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「人新世」に豊かな社会をつくるには?──脱成長とコミュニティ・オーガナイジングの可能性(全5記事)

「ハッシュタグデモ」だけでは社会を変えるのには足りない 環境問題やジェンダー問題を具体的に変革させる組織の作り方

企業にも個人にも「持続可能な社会の実現」に向けた取り組みが推奨される今、実際に私たちができることは何なのでしょうか。今回は、「脱成長」を訴えた『人新世の「資本論」』(集英社新書)著者・斎藤幸平氏と、“普通の人”が社会を変えるための手法を解説した『コミュニティ・オーガナイジング──ほしい未来をみんなで創る5つのステップ』(英治出版)著者・鎌田華乃子氏の対談の模様を公開。本記事では、実際に社会を変えようと考えたときの「組織」に必要な、「コミュニティオーガナイジング」(人のつながりを効果的につくることでパワーを集め、組織的・戦略的なアクションによって物事を動かしていく手法)について語られました。 ※このログは英治出版オンラインの記事を転載したものに、ログミー編集部でタイトルなどを追加して作成しています。

「ハッシュタグデモ」だけで社会が変わるわけではない

斎藤幸平氏(以下、斎藤):最近、日本でTwitterのハッシュタグデモやオンライン署名が盛り上がってるんです。何もしないよりはいいし、先ほど鎌田さんからご指摘があったように、日本はアクションを起こすことのハードルが異様に高い国なので、まずはTwitterとかを使って自分の意見表明を少しパブリックな場所でするのは重要なんだけれども、それで社会が変わるかというとまた別問題ですよね。

実際に社会を変えていくにはハッシュタグだけでは当然足りないということをしっかり認識しなくてはいけなくて。#blacklivesmatterというハッシュタグだけで社会は動いてるわけじゃない。

特に、ブラック・ライブズ・マターの共同代表であるアリシア・ガーザが書いた『世界を動かす変革の力』を読んで、彼女がいかに今まで幾つものオーガナイジングしてきたか、それを20年近くやってきたこと、社会をどう変えていくかという問題をずっと考えてきたことがわかった。それと時代が合致した瞬間に大きなムーブメントになるし、社会に爪跡を残すような運動になる。

鎌田華乃子氏(以下、鎌田):そうですね。私もまさに同じ本を読みました。ハッシュタグはムーブメントをつくらない、人がつくる、としきりに言っていて、「そのとおり!」とうなづきながら読みました。

SNSってすごくいい便利なツールだなとは思いますが、コミュニティ・オーガナイジングを研究している人の中で言われているのが、オーガナイジング(organizing)とモビライジング(mobilizing)は違うということです。

オーガナイジングは、人とつながりを作ってリーダーを育てていく、組織を広げて育てていくこと。モビライジングはただアクションに動員すること。ハッシュタグやオンラインでの署名、集会に来てくれるとか、デモに来てくれるとかですね。別なんですけど、混同しがちですよね。

オーガナイジングというのは、リーダーを育てて、しかも人とのつながりも育てていかなきゃいけないので、すごい手間も掛かるし、ほんとに大変なんです。

1度きりのアクションではなく「持続可能な運動」にしていくために

鎌田:日本で去年、検察庁法の改正に反対するTwitterデモが盛り上がって、一応の成果はあったと思います(注:2020年5月、Twitterで「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグ付きの投稿が数百万件に上り、国会審議が始まっていた同改正案はその後廃案となった)。ただ政府が対応して改正をやめた後に組織が残ったかというと、たぶん残ってないと思うんです。アクションをするためにつながったけれど、将来また同じようなアクションができるかというと、そうではない。

どうしても動員型の活動はそこが弱くなる。つながっていく、組織をつくっていく、オーガナイジングしていくという部分がほんとに欠かせないなと常々思いつつ、その大事さをどうやって伝えていくかが、ほんとに難しいなと思ってます。Black Lives Matterもたぶん日本から見るとハッシュタグで盛り上がってる人たちみたいに見える。

