2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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「組織・人事」分野のSaaSを中心としたサービスとの最適な出会いを実現する、展示会イベント「BOXIL EXPO 第2回 人事総合展」がオンラインで開催。 各業界の著名人によるトークセッションや、サービス説明セミナーが行われました。「人生100年時代を勝ち抜く人材の育成術」をテーマに、独立研究者/著作家/パブリックスピーカーの山口周氏が登壇。本記事では、エリートほど刑務所に入る割合が多い理由を解説しました。
山口周氏(以下、山口):最後に「美意識」と「ルール」の話をしたいと思います。これは、当たり前のお作法の話です。先ほど見ていただいたとおり、これから先、経済成長が非常に難しい時代がやってきます。IMFとか政府は、世の中の元気がなくなるのを「来年は経済成長する」とか、プロパガンダとして言っているわけです。
50年間の推移を見ていけば、経済成長しないのはもう明白です。テクノロジーも経済成長に貢献していないわけですから。何が起こるかと言うと、コンプライアンス違反ですね。経済成長しない一方で、株主は同じような成長を続けることを期待をしていますから、ここに大きなひずみが生まれている。
みなさん、この方がどなたかご存じですか? 見ていただけると、手錠をかけているのがわかると思います。この方は、エンロンの元CEOのジェフ・スキリングです。20年以上の禁固刑の実刑判決を受けて刑務所に入っていたんですが、先日、模範囚として刑期が短縮されて出所しました。アメリカではずいぶんニュースになりましたけどね。
実は『イノベーションのジレンマ』を書いた(クレイトン・)クリステンセンとジェフ・スキリングは、ハーバード・ビジネス・スクールの同期なんですね。クリステンセンは、本の中にこういうことを書いています。
「ハーバードと留学先のオックスフォード大学で、一緒に学位を取ったクラスメイトを観察していると、卒業時までは立派な人生を歩んでいたのに、社会に出てから人生を踏み外す人があまりにも多いことに気がついた。その中には有罪判決を受けて、刑務所に入った友人が3人いる」。
みなさん、刑務所に入った友人が3人いるっていう人、なかなか珍しいですよね? 相当な出現率だと思うんですが。実はクリステンセンは、そういうところに行っているわけですね。
「エンロンの元社長で、現在収監されているジェフ・スキリングは、HBS(ハーバード・ビジネス・スクール)の同級生だった。頭脳明晰で努力を惜しまない、家族思いのナイスガイだった。卒業後はコンサルティング会社マッキンゼーに入社し、史上最年少でパートナーに昇格した後、1億ドルを超える年収でエンロンのCEOとしてスカウトされた。」
「だが、輝かしい経歴とは裏腹に私生活は破綻し、結婚に失敗。孤独な人生を送っていた。そしてトドメが懲役20年の実刑判決だ。彼らはどうしてこんなことになってしまったんだろう?」(クレイトン・クリステンセン『イノベーション・オブ・ライフ』より引用)ということです。
山口:よくこういうニュースが流れると、「エリートも脱線」「エリートなのになぜ」と言われるんですが、これはいかにもナイーブな質問です。私はもともと組織開発のコンサルの仕事をやっていましたから、データで調べてみるとわかるんです。
わかりやすく言うと、ハーバード・ビジネス・スクールの卒業生が“塀の向こう側”に落ちる確率と、一般的な市民が“塀の向こう側”に落ちる確率を比べると、ハーバード・ビジネス・スクール卒業生の確率は、2桁ぐらい高いんですね。
実はエリートは、壁の向こうに落っこちちゃう確率がすごく高いんですよ。だから「エリートなのになぜ」ということじゃなくて、「エリートだから」と言うべきなんです。
なぜかと言うと、エリートの特徴によるんです。世の中を悪くする人は悪人だと思っている人がいるんですが、悪人じゃないんですよ。世の中を悪くするのは、“無批判な優等生”です。今、自分がやろうとしていることを、批判的に眺める能力を持っていないんです。
ただ単に与えられたものさしで、受験勉強で言えば偏差値や点数、事業で言うと利益や売り上げや株価ですね。与えられた目標をただ単に上げることがいいことだと思って、無批判にばく進できる人のことを“悪人”と言うんですね。わかりやすい悪人がやる悪なんて、大したことないわけです。
