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AUTHOR'S TALK #05「産業医が見る過労自殺企業の内側」(全7記事)

「軍医がはじまりだった」 働き方改革で注目される産業医の歴史とは?

「働き方改革」のヒントは産業医が握っている? BOOK LAB TOKYOの「BOOK LAB AUTHOR'S TALK」で、30社以上で産業医を務める大室正志氏によるトークイベント「産業医が見る過労自殺企業の内側」が開催されました。そもそも産業医の成り立ちや立ち位置は? 産業医から見た「社員に負担をかけ、自殺に追い込みかねない会社の構造」とはなにか。『産業医が見る過労自殺企業の内側』を出版した大室氏が産業医の立場から、企業に共通する構造や問題点を赤裸々に語りました。

日本に3つしかない産業医大

大室正志氏(以下、大室):おはようございます。

観客:おはようございます。

大室:大室と言います。根っからの夜型でして、ふだんはかなり寝るのが遅いのですね。

(会場笑)

小学校1年生くらいのときには22時を超えても寝なくて、親に怒られていました。「大晦日の日だけは起きていていいよ」と言っても、僕のいとこたちはみんな寝るのですが、1人だけ1時くらいまで目が輝いていたものです。

人類の10数パーセントは夜型にできているという説があります。私見ですが、人類も、みんなが同じ時間に動いていると、もしも隕石が落ちてきたりなど、なにかあった場合に絶滅してしまうリスクが上がりますから。やっぱり多少は、一応昼型の動物とは言いながらも、ちょっとずつ時間がずれるようにできているのですね。たぶん(私は)夜型です。

(会場笑)

昨日はちょっと焦りました。「大丈夫かな、起きれるかな」と。まぁ起きれるのですが、無理やり。海外旅行に行ったとき以来ですかね、久しぶりに睡眠薬を飲みました(笑)。そんな話です。ありがとうございます。

最初に僕の自己紹介をしておきます。僕はもともと産業医大という大学を出ました。産業医大というのは、日本に3つだけある目的別医大と言いまして、1つは防衛省がやっている防衛医大。これは昔で言う軍医さんですね。

防衛医大の友達は、親兄弟や妻にも自分の居場所を言ってはいけない場合があるそうで、実はあとから聞くと軍艦でなんとか島にいたなど、そうしたことがあるのですが。防衛省、いわゆる自衛隊の中の医者としてやっていくということですね。

もう1つが自治医大と言いまして、地方自治体に医師を派遣します。自分の県から2人医学部にいけるというものが自治医大というわけです。もう1つが産業医大と言いまして、これは旧労働省、今で言う厚生労働省がやっているドクターです。もともと産業医という職業を養成するためにできたものですね。

産業医の始まりは軍医

大室:というのも、産業医のもともとの始まりは軍医さんだと言われています。森鴎外の頃ですかね。昔は戦時中に、ある人は南の島に行って病気になり、ある人は怪我をしたり、前線でいろんなことが起きるわけですね。

そのときに軍医さんはなにを見るのかというと、まずは治療をするというのはもちろんなのですが、一番重要なのは「この人はこのまま前線に留まってもいいのか」「それとも、もう帰るべきなのか。まだ戦えるのか」。これを見るのがいわゆる軍医さんであります。

この軍医さんのコンセプトは簡単に言うと、まだ働けるかどうかを見ているわけですよ。そういう意味では、今の産業医にも半分通じる部分がある。

そんな軍医さんなのですが、戦争が終わるとみんな海外から帰ってきます。その頃になにが起きているかというと、日本では非常に結核という病気が流行っていました。結核という病気は工場の中や人口密度が高いところで蔓延しやすいのですね。

それを重く見た国は、工場やそういったところにちゃんと衛生がわかる医者を派遣しようということで、軍医さんが今まで似たようなことをしていましたので、けっこう軍医さんが工場に再就職したと言われています。

ただリファンピシンという薬が発明されたころから、結核はかなり治るようになりました。

時代とともに産業医が定着した経緯

大室:結核は治るようになった。では、今度はなにが来るか。水俣病やイタイイタイ病など、今まで人類があまり経験したことがないというか、普通にしていたら遭遇しないような化学物質が原因となる疾患が工場の中やその周辺で起きました。

