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SESSION 1 News ほんとうに欲しい情報はなにか?(全3記事)

世界中で起きている「これが真実だ」を信じてしまう現象 人が根拠なき噂に振り回される理由

2019年9月15日、「trialog summit 2019 Alt.Rules」が開催されました。世の中には、物事を円滑に進めるためのいろいろな「決まりごと=ルール」があります。時代に合わないルールをただアップデートするのではなく、「そもそも、そこにルールって必要なんだっけ?」と問うことに着目し、「情報・見た目・会社・アイデンティティ」の4つのキーワードから、ほんとうに欲しい社会や生き方について考えるイベントです。本パートでは、「ほんとうに欲しい情報はなにか?」と題し、メディアの新しい使命について意見を交わしました。

ほんとうに欲しい情報は何か?

平山潤氏(以下、平山):じゃあ、やりますか。よろしくお願いします。今回モデレーターをやる『NEUT Magazine(ニュートマガジン)』というWebマガジンの編集長の平山潤です。よろしくお願いします。

(会場拍手)

今日はゲストをお二人招いていて、『HIGH(er)magazine(ハイアーマガジン)』のharu.と、ハイパーハードボイルドグルメレポートディレクターの上出さんです。よろしくお願いします。

上出遼平氏(以下、上出):お願いします。

haru. 氏(以下、haru.):よろしくお願いします。

平山:今日はTwitterと連動したりストリーミングをしたりしていて、時間は50分あるんですけど最後の10分に質問のコーナーを設けます。会場の中でも#trialogをつけてもらって質問をツイートしてもらえればスタッフが回収するので、いろいろ質問を考えながら聞いてもらえればと思っています。よろしくお願いします。

知らない人もいると思うので、最初にちょっとだけそれぞれの自己紹介から始めようかと思います。ではharu.から。

『HIGH(er)magazine』編集長とテレ東ディレクターが登壇

haru.:はじめましてharu.です。私はインディペンデントマガジンの『HIGH(er)magazine』というものを作っていて、内容的には、私の身の回りに起きていることなど、日常レベルの問題をみんなで考えていきましょうみたいなマガジンです。大学に入学したときに始めたので、2015年から今までで第5号まで出ています。

衣装を自分たちで作ったりとか、映画とか、政治とか、本当に身の回りのことを取り上げていて、ファッションも政治も同じ目線で考えようということを発信しているマガジンです。

平山:はい。ありがとうございます。上出さんお願いします。

上出:上出遼平です。僕は一応テレビ東京の会社員で、たぶんここにいらっしゃる人からはディスの対象になりがちなところにいます(笑)。

haru.:(笑)。

平山:なんでですか?

上出:だって、みなさんの嫌いなテレビですよ(笑)。ちなみに僕は『ハイパーハードボイルドグルメリポート』という番組を自分で企画して、自分でロケして、自分で編集して放送するという、手工芸的な番組を作っております。

番組はかなり馬鹿っぽい名前で、たぶん見たことがある方はほとんどいないと思うんですけど、Netflix、Amazon、Huluで見られるのでぜひチェックしてほしいです。世界のやばい人たちに「ご飯見せてよ」と言いに行く番組で。

平山:グルメ番組ですね。

上出:グルメ番組です。一応グルメ番組と言ってはいるんですけど、そのやばい人というのがアフリカの少年兵とか、ロスのギャングとか、台湾マフィアとか、難民の子たちとか。そういう普通の人が入り込めないところに「飯見せてよ」というキーワードで入っていって、その人となりや問題を浮き彫りにしていこうという番組です。

平山:僕は大好きです。

上出:本当ですか?

平山:昨日も見返しました(笑)。

上出:昨日が初めてじゃない?

