LeSS推進者3名によるパネルディスカッション
常松祐一氏(以下、常松):パネルディスカッションに入っていきたいと思います。では、石毛さんと深澤さんにまず自己紹介をお願いしたいと思います。先に石毛さん、お願いします。
石毛琴恵氏(以下、石毛):株式会社アカツキゲームスでエンジニアリングマネージャーをしている石毛です。よろしくお願いします。
常松:では、深澤さんもお願いします。
深澤良介氏(以下、深澤):atama plus株式会社の深澤です。Dev Unit Successというオリジナルな役割を担っています。「開発者がいるUnit(Dev Unit)でケイパビリティを上げるためならなんでもやる」という役割を担っています。
常松:たぶんこの3人はスクラムマスターも一時期務めたことがあったと思いますが、それよりももう少し大きくLeSS全体で見た時に、うまくいかないところや改善が必要なところを、組織面やいろいろな面からアプローチして改善していく、「LeSS(Large-Scale Scrum)の推進者」により近しい立場ですかね。そんな話をパネルディスカッションで深掘りしていければなと思っていますので、よろしくお願いします。
ということで、どんな話をしたら今日参加してくれているみなさんにおもしろく聞いてもらえるのか、事前に案を出していました。今日の内容は「LeSS最前線」ということで、「LeSS Hugeが……」とか突然出てくるぐらいLeSSにけっこう詳しい人が集まっているので(笑)。ある程度ニッチな、深いところを話せるイベントかなと思いまして、少し踏み込んだトピックを用意してみました。
(スライドを示して)この3つをベースに話をしていこうと思うのですが、「こんなこともちょっと聞いてみたい」「ここの話が聞きたい」とかあれば、ぜひチャットで聞いてもらえればと思います。
まずは「中の人はLeSSのことをどう思っているの?」という話。次に「LeSS以外で開発を大きく変えようと思っていることがあるのか?」という話。最後は「今後LeSSは続けるの? どうするの?」「実はそういうことを思っていたりする?」という今後の開発体制についての話をしていければと思います。
開発メンバーは「LeSSいいな」ではなく「これがLeSSなんだ」の温度感
常松:ということで、まず、「中の人はLeSSのことをどう思っている?」というところで、私から話を振っていきたいなと思います。だいたいこういう「LeSSをうちではやっているんですよ」という話は推進者の話が多いので、「LeSSにしてこんなに良くなりました!」みたいなものが多いんですよね。プラスで言うと、今日みたいなスクラムマスターに話をしてもらって、「LeSSでこう少し良くなりました!」みたいな。
でも実際、開発に携わる大半のメンバーは、いちスクラムチームやいちステークホルダーだったりするので、LeSSをやっていない人やLeSSに興味がある人からすると「本当はLeSSのことをどう思っているんだろうな」という話はけっこう気になるんじゃないかなと思って用意してみました。
Rettyに関して私はどう感じているかというと、たぶん大半の人はLeSSのことをなんとも思っていません(笑)。「LeSSいいな」とかじゃなくて、「Rettyはこういう開発プロセスなんだな」「ああ、これはLeSSっていうんだ」「知らなかったけど、これがLeSSなんだ」ぐらいに感じていると思っています。
LeSSの勉強をしている人もいますが、たぶん全体の1割くらいだし、「LeSSでこう書いてあるけど、こうじゃないですか?」みたいな話も別にそれほどありません。やはり池田(池田直弥氏)の発表にもあったように、「Rettyとしてやってきたい上位の目標があって、その中で今たまたまLeSSをやっている」「LeSSって知らないけどそうなんだ。ふーん」というくらいがうちの雰囲気ですね。アカツキゲームスさんはどうですか?
石毛:温度感はそんなに変わらないかなぁと思います。一方で、スクラムやLeSSという言葉は出しているので、興味を持つ人や「もっと知りたいな」「もっとうまくやりたいな」と言う人もいます。逆に、よくわからない中で「なんで今こういうやり方をしているの?」という疑問を持つ方もいるので、そういうところをフォローするためにスクラムマスターが勉強会を開いてくれている感じですかね。
コミュニケーションを通じてLeSSの相互理解を深めてきたatama plus
常松:atama plusさんはどうですか?
