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AUTHOR'S TALK #05「産業医が見る過労自殺企業の内側」(全7記事)

「労働時間削減は現場が判断しないと失敗する」 働き方改革で生じた“残業の不透明化”を解決するヒント

「働き方改革」のヒントは産業医が握っている? BOOK LAB TOKYOの「BOOK LAB AUTHOR'S TALK」で、30社以上で産業医を務める大室正志氏によるトークイベント「産業医が見る過労自殺企業の内側」が開催されました。そもそも産業医の成り立ちや立ち位置は? 産業医から見た「社員に負担をかけ、自殺に追い込みかねない会社の構造」とはなにか。『産業医が見る過労自殺企業の内側』を出版した大室氏が産業医の立場から、企業に共通する構造や問題点を赤裸々に語りました。

時間だけの縛りはナンセンスである

西村創一朗氏(以下、西村):このあとは質疑をとる時間にしますが、最後に1つだけお聞きしたいことがあります。

先ほどお話しした中で、ハードはガラッと変えることが簡単でも、ソフト、文化、カルチャーを変えるのはすごく時間がかかるというお話があったと思います。

では、電通を含めて日本企業は本当に変われるのか。過労自殺が起きないような企業体制に変われるのかということを、ぜひ大室さんにお聞きしたいなと思っています。

大室正志氏(以下、大室):これは「卵が先かニワトリが先か」で、今回については、(勤務)時間だけで縛るということはナンセンスだという考えの方もいらっしゃいますよね。これはどちらからもってくるかなのですが、でも逆に、時間を先に縛ってしまう。

そうなると、例えば、今までであれば2時間できた会議が40分しかできないといえば、なにか決めなければいけないことがあればアジェンダを作るじゃないですか。2時間もあるとなにが起こるかというとですね、日本では空気読みをして、最初の40分はけっこう黙っていることが多いのですよ。

そして、後半になって職位の高い誰かがチャッチャッチャといって、それで最後に決まる。だったら最初からその人が決めればいいし、もし会議をするならちゃんとみんなも発言すべきです。

だからまず1つは時間を縛ることによって、やらなきゃ困ることを見極める。

西村:はい。

流動性が高い時代だからこそ言語化を

大室:ただ、1つ今回、時間を縛られるということがある程度出てきたので、次の問題は、言語化だと思うのです。例えば、今までは30年間、同じ人と顔を合わせる村社会においては、あまり最初からベラベラと自分の主張をする人間というのは、ちょっとイタイわけですよ。

しかしプロジェクト型といって、例えばIBMから何人、こっちから何人、こっちから何人と入ってきて、1年くらい一緒のプロジェクトをやることになれば、自分の思っていることなんか言わないとわかってくれないんですよ。

だから、ちゃんと自分の主張を伝えるというように言語化していかなければいけない。

でも、先ほど言ったようにカルチャーは変わっていないので、多くの方は人前で自分の考えを主張することを「はしたないこと」だと思っている。でも、やっぱりわかってほしい。

そうなると、気持ちを抱え込みすぎてしまう。一見するとすごく……なんというかな。外面は控え目に見えるのですが、その実、心の中では「なんで上司はわかってくれないのだろう」とうらみがましい気持ちになってしまう。こんなパターンがよくあるんですよね。

世の中はプロジェクト型に変わってきている。流動性が激しくなっているので、転職も当たり前です。上司とずっと……北島三郎と山本譲二みたいにずっと一緒にいるわけじゃない。例がわかりにくいですか?(笑)。

西村:(笑)。

大室:最近だと誰もいないですよ。流動性が高い世の中になってくると、ずーっと同じということはないわけですね。そうなってくると、やっぱりわかってくれないのですよ、上司は。(自分から)言わないと。

上司と部下の間に挟まる「わからない」

あとはプラスアルファで、最近では5年前には「なかった仕事」をしている人がめずらしくありません。

デジタルコンテンツなんとか事業部とかになると、上司は上司ぶっています。しかし、これまではなかった仕事ですからね。上司だからといって管理できるわけではありません。そのときに、コミュニケーションをちゃんとしていかないとやっぱり自分1人で抱え込んでしまう。

