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ランサーズ秋好陽介氏(全2記事)

「ランサーズだ、俺は」経営者・秋好陽介が“個人の幸せ”を捨て去った時に手に入れたもの

時間と場所にとらわれない働き方を創るクラウドソーシング事業「ランサーズ」創業者、秋好陽介氏のインタビュー。秋好氏は、成長フェーズにおける過去の社員と中途社員の軋轢や、さらなる成長を見据えたときに、個人として捨てたものを語りました。※このログは(アマテラスの起業家対談)を転載したものに、ログミー編集部で見出し等を追加して作成しています。

過去のクソみたいな仕組みを否定しない

——一方で、これだけ急成長すると、前からいた社員と中途で入ってきた社員とで能力に差ができてしまって、軋轢が生まれることもあると思います。そのあたりはどう対処されていますか?

秋好陽介氏(以下、秋好):そうですね、軋轢はありました。そして、今後もあり続けるのだと思います。でも1つ大事にしている価値観は、「過去がいいとか悪いとかではなく、過去へのリスペクトはしよう、その上で未来を考えよう」というものです。

よくあるのが、中途で新しく入った人は過去を否定したくなりますよね。でも、それはしてはダメなんです。

例えばエンジニアのコードで言えば、現状のコードを見て、中途の人が「なんだこのコード!」とか言いたくなると思います。その気持ちはよくわかります。しかし、捉え方を変えると、そのコードが今までお金を生んでくれていたし、過去に作ったクソみたいな仕組みが成長を生んでくれました。

僕が中途の人によく言うのは「確かに今、あなたたちの目から見たらクソみたいに見えるかもしれないですけど、これはこれで価値があるから、いったんリスペクトしようよ」ということです。

リスペクトする気持ちが、言うだけじゃなくて本当にあれば、まずメンバー同士はうまくいくか否かで言うと、うまくいくはずです。ですから尊重し合うことは本当に大事です。

とはいえ過去だけが正しいわけではなく、過去の時点ではよかったものも古くなってきて、未来には違うことをしないといけない場面も多くあります。

過去からいるメンバーを飼い殺してはいけない

また、中途で入った人が活躍できる場にもしたいと思っているので、新しいメンバーに関しては「過去の経歴がどうだったとか過去の会社がどうではなく、ランサーズらしく新しいホワイトボードに一緒に絵を描こう」と言っています。

昔からいるメンバーには、「そのためにはランサーズを誰よりも知っている僕たちが、新しい仲間が結果を出しやすくするアシストをしよう」と話しています。

ある種の結果を演出するということです。これは経営者としてはやったほうがいいと思っています。新しく入る仲間が活躍しやすいように、彼らの行動や結果をわかりやすく伝え、演出しています。

新しい人とのスキルや経験の差という意味では、過去からいるメンバーに関しては成長するしかないです。そのためにも、成長できない環境のみに身を犯し続けるような、飼い殺しをしてはいけません。

よくあるのは、過去を知っているからと言って、ずっとオペレーションに置いてしまって、忙しくて成長できるような仕事を渡してあげられないということです。ランサーズでも過去にそういったことがありましたが、本当に罪だと思いました。

ですから成長できるところに配置する必要があるんです。そういう意味で、過去からいる社員には機会を提供してあげなければいけないと思っています。

それは僕がそのような境遇を作ってしまった経験があり、そこから学んだ、社員にチャンスを与える、ということです。

エンジニアとして現場でも働く

——社員が成長しないと、組織は回らないということですよね。秋好さん自身、いちエンジニアとして現場に戻っていることもあるとうかがいましたが、その背景について教えてもらえますか?

秋好:けっこう揺り戻しがあります。というのも、2013年から振り返ると、2013年はずっと人材採用と資金調達をしていました。

2014年は組織作りともう1回資金調達をして、2015年はまた組織作りと資金調達をしていました。そうすると段々、事業についての僕の感覚が薄れていきますし、プロダクト自体も弱くなってきます。

ですからプロダクトの現場に戻ったり、一緒に営業同行に行ったりすることは多くあります。2015年後半でいうと、組織作りは巡航速度になったので、事業サイドに振り切っています。

エンジニアチームの中に一席もらって事業に入って働いています。数字を見て、進捗を追ってというのも伴走してやることもあります。

「ランサーズだ、俺は」

——秋好さんに訪れた成長の壁はありましたか? 秋好さんはポジティブだから壁を壁と考えていないかもしれませんが(笑)。

秋好:経営者っておもしろくて、過去の嫌なことや壁を忘れちゃうんです。その時は壁だと思うし、辛いと思うのですが、基本的にそういう課題は乗り越えてきたから今があり、いざ乗り越えると課題ではなくなるので、いい思い出になってしまいます。

