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2025.02.18
AIが「嘘のデータ」を返してしまう アルペンが生成AI導入で味わった失敗と、その教訓
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宮田博文氏(以下、宮田):(ある時に)「宮田くん。工場の構内に安全標語が掲げてあるよ」と聞いたんですね。「それは当たり前やろ」と思ったんです。「それが違うんや。それは、そこへ勤めている従業員さんの子どもたちが一生懸命書いたものなんだ」と聞きました。
そうか。「一時停止しましょう、構内15キロメートル(制限速度)」と活字で書いてあっても、同じことを子どもたちが一生懸命書いたものって、心に届くなと思ったんです。「じゃあ自社もそうしよう」と思ったんですが、1社だけ良くなっても、交通事故はなくなりません。社会全体が良くならないと、なくならない。
社会を良くするためにどうしたらいいか考えた時に、ドライバーに限りませんが、自分の誕生日に子どもが書いた「パパ、いつもありがとう。ママ、がんばってね」。そんな、何が書いてあるかわからないぐらいの切れ端を、大事に財布の中に入れてあったり、トラックの運転席や助手席のダッシュボードに飾ってあるのを知ってましたので、「これや!」と。
これは社会を良くしなきゃいけない。運転席の中、会社の中にとどめるんじゃなくて、子どもたちの純粋な思いを思いっきり社会へ出そうと思いまして。それを引き延ばして、8年前に自社のトラック1台から、トラックの背面にラッピングする活動を始めました。この1枚でまったく変わるんです。
仕事の内容は365日・24時間、物をお届けする、暮らしと命を支えるという使命感でやらせてもらってますが、なかなかスポットライトが当たらないんです。仕事の内容は変わらないんですが、(従業員の意識が)まったく変わるんですね。雨が降ってても、トラックもピカピカ。もう、雨降ってても洗いますね。
坂東孝浩氏(以下、坂東):「降ってても洗いますね」(笑)。
宮田:そうなんです。もう「洗え、洗え!」なんて言わなくても洗ってます。走り方もまったく違いますね。みんなよく「子どもを乗せてる感覚」って言いますね。
宮田:走ってる時に交差点で止まってると、トラックの絵を見ておばあさんが手を合わせたりとか。サービスエリアに止まっていると、「写真撮っていいですか?」って声をかけられたり。高速道路を走っていると、ご夫婦が追い抜きざまに運転席に手を振ってくださったりとかですね。
まったくあおられません。みんなから注目されるトラックに変わるんですね。「私、今日仕事でイライラしてました。帰り際、御社のトラックを見て心が大変穏やかになりました。がんばってください」というお手紙もいただきます。
何が変わるかって、仕事の内容は変わらないんですが、自分たちが走ってるだけで人の役に立ってる、世の中のためになってるんだ、という実感が湧いてくる。運転の仕方も変わりますし、そうなると働き方ももちろん変わります。もっと言えば、生き方も変わっていく。そんなふうに今、確信を持ってます。そういうトラックの活動をやっています。
たった1台のトラックから始まった活動ですが、今、参画いただいているのが、全国240社・800台を超えました。国内はもちろんですが、中国・北京でも9台に参画していただいてます。世界に発信していこうと思っています。
宮田:自分の子どもはもちろんですが、今はもう、あらゆるやり方でやってます。地域の小学校、幼稚園でお絵かき大会をしまして、それを地域の事業者さま(のトラック)にラッピングをする。納車の時にお披露目式をします。これは小学校へ行って子どもたちと一緒にやるんですね。
坂東:すごい。
宮田:これは相模原の小学校ですね。自分の描いた絵が、町中をトラックで走るわけですよ。めちゃくちゃ自己肯定感が高まっていく。
坂東:そうかぁ。それはうれしいですね。
宮田:うれしいですよ。これは10年ぐらい走り回りますからね。10年後も、自分が描いた絵が町中を走るわけですね。それを子どもたちが「うわー」って見てる。このトラックに乗るドライバーの心なんて、もうまったく違うわけですよね。
今、納車式もいっぱい工夫して、盛大にしています。地域の警察署長さんと、これは上場企業の運送会社さんですが、出発式に市長さんを呼んだりとかですね。高価なトラックですが、(それまでの)納車の時には安く叩かれて、「そこへ置いとけ」って言われて見向きもされない。営業マンが泣くわけですよ。
坂東:(笑)。
宮田:この(ラッピングをされた)トラックは、従業員さんがみんな出てきて「まだかまだか」と写真を撮る、そんなトラックになるわけですね。社内の雰囲気もめちゃくちゃ温かくなりますね。
