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オイシックス・顧客時間 奥谷氏に学ぶ 顧客とつながる時代のマーケティングの新しい基本とは(全5記事)

米国で注目される新市場「ペットテック」 愛犬の健康状態からエサの量まで可視化する、テクノロジーの進化

業界業務の経験豊富な「その道のプロ」に、1時間からピンポイントに相談できる日本最大級のスポットコンサル「ビザスク」。そのビザスク主催のセミナーに、『マーケティングの新しい基本』の著者で、オイシックス/顧客時間の奥谷孝司氏が登壇。本記事では、CESで語られた小売業界の5つのポイントや、米国の小売業界で広がるテクノロジー活用などが語られました。

世界最大級のテクノロジー展示会で話された小売業界の課題

奥谷孝司氏(以下、奥谷):ここからは、私、奥谷が見たCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー:アメリカ合衆国ネヴァダ州ラスヴェガスで毎年1月に開催される電子機器の業界向け見本市)、NRF(全米小売協会の年次開催展示会)で興味があったところ、おもしろかったところをご説明したいと思います。

まず、CESのKeynoteです。これも、危機感はNRFと同じです。あれだけきらびやかな家電のショー、いわゆるテクノロジーのショーですが、言っていることは「サプライチェーンの脆弱性は続くよ」ということです。

戦争もなかなか終わりが見えない中で、自分たちでどうやって物を作って販売していくのか。海外に依存していていいのかという話ですね。一方で、半導体の需要は軟化してくるだろうと考えられています。ただ、引き続き問題になっているのは、労働力不足や長引くインフレ、金利上昇です。

日本にとってこれがわかりにくいのであれば、円安が我々の生活に与える影響を考えてみると良いかもしれません。

ただ、CESでは英国のエコノミストのChristopher Freemanの言葉を引用し、「不景気の時こそ、イノベーションがアクセレートする。技術革新が起こりやすい」とも言っています。目線を上げてこの危機を乗り越えていこうということでした。

一方で企業を取り巻く環境は、もちろんサプライチェーンの問題、大きく見れば先ほども言ったポリクライシスの問題があります。リーダーがいない中で問題を解決しながらビジネスを展開し、サステナビリティでも優れた解決策を企業が提供することが求められているのです。

この話は食や地球環境とも密接に関係しています。例えばFood Techもそうですし、空気、水もそうです。今回のCESでは、特にWater Pollution(水質汚染)、水問題が非常にフォーカスされていました。

Minimizing Packaging(パッケージの最小化)、Recycling Technologies(リサイクル技術)、いろいろなことに目を向けなきゃいけないわけです。そのような中で、Coresight Research社が、「リテール・企業が、どうやってこの課題に対峙していくか」というテーマで話をされていました。

最近のCESや家電のショーは、年によって差はありますが、リテールの話が必ず出てきます。「Reset Framework」「The Consumer at the center」ということで、「顧客中心主義にあらためて舵を切った時に、何をするべきか」という問いが出されていました。

小売業界の5つのポイント

奥谷:彼らの講演からの私の読み解きはこのようになります。まずは「Responsive」。不景気に備えましょうということです。アメリカでもディスカウントストアが台頭してきています。次に「Engagement」の重要性です。長期に渡ってお客さまとつながれるブランドに再構築し、そこにテクノロジーを使っていきましょうということです。

「Socialiy Responsible」は、先ほど言ったSDGs Issueなどへの取り組みです。この問題に対応するだけでは売上向上はしませんが、ちゃんとやっておかないと社会から認められない。サプライチェーンから再設計したパーパス経営を実践して、ディフェンスしていきましょう。ここで変な粗相をしないように、しっかりやっておくということですね。

また小売においては「Expansive」というところで、新たな収益源の構築も重要です。アメリカではリテールメディアビジネス、データビジネスが広がっています。あとは「Amazonプライム」、ウォルマートさんも数年前から「ウォルマート+」ということで、会員制度を有料で展開できるくらいのビジネスをやろうと取り組んでいます。

最後に「Tech-enabled」という言葉です。近年のリテーラーは、お客さまとのつながりに対してテクノロジーを使うのはあたり前ですが、それだけでなく、「在庫管理や生産性向上」といった守りのDXが大切だということです。

