インターネットの父、村井純氏

田中邦裕氏(以下、田中):よろしくお願いします。ここから60分間、登さんと村井先生という、濃いキャラを2人お迎えして、どのように進めていこうかと、悩ましいところですけれども、最大限お二人の魅力を引き出していきながら、けしからん話をしていければなと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。

では、最初に自己紹介を軽くしていただければなと思います。お二人のことはみなさんすでにご存じかと思いますが、村井先生から軽く自己紹介いただいてよろしいでしょうか。

村井純氏(以下、村井):慶応大学の村井です。今日はちょうど「WIDE(WIDEプロジェクト)」の合宿をやっていて、そこからここへ来たので、髭も剃っていないし(笑)、WIDEの合宿の時はガッと(予定を)ブロックしているので、けっこう久しぶりにいろいろな話がじっくりできる時だと思います。

今日はこのシャツを着てきました、「JUNET(Japan University NETwork)」。

田中:ああ、JUNET。

村井:JUNETは、コンピューターのネットワークでやるというので、ネットワークと言っているんですけど、WIDEは「Widely Integrated Distributed Environment」という、いつの日かコンピューターが全部つながって、その上で分散処理ができるようになればいいなというもの。インターネットや、コンピューターをネットワークでつなぐということは、つながった上でなにかのOSが動き出すだろうなというのを狙ってやってきたので、ようやく準備が整ったかなというぐらいなんですよね。

本当にどういう分散処理ができるのか、いよいよおもしろくなったタイミングじゃないかなと。ようやく準備が整った時には相当、歳を取っちゃったという感じでございます。よろしくお願いします。

「けしからん」で有名な登大遊氏

田中:よろしくお願いします。では、登さんお願いします。「けしからん」で有名ですね。

登大遊氏(以下、登):登と申します。「SoftEther」の開発をして、今はほかにも、IPAとNTT東日本の「けしからんフレッツ」とかの電話会社と筑波大学とをやっています。自分はプログラミングもやるんですけれども、十数年前に、ShowNetの方々から村井先生のWIDEプロジェクトの部屋がSFCにあるという噂を聞いて、夜中に行ったら大学院生がインチキな環境の作り方を随分教えてくれたんですよね。

それから10年ぐらい経って、まさにああいう自分らでネットワークを作って遊ぶという環境が重要だと痛感して、それでソフトウェアはだいぶ自分も作れるようになったので、この偉大な村井大先輩とパネルディスカッションできるとは、大変光栄に思います。よろしくお願いいたします。

田中:よろしくお願いします。そうですよね。私たち30代、40代からしてみれば、村井先生は神みたいなものです。インターネットの父と言われていますが、インターネットの神なんじゃないかというぐらいです。

高専在学中に学生起業した田中邦裕氏

田中:私も軽く自己紹介させてもらいます。高専在学中に研究室にあったサーバーを勝手にWebサーバーにして、友だちにサーバーをレンタルすることを起源として、26年前にさくらインターネットを創業しました。実験室で遊び倒したあと、やはりサステナブルにするにはお金をもらってやらないといけないよねということで、手段として起業を選んで今に至る人間です。

ICT人材育成で重要となる、コンピュータープログラミング環境とネットワーク環境

田中:ではここからは、そんなけしからん登さんのこれまでのヒストリーをプレゼン資料とともに、村井先生にもいろいろ突っ込んでいただきながら、お話しできればと思います。

まずはこのページ。登さん、ICTの課題から入っていますね。

:OS、クラウド、セキュリティ技術、ファイアーウォールなど、これらはすごく複雑で、日本人はこれらを使いこなすことがようやく今できています。

ただ、インターネットの発明を考えると、やはりアメリカのUNIXは50年前ぐらい前からずっと自分たちで作ってきていて、2番目の中国も、最近こういうものを作れる人数が多くなっていると。

日本もこういうものを作れる人がもう少し増えて、10年ぐらい経った時に、1万人ぐらいになっていたらいいなと思っています。

「未踏」のコミュニティや、そのほか未踏のようなすばらしいコンピューター、ネットワークのコミュニティはたくさんありますが、そういうところの方々が共通して重要だと言うものが2つあると思います。

1つ目は、コンピュータープログラミング環境。そして2つ目は、ネットワーク環境が自由であること。しかもそれが押しつけられたものじゃなくて、自分たちでそれを作っているという状況になることが重要なんじゃないかと自分は思っています。

インフラのチャレンジは楽しくてしょうがないはず

田中:このあたり、村井先生はどうですか?

