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片付けパパ対談【特別編】豊かな人生を過ごすための「投資」&「交渉術」 ~チャンスを逃さず信頼関係も育むコツ~(全3記事)

たった1時間の傾聴で1億円受注できたわけ 崖っぷちの商談で大逆転した「交渉」の技

ビジネスにおいて、チャンスを逃さず行動しつつ、クライアントとの信頼関係を育むにはどうしたらいいのでしょうか。本イベントでは、株式会社ビジネス交渉戦略研究所 代表取締役の生駒正明氏が登壇。本記事では、元商社マンとして1万件以上の交渉を成功させてきた同氏が、崖っぷちの商談で大逆転できた秘訣や、ピンチを乗り切る技をお伝えします。

たった1時間の傾聴で1億円を受注

生駒正明氏(以下、生駒):交渉力を高めると人生が豊かになるんです。でも、「豊かになるんですよ」って(言われても)、「なんかわけわからないな」って思われているでしょう。じゃあ次のページに行きましょう。さっき、信頼関係、ラポールという話がありましたけど。この商社時代に、たった1時間の傾聴で1億円を受注したことがあるんです。

大村信夫氏(以下、大村):それ、時給1億円の男じゃないですか。

生駒:まぁ。

(一同笑)

生駒:そうなんです。私はアパレル部門にいて、男性の現場の作業服を作っていました。そこで、ある企業ではほぼ他社に(取引が)決まりかけていて、(私は)出遅れてしまったんですね。だからなんとかアポを取って、1回行って(先方が)すぐに決めてくれなかったら終わりだというところだった。

(アポの時間が)1時間しかないとなると普通は、自分の強みとか「こういうところがありますけど私だったら大丈夫です」とアピールします。しかし、そこで私は9割、傾聴したんです。その傾聴もただぼーっと聞いていたんじゃなく、さっきみたいに合いの手を入れて、「それは大変でしたね。どういうご苦労がありますか」「どういう部分が改善されたらいいと思われますか」とか。たぶん、いわゆる企業のユニフォームは、追加対応がけっこう大変なんです。

初めは一斉に作るから1人上下3枚ずつとか数がけっこうまとまるんです。それをみんな対応するんですけど、それがいったん終わると1年ぐらい、期中にちょろちょろ追加が来るわけですよ。その時に製品在庫を抱えているとやっぱり損になるから、みんな「やります」って言いながら、やりたがらないんですよ。

商談の8割〜9割は「傾聴」

生駒:そういう状況を知っているので、それプラス、そこを僕が全部言うんじゃなくて「どうなんですか」「あ、そういうこともありますよね、それストレスじゃないんですか。苦労されますよね」とか。そういうかたちで、もう(話の)8割9割が傾聴。

大村:それで受注された。

生駒:そろそろだなという時に、「いや、実はそういう声が多いのでちょっと私どもも今新しい取り組みやっていまして。もう実際にやっているんですけど、製品と生地の在庫を毎日更新しているので、それを見ればすぐわかります。ですから、○○営業所から問い合わせがあっても、それを見ればすぐ答えられるんです」。

よくあるのが、問い合わせがあっても答えられない。確認をユニフォーム会社に入れているのになかなか連絡が来ない。来たと思ったら在庫がない。そうすると「いつになるんだ」「もうちょっと待ってくれ」と、担当者が全部責められちゃうわけですよね。「この前はあったのに、なんで今回はないんだ」とかね。

「それが全部なくなりますよ」「ストレスも減るし、いいんじゃないですか」なんて(交渉相手に伝える)。

担当者のメリットを提示、上司に説明する材料まで渡す

大村:すごくメリットに感じました。だって変な話、1億円は自分のお金ではなくて会社のお金じゃないですか。そうなった時に、自分が担当者でつらい思いをするよりかは、そういうソリューションを提案いただいたほうに、すごく心が動いちゃいますよね。

生駒:そうですよね。その担当者の人の立場になってみると、当然ご自分のメリットもあるんですけど、会社にとってもロスがなくなりますよね。そこに関わるやり取りをする時間もなくなって短縮されるので、「そういう意味では会社にとってもいいんじゃないですか」と言える。