これだけグローバルにモノ作りをして物を売る時代ですので、アメリカの小売業においても在庫管理は大事です。フロントエンドへのテクノロジーの導入は多かったのですが、後ろはできていないのですね。「バックエンドをどうするのか」は確かに大事です。

アメリカでもいまだに在庫をスプレッドシートで管理しているようなところが多いようです。このような対応ではかなり不十分だという感じが見て取れました。

CESで見られた多くの企業の「ペットテック」参入

奥谷:そのような小売業界ですが、コロナ禍で伸びたのが、ペット市場です。テクノロジー文脈ではPet Tech(ペットテック)が新たな市場として台頭してきています。

ニューヨークに、Reddyというお店があります。これはPetcoというペット専門店が展開するお店で、犬専用の洋服やこだわりの食を売るお店です。ここに行くと、ペットの洋服作りといったカスタマイズド体験もできます。

CESやNRFの会場にも犬がたくさんいました。街中でも犬が「市民権」を得ている。コロナ禍を経て、ペットという新たな生活パートナーの大切さが見直されているのです。そうなってくるとペットへの支出も増える。洋服も買うでしょうということですよね。こういった体験が非常に注目されています。

実際にCESに行くと、多くの企業がPet Techに参入しています。ペットの居場所がわかるツールや、犬の運動量を計測してそれに応じた餌の量を提示するデバイスなどもありました。

実は餌をあげるボールにもテクノロジーが入っていて、適正な餌の量を提示するものが出ていました。

さらに今回CESを見て思ったことですが、韓国系企業が非常にがんばっていました。CESは日本人も多かったのですが、日本人はほとんどの会社が視察だけです。

韓国は多くの会社が出展者でもあるということです。例えば、犬や猫の写真を撮るだけで健康状態が把握できるペットケア展開企業も出展していました。

また、ウェアラブルテクノロジーで、犬の健康状態を正確にリアルタイムで伝えるデバイスなども注目されていました。

猫好きなのであえて出すと、日本の会社でCatlogさんが出展していました。なぜか猫は少なめですね。猫派としては、ちょっと悲しいところでもあります。

いずれにしても、テクノロジーを人間だけじゃなく、かわいいペットにも取り入れていく時代だということです。

米ペットショップ大手Petcoの取り組み

奥谷:そんな中で、NRFに戻りますが、Petcoの経営戦略も注目に値します。売上を見ても5.8ビリオンドルで、昨年対比18パーセントの伸びです。

彼らはペット用品だけを売っているのかというと、実はペットケアセンターを1,433施設設置しています。やはりペットも病気になったり、トリミングしたりしますので、サービス部門のほうが伸びがよいわけです。年間平均成長率は7パーセントから9パーセントで、約10パーセントです。

実際に、彼らは月額約20ドルの会員サービス「Vital Care」をやっています。いわゆる物販だけではなく、ある種のつながり続けるビジネスを持っているということで、これに入っている人は、LTV(顧客生涯価値)が一般客の3.5倍あるそうです。

ペット業界が有望なのは、コロナ禍で、若い世代もペットに対する愛着、癒し、持つことの幸せを理解して、マーケットが拡大しているのです。日本に比べて若い人の多いアメリカにおいて、ペット業界が注目される理由はここにもあります。

さらには、PetcoはOmni-Channelサービスもしっかりやられています。ペットケアサービスだけじゃなくて、ECもやる。

デジタルビジネスにおいて、マルチチャネルカスタマーは売上も高いということで、非常に上手にサービスインダストリーを取り込みながら、ペットサービスをある意味レバレッジ効果にして、既存のリテールも伸ばしているということです。

小売業界で広がるテクノロジー活用

奥谷:こういう感じで進んでいくアメリカを見ていますと、やはりお客さまとのつながり方が本当に変わってきたなと思います。当たり前ですが、デジタルを前提とした暮らしへとチャネルのシフトが進んでいます。つまり、コロナ禍を経て我々のデジタル活用は進化したのです。

そして、このような展示会を見たあとに街に出ると、あらためて実感するのは、USのお客さまは、すでにさまざまなリテールテックを受け入れていることがわかります。つまり、買物体験における、テクノロジー利用のキャズム(溝)を大きく超えているということです。

このことに関しましては、去年アメリカに行った時に私が「Human touch technologyで買物価値を上げよ」というテーマで記事を書いていますので、また読んでいただければと思いますが、ここで簡単に解説したいと思います。

