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SESSION 1 News ほんとうに欲しい情報はなにか?(全3記事)

“ヤバいグルメ番組”プロデューサーが語る、わかりやすさ至上主義の深い問題

2019年9月15日、「trialog summit 2019 Alt.Rules」が開催されました。世の中には、物事を円滑に進めるためのいろいろな「決まりごと=ルール」があります。時代に合わないルールをただアップデートするのではなく、「そもそも、そこにルールって必要なんだっけ?」と問うことに着目し、「情報・見た目・会社・アイデンティティ」の4つのキーワードから、ほんとうに欲しい社会や生き方について考えるイベントです。本パートでは、テレビ業界の課題や、『ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート』制作の裏側について語りました。

“体感”を編集して作るテレビ番組

上出遼平氏(以下、上出):やっぱり紙はすごくいいですよね。僕がなんとなく感じていることは、結局デジタルでは全部が言語化されて説明可能になっていて。それがものすごい速度で進んでいる気がして、どんどん肉体を忘れている感じがあるんですよ。電子書籍もすべて言語オンリーのものになっていく。

書籍だったら装丁があって、紙質があって、もうちょっと五感の余地がある。作り手から五感でメッセージを伝えてもらえる要素があるというのは、むしろメディアとしてはものすごくパワフルだと思って。テレビではほとんどそんなことは不可能なんですよ。

僕としては、僕がロケをした感覚で番組を編集することをかなり意識的にやっているんですよ。わかりづらい瞬間とか、早すぎる瞬間とか長すぎるカットがいっぱいあるんですけど、それは僕が現場でそういうふうに時間を感じたということなんです。

平山潤氏(以下、平山):体感を編集しているという。

上出:体感を。編集はめっちゃ早いです。普通の編集はものすごく頭を使って「これをこうしてここで説明して」とやるんですけど、僕は「こんな感じだったな」でバンっとやるので、すごく簡単なんです。でも、そっちのほうが、今はもしかしたら需要があるんじゃないかなと思っていて。

haru. 氏(以下、haru.):物が持つパワーはやっぱり大きいですよね。

上出:あると思います。

わかりやすいものしか作れなくなっているテレビの深い問題

平山:テレビをやっていると、そこは悶々とするところだったりするんですか? そこは本質じゃないというところで。

上出:そうですね。すべてがわかりやすくなっていく。〇×、白黒、つまりデジタルという解釈でしかなくなってくるんですよ。俺がテレビで一番気に食わないのは、僕らディレクターはVTRを作って、偉いおじさんに見てもらったりするんですよ。そのときに、おじさんたちがなにを言うかというと、「ここわかりづらいよね」と。

haru.:うわあ。

上出:それしか言わないんですよ。つまり視聴者はアホやと。だから、この偉いおじさんはアホ、つまり視聴者になっていますよと、だから正しいですと。「私、今視聴者のふりをしているんでわかりづらい」「これは正義です」ということしか言わないんです。おもしろい・おもしろくないとかではなくて。それはつまり、視聴者をリスペクトしていなくて。

簡単なもの、わかりやすいものだけを作って届けることになっているのが、一番悶々としていますね。お互いに下げあっているイメージ。だから、そのおじさんに「おもしろいものを作ってよ」と言っても、もう作れないと思うんですよ。わかりやすいもの以外は。というのが今のテレビが置かれている、実はものすごく深い問題だと思いますね。

平山:そういうことか。

haru.:美術もけっこうそうでした、学校も。

上出:そうですか。お客さま至上主義みたいになっている。

平山:自分のやりたいことであるけども、やっぱりお客さんとなると、なんか持ち上げているような感じなんですね。でも、視聴者とか、読者のことは絶対に考えて作ってはいるわけですよね。

上出:完全に考えた上で、リスペクトして作るということですかね。それが呼応していないという。俺は「絶対に俺より賢い人が100万人見てるな」と思って作っていますね。それはかなり大事なことになってくると思います。

作り手が顔を隠す番組は、コンテンツとして信用できない

平山:でもやっぱり、自分の好きというか、行きたいところとか、そういうことも考えながらやっているんですか?

上出:自分は、現場でロケをするディレクターのモチベーションとか好奇心がないと、絶対に作れないです。台本も一行もないですし、自分の好奇心だけをエンジンにカメラを回していくので。でも、それぐらいじゃないと、テレビはもう熱量みたいなものを伝えられないんじゃないかな。

「俺はもう一歩踏み出すんだ」ということを、パーソナルな人間としてテレビの前に見せていく。そういった作り手の顔を隠していくような番組はもう、コンテンツとしてあまり信頼できないし。

平山:テレビもより近い作り方というか、視聴者と近い作り方になっていっているような感じですか?

上出:どういうことですか?

平山:テレビももっと視聴者にとって共感をしやすいような作り方になっているというか。

上出:もしかしたらしづらいかもしれない。簡単にはわからないことかもしれないです。

平山:なんかあと5分と出ちゃったんですけど(笑)。

haru.:えっ、早!