その頃にいわゆる産業医、環境中毒などそうしたことにくわしい医者を養成しようと言って、いろいろと政治的な動きもあったようです。その中で出来たのが、僕の出身校である産業医大です。

そのときは川崎、境などの工業地域がみんな「うちに大学が欲しいです」と誘致したらしいのですが、結果的に北九州市、八幡製鉄所のすぐ近くのところに産業医大という大学ができました。僕が入った頃にはもう大学ができて20年が経とうとしているところで、すでに公害のようなものはかなり鳴りを潜めていました。もちろんまだ一部あるのですが、ほとんどなくなっていました。

一方で生活習慣病やそういったことがいろいろと問題になってきて、僕が大学に入った途中くらいから今度は急激にうつ病の休職者が増えてきたと言われています。

データ的には1999年からめちゃくちゃ増えています。どうして増えているのかということは諸説あるのですが、一説には日本の産業構造が変わったこと、もう1つは倒産件数がめちゃくちゃ増えたということがなんだかんだ言って一番多いですね。

あと、GSKというイギリスの製薬会社が「うつは心の風邪です」というキャンペーンをやりました。それによって潜在需要が掘り起こされたのではないかなど、いろんなことが言われています。

そんな時代を経て産業医を始めたわけですが、まずは研修病院で臨床をしたあとで、産業医実務研修センターと言う専門の産業医を養成する機関なのですが、そこでちょっと研究をしたり産業医の勉強をしたりなど、そんなことをしていました。

そのあとJohnson&Johnsonという会社で統括産業医の仕事を5年間行った後で、今は医療法人社団同友会と言う、大きな人間ドックのグループの産業医部門に所属しながら約30社の産業医をしているというところです。こんな感じでしょうか。

会社のリスクを専門に勉強するのが産業医

大室:産業医なのですが、法律で決まっています。労働安全衛生法という法律の13条に、50人以上の職場では産業医を置かなければいけない。今現在、会社の中でストレスチェックが行われている職場というのは50人以上ですから、もしそうした会社でしたら産業医はいると思ってください。

「先生は何科ですか?」とよく聞かれるのですが、産業医と言うのは、実は内科、外科、精神科、耳鼻科といった、何科と呼ばれる医者とは別の職業なのです。

いわゆる司法試験に受かった後に、弁護士さんになる人もいれば、検察官になる人もいれば、裁判官になる人もいる。

産業医も同じで、医師免許を取った後に、いわゆる内科外科耳鼻科という白衣を着たお医者さん、これは臨床医と言います。それ以外にも厚生労働省の医系技官は医師の免許を持っていなければできませんし、製薬会社にもメディカルアフェアーズと言って医師の免許がないとできない職業があります。

いわゆる臨床医とは別の職業として、存在しているのが産業医です。臨床医というのは、主に例えば心臓1つとっても内科と外科、循環器内科、心臓外科というかたちで臓器別に内科と外科で分けるというくくり方をします。

一方、産業医の場合は、例えば2009年に新型インフルエンザがメキシコで報告され、「強毒性か? 中毒性か?」という話が報道されました(結局は弱毒性だった)。こんな時、会社内での新型インフルエンザ対応マニュアルを作るのは産業医の仕事です。

また会社の中で生活習慣病をどうするか、メンタルヘルス対策をどうするか、過重労働面談、職場巡視と、いろんなことがあるわけです。

これを臓器別で考えると、精神科かもしれないし、一般内科かもしれないし、呼吸器科かもしれない。臓器で考えると全部別ですよね。ただ、会社におけるリスクという意味では共通しているわけです。この会社におけるリスクといったようにくくって、それを専門に勉強するというのが産業医なのです。

NewsPicksの記事をきっかけに出版へ

大室:今回の出版のいきさつを言うと、昨年の電通事件の少しあとに、僕、たまたまNewsPicksの副編集長とたまたま別件でメッセージのやり取りをしていたのですね。そこで「今回の事件のことってさ……、久しぶりにちょっと一言物申したくなったね」と送ったら、二言目に「いつ書ける?」とメールが来ていてですね。