平山:昨日が初めてじゃないです。ちゃんと何回か見てます。

上出:本当、ありがとうございます。

情報の受け手がどう考えるのかに着目

平山:僕はWebマガジンの『NEUT』をやっているんですけど、みんなそれぞれのアウトプットというか、自分の番組や自分の雑誌などの媒体を持っていて。けっこうざっくりしていますが、今回は「欲しい情報」というのがテーマです。

友達に「欲しい情報は何?」と聞いても、生活に一番近い必要な情報として出てくるのは天気予報とか交通の情報とか災害情報とか、そういういうのかなと思っていて。

日本で生きているとライフライン的な情報、一番必要な情報はやっぱり天気や電車の情報だと思うんです。その生活に必要な情報というものを僕らで考えて解釈して、僕らなりの視点を入れながら3人で作っていて。

その中で必要な情報というのは簡単な天気とかじゃなくて、Netflixの番組やネット番組、インディペンデントの雑誌、僕らみたいなWebマガジンとか。それが生活にどういうタイミングで入ってくるか、受け手のことを考えないといけないなと思っています。

その人たちの生活の中で必要な情報にしなきゃいけないというか、受け手がどう考えるのかをけっこう考えてやっています。時間も40分ぐらいしかないので、お二人とはいろいろ踏み込んだ話をしたいと思っていて。

マガジンを作ることは人とつながるためのツール

平山:お二人は、受け手に「その情報以外に受け取って欲しいもの」などを考えて作ったりしていますか? 受け手に何を感じて欲しくて番組や雑誌を作っていますか? という質問です。じゃあharu.から。

haru.:私の場合は、そもそも情報発信をしているという感覚じゃないんですよ。最初にZINEを作りはじめたのが高校生のときで、そのとき私はドイツに住んでいたんです。

3.11のときにドイツの祖父母のところに移住して、私は直接災害で大変だったわけではないんですけど、母親が「日本はもう終わっちゃうかもしれないから逃げなさい」と言って。それで移住して、そのときにはじめて外部の人として生きていく感じになって。

(日本を出て)外国人として生活していく中で、「自分ってなんだろう?」みたいなことを考えて、相手に自分を知ってもらうためのツールとしてZINEを作りはじめて。だからものすごくパーソナルなところから「作る」ということが始まっていて。

最初は自分をわかってもらうためだったんですけど、作っていくうちに、だんだんそれが人とつながるためのツールになることに気づいて。マガジンを作ることで私が世界とつながる。その誰かの視点を通して世界を見るためのものだから、けっこう私のためというか。

平山:自分のために。

『HIGH(er)magazine』は生き方の見本帳

haru.:自分のためのものという感覚がすごく大きいです。でも、人生の中でなにか葛藤したこと、死に直面したり、災害に直面したり、あと人の人生の話を聞くみたいなことは私だけのものじゃないというか。

だから、『HIGH(er)magazine』では、どの人にとっても普遍的なテーマを扱っています。それを見てくれた人が、生きていく上で背中を押されるというか、少し人生が楽になることがあればいいなと思っていて。

日本では「こういうふうでなきゃいけないんだ」というのが強いですよね。ルールとか。そういうなものが強くある中で、「こういう考え方もある」「こんなふうに生きていいんだ」みたいなものがちょっとでも見せられたらいいなと思って作っています。

平山:自分で情報を発信している感覚というよりは、自分で興味があるものとか。

haru.:情報発信というよりは、生き方の見本帳というか(笑)。そのとき私がいるところで、私が見て「素敵だな」「この人のことをもっと世界に知ってもらいたい」みたいな人のタイムカプセルじゃないけど、その人がただそこに存在していることを祝福するためのもの。そういうものがあってもいいんじゃないかなと思って。

平山:それを紙に落とし込んでいるということだよね。ありがとうございます。じゃあ上出さん。

日本では「幸せ」が定型化されてしまっている

上出:言うべきことがいくつかあると思っているんですけど、今おっしゃっていた「欲しい情報」と「みんなが必要とする情報」は違うというのが1つあると思うんです。それは1回置いておいて、伝えたいことやメッセージという意味で言うと、僕もけっこう近いところがあると思うんです。人間礼賛じゃないですけど。