平山:意外と早かったというか。でも、質問もあるんだよね(笑)。じゃあ会場から質問があれば、何問か手を挙げていただけると。

haru.:こういうときは、質問がないよね。

平山:難しいよね。Twitterで来ているかな? はい、ありがとうございます。

上出:もともと30歳以下限定と伺っていましたけど、けっこう人生の先輩っぽい方もいらっしゃって。

haru.:そうですね。30歳以下限定のチケット枠みたいなのはありました。

上出:枠があるだけだ。

haru.:枠があるだけだと思いますよ。

上出:ナメてかかってたんですけど、ちょっとそうもいかなそうだなという。

haru.:(笑)。

(会場挙手)

平山:なんか来てる。

haru.:手を挙げていらっしゃっる方が。

平山:お願いします。3問ぐらいでも、上出さんの内容もありますし。じゃあ真ん中の人。

食事や喫煙所で生まれる安心感

質問者1:ありがとうございました。1つお聞きしたいのが、スーパーハード……。

上出:ハイパー(『ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート』)です。

質問者1:ぜんぜん覚えられなくてすみません。

上出:ぜんぜん大丈夫です。僕のせいです。

質問者1:番組名は覚えられないんですけど、ずっと見ています。

上出:ありがとうございます。

質問者1:お聞きしたいんですけど、今の時代の中で薄っぺらい言葉による安心感とかを得ようとしていることがすごく多いなと思っていて。「クリエイティブ」でもなんでもいいんですけど、そういう属性で「俺たち仲間だよね」みたいなのは、たぶんフェイクだと思っていて。

例えば食べるという行為だったり、違う形で言うと喫煙所とかもそうだと思っていて、タバコを吸っているときは隣の人が絶対に攻撃してこないだろう、みたいな安心感がある。

そういう行為に基づく安心感は、実はすごく大事なんじゃないかと思って。わかり合えないからこそ、行為に基づいた無条件の信頼を探っていくという旅はすごく大事なんじゃないかなと思っているんです。

ディレクターさんは取材をする中で、食べるという行為があって、かつその行為がすごく多様で、いろんなバックグラウンドが出てしまう。食べるというのは「いろんなバックグラウンドを持ちましょうね」じゃなくて、「いろんなバックグラウンドが出てしまう」ような行為なんだと、番組を見て感じました。

質問になるんですけど、その取材を通して食べる以外にも似たような行為というか、特性を持つ行為はありましたか? 例えばそういうバックグラウンドが出てしまう、かつ誰もが取ってしまうような行動があるのかをお聞きしたいです。

握手は同じ釜の飯を食うことに似ている

上出:それが見つかったら次の番組をやっているかもしれないですね。今のところ、生きるのに不可欠であってすべての仕事、ありとあらゆるものがその瞬間につながっているようなものは、僕は今の時点では食しか見つかっていないんです。

ただ、これを共にやることで、その人の心がちょっと開かれるかもしれないようなことに関しては、僕は握手がものすごく大事だと思っていて。僕、取材するときにまずは握手をするんですよ。触れるというのは、けっこう大きな意味を持っているなと思って。

例えば、アフリカで1回も取材を受けてくれなかった警察まわりの人たちが、賄賂ではなく握手を経て、取材を受けてくれるようになるとか。これは同じ釜の飯を食うのと似ていて、何かを共有することなんです。僕より20~30歳年上のドキュメンタリー作家の人が、「それ(握手)は金を交換する作業だ」みたいなことを言っていました。

「お互いが持っている金をシェアすることで心を開かせる」みたいなことも言っていて。でも、そういうことはきっとあるんだと思います。ちょっとバックグラウンドが出てくるかどうかは難しいですね。もしかしたら、眠る瞬間とかはあるかもしれないです。

情報が揃えば揃うほど疑う視点が持てる

平山:ありがとうございます。Twitterから来ている質問が1つ。「日本の場合は情報過多、例えば世界の難民キャンプでは情報が少なすぎて、その情報を疑うことすらできないという話がありました。その中で、多くても少なくても問題が起きるけど、適切に発信するためにはどうすればいいのか」。

これは発信者側の質問でしょうか。適切な質と量みたいなものをどう見極めるのか、みたいな質問かな。

上出:難しいですね。

平山:超難しいけど、そこはどうなんでしょうか?

上出:適切な量というのが、情報が多すぎて困ることがあるのか。俺は多ければ多いほどいいのかなとも思うんですよ。ただ……。

haru. :そこから選べる。

上出:うん。選べることが大事なのと、揃えば揃うほど疑う視点を持てると思うんですよ。その出し方という意味では、効果的に必要なことを伝えようとしたときに、絶対に編集作業が入っちゃうと思うんですよ。

「世の中で起こっていることをすべてお伝えします」となったら、当たり前ですけど、24時間では絶対1日分には足りなくなります。だから結局、取捨選択して届けることになるんです。

でも、それをやりすぎると偏りますよね。そこに真実じゃないことは絶対に紛れ込んでくるし、発信者側の主観の濃度が上がってくる。それはたぶん、あらゆるメディアがずっと探っているところかなと思います。

求めている情報を渡すのか、必要な情報を渡すのか

平山:そこの編集者のフィルターみたいなものが。

上出:そうですね。そこが腕なのかもしれないんですけど。

平山:そこは腕だし、なければないで味気ない。

上出:それがなかったらもう伝えられないというか。起こっていることのすべてを伝えるとしたら、そこに暮らしている人のすべてを見せないといけないとか、そんなことは不可能ですよね。それは相当難しい。

そのチョイスをする編集のときに、求めている情報を渡そうとするのか、この人にとってはこれが必要だという情報を選ぶのか、そういうことでも大分変わってくると思います。

平山:はい。あと1分と出たので……。

haru.:さっきからあと1分だったね。

上出:(時間が)押しているということですね。

平山:はい。こんな感じでいろいろ話したわけですけど、「ほんとうに欲しい情報」というのは、なにか見えてきたのかな?(笑)。

haru.:40分って短いんだね。

上出:しゃべりすぎたかな?

平山:ちょっと時間が。

上出:申し訳ない。

haru.:握手の話、よかったですよ。

上出:よかったですか?

平山:はい。ありがとうございました。

haru.:ありがとうございました。

平山:これでセッションは終わろうと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

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