昔なら「あいつは今大変だな」ということがわかるのですよね。上司も昔経験したことなら。でも、今の上司にとって、今管理している業務は昔は「なかった仕事」なので、それがわからないのです。人間はやったことがないことについては想像力が及びませんから。

今回の電通の高橋まつりさんはデジタル系のお仕事をされていました。

西村:まさにそこですよね。

大室:やっぱり、上司も彼女にどのくらいの負担がかかっているかということがわからなかった。性別が違う。なおかつ自分もしたことがない仕事です。一番想像力が行き届きにくい分野だったのではないか。いろんな不幸が重なったのではないかなと思います。

西村:そうした意味で言うと、上司の、マネジメントをする側の想像力を鍛える。マネジメント力を鍛えるようなところが非常に大事だなと思います。その部分に関しては、半年から1年弱くらいで変わりつつあるのでしょうか?

大室:1つはですね、ここ最近、僕が行っている会社の中で、上司のみなさんが大変気を遣われるようになった気がしますね。「これだとパワハラだと言われますかね?」など。非常に気を遣っていて、ぎこちないです。

“セクハラ”を腹落ちさせた田嶋陽子の功績

大室:ぎこちなくとも気は遣われるようになったし、このセクハラという言葉が15年……20年くらいかな。この言葉が流行ったときに、僕の世代などはですね、セクハラという言葉を聞いたときに、最初に思い出す人といえば、どうですか? 女性で……「TVタックル」を見ていましたか? 田嶋陽子さんという方がいませんでした?

(会場笑)

田嶋さんは正直、フェミニストをカルチャーにしたような存在でして、ある種、上野千鶴子さんのような本流なフェミニストから見ると、ちょっと苦笑いみたいなところがあるのでしょうが。

ただね、一方であの方の功績は、人間は頭で理解しただけだとぎこちないんです。だから、このようにセクハラはこういうもので、フェミニズムとはこういうもので、頭で理解するより腹落ちに時間がかかるりますよね。

西村:そうですよね。

大室:あの方のすごいところは、なんとなく腹落ちというか動物的な感覚に調教したのですよね。

西村:調教?(笑)。

大室:「TVタックル」の中で、ちょっとそれは女性蔑視じゃないかといった空気になると、大竹まこととビートたけしがすごい顔をして「お前はなんてことを言うんだ田嶋さんに。怒られるぞっ」と言うのです。あれがいわゆる腹落ちですよね。

フェミニズムが身体化したと言い換えてもいい。つまり「ヤバッ!」という感覚ですよね。頭でわかっているというよりも、身体が気付くという。

西村:動物的な感覚ですね。

大室:これで言うと、これはパワハラであるとか、マネージャーが部下に対してのパワハラの線引きの理解度は、今、頭でようやく理解したもので腹落ちまでもう少しかかってるかなというイメージです。

西村:わかりました。なので、時間の問題というか、もう少しすれば理解から納得に変わって、実際にぎこちなくないちゃんとしたいい配慮ができるのではないかということですね。ありがとうございます。

働き方改革で「残業の不透明化」が生じている

西村:では、残り30分弱にはなりますが、ぜひこれは聞きたいというご質問があればですね、手を上げて聞いていただければと思います。ご質問がある方はいらっしゃいますか?

(会場挙手)

では、どうぞ。マイク使いますか? はい。

質問者1:本日は貴重なお話をありがとうございます。先ほど西村さんがけっこうぶっちゃけたお話をされていたので、僕もせっかくなのでオフレコという形でぶっちゃけた話をさせていただくと。過労自殺企業という話がありましたが、僕もまさにそうした企業にいます。

(会場どよめき)

大室:そんなイメージはありませんね。

質問者1:毎年のように自殺者が出る会社なのですが、その中で今回「時間」というところを縛るに至った関係でかなり会社の中でひずみが発生しています。今までそうした標準を超えた100時間、150時間などの勤務をすることが普通だったところで、時間をしっかり縛りにいったところで無理な気がしていて。

