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社長の仕事は社員を信じ切ること。それだけ。(全6記事)

「僕たち、何の戦略も計画もない」運送会社の型破りな経営方針 宮田運輸の社長が語る、「想定外の成果」を出せるワケ

「社員は評価し、管理する対象ではない」と言い切り、生産性至上主義を手放してもなお成長を続け、「奇跡の運送会社」と呼ばれる宮田運輸。代表取締役社長である宮田博文氏をゲストに迎え、組織において「コントロールを手放すこと」をテーマに、進化型組織の第一人者の武井浩三氏と、手放す経営ラボラトリー所長の坂東孝浩氏が対談。本記事では、会社のトップとして宮田氏が大切にしている理念や、その型破りな経営方針について語りました。

仕事内容は同じでも、目的意識の違いで社員に変化が

宮田博文氏(以下、宮田):やっぱり事故を起こしたくない、っていうのはありますよね。安全大会でもなんでもそうですが、毎年従業員向けに「じゃあ今年は自社の事故を半減しよう」と、これは当たり前に言うじゃないですか。「それをまた還元しよう」とか言うんですが、ぜんぜん響かないわけです。これはみんな言ってるじゃないですか。

だけど、「俺たちがやってることが、大阪の事故をなくせるんじゃないか」と言うと、ちょっと目が輝きますよね。やってることは一緒です、意識(の違い)ですよ。

これ、「大阪の〜」と言ってしまうと、大阪の人は応援してくれますが、東京の人は応援してくれませんね。「俺たちがやってることが、日本の事故をなくせるんじゃないか」と言った瞬間に、日本中から応援してくださるんですよ。「世界の」と言った瞬間に、世界中から。「未来の」と言ったら、未来からですね。何を目的に発してるかってことです。

今日、お声がけいただいてるのも、たぶん「宮田運輸の会社を良くしてあげよう」とか、そういう目的ではないわけじゃないですか。「みんなが良くなるように」っていう目的やと思うので。

社内でも、トップがそういうことを言い切ることは、僕自身は大事やと思ってますね。それで応援される会社になっていくんじゃないかと、そんなふうに思ってますね。

社内のモットーは「計画しないこと」

坂東孝浩氏(以下、坂東):言い切るっていうのが、きれいごとじゃなくて、本当に思ってるわけですよね。

宮田:本当に思ってます。「こどもミュージアム」も含めてですが、「こどもミュージアムプロジェクト応援委員会」なんていうのが京都で発足したり、あちこちで紹介をしたり。

「これはいい取り組みやから、俺にもパンフレット送ってくれ」とかですね(笑)。映画(『愛でいけるやん』)も、僕たちが作ってくれと言ったわけじゃなくて、作っていただいたんですね。

坂東:へぇー!

宮田:本もそうですしね。僕たち、何の戦略も計画もない。

武井浩三氏(以下、武井):(笑)。

宮田:本当にないですよ。社内では「計画するな」と言ってますから。

坂東:「するな」って言ってるんですか。

宮田:言ってます。自分が計画した範疇なんか、自分の思ってる範疇ですから。それを超えていく成果が、やっぱり必ず出てくるわけですよね。そこを求めていくには、今日の「人の応援」やつながり、何を意識してるとか、そういうのもやっぱり大事にしていこうと。

社員のやりたいことに「あかん」と口出しはしない

坂東:あとは社員の方に、やりたいことをどんどん任せていくこともされてますよね。

宮田:そうですね。合言葉がいろいろあるんですが、「みんなが良くなるんやったら、やったらええんちゃう」っていうのがありますから。なのでけっこう、事後報告が多いですね。

坂東:事後報告が多いんですね(笑)。

宮田:でもそれは、「絶対『あかん』って言わへんやろ」というのがやっぱりあります。「やらんかったほうがあかん」っていうね。間違ってるかもわからんけど、自分がやろうと思ったことを、自分の意志でやるほうが大事やと。そういう社風にしてますから。それが間違ってるわからへん、でもそれを間違わないようにみんなが協力していく、支え合う。

今、メディアも含めてですが、何かがあった時にみんなで責め立てる世の中じゃないですか。でも、やろうとしたことを、その動機に対してみんなが助け合い、支えあう。やっぱりそういう会社や社会を作っていきたいと思ってるので、「やったらええんちゃうんの」っていう。

どれだけ数字を達成しても、社員が付いてこなければ意味がない

坂東:なるほど。数字が(目標に)行ってなくても、それで詰めたりはしない。やりたいと思ったことがうまくいかなくても、それでみんなで非難したりはしないと。

宮田:そうですね。ある事業所で、目標も売上利益の数字もすごくいったんですね。いつもその部署は(みらい会議に)従業員が10人ぐらい参加してるのに、その時は所長1人だったんですね。

坂東:その時は所長1人だけで。

宮田:売上利益って言ったら、胸張って発表できる数字の成果なんですね。せやけど周りに(従業員が)いないわけですね。それで「何が大事かわかるやろ」……っていうのを、そこで共有するわけですね。

坂東:なるほど(笑)。

宮田:「なんぼ数字いったかて、みんなこうやって来てくれへんかったら、やっぱり違うやろ」。何が大事か、そこらへんを本当に僕たちは理屈抜きに。本当に大変な仕事なんですが、命がけでやってる仕事の中で、ガンガン体現して見せていくというか。そう思ってますけどね。

坂東:良いことも悪いことも、そういうことの一つひとつが、社員が成長するためのツールになるというか、きっかけになるってことですよね。

宮田:そうですね。良いことも悪いこともすべて。だから悪いことを起こさない……法律は守らなあかんけども(笑)。チャレンジしない、リスクを取らないってことじゃなくて、リスクをどんどん取っていく。経営数字もどんどんオープンにして、同業でも初めて会う人でも、どんどん(情報を)持って帰ってもらうし。

