月に1本、社員のインタビュー動画を作成

宮田博文氏(以下、宮田):(宮田運輸では)「フィロソフィ制作委員会」というものを作りました。私たちのフィロソフィは、成文化して共有することではなくて、「現場にある」という考え方で動画を作ってます。現場にある些細なできごとですね。

納品はリフトという機械を使って積み荷を降ろさなくちゃいけないけど、例えばトラックで納品していて、自分が順番待ちして並んでいたら、違う運送会社さんが高齢のドライバーで、ちょっと危なっかしいと。でも、誰も見て見ぬふりしてる。

自分が「おっちゃん、手伝ったるわ」と手伝う。でも、お客さまから「お前それ、人の荷物触って破損させたら責任取れるんか?」って怒られるわけですが、「そんなんかまへん。おっちゃん困ってるから」と。それでやったということですね。

帰ってきて上司がそれを知って、フィロソフィ動画にしました。インタビュー形式で、本人に「なんでそんな気持ちになったん?」って(聞いたら)、「いや。だって困ってる人がいたら助けるのは当たり前でしょ」って、自信を持って言うわけですね。

それに対して、社長がコメントをつけます。「私たちが大事にしているのは、そういうことや」と。人の良心が、損得関係なしになんの制限も受けずに発揮できる、そういう会社・社会を目指してるんだと。これを月に1本ずつ、ショートムービーのインタビューを3分とかで作っていきます。

「ダメなところを見つける」ではなく「いいところを拾い上げる」

坂東孝浩氏(以下、坂東):社員の方の動画に、毎回、宮田社長がコメントをつける。

宮田:そうです。「私がこういう考え方で」と成文化したやつを共有するやり方とは……それを否定するわけじゃないですが、でもこれは、私がいなくなってもずっと1本ずつ作り続けられますから、もう永久にですね。自分の好きなタイミングで、YouTubeで家族も見られます。

この間、一番端(画像右上)の河江くんのお母さんが亡くなったんですが、この河江くんが心配やと。病床で、「あんたちゃんと仕事してるか?」って。それでこの動画を見せたらしいんですね。お母さんが見て、「あんた立派になったな。安心した」と言って天国に行かれたということを、告別式に行った時に聞きました。

動画を従業員への共有だけじゃなくて、やっぱり家族にも見てもらいたい。もっと言えば、世界に発信していこう、どんな人でも見れるようにしていこうと。永久に1本ずつ作り続けられることによって、何が起こるかというと、僕ら管理職が現場でダメなところを見つけて指導しようという目線じゃなくて、いいところを拾い上げようと。

毎月「うちの現場でこんなことがあった」「こいつがこんなこと言った」「こんな行動をした」って上げてくるわけですが、(そうではなくて)いいところを見つけようとする。職場が温かくなりますね。そういったことをやってます。

坂東:これ、(動画内で語る)話は何でもいいんですか?

宮田:何でもいいんですね。管理職が「これいい」って思ったことを上げてくる。だから、ドライバーが「これちょっと」って言うんじゃなくて、その現場で見ていてですね。

坂東:ピックアップするわけですね。

宮田:そうです、そうです。そういうことをやってます。

坂東:なるほど。

毎月の経営会議は「来たくなかったら来なくてもいい」

宮田:次、いきましょう。「みらい会議」ということで、幹部会議ですね。数字の部門別管理報告会をずっと幹部でやってましたが、「もう幹部とか幹部じゃないとか関係ないな」と思ってですね(笑)。

これ、7年ぐらい前から毎月幹部会議でやってるような、会社の経営数字ですね。ガラス張りにして、すべてオープンにしている会議です。パート・アルバイトも含めて、全従業員対象、自主参加ということで、毎月日曜日にやってます。朝の9時から、晩の懇親会を入れると、19時〜20時まで。

今、私たちの事業所が福島県から西は福岡県までありますが、経営会議は自主参加ですから、管理職でも来たくなかったら来んでええわけですね。

坂東:管理職でも、来たくなかったら来なくていいんですね(笑)。

宮田:はい。でも現場の連中は来るんですね。何をしてるかって、午前中は事業所の毎月の報告ですね。6月の報告とか、そういうことをやるんですが、ある例があって。

パレット(注:荷物を単位数量にまとめて載せる台)を清掃する部署があるんですが、お客さまに言われた「3万枚」というノルマがあって。幹部会議でやってる時は、なかなか達成しなかったんですよ。幹部に所長が報告して、みんなが「こうやったらええやん」「ああやったらええやん」って言うんですが、なかなか達成しない。

