2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
「起業の科学」著者が語る スタートアップ/新規事業の失敗の90%を潰す一番大事なポイント(全1記事)
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田所雅之氏:ユニコーンファームの田所と申します。今日は「スタートアップ/新規事業の失敗を90パーセント潰す一番のポイント」についてお話したいと思います。
まず最初に、僕の自己紹介をさせていただきます。これまで日本とアメリカで5社起業してきて、Exit経験もあります。さらにシリコンバレーのベンチャーキャピタルのパートナーとして、これまで3,000社以上のスタートアップの評価をしてまいりました。
今日は僕の経験を踏まえた上での、「いかにしてスタートアップの失敗を減らすか」について話したいと思います。お話しするのは、これまで見てきた3,000社以上のスタートアップから得た知見だけではありません。
シリコンバレーにあるStartup Genomeというスタートアップの研究機関があります。ここは失敗するスタートアップと成功するスタートアップを研究しています。そこが調べた3,000社以上データに基づいたお話をしたいと思います。
今日お話しする内容は、僕がメンタリングセッションやアドバイザーセッションで一番最初に話す内容です。ところが、90パーセント以上のスタートアップができていません。それは何でしょうか?
これは言い切れてしまうんですが、「学習にフォーカス」しないスタートアップや新規事業は失敗してしまう、ということです。Startup Genomeがまとめた統計数字によると、学習にフォーカスしたスタートアップというのは、7倍の確率で資金調達ができています。さらに驚くべきことに、学習にフォーカスしたスタートアップというのは、3.5倍早く成長できているのです。
では最初に、学習にフォーカスしないスタートアップや新規事業の行動パターンを見てみましょう。それはこんな感じです。一つひとつのプロセスについて説明したいと思います。
まず最初に「思い込みを信じてしまう」。人間には誰しも認知バイアスというのがかかっています。つまり自分の考えというのを肯定したくなってしまうのです。そういう人たちが集まると、人間には誰しも認知バイアスというのがありますので、自分の考えや仮説というのを思わず肯定してしまいたくなるのです。
そういう人たちが集まって何をするかというと、「こんなプロダクトあったらいいよね?」というプロダクトの話をしてしまいます。そしたら2番目の人が来て「僕もそう思う! 作ってみたい」という感じになります。
「じゃあ作ってみよう」という話になり、そしたら3人目が来て「じゃあ自分はプログラミングができるので、実際プロダクトを作ってみよう」という話になります。「じゃあついでに会社も作るか」ということになり、「じゃあ今はやりのスタートアップを立ち上げよう」ということになります。
この時点で何も学んでいないのです。次に何をするかというと、実際にプロダクトを作ります。『THE LEAN STARTUP』という本がありますが、ここで提唱しているリーンサイクルを手本にして、アイデアからとりあえずプロダクトを作ってしまうのです。MVPという概念があります。つまり、必要最小限の機能を持ったプロダクトをローンチしてしまいます。2~3ヶ月かけてプロダクトをローンチします。
次に何をするかというと、「見たい指標」を計測してしまうのです。実際に「人が欲しがるものを作った」というプロダクトマーケットフィットは達成していませんが、何らかの指標を測ったら伸びています。例えばFacebookのファン数は伸びているかもしれません。Wantedlyのランキングは記事を投稿することで伸びているかもしれません。ブログを書いたら、ブログのPVが伸びているかもしれません。
ところがこれはまったく意味のない指標です。実際にプロダクトマーケットフィットを測るような「顧客の定着率」というのは当然低いままですし、売上も上がっていないでしょう。
エリック・リースという『THE LEAN STARTUP』の著者の言葉を借りると、これは「虚栄の指標」にフォーカスしているということになります。何かをして、前に進んでいないのが不安なので、虚栄になるような指標を選んでしまうのです。
こちらに虚栄の指標……「Vanity Metrics」の一覧を挙げてみました。ご覧ください。
こうしていると、自分の認知バイアスのかかった思いというのが強化されてしまいます。つまり悪循環に陥ってしまうのです。このように悪循環が生じてしまい、思い込みが強化されてしまいます。