深澤:atama plusはLeSSを導入した最初に、このLeSSの本(『「大規模スクラム Large-Scale Scrum」』)を……。
石毛:あぁ(笑)。
深澤:これは3年前ぐらいに出たLeSSの本で、当時唯一の日本語の本です。これをみんなで読み合わせて「何が起きるだろう」「これを取り入れることでうれしいのだろうか」ということを、ディスカッションを交えて理解していった感じです。
その後、オンボーディングのコンテンツにもしたし、導入して数ヶ月経った時にアンケートを取って、「どのミーティングがどういう役割か」「満足度はどうですか」とヒアリングをしました。
「オーバーオールレトロスペクティブ」がよくわからないという認識になっていたので、コミュニケーションを通じて相互理解を丁寧にやっていきました。その結果、LeSSはなじんでる状態に近いかなぁと思います。ただ、原点主義という感じではないです(笑)。
常松:うちもそうですが、どの会社も入社した人は 『スクラムガイド』を読むなり、『SCRUM BOOT CAMP THE BOOK』を読むなり、他のスクラムの本を読むなりして、スクラムを勉強していますよね。「スクラムとはこういうやり方なのだ」みたいな。それはわりとみんな同じですかね?
深澤:『スクラムガイド』は確かに案内してます。
常松:その上でLeSSまでいく人は、そのうちの何割か? という感じですかね。ちょっと少ない割合になります。atama plusさんは(スクラムの勉強を)わりとやっている?
深澤:そうですね。「本は案内しているけど……」という感じです。
常松:「LeSSやるよ」と言うと、「LeSSってなんだよ」という不安感が意外と増長される気はするんですけど(笑)。
深澤:言葉がたくさん出てきますからね。
常松:導入して落ち着くと、意外にそうでもなくなるんですかね。まぁ2年、3年とやっているからなのかもしれませんが。
深澤:うん、そんな気はしますね。やはりスクラムに比べて、先ほど言ったオーバーオールレトロスペクティブだったり、プランニング2だったり、2って何よ! みたいな話とか……。
常松:ふふふふふふ(笑)。
石毛:んふふふふ(笑)。
深澤:混乱を呼ぶことは確かにある気はしますが、「まぁ、なじんだな」という気はします。
LeSSを導入する時に「LeSS」の名前は出したほうがいいのか?
常松:会社にLeSSを入れる時に、LeSSという名前で仰々しく出したほうが良いのか、出さないほうが良いのか、どう思いますか?
石毛:導入する時ですか?
常松:導入する時に「私たちはこういうやり方をやっていきます」と、LeSSの基本的なフレームワークは説明しますが、「これをLeSSと呼びます」と言ったほうがいいのかどうかは、けっこう悩ましいなと思っています。
石毛:私は言っちゃったんですが、自分の反省として、言わないほうがよかったなと思っています(笑)。
常松:うちのケースでは言われちゃったのですが、あまり言わないほうがいいんじゃないかなと思いました。社長の武田(武田和也氏)が「LeSSでやります」と全社会議説明書類の中でバーンと出して、それから急にマネージャーがアワアワとLeSSの勉強をしだして……(笑)。あれは悪いことしたかなとメチャクチャ思うんですよね。
それを見て「あれ、言わないほうがよかったかな」「LeSSの導入は、もう少しゆっくりのほうがよかったのかな」と思うところもけっこうありますね。
石毛:ふんふん。
深澤:あー。
常松:atama plusさんはどんな導入の流れでした?
深澤:一斉導入だったんですよね。コロナ禍になって間もない時にバッと試した感じもあったので、共通言語をみんなで手に入れるためにも、LeSSや、そういうイベントの名前を相互理解しようというのが大きかったです。
でも大事なのは、LeSSを導入するモチベーションやありたい姿をきちんと語ることですかね。Rettyさんの「サイロ化をしない」「自由さを失わないことを狙いに」というのも、今だからこそけっこうハッキリ言うと思うのですが、最初の時点で「なんでこんなことをやるの?」というのをセットで言うことが大事かなと思っています。
それを踏まえて、あえてすべてをLeSSに則らずにアレンジをするとか。これも本の「調整と統合」という章に「やったらいいよ。やんなくてもいいけど」みたいものが、たくさん詰め込まれてます。それをどこまでやるのかという話は、もともと「どうありたかったのか」がないと判断できないなと思います。そういう、「なんのためにあるの?」というのを、徹底的に理解し合って定めることは、やはりすごく大事なのかなという気がします。
石毛:そうですね。うちのケースで言うと、ありたい姿や目的を1年間かけてコミュニケーションをした後に出しました。それでもやはり知らない言葉って怖いじゃないですか。
