電動車を支えるインバーター

後藤誘紀郎氏:こんばんは。私は後藤と申します。先ほど紹介があったシステムの中のコンポーネントのインバーターの設計・開発をしております。今回は「モビリティの電動化に欠かせないインバーター」について説明させていただきます。

(スライドを指して)私が2007年に入社してから11年間で開発設計を手がけたインバーターが、17車種に搭載されています。

こうして実際に物として世に出ているものに携わることを経験しているので、非常にやりがいのある仕事だと実感しています。

とはいうものの、みなさんインバーターとは何かご存知でしょうか? なかなかインバーターは馴染みのある言葉ではないのかなと思いますので、説明します。これは電動化にとって非常に大事なコンポーネントで、自分も担当している部品ですので、多くの方に知ってもらいたいと考えています。

インバーターとは、簡単に言うと電力変換器です。バッテリーは乾電池と一緒で直流です。車輪を回すためにはモーターを使うのですが、自在に扱うためのモーターはやはり交流の電源を使ったモーターが必要になります。「蓄えるには直流しかできない。でも欲しいのは交流」ということで、バッテリーとモーターの間を取り持つために、インバーターで変換を行います。

このインバーターは、モーターの要求によって、例えば大きい波形を出してあげれば力強くモーターを回せますし、周波数を高くすることによってモーターを速く回すこともできます。自在にモーターのやりたいことを実現してあげるのがこのインバーターというものです。

なかなか世の中にはインバーターという名前は出てきませんが、影の活躍者ということで、モーターはインバーターがなければただの鉄の塊、くらいに思っていただいていいのかなと思います。インバーターはモーター駆動にとっては欠かせないものだと、覚えていただければと思います。

1つトヨタさんの例を挙げます。トヨタさんでは「環境チャレンジ2050」ということで、2010年から2050年の間に「新車のCO2を90パーセント削減していこう」という目標を掲げています。それを実現しようとすると、エンジン車を縮小して、HV・PHV・FCV・EVを展開をしていかなければなりません。

HVはエンジンと電池の2つを使うものです。PHVは電池をたくさん使ってEV走行を増やすもの。FCVは水素燃料を使ってモーターを駆動するもので、EVはまるっと電池を使うものですね。電動化というと結局はモーターでクルマを動かすことになるので、どれになってもおのずとインバーターも必要になります。

環境規制を受けて、電動車が躍進していくことはすでに見えていますので、インバーターが活躍する場はどんどん増えていきます。

インバーターの構造

「じゃあインバーターってどんなものなの?」ということで、ボンネットを開けるとこのような箱の塊が載っています。

これは重たくて大きいのですが、この中にいろいろなものが詰まっています。こうした筐体の中にいろいろな部品を詰め込んで、非常に複雑なものになっています。

これを動かすためには、ソフトや制御の知識がなければ動かせませんし、機械系の知識も求められます。また、実際に動かせる電気回路の知識も必要ですし、半導体を用いてスイッチングさせることになりますので、電子デバイスの知識や基板をつくるということで、電子回路の知識も必要です。

あとは、トヨタさんのシステムでは電圧を300ボルトから650ボルトに持ち上げる、電磁気学を用いた昇圧をさせることもあります。とにかくさまざまな技術分野の集合体になっています。

冒頭に17車種のインバーターを手掛けたと言いましたが、当然、新入社員で入ったときは、インバーターの一部分を作らせてもらいました。だいたい入社して3〜4年経つと、インバーターの全体を統括して、1つのものを作り上げていくようになります。

偉そうに言っておきながらも、当然1人でできるものではないので、この仕事の関係者の図を書きました。

私が担当しているのは、この設計・開発の部分です。ここにあるように、こちらがカーメーカーさんで、社内があって、仕入先さんがあります。

仕事の流れとしては、顧客から「こういったスペックのインバーターが欲しいよ」といったかたちで要求が来ます。

これを実現していくにはさまざまな部品を作らなければなりません。社内の中で作るものもありますし、仕入先さんにいろいろな部品のパーツを作ってもらうこともあります。こういった中での取りまとめをやっていきます。

また、「どうやってこれを売り込んでいくか?」とか「この商品はどういうものを売りにしていくか?」という企画を考える人もいます。

あとは製造・生産技術ということでは、このインバーターの部品を集めて、1台あたり短時間で組み上げようとすると、作りやすさも考えなければなりません。そんな中、生産工程の設計部門と連携をしながら作っていくので、とにかくさまざまなところと関わりながら作っていきます。

デンソーはインバーターだけではなく、熱交換器系などいろいろな分野の技術を取り扱っており連携が取りやすい会社でもあるので、こういった仕事はやりやすくなっています。

このようにさまざまな人たちと関わりながら、技術・品質・コストを求めたインバーターを作っています。

インバーター開発における取り組み

では、開発の取り組みについて2つご紹介したいと思います。

まずは電気的な性能です。

インバーターというのは直流から交流に電力を変換させるという機能です。エネルギーロスを発生させずに直流から交流に変えることが理想なのですが、どうしても変換するときにはロスが発生します。

ロスが起こると熱に変わってしまうので、熱でいろいろな部品が壊れてしまいます。そこで、熱をなんとかしなくてはならず、アプローチとしては大きく2つに分かれます。

当然、熱が出るなら冷やしてやればいいわけです。冷やす技術が強ければ熱くならないので、どんどん小型化ができるようになります。

言われれば当たり前なのですが、このスイッチングのデバイスが一番熱くなるので、これを両方から冷やしてやる。他社さんは基本的に片方からしか冷やしてこなかったのですが、デンソーは発想の転換で「両方から冷やせばいいじゃん」ということでやってみました。

発想自体は誰でも出るかもしれませんが、こういった積層構造を作れるのも、デンソーにはモノづくりの強みがあり、設計の発想を実現する力を持っているからこそだと思います。

もう1つは、損失を下げるというところです。ここは難しいので簡単な紹介程度なのですが、いわゆるシリコンカーバイド(SiC)にはシリコンの半導体素子を使うのですが、SiCを使って損失を下げていったり。そういったところでデンソーの強みを生かして、インバーターを提供しています。

過酷な環境に耐える

他には、構造関係の紹介です。インバーターには電子部品がいろいろ入っているのですが「クルマへ載せる」というのは非常に過酷です。

クルマが汚くなれば高圧洗浄機で洗浄されたり、当然雨水にも晒されます。とにかく過酷な環境の中でインバーターは動いていかなければいけません。

また当然ですが、衝突事故に対してもインバーターは壊れてはいけません。

非常に高い電圧を扱って変換をするものですから、もし漏電を起こしてしまった場合、感電して人の命を脅かすこともあります。そういったところをしっかりとケアしなければいけないという、非常に厳しい環境の中でも成立しなければなりません。

なのでイメージとしては、携帯電話を高圧洗浄機で洗ったり、もっと言うと海水に浸けてそのまま放っておいたり、上から落としてもそのまま使えたり。そういった状況に耐えられる高精度な電子部品だと想像していただければいいのではないかと思います。

インバーターは機械系から電気系まである非常に楽しい分野ですので、ぜひ興味を持ってもらえたらと思います。

以上です。ありがとうございました。

(会場拍手)