2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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田久保善彦氏(以下、田久保):ありがとうございます。ここからは、いくつかみなさんからの質問を取り上げたいと思います。「問題を探す力や作る力が重要というのは、すごく共感できました。その力を、本当に養うのは難しいと思うんですけども、どんなトレーニングをしたら良いでしょうか」。
山口周氏(以下、山口):問題を作るのって必ずなんらかのアイデア……ちょっと説明の仕方が悪いな。「ありたい姿」が描けないと、なかなか問題は作れないというお話もありましたが、「違和感を感じる」能力(が大事)なんですよね。違和感の感度が鈍い人は、問題を見つけられないと思うんです。
だからIKEAのケースも、偶然「障がい者の人って普通の家具が買えないんですよ」という話を聞いた時に、「ふーん」で終わっちゃう人もいれば、そこに強く共感する人もいる。「それって、せつないだろうな」って。
家具を買うのって楽しいじゃないですか。自分が気に入った家具で揃えていくのは喜びだと思うんです。「それができないのは、本当に辛いだろうな」とか。あるいは「友達を呼んだ時に、変な家具があるのを見せるのって、いたたまれない気持ちになるだろうな」とか。そういう共感力は(問題を作る力として)まずあると思うんですね。
人の辛さとか痛みに対して、どれぐらい心を動かせるかがまず1つあると思うんです。それはふだん僕たちが慣れ親しんでる人たちの間だけで動いていると、そういう痛みを抱えている人の状況を知ることはできない。
僕の知り合いの事例で言うと、リクルートの山口文洋くんが「スタディサプリ」を作った、最初のきっかけになったのが、母子家庭のお母さんの話なんですよ。
子どもが「中学受験をしたいから塾に行きたい」と(言っている)。でも「どんなにお金をやりくりしても、塾に行かせられない」と(お母さんが)さめざめと泣いてるところを見たか、人づてに聞いたか、読んだか。ちょっとこれは忘れちゃいましたけども。「なんてせつない気持ちだろう」と、すごく心を動かしたみたいなんですね。
彼はもともと教育に興味がある人ではぜんぜんなくて、とにかくリクルートで新規事業を何かやりたいと思っていた人なんです。初めてその問題に心が動いたわけですよね。
そのあと「スタディサプリ」の事業の稟議って、リクルートの役員からはねつけられ続けますからね(笑)。それであの人は結局、Ring(リクルートグループ会社従業員を対象にした新規事業提案制度)を使って外側から応募しているんで。それ(共感力を高めること)も1つだと思います。
山口:もう1つが、問題を見つけるという時に、今の日本の暮らし方が常識になっていると思うんですが、その常識を相対化することが必要だと思うんですね。例えばオランダやフィンランド、ドイツの暮らし、あるいはアメリカのポートランドの暮らしなど、いろんなライフスタイルの、違う常識で生きている世界ってたくさんあって。
場合によっては、自分が「すげぇ、このライフスタイルいいな」と思うところもあると思うんですよ。例えばオランダって、大企業の社長さんも半分以上、自転車で通勤していますからね。僕なんかそういうの見るとめっちゃシビれちゃうんですけれども。そうすると東京だっていくらでも、インベストメント(投資)の機会があるわけです。
車道の中に自転車用のレーンを作って、東京に勤めている人の半分以上が自転車通勤できるようにする。そうするとカーボン(オフセット)にも健康にもすごくいいし、交通事故も減ると考えると、それだけでものすごいお金が生まれますよね。
他の国、あるいは場合によっては日本の過去でもいいと思うんですけども、いろんなライフスタイルや暮らし方、生活文化のあり方を知ると、日本の今の状況に違和感を持てるようになるはずなんです。違和感を持つためには必ずベンチマークがいりますから。参照点がいるので。
山口:その参照点を増やそうと思ったら、やっぱり旅をたくさんしないといけないのかなと思います。それは物理的な旅もそうだし、スピリチュアルな……別に霊的なってことじゃなくて、本を読んで頭の中でいろんな外国の模様を知ったり、外国のライフスタイルの勉強をしたり。そういうことで、問題を見つける能力は高められるんじゃないかなと思います。