例えば今、日本ではオレオレ詐欺が問題になってます。もちろん(犯人は)悪人で、許しがたい存在ですが、どれくらいの悪を世の中に出しているのかと言ったら、せいぜい数十億円でしょう。
みなさん、エンロンの被害総額っていくらかご存じですか? 兆単位ですよ。ですから、悪人として桁が違うわけですよね。わかりやすい悪人かというと、あの人はむしろ世界中のビジネス誌の表紙を飾っていたエリートです。
山口:こういう時代だからこそ、今、自分たちがやろうとしていることの善悪を、方法としてはルールや法律とか、業界慣習に則ってだけ考える。真善美をちゃんと踏まえて経営できていれば、そうそうおかしなことにならないわけです。
真善美はどうやったら判断できるのかというと、2つの立場があります。理性・サイエンスに則って考えれば、それを正しく把握できるというのは、1つの立場ですよね。この場合、業界のこれまでのルールとか、法律や判例に則って考えていれば、きちっと善悪を把握できるという考え方です。
じゃあ、それで本当に問題がないのかといったら、いろんなところで問題が起こりまくっているわけですよ。わかりやすい例が、2018年のBurberryの事件です。関係者の方がいたらごめんなさい。別に揶揄するつもりはぜんぜんないんですけど、事実としてここで共有しておきます。
40億円ぶんの売れ残りを、Burberryさんは全部燃やしちゃったんですね。何が起こったかと言うと、全世界で「#BoycottBurberry」というハッシュタグをつけて、Burberry製品の不買運動が起こっちゃったわけです。「4,000万ドル分の服を燃やした」って、(他に)何かできなかったのかなと思います。
山口:資源、ごみ、環境、貧困といったものが、これだけ世界的な問題になっている中で、今、ラグジュアリーブランドは非常に難しい状況になっていると思いますし、これからますますなると思います。
ただでさえそういう難しさを持ってる業界が、「4,000万ドル売れ残ったので、全部燃やしちゃいました」ということを公表したところ、一番最初にセレブリティから「買うのやめたほうがいいんじゃないか」「許しがたい」ということで、(不買)運動が起こったわけですね。
じゃあ実際に、これが業界のルールや法律とかに違反しているのかといったら、なんにもやっていません。むしろラグジュアリーブランドに求められる常識的な経営手法を、まっとうに実践しただけのことですが、突然“刺された”わけですね。
ビジネスがそもそも持っている「原罪制」があるわけですよね。何かを捨てさせないといけない、資源を自然から取ってきて、物を作らなきゃいけない。そういった原罪制を持っているわけですが、この原罪制に非常に厳しい目線が注がれています。
だからこそ、善悪の判断は感性の部分です。ある種の時代感覚や歴史感覚、あるいは自分なりの道徳やセンスに照らし合わせて、考えていかなくちゃいけない時代が来ているんじゃないかなと思います。ルールと常識だけに従ってればいいというだけじゃなくて、自分なりの美意識を持って考えて、意思決定をしていくことが重要かなということですね。
山口:今日、時間も限られているので、かなり駆け足で話をしてきました。おそらく、もやもやしている、場合によってはイライラしている方がいらっしゃると思うんですが、「納得できること」に知的進化のきっかけはないわけです。
納得できるということは、自分がすでに思っていることをもう1回確認しているだけに過ぎないわけですから。ある意味、納得できたり共感できたりすることは、あまり意味がないわけです。
逆に「もやもやしている」「イライラする」「でも、事実やロジックとして言われてみると、確かにそういう側面はあるような気がする」というところに、自分の考えているフレームを進化させるきっかけがあると思っています。
もやもやしてるから捨てちゃう、イライラしてるから捨てちゃうということではなくて、もやもや・イライラしていることにこそ、自分が見失っていたり気づいていないことの内側に飛び込むチャンスがあると思って、ぜひいろいろ考えていただければありがたいかなと思います。
山口:じゃあ、いったんここで話を止めて、質疑応答に入りたいと思います。
司会者:私のほうでご質問を1つ見つけましたので、読み上げてお答えしていただいてもよろしいでしょうか?