LeSSやスクラムという言葉が出てきた時に、一気に「おや?」「ちょっと怖いぞ?」と「私たち、スクラムとかLeSSとかわからないから、何をしたらいいのかわかりません」という感じになってしまったので、うちのケースだと(LeSSやスクラムという言葉を)出さないで、もう少しいろいろ試して、いい感じになった時に出せばよかったのかなという気はしています。
常松:たまたまなのか、今日集まった3社とも全社的に「LeSSやりまーす」と言った会社です(笑)。長く続いてる会社が結局そうなので、実はこれは大事なファクターなのかもしれないなぁと思いました。ジワジワやって結局言い出せなくなるよりも、言ってしまって短期グッと堪えてしまったほうが良いのかもしれません。
石毛:言い出せないのはつらいですけど、そうですね(笑)。
常松:なるほどな。深澤さんの話を聞いていて、大規模LeSSの本をメッチャ読み込んでいるなと感じました(笑)。
石毛:(話に)章が出てきますもんね(笑)。
教材としておすすめなのは『スクラムガイド』
常松:Twitterなどであった質問を少し拾います。「アジャイルやスクラムを、新しく入った人や興味を持った人に勉強してもらうような教材としてどんなものをおすすめしていますか?」。いきなりあの大規模スクラムの本をボンッとは、たぶん渡さない気もするので(笑)。
石毛:あぁ、確かに。でも短くってエッセンスが入っているので『スクラムガイド』ですかね。2020年にアップデートされたのもあるし。
常松:うちも『スクラムガイド』読んでくれと言われたりします。Googleで調べたら出てくるので読んだりしますが、けっこうフワフワしているというか、解釈が難しいわけではないですが、「これはどう実装・実践していけばいんだろう?」というけっこう悩ましいところが出てきませんか?
深澤:確かに。
常松:あれだけだと。
石毛:そうですね。うちもそうかもしれません。
深澤:読んでもらうというより、あれを肴にチームで私たちはどんなスクラムをしているのかをきちんと語ってもらうようなオンボーディングをしている感じがあるかもしれないですね。
常松:あれを読んで、ふだんの開発や流れにどういうふうに反映されているかを、きちんと言葉にしてもらうということですかね?
深澤:うーん。そんなカッチリというわけではないですが、読んでおしまいという感じではなくて……。
常松:なるほど。LeSS自体のことはそんなに聞かれなくなりますか?
深澤:うーん。そんなにない気がするなぁ。最初に導入した人が伝道師になっていて、チームに広がっていくのが多いのかもしれないですね。
常松:今日話を聞いていて、「ああ、そういえばLeSSの本ってこんな感じだったな」と思い出したのが、「こうやってもいい、やらなくてもいい」と、強く押し付けないものがあること。後になってみて「そういえばLeSSの本にこんなことが書いてあったな」と、今でも思い出すことがありますね。「良いこと書いてあるな!」みたいな(笑)。
深澤:そうそう。迷った時に立ち返ると「あれ?」という気づきがありますよね。
常松:あの分厚い辞書みたいな本、良い本です。良い本というか、「実践してこういうふうに着地させました。あなたの環境でうまくいくかわからないけど」ということが詰まっていて、時間をかけてしっかりと読むと「ああ、こういうことを言っていたのね」ということがけっこうありますよね。
私は読んだ内容を半分忘れているかもしれないですが、スプリントレビューの工夫やオーバーオールレトロスペクティブの工夫も、「こうするといいよ」という話がきっと書いてあったと思います。
LeSSの導入は採用時の引きになるのか?
常松:Twitterから質問をもう1個持ってきてもいいですか?「LeSSをやっていますというのが、採用の引きになっているのか?」という少しトピックからはずれた話ですが、言われてみればという感じですね。私はあまり聞いたことがない気がする。
石毛:私も聞かないですね。少なくとも「スクラムや大規模スクラムのLeSSをやっているから来ました」というのは聞いたことがないです。一方で、「そういう登壇や記事を見て興味を持ちました」ということはあります。
深澤:atama plusでは、LeSSと言われることはないかもしれません。でもスクラムにとても真摯に向き合っているのが、面接を通してすごくわかりましたと言われることは多いですね。
常松:こういう直接的な枠組みやプロセスというよりかは、「それをベースにして何をやりたいのか」というところがやはり採用では刺さるというか、実際そういうのが(LeSSをやっている)良いところなんですかね。
私たちで言うと、「LeSSをなんでやるんですか?」というところで、LeSSの中にある「プロダクト全体思考」の話をよくしています。カジュアル面談や面接などで「RettyはtoCもtoBもあるけれども、外から見たら同じRettyだから、プロダクト全体で優先順位よく考えたほうがいいじゃん」という話をすると、「あ、なるほど」と言ってもらえることが多いですね。
(次回へつづく)