自分たちの利益や損得では仕事をしない

坂東:しかも(福島県の浜通り沿岸地域の物流を再構築するプロジェクトは)お客さんがいないから、まだそういう売上計画が立てられないわけですよね。

宮田:立てられないですよ。でも、銀行は貸してくれるってことですからね。それが3年後、5年後やったらどんどん(福島に新しい会社や工場が)建っているかもわかりません。でも、誰かがそこに行かなくちゃいけない。例えば僕たちが潰れたとしても、その土地には建物が残るわけですからね。

「誰かがやらなあかんのちゃうか」っていうぐらいの気持ちでいます。「大阪から来たやつ、手を挙げてくれ」って言ったら、今は4人行ってるわけですよ。1人は夫婦で行ってますしね。骨埋めに福島県に行ってますよ。

だから本当に、自分たちの利益や損得で行ってるわけじゃなくて、なんとか福島を世界モデルの復興に(したい)。福島だけじゃなくて、私たちができることがあるのであれば、みんなで協力してやろうという。そんな思いで今、やってますけどね(笑)。

坂東:よく武井さんとも話していて、普通の会社は不安と恐れがベースのマネジメントをしてる。それは経営者だけじゃなくて、上司も不安と恐れを利用して「がんばらないと評価されないぞ」「給料上がらんぞ」と煽ってる。それが当たり前なんですが。不安と恐れじゃない価値観っていうのは、なかなか想像ができないと思うんですよね。

必然的に「ティール組織」にたどり着いた宮田運輸

坂東:ね、武ちゃん。実際にこういう会社があるっていうのが驚きというか、パラダイムが違いますよね。

武井:自然とティール組織のような経営にたどり着くのは、もう必然ですよね。僕もダイヤモンドメディアという会社を始める前に、1回会社を倒産させたことがあったんですよね。

それで本当に、友だちの人生をめちゃくちゃにしちゃったもんで。「自分の仲間の人生をめちゃくちゃにしてまでやるべき仕事なんて、ないじゃないか」ということに気づいてしまって……。気づいたというか、言葉で言うと当たり前ですが、それを体感した時にやっぱり「取り返しのつかないことやっちゃったな」って思って。

その人がその人らしくいられることが、人生の成功なわけで。会社の成功もそうですが、別に一つひとつ成功も違うわけです。だから、そういられる環境を作りたいと思ったら、今の世の中の仕組みだとできないなと思って。

自分も権力を持ちたくないから、そうじゃない仕組みを作ろう、ってやったら、「ティール組織」と呼ばれるようになっただけなんですよね。だからもう……共感しかないっすわ(笑)。

(一同笑)

社内情報の開示がスタンダードになる未来

武井:僕も稲盛(和夫)さんが大好きで、月次決算をちゃんとやって、アメーバ経営をやって、というのをやってたんです。

ダイヤモンドメディアの頃、毎月会社の中で発表会みたいなのをずっとやってたんですが、「これ、社外にオープンにしてもいいじゃん」ということで、2016年から「すごい納会」と言って、ちょうど5年ぐらい前にオープンにし始めて。

その頃、会社に(従業員が)30人ぐらいなんですけど、その会に毎月外から30~40人の参加者が来るようになって(笑)。それを2年ぐらいやったかな? でも、ちょっとイベントになりすぎちゃって。社内でもう少し込み入った話をしたいのができなくなっちゃって、それでもう1回クローズドにした、っていう経緯があったので……(笑)。

ある程度、宮田運輸さんぐらいの規模になって、ちゃんと回していく余力とかが付いてくると、これは本当に素晴らしい仕組みなんだろうなと思います。だからこの取り組みとかも、僕はもう共感しかないというか。「やっぱりそうなりますよね」という感覚なので、これがむしろ世の中のスタンダードになっていってほしいな、って本当に思いますね。

宮田:本当にそう思うんですが、やってるほうも楽しいんですけどね。

武井:そうそう。

企業情報を開示しないのは「誠実じゃない」

武井:というか、やましいことがないんだったら、別に(社外に情報を)出しても何もないんで。逆に仲間が集まってくるし。

宮田:そうそう。

武井:でも、けっこう僕も理屈っぽい男なんで。いろいろ調べると、上場企業ってそもそも「パブリック」とかって言われてますが、IRの情報をいじりまくってますからね。

坂東:ほぉー。

武井:例えば上場企業の情報開示のルールの中で、部門別の売上を出さなくてもいいんですよ。でも、そういうことをすると何が起こるかっていうと、M&Aとかでほかの会社をボコボコ買ってくる会社が、実態もわかんないのに「増収増益してます」っていう嘘をつけちゃうんですよ。僕、けっこうIRマニアなんでね。問い合わせたりして。

(一同笑)

武井:「セグメント別の売上情報をください」って言ったら、「すいません。それは開示してません」とかってIR担当から返ってきて。

坂東:開示しなくていいんだ。

武井:そう。それはでも「ルールがそうだから」というだけであって、どう考えたって誠実じゃないじゃないですか。

宮田:そうですね。

武井:だからなんか、世の中おかしいなって思いますよ(笑)。

坂東:「公開企業」って言ってるのに、違うんだね。

武井:すごくコントロールできますからね。あとPL(損益計算書)・BS(貸借対照表)、資産計上をどのくらいするかとかも、実際のところかなりいじれますから。だからBSまで掘ってみると、本当に誠実な会社かどうかはすぐわかりますよね。

坂東:なるほどね。……言ってる間に、もう終わりの時間になってしまいます(笑)。本当にありがとうございました。

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