山口:はい。
司会者:「国内メーカーに勤務しており、一般消費財で『役に立つ』より『意味がある』を目指すのは、非常に難しいと感じております。日本で最近発売された一般消費財、あるいはそれに類するもので、山口さんが『これは意味がある』と感じられた事例があれば、教えていただきたい」というご質問です。
山口:何を一般消費財と言うのかわからない……。家電産業ってすごく成熟していると言われていますが、バルミューダやDysonってめちゃくちゃ伸びていますよね。一般消費財でいうと、例えばバルミューダのトースターなんかは非常に意味があるかなと思います。
そういう意味で言うと、無印良品なんかもそうですよね。あとはちょっと古い例になりますが、 THE BODY SHOPも化粧品業界に大きなイノベーションを起こした会社だなと思います。化粧品は、基礎化粧品にせよメーキャップにせよ、きれいになれて価格も安くてパッケージがきれいなほうがいいとか、そういう価値軸があったわけです。
( THE BODY SHOPは)「私たちは動物実験をしない」ということで出てきて、「それって逆に言うと、普通の化粧品の会社は動物実験をやって製品を開発していたの?」と思う人が出てきた。「どうせなら、動物実験をしていない会社から買いたい」ということで、急成長したわけです。あれもわかりやすく言うと、意味のイノベーションです。
山口:(一般消費財で「意味がある」ものは)ものすごくたくさんあるんじゃないかなという気がするんですが、ないと思われた理由がちょっとよくわからないですね。そこら中にある気がします。
あとは今、アメリカではCoorsやBudweiserというナショナルビールのシェアが、どんどん下がっています。どこがそれを奪っていくのかといったら、地域のクラフトビールが奪っていってるんですよね。
クラフトビールはわかりやすい消費財ですが、その地域その地域で作ることで、地域に住んでいる人にとっての意味を作っていく。そこのビールを買うと地元にお金が落ちて、地元のコミュニティの人たちが豊かになる。一方で、バドワイザーを買ってもバドワイザーの本社に利益が落ちるだけです。
自分との関係性が変わり、意味的な価値が大きく変容することで業界が動いている例です。これはたくさん並べてみると、いろいろな気づきや自分たちの会社でもできるヒントが出てくるんじゃないかなと思います。
司会者:ありがとうございます。日常にたくさんの事例が落ちているということですね。お時間が迫ってまいりましたので、質問は以上とさせていただきます。
山口:すみません、もうちょっと質問に答えられればよかったんですけどね。プレゼンが伸びてしまって。
司会者:山口さま、それでは最後に一言お願いしてもよろしいでしょうか?
山口:変革の時代には、2つの態度があるわけです。「何が起こるんだろう」という予測も当たらないですから、変化していくのに対して、ずるずる引きずられるようにして「変わっていかざるを得ない」という立場の取り方が1つ。
(2つ目が)「大下剋上時代がこれから来る」「いろんなことがゼロリセットになって、変わっていくんだ」ということで、その変化を先取りしていく。先取りすること自体を楽しむという立場の取り方があると思います。
“自分から変化を仕掛けていく側”のほうが、間違いなく、エコノミックインパクトや経済的な成功、仕事としての楽しみもあると思います。
飲食や医療をはじめとして、いろんな難しい状況にある人がいることは十分に理解しているつもりなんですが、大きな変化をポジティブな機会と捉えて、自ら仕掛けていくことをやっていただけると、より豊かな仕事人生になるんじゃないかなと思います。
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