僕が行っている場所のような、過酷な状況で暮らしている人たちのメシの瞬間に立ち会うことでなにがわかるかというと、それは彼らの幸せの見つけ方や強さ、生きる工夫なんです。変な言い方をすると、僕らから見たら地を這うような生き方をしている人たちの美しさみたいなもの。僕は間違いなくそれを発見しているので、それを伝えたいなと思って。

日本ではみんな「こうじゃなければいけない」「これが幸せだ」というものがあまりにも簡略化して、定型化して、言語化されているのが不思議だなぁと思っていて。「もっといろんな幸せがあるのにな」というのをテレビで伝えたいんです。そこでちょっと脱言語というか、もっと肉体的・感覚的に感じられるものを届けたいなと思ったのが1つあって。

一番恐ろしいのは「知らない」ということを知らないこと

上出:ここの違いの意味で言うと、僕はやっぱりマスメディアにいるので、いろんな義務とかがあって、けっこう情報発信に対する意識があるんですよ。

僕は「『知らない』ということを知らない」ことが一番恐ろしいと思っていて。これはさっき平山さんがおっしゃっていた「知りたい情報は何?」「天気のことぐらいかな」というのも、ちょっと象徴しているような気がしています。これは「天気ぐらいにしか自分が知らないことがないと思っている」ということの、1つの側面でもあると思うんですよね。

僕は昨日ギリシャから帰ってきたんですけど、そこではアフガニスタン、イラク、シリアから、難民が海をゴムボートで越えて、転覆して死んでしまったりもしながら到着しているんですよ。ギリシャがEUの玄関口になっているので。彼らとしゃべっていてよく思うのが、彼らは情報1つの取り方が本当に命に関わる人たちだなということです。

彼らはテレビを持っていないし、自分の携帯電話でたまにつながるインターネットでチョイスする情報で、どのルートで行くか、どの海峡を越えるか、どのブローカーに頼むかを決めるんです。このブローカーが1人1,000ドルと言っているのは適正かどうかとか、そういう命に直結することの全部をそのときの情報の中からチョイスしていく。

人々が根も葉もない噂を信じてしまう理由

上出:そこで僕は情報の大切さを感じて。それは僕らとはもうぜんぜん違う、相対的なものだなと思ったんですけど、さらに思ったのが、難民キャンプでは1つの噂が広まると、一気に広まるんですよ。

例えば、今のギリシャの難民キャンプでは「ギリシャが儲かるために難民を受け入れている」という話をしているんですよ。「1人に対してEUが500ドルを渡している」「なのに俺たちは90ドルしかもらっていない」みたいな。

平山:それは噂ですよね?

上出:噂です。そういう噂が大量にあるんです。あともう1つ言うと、リベリア共和国というアフリカの国で、エボラ出血熱が大流行しています。大勢の方が亡くなったんですが、感染症なので隔離しないといけないんですよね。

だけどその村では「エボラは陰謀だ」「西洋が持ってきた陰謀だ」と。「そんなものはない」と言って、病院を襲撃して隔離された人を連れ出してくるんですよ。

そこの医療従事者が怪我をしたりしたんですけど、その村の人たちの疑いは正しい意味の疑いではなくて、噂を信じ切っているための疑いなんですよ。なんでそんなことが起こるかというと、やっぱり疑うための基礎情報みたいなものがあまりにも揃っていないからなんです。

突然出てきた「これが真実だ」というものを完全に信じてしまうことが、今世界中で起こっていて。僕らの役割はそれを減らすことかなと思っていて、「こんな世界があるよ」「こんなパターンがありうるよ」ということを、きっかけだけでもみんなに知ってもらわないといけないんじゃないかなと。めっちゃ長いですけど(笑)。

平山:ぜんぜんいいです。

上出:それを伝えるために、僕がさっき言ったような人間礼賛の物語を、半ばツールとして使っているような部分が僕の中にはあります。グルメ料理もツールにしていますし。

そのまま「こんな世界ありまっせ」と言っても誰も興味がないような、知りたくない情報。そんな汚い情報をエンターテインメントの形にパッケージングして、みんなに楽しんでもらいながら知ってもらうことを僕は試みているんです。

平山:おもしろいです。

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