さっきの50人の壁も100人の壁も「昔はあったね」という感覚です。僕からすると、エピソードの1つなんです。現在に行き着くために必要なハッピーエピソードで、もちろん当時はきつかったです。

「なんだこれは……」「こんなもののために起業したんじゃないぞ」等いろいろ思っていました。でも、乗り越えると忘れてしまいます。忘れるというのは、経営者に大事な部分だと思います。

というのも、経営者は重大な意思決定や一番重い課題に向き合うため、会社の規模が大きくなればなるほど、精神的なプレッシャーは質も量も増えていきます。

逆にうれしいこと・喜びも規模にともない大きくなっていくので、苦しみと楽しみの反復横飛びをしながら、質も量も通常のビジネスマンの(個人的な感覚としては)数十倍になるという状況で、うまくストレスコントロールしないと精神的にも厳しくなると思います。

冗談じゃなく、メンタルヘルスの領域です。ですので経営者には、課題解決したら自然と忘れるであったり、ある種の感覚の麻痺が必要な時もあります。

「それぐらいだったら、まあいいか」と、昔だったら1週間は悩んだろうなというのを笑顔でやり過ごせるというのは必要な才能だなと個人的には思っています。

あとは僕自身の変化という観点だと、僕という個人が完全に捨てきれたという感覚があります。昔は“秋好陽介”という人間が強かった。

どういうことかというと、ランサーズでの幸せと秋好陽介としての幸せが利益相反する場合がありますよね。これはランサーズとしてはハッピーですが、秋好陽介としては辛いなというものです。

会社が忙しくなってきて、プライベートの時間がなくなってきたとか、広報担当が土日全部、地方出張入れてくれるとか、そういうことです(笑)。

ランサーズとしてはハッピーなんですよ。ですが、秋好陽介としてはちょっと苦痛。さすがに3ヶ月一度も休んでないとか、「僕もそろそろ歳だし考えてよ」と(笑)。

でも、それを乗り越えた時期がありました。乗り越えたというか、完全に「ランサーズだ、俺は」。と一心同体になれた時があって、そこからは迷いがないです。もちろん人間としての限界は越えられないですけど(笑)。

プライベートを捨て去れたきっかけ

——公私の私、プライベートを捨て去れたきっかけは何ですか?

秋好:本当に、何が本質的に自分にとって大事なのかを俯瞰して意識できたという体験です。資金調達などの関係者が増えたタイミングも影響したと思いますし、そういったタイミングでは熟考しました。

なので資金調達の前などは、調達後を考えてその時に必要な自分のイメージをつくっていました。調達後は求められるスピードや要求のレベルが一気に高まりますが、僕はイメージしていたので、それに比べたら調達後の要求は想定内でした。

例えば、2012年のままの僕で行ったら辛くて辛くて死にそうになっていたと思います。

「なんで自分の会社なのにこんなに考慮しないといけないのか」「こっちは人生かけてるのにいろいろと言われないといけないのか」等いろいろ思っていたと思います(笑)。

でも、覚悟を決めたのでそんなことを意識もしません。株主も、僕らと一緒に進んでくれる仲間という感覚が強いです。

とはいえ、資金調達をする前の段階では「この人たちは本当はハゲタカなんじゃないか」「契約した瞬間になんか悪いことしてくるんじゃないか」「ごちゃごちゃ言われるんじゃないか」「うまくいかなかったらこの3億円を買い戻せって言ってくるんじゃないか」とかいろいろ思っていました(笑)。

——そういう不安に潰されそうになっている経営者を僕はたくさん見てきました。でも秋好さんはその辺をポジティブに捉えて加速させましたよね。

秋好:そうですね。僕がやったのは覚悟を決めることと、あとは徹底的にリスクを潰すことです。資金調達をする時、100人程度のベンチャーキャピタリスト(VC)やその関係者に会いました。100人合う中で、条件よりまず人で選びました。そして、逆に私からVCの人を徹底的にデューデリしました。

実際、GMOベンチャーパートナーズさんに投資を受けた経営者5名に直接お会いしたり、グロービスはリードインベスターだったので投資先10人くらいににお会いして、「どうですか?」と聞いて回りましたし、それを拒否するようなVCさんだったら違うなと思っていたと思います。