田久保:APU(立命館アジア太平洋大学)の出口(治明)さんもね、旅は大事だって。
山口:「人・本・旅」と言ってますよね。
田久保:そうですよね。ありがとうございます。じゃあこれ(質問)もぜひ。「山口さんが『あるべき姿』を構想するために、日頃心がけているインプットは、どんなふうにどんなことをやられているんでしょうか」。
山口:これはもう本当、逆に教えていただきたいぐらいなんですが……。
田久保:「人・本・旅」(笑)。
山口:まぁ「人・本・旅」ですね。コツは、自分のポジションを明確にすることだと思うんです。僕が書いた本の中で前半のものは、明確に書籍マーケットのマーケティングストラテジーに則って書いたんですね。ですから「自分が書きたいもの」よりも、「どういう本がウケそうか」で書きました。それで、それなりに評判になった本もあるんですけども。
結局思ったのは、そういう仕事って、友達を連れてきてくれないんですね。お客さんを連れてきてくれますけれども。
山口:『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』という本を書いた時に、非常に怖かったんですけども、あんまりはっきりしたエビデンスがないことを書いたんです。「自分はこういうふうに言ったほうがいいと思う」「こういう世の中になったほうがいいと思う」っていうことを、勇気を出して書いたんです。
それで何が起こったかというと、「私はあなたの言ってることにものすごく共感する」っていう人が来てくれて。この人たちは必ずしもお金をくれないんですけど(笑)、友達になってくれるんですよ。そうすると、その人たちは自分と感性が似ているので、僕が「こういうのがいいな」って思うようなものを、先にインプットしている人たちなんですね。
出口さんが「人・本・旅」って言ったのは、人の最大のメリットは本を読んだり旅したりすることだという話で。
IT評論家の尾原和啓さんなんて典型例ですけど、あの人も1ヶ所にいると死んじゃう人なんで(笑)。いろんな所を旅して、膨大な量の本を読んで、会うと1時間の間に「この間タイに行ったらこういう事例があって」とか「本読んでこういうことが書いてあって」とか、膨大な量のインプットをくれるんですけども(笑)。
もともと自分と好きなものが似ていて友達になってる人なので、そのインプットは僕にとっても全部ヒットするんですね。だから「あなたと好みの似た人はこういう所を旅しています」「こういった本を読んでいます」と、まさに人を介したフィルタリングで、スクリーニングが行われている状態なんです。
インプットで言うと、もちろん本はやっぱり大事です。僕もたぶん年間で、ぱらっと読むのも含めてですけど、300~400冊ぐらいは読んでるかなと思います。旅は今なかなかできなくなっちゃいましたけど。あとはやっぱり、人を介して。感性や社会ビジョンの方向性が似ている「この人は」という人を増やしていくと、そこからのインプットもすごく勉強になりますよね。慶應の宮田(裕章)先生とか。
ですから、好きなものを表明すればするほど好きな人同士が集まって、自分が好きなものを「嫌いだ」と言う人は、向こうからどんどん遠ざかってくれるので(笑)。自分のポジションを明らかにすると、すごく効率が良くなると思っています。
田久保:ありがとうございます。では最後の質問かな。個人が令和的な価値観をもっていろんなチャレンジに向かおうと思っても、昭和的価値観がはびこってしまっている。典型的だったのは、オリンピックの開会式みたいなごたごたもありましたよね。これを打破するにはどんな方法論があるとお考えでしょうか。
山口:今の話にもつながりますが、やっぱり味方のネットワークを築くことだと思います。明治維新の時がそうで、まさにグロービスは「創造と変革の志士を育てる」ということで、明治維新的な価値観をバックグラウンドに持ったビジネススクールだと思うんです。
あの時に創造と変革、特に変革の志士が、統計的に説明がつかないほどに1ヶ所から集中して出てきますよね。土佐、長州、あるいは薩摩から。出現率で言えば別に京都や東北から出てきてもおかしくないと思うんです。生物学的な人の生まれながらの素養は、統計的な分散にしたがって生まれているはずなので。
変革の素養を持った人たちは必ず生まれていたはずなんですけども、統計的には説明ができないほどに1ヶ所から集中して出てくるというのは、やっぱり熱の伝播がすごく大事だと思うんですね。