Amazon Goを見に行くと、あらためてテクノロジーはすごいなと思うのですが、売っている物だけを見ていると、そんなに買物価値は高くないですよね。

ただ、「Amazon One」という生体認証や決済機能をAmazon FreshやAmazonが買収したWhole Foods Marketで体験してみると、当たり前ですが、こっちのほうが買い物価値が高いのですね。その理由はテクノロジーにある訳ではありません。

Amazon Freshも、全米で最も有名なオーガニックスーパーマーケットのマーチャンダイジングや店舗運営を一生懸命に学んで、買い物価値を上げているわけです。

ただ、横ではウォルマートがひたひたと「Everyday Low Price」という古くからある彼らの買物価値を高めながらテクノロジー活用を広げています。今回、「Curbside Pickup」も体験してきましたが、いろいろとやっているということです。

Wegmannsみたいな高級スーパーは、一見するとデジタル感がまったくないですが、しっかりと店頭受け取りサービスやシップ・フロム・ストアのECをやっています。

Trader Joe'sみたいなところは、相変わらず「ECもやらないよ」という感じです。でも、こういったお店もちゃんと賑わっています。

適正なテクノロジーレベルの探索

奥谷:そんな中で我々が考えなければいけないのは、「適正なテクノロジーレベルはどこにあるのか」ということです。つまり、米国のリテールを見ていますと、若干オーバー・テクノロジーへの懸念もあるわけですね。

ただ、やはりテクノロジーは投資して作らないといけません。Amazonはこういった挑戦を続けるところがすばらしいなと思います。我々はオーバー・テクノロジーも感じながら、適正なテクノロジーレベルを考えるべきじゃないかなと思います。

でも、オーバー・テクノロジーまでいったからこそ、お客さまはある意味いろいろなテクノロジーを受け入れているわけです。

Amazon Freshに行っても、全員がAmazon Go型のテクノロジーを使うわけじゃなくて、「Dash Cart」で買い物をする人もいれば、普通にレジを通って買い物をする人もいるわけです。だけど、そのテクノロジーがあることをわかって買い物をしているということなのですね。

Uber EatsやAirbnbといったものがどんどん広がることで、アメリカではどんどん人とテクノロジーを融合させた新しい取り組み・実験も増えてきているなと思います。

テクノロジー活用における「体験設計」の重要性

奥谷:例えばウォルマートが実証実験している「InHome Delivery」などはおもしろい事例です。

氏素性がわかる店員さんが自宅の中に入って、冷蔵庫に商品を入れて帰るというサービスをWalmartは実証実験で始めました。アメリカは、テクノロジーを通して人を信用するようになってきたわけです。

僕からしたら、スマートフォンのテレビ電話機能でもいいんですが、高齢者から電話が掛かってきたら、「何がほしいの?」なんて言いながら、もしかしたら店頭を見せながら、「このバナナの青いのをちょうだい」「じゃあ、持っていくね」とやってもよかったように思います。

でも、みなさまは会議室に集まって、「オンラインネットスーパーはどうあるべきか」「物流が要るんじゃないか」といった話をしている。その間に、どんどんお客さまが求めているものではないものを提供していったのかもしれません。

一方で、アメリカはテクノロジーをどんどん進めていった結果、「ちょっと待てよ」と。「もう1回、人とテクノロジーの融合をやってみようか」というところに戻ってきているんじゃないかなと思うのです。

これが成功するかどうかはわかりませんが、Uber Eatsを見てもわかるとおり、アメリカに行けば、我々はテクノロジーを使って誰の車か知らない車にも乗ります。テクノロジーや技術レベルだけを考えて、サービス設計をするのではなく、どうやってテクノロジーをうまく使った体験設計をするのか。

お客さまはオンラインとオフラインを行き来しています。顧客時間の考え方ですが、ウォルマートの買い物はネットスーパーでの買い物ですよね。ただ、これを人を介して冷蔵庫にフルフィルメントしてあげる。

デリバリーではなく「フルフィルメント」という言葉を使うことが、一手間かけながらも顧客満足度を上げているのかもしれません。

冷蔵庫の中にカメラをつけて、「お客さまが何を食べているか、何を買っているかを見よう」ではなくて、誰かが冷蔵庫を開けるという権利を持てば、それが一瞬でわかってしまうということです。買い物のオンとオフをしっかりつなぐと言いながらも、人が介在すると新しいことが発見できるのかもしれませんね。

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