それを僕はこう呼んでいます。「何かやってるつもり症候群」。もしくは「自分たちはスタートアップやってるぜ症候群」と呼んでいます。残念ながら何も学んでおらず、前に進んでいません。これは少しきつい表現になりますが、「嘘の仕事」をしていることになります。
スタートアップにおいて大事なことは、「一生懸命仕事をする」よりも「正しいことを一生懸命する」ことが大事になります。後ほど「何を正しくするか」についてはお伝えしたいと思います。
スタートアップにとっては、時間が一番貴重です。時間をなくしてしまう前に、きちんと学習して前に進む必要があります。今年、とあるプログラムで、とあるスタートアップのメンタリングをしました。このスタートアップが着目している領域は、非常におもしろい領域でした。遺産相続サービスをインターネット上で提供する、遺産相続SaaS型のサービスでした。
ご存知のとおり超高齢化社会である日本において、遺産相続の流通総額は非常に大きくなっています。僕もメンターなので、実際に競合について調べてみました。競合もほぼいない、良い状況でした。
創業者の山田さん、これは仮名ですけれども、彼の経歴もばっちりでした。都市銀行を出て、ファイナンシャルプランナー1級を持っていました。
僕はメンタリングの初日に、彼にこんな質問をしました。「事業について教えてください」と言ったんですね。僕は事業について聞くときに、山田さんが何を学んで、どういうカスタマーインサイトを得たかというのを聞きたかった。そういう意図がありました。ところが山田さんは「とりあえず自分が作ったプロトタイプを見てください」という感じで、デモが始まりました。
そこで僕は質問してみました。「そもそもこれは『誰の』『どのプロセス』における『どんな課題』を解決するんですか?」と聞いたんですね。
事業というのは、「誰の」「何を」「どのように」、つまり「誰のどんな困りごとをどう解決するか」ということで言い表せます。ここで大事になるのが「誰の」「何を」になるんですが、彼はまったく「誰の」「何を」を意識せずに、「どのように」、つまりソリューションから始まってしまったのです。
山田さんは、僕の質問に対して答えることはできませんでした。つまりカスタマーインサイト、「顧客の深い欲求」を学習することなく、プロダクトを作ってしまったのです。先ほどの図で言うとこうなります。思い込みを信じてプロダクトを作ってしまった、ということでした。
僕はそこで質問しました。「なんでそもそもプロダクトを作ったんですか?」。山田さんはこう答えました。「投資家に早くアクションしろと言われた」。つまり投資家にとっても山田さんにとっても、前に進む、アクションをするということは、「プロダクトを作る」ことだったのです。
そこで山田さんにアドバイスを求められました。「どうすればいいですか?」。僕はこう答えました。「学習にフォーカスしてください」。次にお見せするスライドが、今回で一番大事なスライドになっています。
こちらをご覧ください。学習にフォーカスするということは、こういう流れになっています。
では一つひとつのプロセスについて説明したいと思います。
まず最初に、仮説構築をするということです。先ほども言いましたが、事業というのは「誰の」「どんな困りごとを」「どう解決するんですか」ということになります。まず最初に着目すべきは、「誰の」になります。そこで重要になるのが、そこで関わってくる主要な登場人物を洗い出すことになります。遺産相続の事業ですので、当然「相続人」「被相続人」が大事になります。
次にやるべきことは、主要な登場人物の課題仮説を立てます。ペルソナを作ってみるのも有効でしょう。ペルソナを作ってみて、手触り感のあるような人物像を洗い出してみます。
さらにお勧めとしては「エンパシーマップ」といって、ステークホルダーの心の機微などを表現した、こういった図を使うのも有効でしょう。
次のステップとしては、これらのペルソナが実際どのようなプロセスを踏んでいるのか、この仮説を洗い出してみましょう。遺産相続のプロセスもさまざまなステップに分かれます。実際、それを書き出してみます。そして次に、そのプロセスの中でどのような困りごとであったり、どのような非効率性、不満、不安があるか。いわゆる「不」というのを洗い出してみます。
遺産相続の業界というのは、とても古い業界です。インターネット化も進んでいません。こういうふうに洗い出していくと、さまざまなところで非効率性であったりとか、不安要素があります。そこを洗い出すのが重要になります。