斎藤:いろんな所で暴動みたいなのが起きてるイメージになっちゃうわけですよね。自然発生的に、みんながニュースを見て怒り狂って外に出て、警察を解体しろとか声を挙げているように思えてしまうんだけれども。そうではなくて、前回のBlack Lives Matterのときからもずっと継続的な運動がある。運動をどのように持続可能なものにしていくかを考えると、やっぱりオーガナイジングをしていく必要がある。

社会問題の根本的解決のための「リーダーフルな運動」

斎藤:アリシア・ガーザの本が面白いなと僕が思ったのは、このような運動は「リーダーレス」じゃなくて、「リーダーフル」なんだと。つまり、リーダーがいっぱいいるということですね。今までみたいに、例えばマルクス主義ではレーニン、あるいはチェ・ゲバラとか毛沢東みたいな、そういうリーダーは要らないと思うんです。それはあまりにもトップダウンで、抑圧的で、非民主的な問題に直結してしまう可能性が高いわけです。

けれども、その解決策が反対にリーダーが全くいない水平的な組織かというと、それもちょっと違う。日本で主流のイメージはずっとそうだったと思うんです。特に日本ではアントニオ・ネグリとマイケル・ハートの『帝国』という本が広く読まれて、「マルチチュード」という概念が、労働者とは違う新しい抵抗の主体として認識されていました。その際、マルチチュードはネットワークみたいなもので、いろいろなところで抵抗して資本主義に亀裂をあけるというイメージです。

でも実際はそうじゃなくて、これからの社会運動は、もっとオーガナイザー的な意味での小さなリーダーがたくさんいる、誰もがリーダーフルな運動になっていかなきゃいけないんだと。だからコミュニティ・オーガナイジングが重要だという話をアリシア・ガーザもしてると思うんですけれども。まさにそういう意味でのリーダーフルな市民みたいなものが、今の日本ではまだまだ少ない。

僕みたいな、特にオーガナイジングとかの活動をせず、ちょっとメディアに出て「この問題はおかしいですよ」といったコメントをするジャーナリストとか、学者みたいな人たちはいる。別にその人たちはその人たちなりの役割があっていいと思うけれども、その人たちの意見だけじゃ社会は変わらなくて。

実際にオーガナイジングをして運動をつくっていく社会活動家みたいな人たちを増やしていかない限りは、ジェンダーの話も、気候変動の問題も、格差の問題も、なかなか具体的な変革には結びつかない。

あとは労働組合みたいな旧来の組織も、こうした観点からまだまだアップデートしないといけない。そういう意味でも、労働運動をやってる人たちにも『コミュニティ・オーガナイジング』をぜひ読んで、運動をアップデートしてほしいなと思っています。

『コミュニティ・オーガナイジング――ほしい未来をみんなで創る5つのステップ 』

NPOや市民団体に「コミュニティ・オーガナイジング」が重要な理由

鎌田:うん。斎藤さんが学者なのに、コミュニティ・オーガナイジングのことをよく知ってて、しかも社会運動もめちゃめちゃ知ってるので、うれし過ぎて……。

斎藤:なので、『コミュニティ・オーガナイジング』はすごい重要な本だと思います。

鎌田:ありがとうございます。リーダーフルという状態が必要だと思いますし、本の中でも紹介した「スノーフレーク・リーダーシップ」もまさにそのリーダーフルな状態。たくさんのリーダーがいて、その人たちがつながっていくことで運動が広がっていく。

だから、コーチングを大事にしているんですよね。リーダーは指示を与えているだけでは育たないので、質問して自分で考えてもらうことによって育てていこう、ということを大事にしてるんです。けれども日本で私たちがやっていて壁に感じるのが、まず既存のNPOや市民団体にコミュニティ・オーガナイジングのための人を置こうとはならない、人的にも財務的にも資源がないんですよね。