だから、その方が上司に説明しやすいように材料までお渡しするわけですよ。うちのものを採用すると、単に個人のストレスがなくなるだけじゃなくて、こういうメリットがありますよと。

大村:まさにその時は、こっち側(担当者側)について、上司に対しての応援役になる感じですね。

生駒:そういう感じです。だからいわゆる信頼関係は時間をじっくりかけることも必要なんですけれども、今回みたいに1時間でできる場合があるんですよ。基本的には時間が必要なんだけど、そうじゃない世界もあります。相手が求めているところにピンポイントに入っていって、「この人、私の気持ちをわかってくれているな」と思われると、違うわけです。

大村:なるほどね。相手のペインをなくすって言いますもんね。そこを意識しながら、ガーっと売り込むのではなく、聞き出す。

生駒:そういうことだと思います。

父親の命を救った「1つの質問」

生駒:はい、次ですね。1つの質問が父親の命を救ったと(私の体験談を書きました)。

大村:え、どういうことですか?

生駒:親父が脳梗塞で倒れて救急車で運ばれたんですよ。そこの病院の系列の、違うところで手術することになったんです。一刻を争うレベルじゃないんですけど、もう来週ぐらいに手術しなきゃという状態でした。そこの病院に行って(医者と)話をしていた時に、「どうもこの医者は信じられないな」「なんか任せられないな」という気持ちが起きたんです。

じゃあどうするかっていうことですよね。そこで考えたのは、とりあえず自分でも確認したいからということで、画像とかをもらってセカンドオピニオンを取ろうと思ったんですよ。セカンドオピニオンを取ることは了解を得ていたんですよね。

そのために、より大きくて安心できるところに行ったわけですよ。「セカンドオピニオンをすぐしてほしいんですけど」と言ったら「いや、すぐは無理ですよ」と。「今からだと、もう再来週になっちゃう」と言われて。「あ、そうですか」となったんです。

脳梗塞で著名な医者が翌日の診察だったんですね。だからその先生に診てもらえますかと聞いたら、「その先生は一般的な窓口となる医者が1回診て、それで上に上がってきたものをさらに判断するお医者さんだから、いきなりは診れません」となったんです。

だから、どうしようもないですよね。やはりここで、初めに言ったような自分の心構え、真剣度がまず必要なんですよ。「あ、この人、父親のことをものすごく心配して困っているんだな」ということは、その相手には伝わったわけですよね。

その次に、セカンドオピニオンも難しい、脳梗塞で著名な先生に診てもらうのも難しいという時に、計算もなにもしていない僕から思わず出た言葉がこの質問だった。「どうすれば明日、その先生に診てもらえますか。私はどうすればいいですか」。

大村:なるほど。

ビジネスだけでない、交渉が役に立つ場面

生駒:そう言うと、僕の真剣度が伝わったから、相手が考えてくれたんですね。その人は「そうですね、もう来週違う病院で手術する予定だということであれば、うーん……転院扱いにしましょう」と。今の病院から転院するかたちにしてくださいということでした。

まだ入院はしていなかったのですが、「そこの病院から転院して、うちの病院に来てください。そうすれば、明日“転院の患者を診る”ということができます」と言われました。

大村:なるほど。

生駒:「じゃあお願いします」ということで、そこで診てもらったから、きちんといい手術をしてもらえたなと思うんですよね。

だから、僕の場合ビジネスもそうなんですけど、親の病院とか介護とか子どもの話とか、いろんなことがありました。けっこうそういう病院関係とか家を買う時とか、金銭面や安心感の面で、交渉が人生にけっこう役立っているんですよ。だから(交渉は)人生を豊かにしてくれる。

大村:まさにそうですね。ここにおいてはお父さまの命を救ったことにもつながった。

あえて「説明しない」とっさの判断が功を奏すパターン

生駒:そして、これですね。「新婚旅行での豪雨を回避!」。わけわからないでしょ。

大村:豪雨は回避できなくないですか。何ですか。雲と交渉した?