条件面も徹底的に詰めて自分にわからないことを一つひとつ潰していきました。ですから、3ヶ月くらいバチバチの交渉をしていました。

私はエンジニア出身なので、このファイナンス周りの業務をやるのはきつかったですね。今までそんな経験したことないですし、畑が違いました。

しかもそういったことを相談できるCFOが当時はもちろんいなかったので、誰にも相談できませんでしたが、未来の重要なプロジェクトとして取り組みました。

社員に対する「ポジティブハラスメント」

——資本政策は後戻りできないので、本当に重要です。エンジニア出身のスタートアップ社長は、資本政策の重要性を理解しないまま安易に出資を受け入れて失敗している方が多いので、本当に秋好社長を見倣ってほしいと思います。

秋好:1回目はやはり初めてだったので、結果的に失敗ではなかったと思いますが、今戻ったらもっと違うふうにやるな、というのはあります。

ですから2回目やった時は、さらにバージョンアップしていたと思います。2014年に10億円調達したのですが、その時は事業会社からだったので違う意味で大変でした。

事業シナジーと資金調達妥当性の2つ検討され、かつ大手さんなので、ある種の上場審査よりも厳しいデューデリをしていただけます。これが突破できたのは別の意味でうれしかったです(笑)。

——秋好さん、ポジティブ過ぎますね(笑)。

秋好:そうなんですよ、最近「ポジティブハラスメント」って社員に言われます。「リスク見えてるんですか?」と聞かれても「まあポジティブに行こうよ」と返しています(笑)。新しいですよねポジハラ(笑)。

でも、リスクは見えています。本当にそことの戦いです。 周りの起業家に聞いてみると、どこの会社もだいたいみな何かしら乗り越えているように思います。

今ではすごく有名な会社でも、「昔は実はね……」などはよくある話です。みんな多少は病気に犯されます。

その後どれだけ早く戻ってこれるかが勝負どころです。 結局大事なのは、社員やユーザーの声だと思いました。どれだけ彼らの話しを聞けるかということです。

合宿を開いたりしてそういった機会を作るのは大事だと思います。かといって、全社員を見るは無理ですから、逆にそのアドバイスをくれる人No.2、No.3の人の声を聞くというのも大事なのかもしれないです。

社員300人のフェーズに向けて

——さらに社員も増えるという話がありましたが、それを超えるためにはどのような困難が待ち受けていると想定していますか?

秋好:今の事業のままだったらこのままでもいいのかもしれないですが、新しい事業をいくつかやるので、仲間の増員は必要です。

2008年から8年経て0→1としてやったものを1→10にしてきました。これからはまた0→1をやります。クラウドソーシングを軸に、まったく新しい事業もやろうと考えています。新規事業でももちろん「働き方を変える」というビジョンは変わりません。

大きくなった組織で、新規事業を成功させられるかはまだ未知数だと思っています。組織文化的に、1→10の人を集めていて、0→1の経験者は創業者の自分しかいないからです。

0→1と1→10は、考え方が圧倒的に違いますよね。0→1は合議制ではなく、独裁です。できない理由しか出てこないところをなんとかしてやらなくてはならないので、議論はいりません。「とにかくやる」が大事です。そこを組織としてどれだけまとまってやれるかというのが、僕の今の課題です。

そして先ほど言ったように、300人に近づいてくるので、組織的な課題というのは増えていくと思っています。もう少し先回りして経営したいのですが、どうしても目の前の経営課題に対処せざるをえないというのがあります。

もう少し先回りして経営はしていきたいので、最近岡島さん(岡島悦子:株式会社プロノバ代表取締役兼グロービス経営大学院教授。アステラス製薬、丸井グループ等の社外取締役も務める。ハーバードMBA修了)を社外役員に迎えました。

僕が見てない世界を見ている分、彼女は先回りもできますから、アドバイスをもらって一緒に経営できればと思っています。また社外役員は今後も増やしていこうと考えています。

——秋好さんは相談できる人や周囲を巻き込むのがとてもうまいように見えます。

秋好:自分ができないことはどうしてもありますから。自分ができることの限界を知っているので相談がうまいのかもしれません。

僕は恐らくプロデューサーやエンジニアとしてなら少しだけ人よりできると思います。しかし、それ以外ははっきり言って普通です(笑)。そこは僕が頑張るより、できる人に聞いたほうがいいよね、といういい意味の諦めがあります。

——最後にひと言お願いします。

秋好:事業を進めていくうえの課題はたくさんありますが、事業は手触り感があるので、答えはなんとなくわかっています。粛々と進めていきます。今に満足しているとか、そういった意味ではなくて、単にやりますということです。

一方で、社員300人というは未知の世界なので、チャレンジです。理想からははまだ遠いんですけど、理想にいく自分なりの考え方というのはあるのでそこは粛々と頑張る領域ですね。

——貴重なお話ありがとうございました。

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