表面上はすごく整えている。その一方で会社からいろんなものを持ち出して家で仕事をするなど。そうしたところがものすごく活発化してきてしまって、より悪化してきているなと最近感じています。

そのような中で、先ほども管理職の方が少しずつ意識が変わってきたということでしたが、会社において中の人間や若手がどのような行動をとっていけば変わっていくのか。その考えなどがもしあればおうかがいしたいと思っています。

本当のコスト削減を判断できるのは現場だけ

大室:やっぱり、「今までその時間でやっていたことを急に少なくしよう」といってもたぶん無理じゃないですか。業務フローをいちいち全部やったり、上の階層になればなるほど細かいフローは見えなくなるわけですよね。

例えばですけども、うちには奥さんがいて、今、子どもがいるので専業主婦なのですが。僕が1人暮らしのときよりも、こんなことを言うとあれですが、今、洗濯物が溜まっているのですよね(笑)。

(会場笑)

ぶっちゃければ、正直、洗濯は奥さんにやってもらっているのですよ。でもそうすると、なぜか僕がやっている頃より遅いんですよね。

どうして遅いかというと、あまりこうしたことを言うと怒られますが(笑)。僕はすごく雑に、入れたら洗濯と乾燥をセットでボタン1つでやってしまう。雑だけど早いんです。

一方の奥さんにとってどうやら洗濯というのは、お風呂場にですね、靴下を1本1本こうやって干さないと許せないのですね。僕のは「(その工程はもう)いいからそれ(笑)」「乾燥機でもいいから」と言っても、ぜったいに譲らないのですよ。「ダメ」だと言って。「いや、これはこうやってやるものなの」と。

たぶん、これを「洗濯は、乾燥機でいいよ」と言うのは、本来は上司の役割ですよね。仮に自分の靴下が5,000円であれば、このように干すといいかもしれませんが、どうせ3足いくらの自分の安い靴下なんて、乾燥機に入れてもたいして変わらないですよね。

それによって100回が95回しか使えなくなっても、手間もコストと考えると、買った方がおそらくコスト的にも安いだろう。これを決めるのは上司です。けれども、僕は残念ながら奥さんの上司ではないので、いつまでたってもそのフローは改善してもらえないのですが(笑)。

(会場笑)

要するに、いつもやっている手法をとっているのは、「これは乾燥機でもよくね?」とわかるのは現場だけなのですよ。

現場で考え、現場の意見を集約し、上司が承認する

大室:だから、今現在で成功している会社というのは、もう時間は少なくしています。その代わり、どこを減らせるかを現場で考えて、現場の意見を上司が承認するというやり方をしています。実はユニクロなどもそうです。その現場で考えて、自分たちがなにを減らせばいいかということを見極めている。

現場で考えさせて、その現場の意見を集約して、上長が承認するというプロセスをちゃんととっている会社じゃないと実現できない。単に「(労働時間を)減らせ」といえば、その分、闇に埋もれますね。そうしたイメージがあります。

一方で、その洗濯作業すべてを外注しようという抜本解決はトップダウンからでないと生まれにくい。だからボトムアップ型のPDCA。トップダウン型の抜本案の両面からの検討は本来は大事なと思います。

質問者1:そうした制度的なもの、制度やそうした意見も「わかっているのか?」と投げられるように、そうしたムードを作っていくようなことが大事で……。

大室:でも、それはもうあきらかに最初から当たり前ですよね。普通に考えればわかります。

今までと同じ仕事にかかる時間を少なくするなんて無理じゃないですか。その無理という諦めからスタートしている。だから、そのように「業務フローの改善をしようと思っています」とまず上から声を上げて、そして若手に聞いて、そこでもう一回承認するというやり方じゃないですかね。

結局、どうして仕事が増えてしまうかといえば、例えば今まで洗濯物を洗濯ばさみに干すと決まっていたことを、関係ないからといって乾燥機をかけるように、自分や若手が勝手に判断して変えられないじゃないですか。

質問者1:はい。

大室:そのケツ持ちしてくれるのは上司だったりする。なので、それも上司の役割じゃないかなと思います。

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