村井:俺は、本当に自由にできるようになったと思うんだけど。

コンピューターがあって、インターネットがつながって、世界中のコンピューターリソースがなんとなく下のほうにあって、それがブラックボックス化して、その上で、なんでもできるとなっているのはアプリケーションだけで、それじゃダメだろう、インフラもやれよという話をしていたところです。

結局その上のオーバーレイのネットワークで、ハードウェアのインフラのチャレンジがソフトウェアの上でできるようになって、バーチャルマシンが出てきている。インフラ・アズ・ア・サービスという言葉もあるけど、インフラそのものも今度はオーバーレイで実験をできるようになってくるから、登さんのやっていること自体がそもそもオーバーレイで、どういうネットワークを作れるかということがコアになっているとは思うけど。そういうことにチャレンジする人が、すごくしやすくなっているはずなんだよね。

なのに、あまり登さん以外いないのがちょっと不思議だよね。楽しくてしょうがないはず。なぜかといったら……もうこれ、どんな悪いこと言ってもいいんだよね?

田中:大丈夫だと思います(笑)。

村井:例えば、某国立研究所みたいな、予算がジャブジャブ天から降ってくるところがあるじゃないですか。

これはあまり笑えないから言っていいのかどうかが微妙なんだけど、例えばそこが1,000台のコンピューターに攻撃されるというサイバーセキュリティの研究をやろうと思ったとするじゃない。

そうすると、1,000台のコンピューターを買っちゃうんだよね。1,000台のコンピューターを買ったけれど、箱を開けるのに時間がかかっちゃって大変だったみたいな、そういう笑い話があるんだよ。

だけど今はそんなことやらないよね。シミュレーションも、バーチャルマシンもできるようになったから、あんなにお金を使わないとできないんだみたいなことが、ソフトウェアでできるようになっている。

なんだったら、インターネットの作り直しをインターネットの上で仮にやってみるみたいなこともいくらでもできるわけだよね。それに近いソフトウェアもあるんだけど、そういうのどう思います? もっとたくさんいてよさそうだよね。楽しいもんね。

やりたいけれど、組織の制約で自由にできない人が多数いる

:クラウドの技術の上のほうを使いこなせる人は増えておりますけれども、実はAmazonやGoogleやAzureの中身と同じようなものを自分らで作るというところからわかっていないと、本当によいものは作れないじゃないかと思います。

さっき村井先生が、そういうことが最近自由にできるはずなのにやる人が少ないのかと言っていましたよね。自分の周りにも、実はやりたいんだけれども、日本型組織に入所したら「なんかこれ、危ないんじゃないか?」といろいろな制約があってできないので、自分の家に押し入れコンピューティングとかを作って、組織とは無関係にやっているという方がかなり多数いるように、今見えています。

田中:会社でそういうことが自由に実験できればいいんですけれども、今は実験をする場所とサービスで提供している場所があまりにも遠かったり、つながってなかったりということがあるんだろうなとは思いますよね。

やはりインフラ作りは楽しくてしょうがない

村井:でもさ、その押し入れネットワークというものを作ると、それがすべてになるかもしれない。いつも、「ポストインターネットは何を作りますか?」という話があるわけだよ。どう考えたってインターネットはもうあるんだから、その上のオーバーレイから発展して乗っ取る。

インターネットは、電話網の上のオーバーレイネットワークなんですよ。だから、デジタルコミュニケーションで、電話網の上のオーバーレイネットワークでうまくいきそうな気がしているわけ。電話網の上にオーバーレイでやっていると、すごく高いんだよ。3分10円とか、JUNETはそんなところから始まっているよね。

田中:そうか、ダイヤルアップはそうですね。

村井:これは高いから、電線も光ファイバーもインターネットのために使うということにすれば、NTT東日本の人にこんなことを言うと申し訳ないけれどさ、だからそこはもう要らないだろうみたいな。

そうすると、ネイティブインターネットで作ればいいじゃん。結局、今はダークファイバーを買って、インターネットを作って、電話のアプリケーションがその上に乗ってくる時代になったでしょう。それもオーバーレイネットワークが……という実験だから、おもしろいじゃん、うまくいくじゃんとなったら、その下のインフラはネイティブにすればいい。

だからそういうインフラ作りって、やはり楽しくてしょうがないと思うけどね。

(次回へつづく)