それが「みらい会議」に場を開いて、そこへ来てくれた現場のヤマモトのおばちゃんが手を挙げて。「社長、そんなもん楽勝や」「私、明日現場に行って言うたるから大丈夫」と言ったら、すぐに3万枚クリアしたんですよ。その次の月は、現場の連中が4人も5人も来て「私たちは4万枚やります」と。今はもう、5万枚ぐらいになってますね。

坂東:おぉ。

自分の仕事が会社の経営につながっている、という実感

宮田:だから、上から部分的に数字を言われてやらされるってことじゃなくて、みんなやりたい気持ちがあって。自分たちがやってることが、経営にどうつながってるかという資料をシェアするだけで、本当にやりたい気持ちがあるんだと。現場の連中みんなが助け合うと、本当に生き生きとしていくし、今は数字も自らが立てていくものになってますね。

午前中に数字をやって、昼からは心でディスカッション。いろんな愛を体現するという。ちょっと、よくわかったようなわからんような(笑)。

坂東:(笑)。

宮田:そういうことに向き合って、(スライドを指しながら)左下ではそういうことをやったりとか。死生観とか、最後は体ということで、右斜め上のスライド。みんなでヨガをやりますね。数字をやって心をやってヨガをやって、最後、懇親会は人生を語り合う。

この会議は、従業員のお母さん、恋人、子どもを連れてきたりしますね。オープンにしてますから、ホームページから登録していただいて、外部の参加OK。今はちょっとコロナでできてないんですが、この間やった時は外部だけで50名。

坂東:ほぉー。

宮田:北海道から主婦の方や、社員の方、同業、取引のない銀行さん、学生、大学の先生がたくさん来て、朝から懇親会まで残ってくれます。

「会社のことを会社の中だけで考える時代じゃない」

宮田:資料もこれぐらい、お客さまのデータが載った資料ですが、初めて来た人にもこういう資料を全部渡して、同業でも全部持って帰ってもらいます。

坂東:同業でもいいんですか?

宮田:同業でもいいんですよ。同業さんもけっこう来られますし、まったく関係ないコンサルさんとか、銀行の常務さんも来られます。

もう、会社のことを会社の中だけで考える時代じゃない。たくさんの方々と一緒に考えるためには、自分の会社が良くなるってことだけじゃなくて、やっぱり社会や未来が良くなるような思いがないと、応援してくださる方はいらっしゃらない。

私たちも、その会議に外部の方が涙しながらコメントしてくださることを見て、すごく勇気づけられる。「まだまだがんばろう」ってなりますし、良いも悪いもスポットライトが当たりますから。だから、人間性を育んでいけるような数字の使い方、という意識でやらせていただいてます。

福島第一原発のプロジェクトにも参画

宮田:これは自分自身がそうだったように、地域で子どもたちが仕事に触れるとかですね。そういう機会をやっぱり作りたい。家庭と会社とか分断されることじゃなくて、仕事に触れてもらいたいということでやってます。

福島もご縁がありまして。今、(福島)第一原発の除染された土を中間貯蔵施設に輸送するのをやってくれないかということで、「はい。わかりました」と、やらせていただいてます。声をかけていただいた会社も、プロジェクトに参画いただいて、福島第一原発の中の煙突を撤去する作業をしています。

(現場は)汚染されてますから、人はできませんが、遠隔操作でロボットがする。遠隔操作する大型のバスをフルラッピングしていただいて、第一原発の中で活躍してくれてます。

古滝屋さんという旅館にも参画いただいたり。私たちが出ていったことが、富岡町の役場につながって。やっぱり人を呼び戻さなくちゃいけない、そのためには仕事を作らなあかん。工業団地整備して誘致しようと。

せやけど、浜通り沿岸地域は物流が1個もないんですね。地元企業さんは数社ありますが、大手路線会社さんも入っていかない。佐川さん・ヤマトさん、宅配はかろうじて行きますが、エリア外で。「工業団地を整備して企業誘致するけど、物流どないすんねん」という課題があります。

「じゃあみなさん出てきてくれないか」ってことで、「分かりました」と二つ返事で受けて。4月から8,000坪をお借りして、倉庫を建築しようとしてます。でも今、お客さまがゼロなのですが、物流機能があることで工場が来るのであれば、それは僕たちがやりましょうということで進んでます。

経産省と復興庁と一緒になって、そこの浜通り沿岸地域の物流再構築ということで、大手4社と取り組んで考えています。関西の会社が出ていって、地元企業としてやらせていただいていて、富岡町の方々も「こういう物流会社があります」ということで、パンフレットを持って活動していただいてます。ちょっと早口で言いましたが、こんな感じですかね。