僕がすごく好きな司馬遼太郎のエッセイに、『洪庵のたいまつ』という本があるんです。もちろん今、感染症は私たちの社会でも大問題になっていますが、緒方洪庵は、天然痘という感染症を撲滅するためにいろんなことをやって、本当に偉い人だと思うんです。
彼の業績で一番すばらしいのは、明治を背負って立つ人たち、一人ひとりの若者に対して、心に松明の火を渡していった。教育者は教えるとか、率先してやってみせるとか、叱るとか、いろいろできるわけですよね。僕は、一番は「火を灯していく」ことだと思うんですね。
洪庵は福沢諭吉をはじめとした、いろんな人たちの心に火を灯していって、本当に一つひとつは大きな火じゃないんだけれども、その福沢諭吉が今度は自分の弟子に、200人、300人とまた炎を灯していくわけです。1人が100人に灯すと、これが二代で1万人になります。その火の熱量を持った人たちのネットワークができると、オールドタイプの権力者をバイパスして運動ができるようになります。
これはイノベーション理論でもよく言われるもので、ハーバードのビジネススクールの最近の記事でも出ていましたが、要は味方になってくれる人のネットワークを会社の中に持っていると、ある権力者から「ダメだ」って言われても迂回路が取れるわけです。ですから、虎視眈々とみなさんは(ネットワークを作る)。
山口:明治維新から今150年ちょっと経ったわけですけども、終戦から75年なんですよね。1867年に大政奉還が行われて、1945年に太平洋戦争が終戦して、75年。その1945年から75年経った今、ちょうど2020年ですから、もう1回、次の終戦みたいなタイミングがきていると思うんです。
これは今、ものすごいチャンスが来ている。オリンピックでも社会的な価値がガタガタになって、偉い人たちが次々と討たれて、首が刎ねられましたよね。あんなことは前々回のオリンピックだったらあり得なかったですよ。だって電通がやっているんですから、絶対にあんなことはさせなかった。森(喜朗)元首相の首もあっという間に飛んでしまったでしょう。
今はそういう意味でいうと、オールドタイプに寄与している権力は、ものすごく虫食い状態になっています。若くて、ネットワークと熱量を持つ人たちにとっては、ものすごくいい時代がきていると思うので、ぜひ(ゲリラを)。ゲリラ、僕はレジスタンスと言っています(笑)。本当にしたたかに動き回ってほしいなと思っています。
田久保:ネットワークを作って、レジスタンス(を起こす)と。ありがとうございます。
山口:本当に資本主義をハックしてほしいですね。
田久保:いったんここで切って、アンケートを書く時間を取らせていただきたいと思います。みなさんにアンケートを書いていただいている間にもう1問、山口さんに私から質問させていただきます。それが終わったら最後のメッセージを(お願いします)。
田久保:これ、私もぜひ聞いてみたいなと思うんですけど、「MBAでの学びを『役に立つ』方向ではなく『意味を生み出す』方向にうまく活用していくために、何かアドバイスをいただけないでしょうか」という質問をいただきました。
山口:なるほど。別に、役に立つもののことを否定する必要はぜんぜんないんじゃないかなと思うんです。僕がよく言っているのは、守破離の「守」がやっぱり経営学だと思います。そこがないと破も離もないと思うんですよ。
もう1つ、「『直感が大事』と山口さんが言っていて、直感で上司とか役員に説明するとはねつけられます。うちの役員はダメなんです、とかってよく言われます」。いや、それは青年の主張をしていてもしょうがないでしょう。現実の世界がビジネスプロトコルで動いている以上は、経営学のリテラシーを持って、ファイナンシャルのリテラシーも持って、ちゃんと経営の用語で話せないとしょうがないと思うんですね。
僕がよく若い人に言っているのは、「アートのハートを失ってはいけない」ということです。直感も大事なんだけれども、それをそのまま「食べて」と言っても役員は食べてくれない。「アートのネタをサイエンスの衣で包んで揚げる天ぷらを食べさせろ」っていう言い方をしていますね(笑)。
僕が知っている経営者の方たちも、別にそんなに狭量な人たちじゃなくて。若い人たちが「ぜひやってみたい」と思う事業だったら、応援して通してあげたいと言っている人がたくさんいます。ただ、あまりにも話法が拙いと(笑)。株主に説明できない、ということなんです。