(会場笑)

西村創一朗氏(以下、西村):待っていましたと言わんばかりに(笑)。

大室:いつ書けると聞いた日に「明後日に出したいから」と。いやいや、無理でしょ。

(会場笑)

「じゃあ、今日ちょっと一瞬、夜、編集部来ようか?」などと言って編集部でいきなり書かされて、「どうしてそんなに急ぐの?」と言ったら「いや、土曜日になるとPV下がるから金曜日中に出したいんだよね」などと言って。だから急いで書きました。

西村:(笑)。

大室:ブラック企業を批判している場合じゃないだろうという話になりまして。

(会場笑)

西村:さとるみ(佐藤留美)さん?(笑)。

大室:はい。さとるみさんです。まぁ、シャシャッとすぐに書いて、そうすると意外といろんなところからリンクを貼っていただけました。実際に何社からか「本を書きませんか?」と言われたのです。結局ご縁がありまして、集英社新書のほうで本を出させていただいたのです。

産業医が見る過労自殺企業の内側 (集英社新書)

これ、タイトルはけっこう堅いのですが、昨今の上司部下関係あるあるなど軽めの話題も含んでいますので、結構読みやすい本になったと思います。。

AKB横山由依との対談に備えてDVDを購入したが?

大室:それ以外にも、共著では何冊か出版はさせてもらっています。以前、中央経済社の『ビジネス法務』という雑誌で、いわゆる企業の法務部向けの雑誌で連載していたものなのですが。

産業医を専門にしている医者4人と弁護士4人でメンタル不調になったときの法的側面や医学的側面など、いろんな側面からどうしようかという内容をまとめた人事向けの本も出しています。

最近では、調子に乗ってAKBのリーダーの方と対談をしたりもしました。一応リーダーということで、組織論を。AKBの……なんて言うのですか? リーダーですね?

対談の1週間くらい前に「AKBのリーダーと対談してください」というメールが来たのですよ。「前田敦子ですか?」と聞いたら、ぜんぜん違う。「前田敦子はリーダーでもなければ、AKBでももうない」と言われて。

(会場笑)

そのあと調べたのですね。高橋みなみという人の本が『リーダー論』。対談する前に一応ね、本を読んでおかなければいけないなと思って、『リーダー論』という本があったので、それを読みました。ただ、今のリーダーは違うと。

(会場笑)

横山由依さん。対談するのですからYouTubeのドキュメントを見ました。「せっかくだから勉強していかなければいけない」「なにか書籍とかあるかな?」とAmazonで調べたら、唯一出てきたのが『ゆいはんの夏休み』というDVDでした。

(会場笑)

「『ゆいはんの夏休み』、4,500円かぁ~」「これ、俺が見ていく意味があるのかな、どうしようかな」などといろいろ考えて。結果的には、ちょっと老後の楽しみにしておこうと。まだ見ていません(笑)。

「働き方改革」で注目されつつある産業医

大室:最近思うのですが、働き方改革という言葉が話題になった頃からかなり取材が増えた印象があります。どうして増えたのかと言うと、「どうやらつながりがありそうだから、産業医にも話を聞いてみようぜ」という人が増えたからではないかと思います。

働き方改革には同一労働同一賃金のような話もあれば、一方で長時間労働の是正はもちろんですが、病気と就業の両立など、比較的産業医にも関わりが深い分野が多いということかと思っています。

あとは、最近ではヘルステック企業が話題ですが、実は昔、15年くらい前にバイオベンチャーが非常に流行ったのです。これは主に新薬を作るベンチャーです。

最近はどちらかと言うと基礎医学のバイオベンチャーというよりは、例えばウェアラブルでかログをとりながら睡眠の質を見よう、頭痛を見よう、そうしたアプリなどと連動させてダイエットをしようなど、産業医がもともと関わっていた分野に近いものが増えています。そうした企業にアドバイスをしながら多少関与したりなど、そのようなお仕事をしています。

こんなことが自己紹介です。今日はよろしくお願いします。

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