アメリカも全ての組織ではないですが多くのNPOの中にコミュニティ・オーガナイザーというポジションがありますし、コミュニティ・オーガナイジング・ディレクターもいます。ボランティアや会員をオーガナイジングして、アクションできるコミュニティにしていくことを意識的にやっている。日本はその意識がすごく低いので、組織で働く人がコミュニティ・オーガナイジングを学んでも、自分の組織に戻るとできないことが多いんですよね。

だから、コミュニティ・オーガナイジングを実践していくのに、どこから手を付けていいのかなって思うことも多くて。比較的うまくいってるのは、何も組織がなくて自分で立ち上げますという人たちですね。ただ最近は、労働組合とか社会福祉協議会などの既存の組織が少しずつ取り入れて、だんだん理解が深まってきているという状況もあるので、日本でもっとコミュニティ・オーガナイジングが広まるといいなと強く感じます。

「大きな課題」を解決するための「小さな課題」への取り組み

斎藤:気候変動についても「2050年までに脱炭素化しましょう」というメッセージだと、多くの人たちには、それ何の意味があるの? とか、我慢しろってこと? みたいな話になっちゃうわけですよね。それだけだと運動は広がっていかなくて。このコミュニティ・オーガナイジングの本でも書かれてますけれど、戦略というものを作る、こうしたら変えていけるとか、あなたたちの関心がある問題を解決する話ですよというふうに落としていかないといけない。

さらに、大きな理念だけでは駄目で。例えば、「バスが減っちゃって困ってるのよね」みたいな話から、「公共交通機関を増やしていくほうがマイカーに頼る生活よりも環境にも優しいですよね」みたいな話につなげるとか。そういう形で、人々の日々の小さな不満とか不便さとか、直面している差別とか不平等から出発しつつ大きな話につなげていくということを私たちもしなきゃいけない。

僕が本の中で示した例として、バルセロナは、市民の家賃の問題や、車が多過ぎることでの大気汚染の問題から始めて、もっと公正な社会をつくろう、持続可能な社会に転換していこう、という話に結びつけることで、非常に大胆な気候変動対策もできているし、平等な社会をつくっていくことができている街だなと感じています。

でもそれも地域にあるいろんな協同組合とか労働組合、環境運動団体とかが密接に結びついてやってる成果なんですよね。一方で、いきなり国政でやろうとしたポデモス(スペインの左派政党)は失敗した。

そういう認識が日本でも広がらないと、どうしても技術で解決しようって話になったり、政治家だけに大胆なアクションを求める運動で終わっちゃったり、あるいはきれい事を訴える、理念だけで終わってしまう危険性があると思うので。僕の結論はいつも同じです。とにかく今、コミュニティ・オーガナイジングが求められている。

「私なんかが参加しても意味がない」という認識から変える

鎌田:ありがとうございます。リーダーというか、今まで社会運動を引っ張ってきた人が、認識を変える必要があります。いつものやり方でやるのではない、人が参加してみたい、と思う方法を考えてみる。そして、参加してくれた人をリクルートし、地道にたくさんのリーダーを育てること、人との繋がりで運動を作っていくことです。

あと、日本では「私なんかが参加しても意味がない、無駄だ」と思ってる人が多いと思うんです。けれども、この本をアクティブ・ブック・ダイアローグ(ABD)という手法で読む読書会をしたとき、参加者の中に「私が(社会運動に)参加しても意味がないと思ってたけど、この本を読んで、参加することに意味があるんだってことが分かりました」と言ってくれた人がいて。すごくうれしいと思ったし、本を出したかった一つの理由がそれだったなと。

1人いるだけで力になる。デモでもミーティングでも、何の場でも、1人そこに人が来てくれるだけで力がすごく増えると思うので。そういう大事さがもっと広く人に伝わってほしいなと思います。

『人新世の「資本論」』

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