次に何をするかというと、現状利用可能な代替案を洗い出します。2019年に生きていると、あらゆる課題に対して代替案は存在するのです。どんなにショボい代替案であっても、実際それを書き出してみましょう。実際、代替案には「不」が多い場合があります。代替案にどんな不満や不安、非効率性があるのか、そういった「不」を書き出してみましょう。
ここまでやっていくと、みなさんもお気づきのように、なかなか書けなくなってきます。つまりこのように仮説を立てていくと、「無知の無知」だった状態から、自分たちが何を知らないか知るような「無知の知」の状態になります。「無知の無知」の状態から「無知の知」になってから、「Get out of the Building」といって、実際に顧客の一次情報を集めに行く必要があります。
ここから、顧客の一次情報を集めに行きましょう。一次情報の集め方としては、実際にインタビューをしたり、顧客を観察するプロセスになります。
どういった顧客を対象にすべきかといったときに、誰でもいいわけではありません。いわゆるエバンジェリストであったりアーリーアダプターといった、初期ユーザーという人たちを対象にしましょう。つまり、必死に代替案を探しているようなユーザーになります。
そういうユーザーは業界の知人に紹介してもらったり、Twitterの検索を使って見つけて、そこからメッセージを送るも有効です。Facebookなどでフォーラムを作るのも良いでしょう。
おすすめなのが「ビザスク」というサービスを使うことです。ビザスクは「スポットコンサル」といって、業界の専門家に1時間1万円程度でインタビューができます。ぜひみなさんも活用してください。
こういう展示会やカンファレンスに行くのも有効になります。業界の人がいたらその人たちをランチに誘って、いろいろ聞き出すのも良いでしょう。このように「無知の無知」の状況から、仮説を立てて「無知の知」になってから、その状態で一次情報を集めに行くのがポイントです。できるだけ現場に行って、一次情報を集めましょう。
次に何をするかというと、顧客の声を検証します。実際にカスタマーがなんでそんな不満や不安を持っているのか、そこを検証していきます。なぜこれが必要かというと、顧客というのは、自分のやっている行動がなぜそのような状況になっているのか、その課題の言語化をするのは仕事ではありません。
新規事業担当者やスタートアップ起業家にとって大事なことは、まさにスティーブ・ジョブズが言っているみたいに、「カスタマーが本当に欲しいものを見つける」ことです。そのためにお勧めな手法として、KJ法などがあります。実際に生データを集めてきて、それを論理構造化して、なぜそのような現象が起きているのかというのを真因分析しましょう。
こちらにプロセスを示します。具体的な事例として、まず生データを洗い出します。そこをグループで分けてみます。そこを論理構造として整理していきます。そうすることによって、表面的ではない、カスタマーの「深層の本音」というのがだんだんわかってきます。つまりこれが「知の知」の状況になります。
ユーザーやカスタマーすら言語化できない、もしくは言語化したくないような深い欲求。つまり、インサイトがわかりだします。ここが非常に重要になります。最初はこれを繰り返しましょう。最初の数ヶ月はここをとことんやりきることによって、ほかの人が知らないような深い欲求に気づくことができます。これが「学習をする」ということになります。
実際に事業を始めるときにまず認識すべきは、「自分たちが『何を知らないか』を知らない状態である」ということです。つまり「無知の無知」ということですね。そこで仮説を立てることによって「無知の知」になることができます。そこで現場に行きインサイトを集めることによって、「知の知」になっていくのです。こうするスタートアップが、まさに「学習にフォーカス」していることになります。
繰り返しますが、学習にフォーカスするスタートアップは、成功する可能性が高くなります。こちらの数字を改めてご覧ください。学習にフォーカスしたスタートアップは、7倍の確率で資金調達できます。さらに3.5倍早く成長できるのです。
今回お伝えしたかったポイントはこれです。ぜひみなさんも新規事業やスタートアップを立ち上げる際に、参考にしていただければと思います。
スタートアップが陥りがちな罠についてお話をさせていただきました。学習にフォーカスして、ほかの99パーセントの人が知らないようなインサイト、秘密を見つけるということです。今回の内容を参考にして、ぜひみなさんの新規事業立ち上げや、起業に役立てていただければと思います。
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