(一同笑)

生駒:いやいや、これはね、ずいぶん前の話になるんですけど。もう34年前の1991年に、新婚旅行でオーストラリアに行ったんですね。オーストラリアにシー・ワールドというのがあって、イルカが飛び跳ねたり水上スキーをやったりできるんですが、そこへ妻と2人で行ったんです。その時はツアーとかではなくて、自分たちでバスに乗って行ったんですね。

そこで急にスコールみたいな豪雨になったんですよ。バスもすぐ来ないしタクシーはどうやって呼べばいいかわからないし。あと、そこは雨宿りをする場所もあんまりなかったんですよ。その時に、日本人の団体が1つのバスに(向かって)パーッと走って行ったんです。

そこで私は妻に「走るぞ」と言ったんです。(それで自分たちもバスに向かって)バーッと走って行ったわけですよ。

大村:関係ない団体ですよね? 

生駒:そうです。もうみんな(バスに)乗り込んだ後に追いかけて行ったんですけど。これが日本だったらまず「こんなに雨が降ってどうのこうの」って事情を説明するじゃないですか。当然、日本人ばっかりのバスだから、たぶんそのバスの中に添乗員の人もいたと思うんですよね。

でもその時は(添乗員に)そういうことを言わずに、そのバスのオーストラリア人のドライバーのところに行って「このバス、○○ホテルの近くに行きますか」と聞いたんです。もう乗ること前提ですね。

大村:「乗っていいですか?」じゃなくて。

生駒:そうそう。「行きますか?」(と聞いたら)、「止まらないけど近くまで行くよ」と。「今ちょっとこんな状況なので、乗せてもらえますか」と言ったら、ドライバーが「5ドルね」と言ってOK。当然その(5ドルは)自分のポケットに入れるんでしょうけど、そこでもう交渉成立。

だから乗っている日本人たちはみんな「あの人なんなの?」って顔しているけど、それはもう関係ないです。だから、そうやって咄嗟に行動していくのも1つの交渉ですよ。その時に丁寧に説明したほうがいい場合もあるし、今みたいに説明せずに乗ること前提でパッといったほうがいい場合もあります。

闇雲に練習して場数を踏んでもダメ

大村:なるほど。これをどうやって培っていけばいいですか。

生駒:やっぱり場数を踏むことと、意識することですね。意識しないで場数だけ踏むのと、常に意識をしておいて場数を踏むのとは違います。さっきの僕のボクシングの話もそうです。週1回しか練習できないので、たった2年間なら何十回しかないじゃないですか。

だから意識しないで、ただ闇雲に練習して場数を踏んでもダメなんです。常にアンテナを張って、「こう言ったら相手はどう反応するかな」とか。あるいは自分じゃなくて、人の交渉を見ていて「あ、こう言ったら相手がこう反応したな」「ああやればうまくいくのか」「ああやってもダメなんだ」とか、常に意識しておくといいですよね。

大村:勉強になります。ちょっと意識すると、そればっかり考えてうまくいかなくなっちゃう時もあるんですけど(笑)。まぁ、無意識にできるくらいまで(意識し続ける)。

生駒:それを説明したのが、『なぜかうまくいく交渉術』という、この本なんです。この本で初めに私が言っているのは、「交渉上手な人が密かに意識していること」で、20個挙げています。

要するに何を意識しているかということを、交渉上手な人の頭の中をそのまま自分にインストールする。そこから意識改革を始めましょうと言っています。

わからない人は何からやっていいかわからないわけですよ。例えばボクシングで言えば、顎が急所です。攻める時も顎を狙って打つし、このテンプルもそうなんですけど、急所を狙って打つじゃないですか。でも、それを知らずに、闇雲におでこを打っても意味がないわけです。

大村:「下手な鉄砲も数打ちゃ玉の損」とも言いますからね。

生駒:さっきは攻めですけど、守る時も顎を打たれないように顎を引くとかね。そういう急所やポイントがわかっていると、攻めも守りもできるわけです。

わからずに闇雲にやるとただ疲れるだけです。だからそれを場数を踏んでやればいいわけではない。ただ、そういうことを練習していてもうまくはならないんです。だからポイントをわかった上で練習を重ねるということですよ。

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