宮田:これはトラックに限らないです。介護施設・デイサービスの送迎車は、ご利用者さんのお孫さんが、「おじいちゃん今日もがんばってね」ということでラッピングしてくれたりとか。
チェッカーグループのタクシーやバスとか、福島第一原発で働いている重機もラッピングしています。動くものだけじゃありません。工務店の家を建てる時のシートとか、工事現場のフェンスとか、カラーコーンとか。いろんなところにやってくれています。
日本全国の自動販売機、企業のアピールはもういい加減いいんじゃないでしょうかと。自動販売機1台ずつが、子どもの描くキャンパスになれば、交通事故(の減少)はもちろん、優しい街に変わっていくんじゃないでしょうかということで、コラボをさせていただいています。
会社に入る表の玄関に「ぶじにかえってきてね!!」って子どもたちが描いてくれたりとか。薬の袋に「おばあちゃん早くよくなってね!」。おばあちゃんが薬をもらう時に涙するそうです。薬を飲んだ後ですが、その袋が捨てられないということで、壁に貼ってあると言います。
健康診断のファイル、宅急便の袋とか。宅配のお兄さん宛に「がんばって」とメッセージを書いてくれたり。子どもたちと一緒に、塗装屋さんがベンチを一生懸命寄贈する活動をやってくれたりとか。カイロプラティックの白衣の後ろにも、子どもたちが描いたメッセージをラッピングしてくれたり。
キッチンカーにラッピングをやっていただいたり、近江牛を育てて全国に発送している、宅急便のステッカーをやっていただいたりとか。
宮田:これは会社の従業員の控え室です。「何々したらあかん、何々せい」って張り紙がずらーっと掲げてあると、休憩の時は不平・不満・愚痴が収まらへんかったと。
それを取っ払って、従業員さんの子どもたちに書いてもらった絵をギャラリーとして飾るだけで、誰かが飴を持ってきたり、お菓子を持ち寄ったり、温かい空間になったとお聞きしています。
今、いろんなコラボをやっていまして、これはパラリンピックですね。パラスポーツ、パラアスリートを応援しようということで、障害者支援団体と一緒になってやりました。子どもたちに絵を500枚募集して、集まりました。大阪の中央公会堂で表彰式をやって、各地域の事業者さんに絵をラッピングしてもらう活動もやりました。
日本IDDMネットワークさんは、1型糖尿病の子どもたちが絵とメッセージを書いてくれました。「ちっくんしないでいっぱい食べたい」とか、そんな思い。「治らないから治る」というメッセージをラッピングして、今、走っています。
「こどもミュージアムフェスタ」で万博記念公園のお祭り広場を貸し切って、全国からラッピングトラックを集めてフェスタを開催しています。これは今、コロナでちょっとできていないんですが、2年連続でやらせていただきました。「こどもミュージアム」プロジェクトもこの活動も、もちろんやってます。
宮田:「心で(仕事を)やりたい」という思いで、社内のやり方もまったく変えました。朝、私たち事業者は点呼があります。これ、もちろん行政の規則ですから、やらなくちゃいけない。健康状態を把握して、検温して、アルコールチェックして。出社してきたらドライバーに、24時間やるんですね。
義務ですからもちろんやるんですが、やっているほうもぜんぜんおもしろくないわけですよ。もちろんベースで点呼をやるんですが、さらに私たちがやってるのは、この300円ほどのプラスチックのタンブラー。これを買ってきまして。
従業員には内緒で家族に集まってもらって、家族がそのタンブラーに思いや願いを込めて、「お父ちゃんがんばって」「パパいつもありがとう」「親父、死ぬなよ」とか、そんな思いを書いて、サプライズで運転士にプレゼントします。
プレゼントされたタンブラーを、毎朝握りしめて出社してきたところに、私たちが挽きたてのコーヒーを淹れるという習慣をしてます。「気をつけて行けよ」じゃなくて、「今日も無事に帰ってきてくれな」という願いを、会社と家族が一緒になって願うのが、私たちがやっている点呼です。
(会社設立)50周年の記念に、社歌を作ってもらいました。社長が従業員の子ども宛てに手紙を書きまして、「お父さん・お母さんたちの応援歌を作りましょう。集まってください」ということで、会議室にグランドピアノを買って置きまして。指導いただいて、子どもたちが歌詞からメロディ、3番まで作ってくれました。
始業が毎朝9時ですが、9時になる前に録音した子どもたちの歌声が自動的に流れます。社長が朝礼で20分も30分もしゃべっていても、誰も聞いてませんが、子どもたちの歌声が聞こえてくると、「よし、今日もがんばろう」「今日も安全に、無事で帰ってこよう」と。内発的に「やろう」と湧き上がってくるものだと思うんですね。そういう機会をいっぱい作ってます。
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