ですから「役に立つ」と「意味がある」で言うと、僕は経営学の知識をわざわざ「意味がある」という方向に持っていく必要はぜんぜんなく、「役に立つ」知識として、それはそれで使えばいいと思うんです。
山口:意味の部分は、さっき言った問題発見のところですかね。デザイン思考でも、一番最初はオブザベーションから始まって、問題の定義に入るわけです。
さっきのIKEAの事例だってそうですよね。まだ最終的にアイデアが出ていない時点であっても、「これは(ビジネスとして)いけそうだ」というのは。経営学のフレームワークで言うと、なかなかあのビジネスオポチュニティは、ロジカルには出てこないかもしれませんが。
それを役員に「やりたい」って言った時には、見込みがどれぐらいなのかとか、いわゆるいろんなビジネスプロトコルでの説明が求められるわけです。両方とも上手に使ったらいいと思います。経営学の知識があることはプラスにこそなれ、マイナスになることはないと思います。
ただ最近、「ネガティブ・ケイパビリティ」って言葉がよく言われます。「知らない」「知識がない」「経験がない」ことは、一般にはネガティブに言われるんですが、これ自体が1つのアドバンテージになっているケースが、特にデジタル系のビジネスではあるわけです。
だから、GAFAって全員素人ですよね。GoogleもFacebookも売上の90パーセント以上が広告ですが、広告のことなんてまったくわからない人たちが始めた事業です。Amazonももともとは流通の会社ですけど、流通の素人がやっているわけですよね。
守破離の「守」と「破」と「離」で言うと、定石とか型を知っているのはすごい武器だと思いますが、やっぱりそこから「いかに破るか」ですね。あえて定石の逆をいくようなことができるかどうかだと思います。経営学の知識そのものを全否定して「意味がある」方向に持っていくようなことは、ぜんぜん考える必要ないんじゃないかなと思います。
田久保:ありがとうございます。
山口:今これを聞いている方は、僕が10年ぐらい前まではグロービスで講師をやっていたことをご存知ない方が……。
田久保:ほとんどご存じないと思います。
山口:そうですよね。「いずれ復活したい、復活したい」と言いながら、なんとなくズルズルここまできちゃいました(笑)。一番最後は10年前に登壇したのかな。そのシーズンからちょっとやっていないです。
田久保:ぜひまたご相談させてください(笑)。
山口:ぜひぜひ(笑)。
田久保:今日はまだ1,200人以上の方が聞いてくださっています。何か元気になるようなメッセージを、最後に山口さんから今日聞いてくださっている方に送っていただければと思います。
山口:もう本当に良い時代がきたなと。みなさん、これから本当に「現役の旬」を生きると思います。田久保さんと僕も、インターネットが出てきて業界がぐちゃぐちゃになった、なかなかラッキーな時代に生まれたなと思いますが、これからますますおもしろくなると思うんですね。
安全・快適・便利っていうのはそれなりに日本はもう達成したわけですが、今は閉塞感がある。ですから、そこの課題を解決していくのは、やっぱりビジネスの役割だと思います。
それは本当に大きな組織で権力を持っている人の上意下達で実現できるんじゃなくて、むしろみなさんぐらいの世代の人たちが、上を突き上げて動かす。みなさん自身がリーダーシップを発揮して、権限を与えられるのを待つのではなくて、動くことで権限をどんどんオーラのように獲得していくプロセスが大事だと思うんですね。
先ほどの繰り返しになりますが、資本主義のハッカー。資本主義はもうダメだと言われていますが、僕は必ずしもそうではないと思っています。価値の出し方とか環境との共生の仕方は、いくらでも修正できると思っているんです。そのためにはやっぱり、資本主義のハッカーと言われるような人たち(が必要になる)。
この人たちはハッカーですから当然、資本主義もものすごくよくわかっているわけですよね。金利や株主やガバナンスといったもののルールも全部わかった上で、それをハックすることが求められていると思います。
ビジネススクールは一般的には、その資本主義の世界の最強の戦士を育てる学校なわけです。この資本主義の世界の最強の戦士が裏返って、資本主義の世界のハッカーになるなんていうのは、最高におもしろいんじゃないかなと思っています。みなさんに期待していますので、ぜひがんばってください。
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