっぱいあるなと思ったりもしていて。でも、「若い人は苦しいところに行かないほうがいいよ」というメディアの論調もあると思うんです。どうなんでしょうね?
樋口:人間はなんのために生きてきたかというと、不幸になるために生きてきたんじゃなくて、幸せになるために生きてきたということで。幸せの考え方をこれまた真っ二つに分けると、目の前の幸せを追求するという非常に刹那主義的な幸せの追求の仕方と、将来の幸せを追求するために今努力したり我慢したりするというのがある。
一番幸せなのは、両方ミックスで、その時々によってバランスをとれる姿かなと、いろいろ悩んだ末にそう思っているんですよね。
だんだん年齢が重なっていくと、残りが少ないから目の前の幸せの追求のウェイトが自ずと高まるんです。
林:上がっていくんですか?
樋口:70歳ぐらいになって「将来のために今、我慢します」とはならないですよね。
林:私、樋口さんを見ていると逆かなと思いました。だって、あれだけ成功していて、普通なら「もう僕はゆっくり暮らしたいんですよ」と言ってもぜんぜんいいはずなのに、もともとそんなに楽な戦い方じゃない古巣に戻っています。
樋口:だから、これが最後ですよ。これが終わったらもう……(笑)。
林:いや、やっぱりね、それがまた人間っぽいなと思っていて。「これが最後」と言いながら、やはり目の前よりも未来のみんなのために働き続けちゃう。
樋口:そういうふうに貢献したいという気持ちからそうしているのではなくて、もうゆっくりできない体質になっているのかもしれないですね。
最近ちょっと思うのは、会社でランチを食べることだけに集中できないんですよね。やはりメールを処理しながら食べるとか、ミーティングしながら食べるとか。ただ食べることだけをやっていると、なんかこう「悪いことしてるのかな?」みたいな感じですね。
林:それ、最近のライフワークバランス的には、チェックリストでNGになって、偏差値がかなり低くなりそうなコメントですね(笑)。
樋口:「片手で持てる食べ物を買ってきて」という感じで買ってきてもらってやっていますけどね。
林:なるほどねぇ(笑)。
樋口:でも、ベンチャーの人とかもそのノリですよね。
林:でもね、私もそうです。食べるのも忘れちゃうぐらい。忙しくて食べなかったりもします。
樋口:「よく考えたら、今日昼ごはん食べてなかったわ」みたいな感じですか?
林:うん。
樋口:ああ。すごく没頭してるんですね。
林:いやいや(笑)。
樋口:ビル・ゲイツなんかもね、朝・昼・晩、ハンバーガーですよね。
林:ハンバーガー?
樋口:ハンバーガー。「ハンバーガー、資産で何個買えるの?」みたいな。何兆個も買える(笑)。
林:(笑)。そうか。そういう意味では伊藤穰一、私の上司のJoiも案外、食は貧しいんですよ。忙しいから。
レセプションでも絶対に食べられない。でも、そこで食べないとますます食べられないまま終わっちゃう。だから、レセプションではまず5分ぐらいバーっと食べて、あとはずっと……ということで。
日本に来ても、本当にホテルとレセプションのご飯ぐらいしか食べていなくて。日本はおいしいものいっぱいあるんだよと思うんですけど。やはり忙しくなると優先順位が違ってくるんですかね。
みなさん、経営者になる前にお昼をゆっくりお昼として食べられる喜びを噛み締めておかないと、「ランチとミーティングとなんとかと……」となっていく。でも、「ほかのところに喜びがあるから」というバランスになってくるのかなと思いました。
林:あともう1個。ありがちな質問、「人工知能は人の仕事を奪いますか?」。あるいは、松尾(豊)さんは、「人工知能とロボットが生産性を飛躍的に高めてくれるから、人間が無理して働く領域が減る。だからどんどん労働時間が少なくなってきて、より趣味や自己実現的な意味での働くという行為が残る」と話しています。
それは高齢者もそうなんですよね。70歳でも80歳でも働いている方に聞くと、もう生活のためではなくて、自分が生きているということだったり、毎日人に触れる、話ができるだけで喜びになるというかたちがある。
そうやって働くことの意味も変わっていくなかで、人工知能やロボットってかなり急激に働く環境にもインパクトを与えると思うんですけど、樋口さんはこの点についてどういうふうに見ていらっしゃいますか?
樋口:これは1つ傾向があると思うんですけど、歳のいった人ほど「人間が置き換われるわけないじゃない」と考える傾向にありますね。松尾先生とか若い方は「いやいや、なんでも置き換わっていきますよ」と考える傾向があると思うんです。
言えるのは、先ほど人のマネジメントでモチベーションやエモーションが改善すると言いましたが、そういったものは……そこもやっぱりAIが来るんかな? 少なくとも来るのは遅いですよね。ということは言えるんじゃないかと思います。
その典型が経営で。経営ってやはりアートですよね。人によって感情も違うし性格も違う。そのなかでうまくマネージしていける。そしてみんなが共感できる。「この人のためやったらがんばろう!」と思わせる。これもAIになるんですかね? わからないけど、なりにくいと信じたいなと思いますけれども。
ただ、(AIは)頭脳ですから、人間ってやはり頭脳以外にいろいろと人の心を動かすようなものがあります。なので、トータルで人間という生き物が影響を与えられるというのは、ロボットでは置き換えられない、かなり超越したものがあると思います。
林:私はすごくポジティブに想像していて、そのようにデザインしていけばいいんじゃないかなと思っています。
このみなさんのお手もとにも、働き方改革について具体的に事例も含めた記載があるんですけど、基本的には100パーセント人工知能だけになる領域はほとんどないと思います。
今まで人間だけでやっていたことが、人間だけではなくなっても、例えば長年のデータにもとづいて分析するならデータにもとづいてサポートされながらも、最終判断は人間が行ったり。苦手なことは人工知能に助けてもらいながらやると、より人間の働き方やできることは広がっていくんじゃないかなと思っています。
例えば農家や農業なら、今まですごく画一的だったことが、データ予測や誰がどういうものを欲しがっているかということを人工知能でフィードバックされることで、作り手のモチベーションが上がっていく。その結果、作られていく食べ物の種類がより多様になっていって、品質も上がっていく。人工知能やテクノロジーがなかったら実現できなかったことはたくさんあるんじゃないかと思っています。
だから、そういうふうに早く正しく褒めるタイミングや、その人の能力を見つける力は、うまく人工知能の力を借りていきながら私たちの可能性が伸びていけばいいなと個人的には思っています。
人工知能の議論はとくに知能と生命の2つに分かれると言われていて。知能については圧倒的に人工知能が得意で、どんどんナレッジもためていくことができるし効率化もしていくことができる。でも、人間は知能を持った生命。生命ゆえにに喜びとか感情とか生き抜いていく、生存していくための要素が全部あって。
後者に関しては知能によってはぜんぜん高まっていかないから、喜びや生きていく力については人間が持ちつつも、それを再発見したりバリアを超えていくために知能を使っていくという協調ができたらいいなと思っています。
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